・・・ 殻ちゃん~33回 ・・・
❤ 私をヤル気にさせた向日葵が咲いていたのはこの辺だった 松井多絵子
7月末のある夕方、QA会の講習を終え殻ちゃんは、ビルを出た。家まで徒歩で25分、バスに乗らずに歩く。節約しなければママのお財布が空っぽになる。帰宅の途中でいつも、あそこに立ち止まる、二年前の夏、殻ちゃんをヤル気にさせてくれた向日葵が咲いていた処だ。今は白いタイルのビルになってしまった。 夕方の微かな風とともに歩いているとき、後ろから誰かが、、。もしかしてタワー君が。やはり足立塔だった。
殻 ♠ 「あら、足立さん、先日は助かりました。あれから数学がかなり良くなって、、」
塔 ♠ 「いや、僕も助かりました。あれをを発展した問題が分かるようになってきて。」
殻 ♠ 「私ネ、小学校も4年まで落ちこぼれだったの。家の近くの塾へ5年から入ったら先生が熱心に指導してくれて。6年の秋にY進学の模試で神山中の合格圏に入って、でも私の家は経済的に苦しいから、私立へ進む気はなかったけど、塾の先生に説得されて、、。」
塔 ♠ 「へ―。すごいな。僕なんて小学2年から進学塾の下請け塾、母がスゴい教育ママなんだ。神山中に合格したら、QA会に入会、 5日間は母の仕事もかねて一緒にパリに。」
殻 ♠ 「パリ?いいなあ。わたしミラボー橋を歩くのが夢、アポリネールの詩の、。」
塔 ♠ 「 へー。水口さん、詩まで読んでいるなんてすごい余裕だなあ。」
殻 ♠ 「私ネ、小さい頃から近くの図書館で毎日絵本を見ていて、塾へ入ってからは本を読めなくなって。神山中に合格した翌日から本ばかり読んでいて、詩を読んでいると旅をしているような気分になるの。この夏は三陸へ行って祖母に会う予定だったのに、、。」
塔 ♠ 「三陸?三陸にオバアサンが?」
そのとき「成城」行きのバスが現れる、二人はバス停の前に来ていたのだ。タワー君はバスに飛び乗り、殻ちゃんに手を振る、バスはまるで逃げるように去ってしまった。
まだ続きます。どうぞよろしく 松井多絵子