★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇グリュミオー&ハスキルの名コンビによるモーツァルト:ヴァイオリンソナタ選集

2020-07-13 09:33:51 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

モーツァルト:ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 K.378
                 ホ短調 K.304
                 ヘ長調 K.376
                 ト長調 K.301
                 変ロ長調 K.454
                 イ長調 K.526

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

ピアノ:クララ・ハスキル

LP:日本フォノグラム(フィリップス・レコード) SFL‐9662~63

 このLPレコードは、ヴァイオリンのアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)とピアノのクララ・ハスキル(1895年―1960年)の名コンビによるモーツァルト:ヴァイオリンソナタ選集である。ジャケットを見ると晩年のクララ・ハスキルの姿が大きく配置され、アルテュール・グリュミオーの姿は見えない。これはこのLPレコードが、“クララ・ハスキルの遺産”というシリーズの第4集に当たるため。それに、モーツァルトのヴァイオリンソナタは、当時の一般的な傾向として、ヴァイオリンソナタという名前は付いているが、実際にはヴァイオリンとピアノが対等か、あるいは、ピアノが主役でヴァイオリンが伴奏役に回ることも珍しくない。このLPレコードのライナーノートで、小石忠男氏は「ハスキルとグリュミオーの個性はかなり違いがあり、普通ならこれほど美しい二重奏は成立しなかったのではないかと思われる」と書いている。これを見て私は一瞬目を疑った。しかし、よく考えてみると、小石氏の言わんとすることを理解できた。アルテュール・グリュミオーは、フランコ・ベルギー楽派の正統的な後継者である。フランコ・ベルギー楽派は、ヴァイオリンを輝かしく響かせ、美しい旋律を優雅に演奏するスタイルをとる。つまり、演奏効果が常に外向きであり、きらびやかさが身上である。これに対し、クララ・ハスキルのピアノ演奏は、精神性の高いもので、どちらかというと演奏効果は、内向きになる傾向がある。普通、そんな二人がコンビを組んでも良い効果は出にくいと思われる。しかし、ハスキルとグリュミオーのコンビは、それが逆に作用し、互いの特徴を一層際立たせる効果をもたらす。そのことは、二人が一番知っていることを、このLPレコードを聴くとよく分かる。このLPレコードは、全部でモーツァルト:ヴァイオリンソナタ6曲が2枚に収録されているが、いずれの曲も甲乙を付け難いほど完成度の高い演奏内容となっている。ある意味で、モーツァルト:ヴァイオリンソナタ演奏の決定版的な録音であり、このコンビを上回ることは至難の技と言えよう。しなやかに歌うように奏されるグリュミオーのヴァイオリンを、ハスキルのピアノがやさしく見守るように、限りなく美しも流麗に弾かれ、二人の演奏は、聴いていて時が経つのも忘れそうになる。グリュミオーは、来日時のインタビューで「あなたの一番好きなレコードは」と問われ、即座に「ハスキルと共演したモーツァルトのヴァイオリンソナタ」と答えたそうである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ブルーノ・ワルター晩年の名盤 ブラームス:ドイツ・レクイエム

2020-07-09 09:39:07 | 宗教曲

ブラームス:ドイツ・レクイエム
  

  第1曲 悲しんでいる人々は幸いである(マタイによる福音書、詩篇) 
  第2曲 人は皆草のごとく
     (ペテロの第1の手紙、ヤコブの手紙、ペテロの第1の手紙、イザヤ書) 
  第3曲 主よ、我が終わりと、我が日の数の(詩篇、ソロモンの智恵) 
  第4曲 万軍の主よ、あなたの住まいは(詩篇) 
  第5曲 このように、あなた方にも今は
     (ヨハネによる福音書、ベン・シラの智恵、イザヤ書) 
  第6曲 この地上に永遠の都はない
     (ヘブルスへの手紙、コリント人への手紙、ヨハネの黙示録)
  第7曲 今から後、主にあって死ぬ死人は幸いである(ヨハネの黙示録)   


