もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

「ミッドナイトスワン」

2020-09-25 21:54:02 | 映画
ネタバレありです。

光さす方向へ歩いて行けたのは一果だけだったけれど
いちばん多くの傷を負ったのも一果だったんじゃないか。
そこが辛かった。

草彅剛の演技力を書き表すのは難しい。
熱演、憑依、カメレオン俳優
そういう形容詞は当てはまらないのだが
その人物にしか見えない。
スクリーンの中にいたのは
女ではない身体に苛立ち、そんな生活に倦み
それでも心にぴったりそう身体を求める凪沙だった。

心のままに生きようと故郷を出て
仲間たちと働ける場所のある東京で暮らしても
孤独は形を変えただけで消えるわけではなかった。
ある日
真実を明かしていない母親から親戚の子供について相談の電話が入り
ネグレクトをうけている一果を預かることになる凪沙。
「子供なんて嫌い」と言い放ち
世話をするどころかワンルームの開いてる場所で寝ろと言いつける。
冷たくするというより
自分のこと以外考える余裕が全く無いようだ。
一果も、誰かに何かをしてもらえるなんてことを考えなくなって久しいのか
口を開かず
ひとりの時間に物に当たり自分を傷つけるだけで
自分の気持ちを外に出さずに凪沙の部屋に住み始める。

大人の都合であちこち行かされ
あれこれ噂にさらされて生きる一果の辛さはどうなるのだろう?
(凪沙に預けたのも世間体を優先してだった)
そう思っていたら一果はバレエに出会った。
おかげで友達も出来たし
踊ることで身体がどんどん開いてゆき、心も徐々に開き始め
光りの兆しをつかんだように見えたが深い影をもつかんでしまっていた。
孤独な者同士が引き合うのは必然だが
マイナスをかけあわせてプラスに転じることは数学ほど簡単ではない。


なんだかうまくまとめられないので凪沙の印象的な場面を。
・店のステージで踊り始めた一果を見つめる凪沙の瞳
・石段で一果に踊りを教わる凪沙
・稼げる力仕事をしようと男になろうとするが無理だと思った時の凪沙
・コンクールで一果をうらやむ声を聞いて微笑む凪沙

後半にショッキングな場面が多いがそこは挙げない。
「この描き方必要かな?」と思ったシーンもあるし
これじゃ一果が色々背負ってしまうじゃないか!監督!
そう感じたシーンは泣くどころじゃなかった。


孤独で悲しい人しかいない世界で
海で自分が海パンを履いてることに違和感を感じた少年が「凪沙」として心のままに生きようとし
『あんたのために』と殴ってくる言葉から解き放たれる為にバレエを手に入れた少女・一果
この二人の物語だった。
コメント
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