日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

太刀 羽山円真 Enshin Tachi

2019-10-29 | 太刀
太刀 羽山円真


太刀 羽山円真 明治四十四年

 先に紹介した作に比較して反りが強い。茎を雉子股に仕立てた、衛府太刀拵に収められたであろう太刀。衛府太刀は、近代では御大典などの儀式の際に備えた。古様式の太刀姿であり、戦場で使う刀といった印象はない。古作山城物を想わせる小板目鍛えの地鉄に直刃を焼いているところも上品。やはり鎌倉時代後期の来國俊や来國光など山城上位刀工伝、円真の得意とする仕立てである。□





太刀 羽山円真 Enshin Tachi

2019-10-28 | 太刀
太刀 羽山円真


太刀 羽山円真 明治三十四年

 比較的反りは浅いが、雉子股茎の仕立てになる、古様式の太刀を手本としたもの。目釘穴の位置も比較的下にあり、太刀の様式を備えている。身幅は広くもなくバランス良く、反りが浅いのはサーベルなど近代の拵に収められた故と考えられる。地鉄は小板目鍛えで微塵の地沸が付き、刃文は浅い湾れ刃で、刃境がほつれ掛かり繊細な金線が走る。円真の得意とする、古作粟田口や来など山城物を手本とした作である。
 近世、近代の刀工を馬鹿にしている先生方がいた。その影響を受けて、現在でも新刀以降の作を刀と見ない方もいる。嘆かわしいことだが、事実である。とにかく、古作を偏重するこのような状況を生み出した昔の先生方がいけない。武士の時代を終えた以降も活躍した刀工の作品を紹介している。何が好きかは、個人それぞれあっていい。でも時代の異なる作について、比較して優劣をつけることの愚かさに気付いてほしい。よい作品を遺すべく努力した刀工があり、現代でも、技術を未来に伝えようとしている方々がいるのだ。





太刀 青江住末次 暦応四年 Suetsugu Tachi

2018-07-31 | 太刀
太刀 青江住末次 暦応四年

 
太刀 青江住末次 暦応四年

 青江末次の南北朝時代初期の在銘作。二寸ほどの磨り上げで、現在は約二尺三寸。元幅広く、先幅は研ぎ減ってはいるが、比較的広めに残されている。戦場に出て使用されていることから、この程度でもかなり健全な部類であると考えてよい。奉納刀のような生ぶのままの状態の身幅と重ねを保っている太刀は、まずないのだ。地鉄は、板目肌と小板目肌の複合。質の異なる地鉄によって地景が鮮明に現れている。細かな地沸はもちろんだが、乱れ映りが焼刃に迫るように現れている。刃文は匂口の締まった直刃に小足が品よく入り。刃境がほつれ掛かり、所々二重刃が交じり、帽子には三日月状の働きがある。









太刀 助次 Suketsugu(Ko-Aoe) Tachi

2018-07-21 | 太刀
太刀 助次


太刀 助次

 鎌倉時代前期の、かなりがっちりとした太刀。前回紹介した助次とは異なる工であろう、銘字も微妙に異なる。二尺四寸強、二寸強の磨り上げとすると、元来は二尺六寸半ほど。重ねも厚く、七百数十年を経ながらも、区深く残されている。鎌倉最初期のような先伏さり調子ではなく、わずかに先反りが加わっている。小模様の杢目を交えた板目肌が良く詰んで揺れたような肌合いとなり、細かな地沸が付き、肌目に沿って細やかな地景が入り、鎬寄りの高い位置に映りが立つ。匂に小沸を交えた刃文は直刃調子でわずかにみだれ、鼠足が穏やかに入って小乱調ではないところ品位が感じられる。銘字が大振りで鑚強く刻されているところが古青江の特徴。





太刀 助次 Suketsugu-KoAoe Tachi

2018-07-19 | 太刀
太刀 助次


太刀 助次

 鎌倉時代中期以前の古色溢れた青江の作を古青江、それ以降の作を青江と呼び分けている。以前は、南北朝時代中頃より時代の下がる作を末青江と分類していたが、現在は、古青江と青江の二類のみ。何しろ、青江鍛冶は南北朝時代後期には姿を消してしまう。時代の下がる青江の作品を見たことがない。備前鍛冶の衰退が吉井川の氾濫に起因したように、高梁川の氾濫で鍛冶場を移したのであろうか、最近の水害から、ふと、そんな思いがよぎる。
 さて、前回紹介した助次の太刀の続き。この太刀の地鉄をみると、南北朝時代の詰み澄んだ青江鍛冶の作風とはかなり異なっていることがわかる。杢を交えた板目肌の揺れたようなところは青江の特徴だが、頗る古調で、映りは淡く乱れ、鯰肌のような景色はない。板目や杢目の肌間が小板目状に詰んでおり、淡い地景が交じって肌立つ様子も古調。刃文は小沸出来の不定形な互の目が交じった小乱調に逆ごころの小足が入り、時代の下がる匂口の締まった直刃や火炎状の逆丁子とは異なる構成。帽子は浅く乱れ込んで返る。鎌倉初期の青江助次である。□