指揮:ブルーノ・ワルター

管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック

ソプラノ:イルムガルト・ゼーフリート
バス・バリトン:ジョージ・ロンドン

合唱団:ウェストミンスター合唱団

録音:1954年12月20、28、29日

LP:CBS・ソニーレコード SONC 10445
  
 これは、巨匠ブルーノ・ワルター(1876年―1962年)が、ニューヨーク・フィルを指揮し、イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)、ジョージ・ロンドン(バス・バリトン)、それにウェストミンスター合唱団と、当時の最高級クラスの演奏家が集まり、ブラームスの傑作ドイツ・レクイエムを録音した記念碑的LPレコードである。ブルーノ・ワルター78歳の時の録音だ。このLPレコードのライナーノートの冒頭には、「このレコードは、このたびの<ブルーノ・ワルター大全集>の企画にあたり、世界に先駆けてCBS・ソニーレコードから発売するものです。ジャケットの裏表紙の写真は、スイス・ルガノ近郊サン・アボンディオ墓地にあるブルーノ・ワルターの墓碑。ここにワルターは夫人や愛嬢たちと永遠の眠りについている。(撮影 大賀典雄)」と記されている。これを読んだだけでこのLPレコードが、通常のLPレコードとは一線を画した特別なものであることを窺わせる。ブラームスのドイツ・レクイエムは、オーケストラと合唱、およびソプラノ・バリトンの独唱によった演奏会用の宗教曲。全7曲で構成され、1868年に完成し、翌年1869年初演された。通常、レクイエムは、死者の安息を神に願う典礼の音楽のことであり、教会で演奏され、ラテン語の祈祷文で歌われる。しかし、ブラームス自身がプロテスタントであることから、レクイエムを作曲するに当たり、マルティン・ルターがドイツ語に訳した、1537年初版の新約と旧約の聖書および聖書外典から、ブラームス自身が選んだテキストを歌詞に使っている。これがドイツ・レクイエムと言われる所以である(ブラームスが付けた正式な名称は「聖書の言葉を用いたドイツ語のレクイエム」)。キリストの復活にかかわる部分は省かれており、レクイエムといっても、通常のレクイエムとは異なる。つまり死者というより現生人のための演奏会用のレクイエムなのである。このLPレコードの演奏内容は、ブルーノ・ワルターがその音楽人生の最後に到達した心境を深く反映したものとなっており、聴き進むうちに精神的な高みをひしひしと感じとることができる。ワルター独特の温かみのある表現力が魅力的であるし、これに加えニューヨーク・フィルの深みのある響きは、ワルターの思いを的確に表現し切っており、見事な演奏というほかない。独唱、合唱陣も全身全霊で歌っている。ブルーノ・ワルターは、ドイツ・レクイエムの限りなく豊かな、人間味に溢れた名演奏を、このLPレコードで我々に遺してくれた。感謝というほかない。惜しむらくは音がぼけ気味なことだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バリリ四重奏団らによるモーツァルト:弦楽五重奏曲第3番

2020-07-06 09:42:39 | 室内楽曲

モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515

弦楽五重奏:バリリ四重奏団
              
         ワルター・バリリ(第1ヴァイオリン)
         オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
                   ルドルフ・シュトレンク(ヴィオラ)
         エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)   

      ウィルヘルム・ヒューブナー(第2ヴィオラ) 

