えくぼ

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未来賞の金尾釘男

2015-01-13 08:59:25 | 歌う

            ☀ 未来賞の金尾釘男 ☀

 1月11日は 「未来新年歌会」 だった。例年のように神楽坂の出版クラブ会館に会員が集う。この日、特に注目された人は ♦ 未来賞の金尾釘男 コメディアン風の男である。受賞作「バゲット」20首のなかから5首を取り上げてみる。

   ぼくはわつと死ぬやうな気がする六畳半の部屋を残して

   彼女はゐるか結婚はしないのかと聞かれて男は逃げるしかない

   表現のために演技をするつもり少しもなくて窓を見ている

   安全に道路をわたる猫を見て 「あれつ」 と思ひ自分もわたる

   線路脇のあの配線はなんだろういつぽんいつぽん眺める飽きる

                              

 この5首は私が好きな歌、20首連作の前半の歌ばかりだ。先ず第一首の 「わつと死ぬような気がする」 に私は捉えられてしまった。下句の「六畳半の部屋を残して」もいい。 死をこんなふうに詠めるとは、、。 意表をつく表現は嫌われがちだが、まず選考委員に「何だこれは」と思わせなければ賞は山の彼方になりがち。金尾の狙いは成功している。未婚か既婚かも読者は気になる。新人賞の作品は熱演が多い。比喩がギラギラしているが金尾は僕は違いますよとさりげなく詠む。道路を渡る猫の歌、線路脇の配線の歌も気負いがない。「眺める飽きる」なんて達者な表現だ。しかし後半はまあまあに思えた。私には。

 テレビの朝のドラマもはじめの週が面白ければ続けて見る、小説もはじめが面白ければ読者になる、金尾釘男はツィツターでも知っていたが、お話したのは11日の夜が初めて。

 「金尾さん、あなた独身?」「結婚は?彼女は?」なんてシツコク聞くわたしから逃れることもなかった。「四畳半の部屋が利いていたわね」」と言う私に、「六畳半です」と訂正した彼の表情はコメディアンではなく文学の人だった。  1月13日  松井多絵子