太刀 助次 Suketsugu-KoAoe Tachi

2018-07-18 | 太刀
太刀 助次


太刀 助次

 鎌倉初期の古青江助次。青江は備前の隣国。備前鍛冶と同様に中国山地の砂鉄を材料として作刀を発展させた。技術の根源が異なるのであろう、備前刀とは全く違う地鉄が青江の個性となっている。助次は鎌倉初期の青江鍛冶。同銘が何代か続いており、系流は不明ながら末は南北朝期に至っている。このような大振りの銘が古青江と分類される鎌倉時代前期の特徴。本作は生ぶのままの姿を留める、極上の出来。腰反り強く踏ん張りがあり、先に行って反りが穏やかになる典雅な姿格好は、武器というより洗練された宝飾品。もちろん斬れ味は鋭い。鉄をどう処理したらここまで美しくなるのであろうか、後の刀工は様々に研究し、その再現を試みたが、未だかつて、鎌倉時代の地鉄を再現できた近世から近代、現代の刀工は存在しない。刀身の姿格好や刃文の形状はどのようにも真似ることができる。本質は地鉄である。□

太刀 真利 Sanetoshi Tachi

2018-07-17 | 太刀
太刀 真利



太刀 真利

 真利は鎌倉前期から中期にかけての古一文字派の一人。二寸ほどの磨り上げで一尺七寸半ほどだから、元来は二尺弱の小太刀。先に紹介した大太刀に比較して扱い易さが追求された造り込みだ。この方が断然武士の備えという印象が強まる。だが、地鉄の美しさは絶品だ。杢交じりの板目肌が均質に詰み、細かな地沸で覆われ、細い地景が肌目を美しく際立たせている。この上に映りが乱れ掛かっており、鋼と思えぬ景観。焼刃は時代の上がる太刀に特徴的な刃形が不明瞭な小乱。沸が強く深く、刃先近くまで沸が広がっており、その中に沸匂の濃淡があり、金線稲妻が入り組んでいる。地鉄が良いと、このような濃密な刃中の働きになるものだと、改めて鎌倉期の鉄の凄さを思い知らされた。







太刀 助宗 Sukemune Tachi

2018-07-13 | 太刀
太刀 助宗


太刀 助宗

 鎌倉初期に番鍛冶を勤めた助宗より少し時代の下る、鎌倉中期の一文字と鑑られる助宗の在銘作。生茎で、二尺七寸強、反り一寸一分強の、身幅広い堂々とした姿格好。刃文は一文字に多くみられる重花丁子ではなく、湾れに不定形な乱れが交じる程度の構成。もちろん一文字だから総てが重花丁子というわけではない、このような穏やかな作もある。地鉄が古調である。良く詰んだ板目肌に地沸が付き、映りは刃文の上に暗帯部があって鎬から平地中ほどまで乱れている。普通に考えて、こんなに長い太刀は扱い難い。馬上から振り下ろすのだといわれても、片手で扱うには重すぎる。本当のところはどうなんだろう。武士の象徴という意味合いで備えられていたのだろうが、これを備えることができる武士と言ったら、かなり位が高かったろうと思う。







太刀 行秀 Yukihide Tachi

2018-07-12 | 太刀
太刀 行秀


太刀 行秀

 鎌倉前期の古備前行秀の太刀。二寸ほどの磨り上げで二尺三寸強、反りが五分強。腰反りがまだ残されており、いかにも鎌倉前期の備前刀。写真では細直刃調だが、実際には所々に逆足の入る行秀の特徴的な乱れ刃。地鉄は杢交じりの板目肌が良く詰んで映りは焼刃に迫るように濃密だが、これも写真では分かり難い。古作の最大の魅力が、写真で示せないところがもどかしい。地鉄が良いから刃中にも繊細な働きが生まれる。この後にさらに備前鍛冶は技術力を高めてゆく。







