52ヘルツのクジラ。世界で一番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で静かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない。誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されているけれど、実際の姿は今も確認されていないという。
「他の仲間と周波数が違うから、仲間と出会うこともできないんだって。例えば群れがものすごく近くにいたとして、すぐに触れあえる位置にいても、気付かないまますれ違うってことなんだろうね」
本当はたくさんの仲間がいるのに、何も届かない。何も届けられない。それはどれだけ、孤独だろう。
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「わたしも、昔52ヘルツの声をあげてた。それは長い間誰にも届かなかったけど、たったひとり、受け止めてくれるひとがいたんだよ」
どんなに声をあげても自分の声は誰にも聞こえていない。自分に気づいてくれる人は誰もいない。孤独に押しつぶされそうになりながらもその状況から抜け出せずにいる人は沢山いるだろう。
でも、自分の声を聴きとり受け止めてくれる人がこの世界のどこかに必ずいるること、魂は再生するのだと、この物語は教えてくれている。