発売:1965年

LP:キングレコード(ウエストミンスター) MH5198
 
 モーツァルトには、優れた室内楽作品があるが、中でもクラリネット五重奏曲と弦楽五重奏曲の第3番と第4番は、それらの中でも一際優れたものに数え上げられる。モーツァルトは弦楽四重奏曲においても傑作を残しているが、何故弦楽四重奏曲に飽き足らず、ヴィオラを加えた弦楽五重奏曲を6曲も作曲したのであろうか?考え得るのは、ヴィオラを加えることによって弦楽四重奏曲では得られない、内声部の充実を実現できるためであろう。このほかの理由を挙げるとしたら、外部から弦楽五重奏曲の作曲の依頼があったということであろう。このLPレコードは、当時クァルテットの王者であったバリリ四重奏団に、第2ヴィオラにウィルヘルム・ヒューブナーが加わった豪華メンバーによる録音である。メンバー全員が当時のウィーン・フィルのメンバーであり、気心が知れあった者同士の演奏だ。なお、このLPレコードのジャケットには、モーツァルト:弦楽五重奏曲「第4番」ハ長調K.515と印刷されているが、これは、第1番に、偽作とされる変ロ長調k.46を入れているためで、現在では、一般に弦楽五重奏曲「第3番」ハ長調K.515となっている。第1楽章の出だしから、実に重厚な響きが耳に飛び込んでくる。そして、あの懐かしいウィーン情緒たっぷりのゆったりとしたテンポに身を委ねる。何という安定感なのであろう。細部も克明に演奏されているが、少しも神経質そうなところはなく、逆に堂々とした構成美は例えようがないほど素晴らしい。このLPレコードを聴いていると、何故モーツァルトが弦楽四重奏曲以外に弦楽五重奏曲を作曲したのかが理解できるような気がする。この弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515は、徹底してアポロ的精神の追求にある曲であるのに対し、徹底してディオニソス的精神に貫かれているのが弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516である。つまりこの2曲の弦楽五重奏曲は対になっている曲であり、2曲を聴き比べることによって、それぞれの曲の特徴ををより深く理解することができるのだ。バリリ四重奏団は、ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めていたワルター・バリリ(1921年生まれ)が、1942年に結成したクァルテットで、メンバー全員がウィーン・フィルの各パートの首席奏者を務めていた。バリリ四重奏団の演奏の特徴は、ウィーン情緒をたっぷりと漂わすところにあるのではあるが、決して情緒に押し流されることはなく、がっちりとした構成力がその背景にあるところが、他のクァルテットとは一線を画していた。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルト指揮ベルリン・フィルのブラームス:交響曲第2番/大学祝典序曲

2020-07-02 09:36:17 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第2番
      大学祝典序曲

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(交響曲第2番)
    バンベルク交響楽団(大学祝典序曲)

発売:1978年

LP:キングレコード GT 9174
 
 このLPレコードは、名指揮者ヨゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)がベルリン・フィルを指揮したブラームス:交響曲第2番とバンベルク交響楽団を指揮したブラームス:大学祝典序曲の2曲が収められている。このLPレコードのライナーノートに音楽学者の渡辺 護氏は次のように書いている。「1968年の夏、筆者はイタリアからミュンヘンに旅行をした。7月22日ミュンヘンの宿に着いて、新聞を開いて見ると、そこにカイルベルトの突然の死が大きく報ぜられていたのである。『トリスタンとイゾルデ』や『サロメ』を見ることを楽しみに来たのだが、それも不可能になった。カイルベルトは7月20日、国立歌劇場で『トリスタン』を指揮している最中、突然大きな音を立てて倒れ、そのまま他界したのである。ベーム、カラヤンと共にドイツ指揮界の最巨峰であったカイルベルトはその時まだ60歳。今後の活躍がまだまだ大きく期待できる時であった。彼は極めてドイツ的な指揮者で、表面的な美しさや情緒におぼれることなく、確固たる構築性やしっかりしたリズム感に優れていた。レパートリーは広くないが、ドイツ音楽にかけては、他の追随を許さない」。ブラームスの交響曲は、クラシック音楽に中でも最も多くの指揮者が録音している曲であろう。そんな数多くあるブラームス:交響曲第2番の録音の中でも、この録音は、特筆ものの録音であり、私としては、これまでのあらゆる録音の中で、ベスト1かベスト2の録音に挙げたいほど。ブラームス:交響曲第2番は、他の3曲とは異なり、かなりロマンの香りが漂う作品だ。つまり、やたらに力ずくで指揮してもダメだし、逆に平穏に指揮しても、ただつまらなく聴こえてしまう。ある意味で、指揮者の力量がはっきりと表れる交響曲である。ここでのカイルベルトの指揮は、流れるような自在な表現力のある指揮ぶりを存分に発揮する。自然と湧き起ってくるようなオーケストラの響きは、最後までリスナーを引きつけて離さない。また、ベルリン・フィルの奏でる音は、何という味わいの深さだろう。そんなベルリン・フィルの音をカイルベルトは自在に操り、リズム感たっぷりに表現する。この演奏を聴いていると、思わずこんこんと湧き出す泉を思い出す。何もかもが、流れるように、自然なたたずまいの中にある。それに加え、遠近法を駆使したような構成美が加わる。ブラームスの“田園交響曲”と言われる所以がよく分かる演奏だ。この録音はCDでも入手できるようなので、機会があれば是非一度聴いてみてほしい。(LPC)

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