母が食事や水分を受けつけなくなってもう2週間近くになる。
このままでは命にも関わるため、入院させてもらえる病院と並行して施設探しに奔走した。やっとみつけたので、なるべく早く今後のことを決めていかなければならない。
先日施設に会いに行った時、母は穏やかだった。殆ど飲み食いしていない状態にもかかわらず身体的な苦痛がないのだ。
その日、私は母にこう尋ねた。
「自分の人生をふりかえって、辛いことが多かった?楽しい思い出はある?」
すると母は微笑んでこう答えたのだ。
「嫌なことは何もなかった。楽しかった。」
母の人生は不運の連続で、それは多分に本人が招いたものでもあっただろうけれど、やはり悲しく辛い人生だったと思う。
一人娘である私も、その母のおかげでずいぶん苦労を味わった。時には恨みもしたし、死んでしまえばいいとさえ思ったこともある。
でも不思議だ。
母を失いかけている今となっては、嫌な記憶は消え去り良い思い出だけしか浮かばない。
恨みや憎しみや後悔で人生を否定するのではなく、笑いあい助け合った時のこと、幸せだった瞬間だけを胸に留めることが出来る私たちは、やはり親子なのだなと思う。
母の記憶から、辛い過去が消えて良かった。
母が人生を楽しかったと思ってくれていることがわかって良かった。
これからが私たち親子にとっての正念場。
正直ひとりで抱える重圧に押しつぶされそうになるけれど、たった一人の娘として精一杯のことをしたい。