新型コロナウイルスの感染拡大対策に追われ、保健所を中心とした自治体におけるコロナ対策の現場は(感染者が多く発生している都市部を中心に)いまだ混乱の様相を呈しています。
発熱者の把握、PCR検査の実施、感染者の隔離と入院調整、ホテルなどの宿泊療養施設の確保・運営、感染経路の追跡調査、患者の移送、病床の確保といった一連の感染者への対応は、今でも主に自治体の職員が直接担っています。
さらには、飲食店への休業要請や時短要請、自粛状況の見回りや協力金の給付などの事業者対策、雇用調整助成金や1人10万円の特別定額給付金をはじめとした諸交付金の住民への給付作業に加え、最近ではワクチンの確保や接種の手配など、これまで想定していなかった新しい業務の数々に、現場の負担は既に限界を超えていることでしょう。
実際、今回のコロナ騒動の中でも、日本の自治体職員は本当によくやっていると思います。普段から「遅い」だの「お役所仕事」だの「親方日の丸」だのと(メディアを中心に)こき下ろされることの多い地方公務員ですが、次々と生まれてくる新しい業務にも、多くの自治体職員は(それなりに)使命感を持って丁寧に住民に向き合っているように感じます。
思えば一昨年来、日本列島をたびたび襲った台風などの災害対応や豚コレラなどへの防疫活動、そして今回の新型コロナ感染症への対応と、都道府県や市区町村の職員は休む間もなく様々な試練に見舞われています。
さらに、相次ぐ児童虐待事件では児童相談所などの対応が重要なカギを握るようになり、待機児童問題に端を発した保育所整備の加速、さらには高齢化の急激な進展に伴う介護保険の運営等々、国から次々と下ろされてくる業務は、わがままな住民の増加とともに自治体職員に様々な負担をもたらしていることでしょう。
一方、こうした状況下にあっても、関係自治体が職員自数を大きく増やしたという話はつとに聞きません。総務省によれば、地方自治体の総職員数は令和2年4月1日現在で276万2,020人。平成6年をピークに(対平成6年比で)約52万人減少しており、対前年比では2万1,367人増加しているものの大きく見れば漸減傾向にあるということです。
各自治体の職員定数は条例で管理されており、行政改革の旗印のもと、人件費の増加につながる職員の増員は、首長や議会にとって安易に選択できる手段ではないということでしょう。
それでは、各自治体はその時々に生まれる業務負担をどのように凌いでいるのか。実は、こうした人手不足の問題を解決する手法の一つとして多くの自治体が採用しているのが、いわゆる「非正規公務員」でマンパワーを補う手法だとされています。
総務省が2016年に行った調査によれば、全国の自他体で雇用されている非正規職員は、(2005年からの10年間で約19万人増加して)64万人を超え、既に行政運営に欠かせない存在となっているようです。
非正規の割合は、全国平均でも2012年の19.6%から2019年には22.1%まで上昇しており、市町村などでは市役所や出張所の職員の半数近くが非正規職員で占められている自治体もあるようです。さらに、戸籍や住民票の交付などの窓口業務の民間委託が進んでいる現状を考えれば、役所を見渡して見える職員の大半が(実は)正規の公務員ではないという状況もごく普通にあるのでしょう。
こうして全国的に多用されるようになった非正規公務員職員ですが、その位置づけはつい最近まで、自治体ごとに「非常勤職員」「臨時職員」「嘱託職員」などと呼ばれるかなり曖昧なものでした。そこでその地位をはっきりさせるため、地方公務員法の改正によって「会計年度任用職員」の制度がスタートしたのは昨年4月のことです。
この制度改正によって、自治体の判断で非正規職員にも期末手当を支給することが可能になるとともに、(情実などを排した)任用の適正化や(給料表に基づく)処遇の改善などが図られることとなりました。
しかし、制度の運用が始まって1年を過ぎた現在でも、事務作業はもとより、窓口業務、給食調理、保育や病院などで正規職員と同等の仕事を任せられながら、彼らの賃金は3分の1から半分程度、各種手当や年休などの休暇制度でも正規職員との格差が設けられている。昇任や昇給もないこうした制度が「官製ワーキングプア」を作り出しているというのが、自治労などの労働団体の指摘するところです。
さて、実際のところ、自治体における各種相談業務や保育士、司書、窓口業務などを中心に、1年ごとの採用を繰り返す非正規の職員が業務の主要な担い手となっている公務職場は、おそらく全国にたくさんあるでしょう。
自治体としては、正規の職員をゼネラリストとして育成する一方で現場の実務は会計年度任用職員に任せ、企画・管理部門などの強化とともに行政事務の効率化を図ることができる。そこに、毎年大きく変化する業務量に対し、柔軟に対応できるというメリットがあるのは紛れもない事実です。
しかし、同一労働同一賃金が法的に位置づけられた現在、民間企業に対し非正規雇用者の処遇改善を求める行政が、こうした採用形態を拡大しつつある状況に批判の声を向ける向きも決して少なくありません。
なぜこうした状況が続いているのか。その背景には、厳しい財政状況の下で国も地方も厳格な職員定数の管理を余儀なくされており、それを多くの国民が支持しているという状況があるのでしょう。
一方で、児童虐待などの痛ましい事件や、生活保護、介護などの社会問題の増加、災害や今回のコロナのような危機管理の事案が生じるたびに、メディアや議会が行政サイドの対応の不備をあげつらうのは常のこと。(今回のコロナ対策が良い例ですが)国民や住民はそれに同調し、政府や自治体への風当たり、プレッシャーが強まって、行政は限られた資源の中で対応を迫られるというわけです。
そして、こうした中で、問題の解決のためやむにやまれぬ対応を迫られた結果が、雇用数を年度ごとに(柔軟に)調整できる非正規公務員(会計年度任用職員)制度の活用と言えるのでしょう。
メディアや野党はこの問題について、会計年度任用職員の労働条件の改善を求める立場から(不安定な身分のまま安月給で彼らを「こき使っている」と)各自治体を悪者扱いしているように見受けられます。しかし実際には、雇用者である自治体をいくら責めてみても、非正規公務員の雇用条件はそれほど改善されないことでしょう。
行政サービスは、もちろんタダでは提供されません。公的サービスのコストを顧みない国民や住民自身の感覚がこの問題の元凶になっていることについて、社会全体がもう少し自覚的になるべきではないかと感じるところです。
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