2010.11 東ブータンにて
鰯
榎本 栄一
私は 何匹かの
鰯を食べた
鰯のいのちは
私のいのちと いっしょになって
ややこしい 人間世界を
ぐるぐる 泳ぎまわる
私たちも鰯をいただいておりましたが
これはすぐれた蛋白源で 値段のわりにカロリーも多い
という学者先生の説を念頭に ただ食べておりましたが
真実は 鰯のいのちをいただいていたのだとは
お説をうかがうまで少しも気がつきませんでした。
まことにもったいない次第だ ・・・ と存じます。
お説を元に思いをめぐらしますと ・・・
私どもは
米のいのち
大根のいのち
そして鶏のいのち
牛のいのちをいただいていたわけですね。
それで 私たちのいのちがつながってきたわけでございます。
私たちがいただいてきた一切のもののいのちが
私たちのいのちと一つなって
・・・ 生きて下さっていたのでございますね。
私どもは愚かで
これは食物だ
栄養があるかないか
うまいかまずいかで
口に入れたり捨てたりしてきましたが
・・・ 大自然の恵みに対して 何たる不遜であったことでしょう。
われひとりをはぐくまんと
一切のいのちがご苦労下さってきたのでありました。
そのご苦労に対して
私どもは 何をもってお報いしてきたことでありましょう。
省みますと ・・・ おはずかしくて顔もあげられません。
食前に いただきますと合掌するのは
私どものいのちと 今一つになって下さるもののいのちに対する
・・・ 厳粛な儀式でございましたね。
あなたは 鰯のいのちの力をかりて
むつかしい世間を泳ぎまわっていると
ユーモアたっぷりにおっしゃいましたが
察するところあなたの泳ぎまわられる範囲は
小さくかわいらしいものではないかと思いますのですよ。
目下 一枚看板で図々しく泳ぎまわっていられる政治家という人種は
いったい何のいのちをいただいていられるのかと
・・・ 不思議になりますもの。