モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515
弦楽五重奏:バリリ四重奏団
ワルター・バリリ(第1ヴァイオリン)
オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
ルドルフ・シュトレンク(ヴィオラ)
エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)
ウィルヘルム・ヒューブナー(第2ヴィオラ)
発売:1965年
LP:キングレコード(ウエストミンスター) MH5198
モーツァルトには、優れた室内楽作品があるが、中でもクラリネット五重奏曲と弦楽五重奏曲の第3番と第4番は、それらの中でも一際優れたものに数え上げられる。モーツァルトは弦楽四重奏曲においても傑作を残しているが、何故弦楽四重奏曲に飽き足らず、ヴィオラを加えた弦楽五重奏曲を6曲も作曲したのであろうか?考え得るのは、ヴィオラを加えることによって弦楽四重奏曲では得られない、内声部の充実を実現できるためであろう。このほかの理由を挙げるとしたら、外部から弦楽五重奏曲の作曲の依頼があったということであろう。このLPレコードは、当時クァルテットの王者であったバリリ四重奏団に、第2ヴィオラにウィルヘルム・ヒューブナーが加わった豪華メンバーによる録音である。メンバー全員が当時のウィーン・フィルのメンバーであり、気心が知れあった者同士の演奏だ。なお、このLPレコードのジャケットには、モーツァルト:弦楽五重奏曲「第4番」ハ長調K.515と印刷されているが、これは、第1番に、偽作とされる変ロ長調k.46を入れているためで、現在では、一般に弦楽五重奏曲「第3番」ハ長調K.515となっている。第1楽章の出だしから、実に重厚な響きが耳に飛び込んでくる。そして、あの懐かしいウィーン情緒たっぷりのゆったりとしたテンポに身を委ねる。何という安定感なのであろう。細部も克明に演奏されているが、少しも神経質そうなところはなく、逆に堂々とした構成美は例えようがないほど素晴らしい。このLPレコードを聴いていると、何故モーツァルトが弦楽四重奏曲以外に弦楽五重奏曲を作曲したのかが理解できるような気がする。この弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515は、徹底してアポロ的精神の追求にある曲であるのに対し、徹底してディオニソス的精神に貫かれているのが弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516である。つまりこの2曲の弦楽五重奏曲は対になっている曲であり、2曲を聴き比べることによって、それぞれの曲の特徴ををより深く理解することができるのだ。バリリ四重奏団は、ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めていたワルター・バリリ(1921年生まれ)が、1942年に結成したクァルテットで、メンバー全員がウィーン・フィルの各パートの首席奏者を務めていた。バリリ四重奏団の演奏の特徴は、ウィーン情緒をたっぷりと漂わすところにあるのではあるが、決して情緒に押し流されることはなく、がっちりとした構成力がその背景にあるところが、他のクァルテットとは一線を画していた。(LPC)