えくぼ

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『それから』を読む ③

2015-04-21 09:06:50 | 歌う

             『それから』を読む ③

 ♠ 職のなき男が職を失いし男と歩く新緑の道   松井多絵子

 先週月曜の『それから』には代助の今後に関わる人々が出てくる。訪ねて来た親友の平岡との別れ際に代助は 「三千代さんはどうした?」と聞く。「相変わらずだ。君によろしくと言っていた」と応える。「子供は惜しいことをしたね」と代助は言う。流産したらしく、その後は妊娠していない平岡の妻の三千代は。 「妻が頻りに、君はもう奥さんを持ったろうか、まだだろうかって気にしていたぜ」 と平岡が言う。そこへ電車が来て2人は別れる。

 14日・第10回から代助の父・長井得が現れる。役人をやめてから、実業界に入り「大分の資産家」になった。誠吾という兄がいて父の関係している会社で重要な地位。姉は外交官に嫁ぎ今は西洋にいる。他に姉弟がいたが亡くなり、母も亡くなっている。代助は月に1度は本家へ金を貰いに行く。兄嫁の梅子に好意を持っている代助は15歳の甥と12歳の姪とも親しむ。

 代助の尤も応えるのは親爺だ。若い妾を持っている親爺と対座し話をする。「最高の教育を受けた者が遊んでいて面白い理由がない」 現代のオヤジと変わらないお説教をする。
「金は取らんでも構わない。己が補助して遣る」なんていう。だから息子をダメにするのだ。しかも「三十になって遊民としてのらくらしているのは如何にも不体裁だ」とは世間体ばかり気にしているダメ親爺だ。代助は自分はのらくらしていると思わないダメ息子だ。

 職業の為に汚されない内容の多い時間を有する。上等人種であると自負している代助。
「お前は誠実と熱心が欠けている」と親爺は言う。「誠実も熱心もあるが人事上応用出来ない」と代助は応える。こういう男は現代にも多いのではないか。冷めている、ずれている、空気が読めない、などと言われ孤立してしまう。この頭でっかちで誇り高き代助の今後はどうなるのか。私は冷えた視線を向けながら追って行こう。『それから』の終わりまでを。

           4月21日  晴天だ若葉だ息をふかく吸う   松井多絵子