~ 風に任せる ~
♠ ギタリスト去りて舞台に椅子ひとつ明日のことは風に任せる 松井多絵子
イソップ童話のなかで「アリとキリギリス」はよく知られている。蟻がコツコツ働いていた夏に、キリギリスは遊びながら唄っていた。冬になり食べ物の蓄えのないキリギリスが蟻を頼ると、「冬は踊っていたら」と蟻は冷淡だ。ところがブラジルの絵本では、蟻はキリギリスに食べ物を分け、一緒に踊って冬を過ごした。結末が日本とまるで異なっているらしい。
1月7日朝日朝刊 「ラテンに学ぶ」、歌手・作家の八木啓代さんの「オピニオン」が面白い。62年生まれの彼女は学生時代、メキシコに留学しスペイン語を学んでいたが、声楽科に転向し歌手になった。日本に帰ってきたら息苦しい。この閉塞感を打ち破るには、ラテン的になることだと。中南米の人々は、国家も通貨もあまり信用していない。いつ政権が転覆し、とんでもない政権が支配するかもしれない。お金が紙くずになりかねない。
日本人は身を守るために貯蓄する。中南米の人々は蟻的人生よりキリギリス的人生の方が豊かだと考えている。大事なのは人間関係、だから家族、友人をとても大切にする、人間の絆が最大のセーフティネットなのだ。ラテン的な生き方はノンキに今日を楽しむ、というのと少し違う、「希望を捨てない生き方」だと思う八木啓代さんは。
ラテンに学ぶべきことは「失敗を恐れない生き方」、日本人は勝ち負けにこだわり、失敗を恥とおもう、間違っているとわかっても撤退できない。ときには自殺まで。失敗してもやり直すことのできる社会に変えれば、閉塞感も消えるのではないか。八木さんのオピニオンに共感する。私はラテン音楽が好き、ラテンの国々も好き。かなりラテン的な性格かしら。
♠ ランブラス通りをぶらりぶらり行く影よわれより離れておくれ
1月8日 松井多絵子