太刀 吉包 Yoshikane-Kobizen Tachi

2018-07-11 | 太刀
太刀 吉包


太刀 吉包

 鎌倉時代前期の、古備前の大磨上無銘の作で、刃文構成に地に深く入り込むような丸みのある互の目丁子が強く現れている点などの特徴から吉包と極められている。古調な作風が多い古備前の中にあって、一文字風の華やかな作が多いのが吉包。地鉄は板目肌が良く詰んで流れるような肌合いとなり、地沸が付き映りは鎬寄りの高い位置に出る。写真では分かり難いが、光の加減で鮮やかに観察できる。板目が強く、しかも緊密であることから刃境にほつれが生じ、刃中の働きも小足に金線を伴うほつれが加わって景色は複雑。手を合わせたくなるような極上の地刃である。







太刀 古伯耆 Ko-Houki Tachi

2018-07-10 | 太刀
太刀 古伯耆


太刀 古伯耆

 童子切安綱などで知られる、平安時代末期の伯耆の刀工の作と極められている、ほとんど生ぶの太刀。時代の上がる太刀は腰反りが深く踏ん張りがあり、先に入って伏さるように反りがなくなる構造であるという認識だが、物を切るという実用を考えると、本作のように先反りが加わってくる。製作の時代は、武士の自立が意識されるようになり、源平合戦が激しくなってきた頃と考えられる。もちろん薙刀のような武器が実用的ではあるが、太刀でも受け、或いは斬り付けるという、戦闘行動の中で、の扱い易さが太刀の姿を変えていったに違いない。地鉄は、頗る古調な杢目交じりの板目肌。地斑、映り、微妙に質の異なる地鉄の複合、地沸などが複合して言葉に表せない濃密な景色を生み出している。「映り」が写真に写らないものであるという認識だが、写真で見てもその変幻の様子が判る。名品であると思う。そのように理解されてきたのであろう、八百年以上もの長い間大切に伝えられてきた。この地鉄に焼き施された刃文は、古作に特徴的な直調ながら刃形の判らない小乱調だが、所々に互の目が交じり始めている。時代の流れであろう、この点でも、安綱より少し時代が下がるとみている。刃境から刃中に広がる焼刃の働きはもちろんだが、地中に広がる湯走りだけではない濃密な沸と匂の景色がある。古作の地鉄とはこのようなものである、ということが強く感じられる名品である。□









太刀 弘邦 Hirokuni Tachi

2018-04-07 | 太刀
太刀 弘邦


太刀 弘邦

 鎌倉後期の小太刀を手本としたもの。刃長一尺九寸強。この寸法は、鎌倉期ながら片手打ち。腰反りが付いて鋒は猪首風。地鉄は良く詰んだ小板目肌に細かな地沸が付いて冴え冴えとしている。刃文は小足の入る直刃。匂と小沸の調和も美しく、刃境には金線が流れ掛かる。地中の景色はもちろんだが、刃中の匂の広がりからなるこのような淡い景色は、現代刀工の多くは再現できないのではなかろうか、ものすごく綺麗だ。






太刀 大隅俊平 Toshihira Tachi

2018-04-02 | 太刀
太刀 大隅俊平


太刀 大隅俊平

 二尺五分の小太刀。大隅俊平は直刃を世に問い続けた作家である。本作は鎌倉時代中期の太刀を手本としたもので、猪首鋒とされた中間反りの姿格好に迫力がある。地鉄は柾目に小板目肌を交えて詰み、地沸が付いて鉄に動きが感じられる。刃文は細直刃で破綻がなく、簡潔なる美観を示している。





太刀 隅谷正峯 Masamine Tachi

2018-03-30 | 太刀
太刀 隅谷正峯


太刀 隅谷正峯

 平成六年の作品。正峯が追い求めた鎌倉時代の備前刀。正峯は、鎌倉時代へ到達するために古墳時代の鉄の研究をし、奈良時代、平安時代を経て鎌倉時代へと至った。この太刀は、そのような備前物を手本とした作風の中の一つ。刃文は互の目に小丁子交じり。互の目にやや尖り調子の部分が窺え、全体に揚があり、刀身中ほどではかなり焼が深く、物打は穏やかにという時代の作を良く再現している。地鉄の詰み澄んだところは、現代刀の宿命ではあるが、その中に淡い映りが立ち、古作への追求の様子が感じられる。






太刀 隅谷正峯 Masamine Tachi

2018-03-29 | 太刀
太刀 隅谷正峯


太刀 隅谷正峯

 隅谷正峯の昭和四十九年の作品。二尺四寸強。腰反り強い鎌倉時代の備前刀を手本にした作。小板目鍛えの地鉄は緊密に詰んではいるが、備前刀の特質でもある板目や柾流れの肌を所々に交じえたものであろう、古作再現への思いが窺える。匂口柔らか味のある刃文は互の目に足の長く射す綺麗な出来。焼頭は一定にならずに高低変化し、明るく冴え冴えとしている。まだ人間国宝に指定される以前の作だが、作品にはおのずと風格が備わっている。