大塚製薬がスポーツ飲料『ポカリスエット』を発売したのは、1980年4月のことである。
発売からしばらくは、それまでの缶ドリンクとは異質の味覚に消費者がついていけず、
全く売れない期間が続いたらしい。
もちろん、我が家でも親が買ってくることは全くないので、家の中で見かけることもないし、
TVコマーシャルは流れていたが、これはこれで何をアピールしたいのかサッパリ分からないCMであり、
クラスの友達の中でも、一体アレは何なんだろうという状態がしばらく続いていた。
もちろん、大塚製薬側もこの新しいドリンクの売れ行きがダメダメである、ということは把握しており、
消費者をアルカリイオン飲料という商品に慣れさせるため、大規模なサンプリング作戦に取り組むことになった。
街中にポカリスエットを大量に持ち込み、道行く人たちにバラまきまくるのである。
当時愛媛の片田舎に住んでいた俺様の近所にすら、自転車に乗った拡販員がせっせとやって来た。
そして、当時小学4,5年生ぐらいだった俺様にも、この謎ドリンクを手渡してくれたのである。
この頃の我が家の定番ドリンクと言えば、「コカ・コーラ」「ファンタグレープ」「バヤリースオレンジ」の3種類だったが、
これらとて、いつも手に届く場所にあるわけではなく、誕生日やクリスマスに子どもにまわってくるのがせいぜいだった。
折角手に入れた缶ジュースである、親に渡すのは惜しい、下手をすると帰ってこないかもしれない、ここは速やかに試飲に及ぶべきである。
家に帰ると幸いなことに母親は買い物に出かけて留守であった。
俺様は間髪を入れずポカリスエットの缶を開けると、恐らくはぬるいままであったであろう中身を飲み込んだ。
・・・・・・・・・・まずい?
なんだか想像を絶する味である。うまいかまずいかと言われると、正直言ってまずい。
始めて飲んだポカリスエットは、〇〇の様な味と表現することができない味で、
小学生をただただ困惑させる飲み物だった。
もう少し小さい頃に飲んだ『ドクターペッパー』もかなり衝撃的な味だったが、
あれは『薬のような味』と表現できるため、理解可能な味覚だった。
それに比べると、このポカリスエットは何なんだろう、甘さは感じるが、だが決して美味しくはないのだ。
俺様としては飲むのをやめてしまいたかったが、一方で缶ジュースは当時の俺様にとって貴重である。
まずかろうがなんだろうが、飲むのをやめて捨ててしまうなんていう選択肢はありえないのである。
結局俺様は245ml缶を飲み切ったが、飲み干しても「美味しい、また飲みたい」という感想は持てなかった。
母親が帰ってきた後、コマーシャルで流れている、例のポカリスエットをもらって飲んだが、あれは非常にまずい飲み物である、という話をしたが、
親にとっても、特に飲みたいものというわけではなかったらしく、「ふ~ん」と流されてしまった。
あれから40年経った。「ポカリスエット」は今や、「アクエリアス」と並ぶアルカリイオン飲料の双璧である。
我が家でも、特に夏場は欠かせない飲み物であり、風邪をひいた時にも重宝する。
子どもたちにとっては生まれた時からある味覚であり、特に「まずい」という評価はいただいたことがない。
俺様も今となっては好きな味だ。むしろ「アクエリアス」派よりも「ポカリスエット」派といってもいいぐらいだ。
俺様にとって、あの味が一体いつから「美味しい」と感じられるようになったのかは分からないが、
小学生時代のあの日に、ただただ「まずい」と思った記憶は、たぶん一生残ることだろう。