~ 穂村弘の鰻あれこれ ~
昨日、近くのスーパーで国産鰻の特売をしていた。1400円でもスリムな鰻の蒲焼。498円でもアナゴなら大きい。結局アナゴを買って夕食はアナゴどんぶり。大きいが何となく鰻と違う。見た目は鰻のようで味も似ているが何か違う。「コク」がないというのだろうか。近代歌人として名高い斉藤茂吉の大好物は鰻の蒲焼、彼の歌には独特の「コク」がある。
30分ほど前に朝日朝刊で穂村弘の▲「鰻の歌」を読んだ。茂吉の歌から始まっている。
▼ あたたかき鰻を食ひてかへりくる道玄坂に月おし照れり 斉藤茂吉
実に嬉しそうだ。「あたたかき」「月おし照れり」から、なんともいえない満足感というか、ほとんど恍惚感めいたものが伝わってくる、と。穂村弘も鰻が大好きなのだろう。
▼ 夕食はウナギに決めたと妻が言う内緒で昼間食した我に 長谷川哲夫
投稿歌である。穂村弘は 「こいうことってあらよなあ」と思う。長年の夫婦生活によって二人が「ウナギ」を食べたくなるタイミングがぴったりシンクロしたのかもしれない。愛の怖さ、といえば大げさか、この後、どうなったんだろう、私も気になりますよ。
▼ 「今お前食べてるそれは蛇だよ」と言いし男が今の夫なり 斉藤清美
作中の<私>が食べていたのは鰻かどうか、でもその可能性は高い。ポイントは「今の夫なり」だ。「蛇だよ」なんていう「男」と結婚したんだなあ。穂村さんは面白くてもこの歌は怖いですよ、松井多絵子には。
▼ スカートをはいて鰻を食べたいと施設の廊下に夢が貼られる 安西洋子
おそらくは高齢の女性の「夢」なのだろう。もう一度お気に入りの「スカート」をはいて、もう一度好物の「鰻」を食べたい。そんなきりぎりの「夢」。高齢の女の「夢」。高齢の男の「夢」はどんな夢なのか。穂村さんはまだ中年ですね。 4月25日 松井多絵子