日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

脇差 井上真改 Shinkai Wakizashi

2011-04-28 | 脇差
脇差 井上真改

 
脇差 銘 井上真改 (菊紋)延寳二年二月日

 二代國貞が真改に改銘した三年ほど後の作。
 地鉄鍛えは梨子地肌の典型。良く詰んでしかもそのつぶらな様子に潤い感が満ち満ちている。
 この作で特徴的なのは、刃中に現われている長い沸筋で、殊に物打辺りは二重刃風に連なる。全面に溢れている地沸は、時に鎬を越して棟に至るほど。これが焼刃に連続していて、刃中では濃淡変化があり、太く流れる一段沈んだ調子の沸筋を境界として、刃寄りではより細かくなり、刃先へと淡く広がる。帽子もこの変化のある焼刃そのままに、小丸帽子の上に焼き詰め風に沸の広がりがみられる。刃中を流れる沸は、砂流しとも言えないような筋の強いものではなく、ごくごく自然味のある、清らかに流れる湧き水の観がある。
 真改の魅力は沸の深さにある。刃文の形状は、江戸時代には焼刃土の処方によっていかようにも作り出すことは可能である。だが、地の働きや刃中の働きは、鍛えの本質に因るところが大きい。沸の帯を一定の幅で焼き施すことも難しいであろうが、棟近くから刃先近くまで沸を施し、これに変化を付け、刃先近傍では刃中に溶け込むように淡くするところなど、多くの刀工にはできない技術である。それが故に真改は高く評価されている。この沸深い焼刃ができるのは、真改以外では、大坂刀工のごくわずかと、江戸時代末期の左行秀(さのゆきひで)ぐらいであろう。


脇差 井上和泉守國貞(真改) Kunisada Wakizashi

2011-04-22 | 脇差
脇差 井上和泉守國貞(真改)


脇差 銘 井上和泉守國貞 (菊紋)寛文九年八月日



 梨の実を割った面のような、緻密に詰みながらもその微細な肌目が確認でき、しかもしっとりと潤っているかのように感じられる肌合いを梨子地肌と呼んでいる。寛文新刀期の大坂鍛冶の地鉄がその良い例で、この二代目國貞、即ち後の真改や助廣などに洗練味溢れる作品が遺されている。これに粒が揃って深々とした沸の焼刃を展開することから真改や助廣は古名匠正宗に擬えられている。
 まずは地鉄を鑑賞されたい。均質に詰んだ小板目肌を分けるように地景が入り、全面に地沸が厚く付いて肌目と働き合い、さらに地景とも働き合って濃淡変化を見せる。焼刃は地沸の連続で、大互の目の構成ながら刃中に沸が広がって刃文の形状は不定形の大乱調。これが刃先近傍にまで迫り、刃沸を切るように金筋が走る。帽子も沸強く、先わずかに乱れて小丸に返る。地刃の明るさは写真では判り難いが、手にとって鑑賞用のライトを当ててみると総体が冴え冴えとしており、ここにこそ大坂新の魅力が濃縮されていると言えよう。


脇差 和泉守藤原國貞-Ⅰ Kunisada Wakizashi

2011-04-18 | 脇差
脇差 和泉守藤原國貞


脇差 銘 和泉守藤原國貞



 一尺五寸四分ほどの寸法ながら、身幅がことに広く重ねが厚く、反りが深いことから、姿のみの判断ではやけに短く感じられる。これで元幅が一寸九厘ある。地鉄は比較的良く詰んだ小板目鍛えが顕著。このような詰んだ小板目肌が大坂新刀の地鉄として一般に知られているところでもある。それでも、詰んだ地鉄の底に板目流れ、杢目流れの肌が淡い地景によって窺いとれる。ここにこそ初期大坂新刀の魅力があると言えよう。即ち、何度も言うようだが、戦国時代、古刀期の地鉄の風合いが未だに残されていること。さらにこの脇差では、添え銘として「以唐鉄作之」とあるように、南蛮渡来の鉄、即ち同時代ではまだ入手が困難で、裕福な工しか使用できなかった新時代の最新の素材を用いたもの。もちろん鉄であればなんでも作刀が可能というわけではない。困難な鉄を優れた刀に仕上げることが技術であり、この脇差は、國貞の高い技量を良く示していることにもなる。仏神名の彫刻も骨太な感がある。これも大きな魅力である。□


刀 河内守藤原國助-Ⅰ Kunisuke Katana

2011-04-13 | 
刀 河内守國助

  
刀 銘 河内守藤原國助 

以前に紹介したことのある初代國助の刀だが、同じ時代に大坂に活躍した國貞と比較するために再度紹介する。二代目の國助は互の目丁子出来の刃文を焼いて有名であり、人気を博したことから、そして三代國助もまた広く知られたことから、三代ある中の二代目を特に中河内と呼び親しんでいる。大坂新刀らしい華やかさがあるのも二代目である。ところが初代は、戦国時代の気風を未だに残す、無骨な面影を伝える、良く言われるような大坂新刀らしからぬ出来のものが多い。本作が正にその例。刃文は湾れに大互の目を交えたものだが、ことに板目鍛えの地鉄に地景が入り、地沸が付いて躍動感に満ち満ちている。この地鉄を見てほしい。先に紹介した初代國貞の地鉄に似ており、地景は穏やかながら全体に網目のように入り、これに地沸が働いて活き活きとしている。

 

刀 和泉守國貞-Ⅰ Kunisada Katana

2011-04-09 | 
刀 和泉守國貞


刀 銘 和泉守藤原國貞



 商人の町として発展し人口の増大した大坂を新たな活躍の場と定めた刀工に國貞や河内守國助がいる。この両者が、大坂における作刀技術発達の礎となったことは間違いない。両者共に京の國廣門で、初期は肌起ちごころの強味ある地鉄だが、次第に小板目鍛えが詰んで美しくなる傾向にあり、その弟子や子の代に至ると、更に均質に詰んで地沸も綺麗に付いた大坂地鉄の極致となる。
 この刀は、二尺三寸は充分にあるものの、抜刀に適した先細身の扱い易い造り込み。板目肌が良く詰んで淡い地景が全面に入り、細かな地沸が肌目に沿って働き、総体に地鉄に躍動感が満ち溢れている。刃文は変化のある互の目で、焼刃の小沸も綺麗に揃って、しかも冴え冴えとしている。刃中には足が入り、これと絡み合うように砂流しが入り、帽子は掃き掛けを伴う小丸返り。総体に美しい出来となっている。
 魅力は何と言っても生気のある地鉄であろう。流れるような板目鍛えの肌に沿って入る地景は、微細な地沸を伴って強すぎず、しかも湧き立つように抑揚し、これが刃中に至っては細かな沸の雲に変化する。ここの國廣一門の面影が窺いとれる。均質に詰んだ地鉄も大坂物らしく心地よく鑑賞できるが、このような変化のある地鉄は一段と強く視覚を刺激する。□

 


薙刀 陸奥守忠吉 Tadayoshi-Mutsunokami Naginata

2011-04-04 | その他
薙刀 陸奥守忠吉

 
薙刀 銘 肥前國陸奥守忠吉



 一尺八寸近い、江戸時代の守りの具としての薙刀では長めの、鎌倉時代の実用の得物を想定した作。一般に三代陸奥の作風は、刀や脇差にしてもやや長めで、がっしりとしている。父忠廣を越えようとして自ずと独創的な造り込みを求めたものであろう。結果として父より早くに没しため忠廣に比して遺作少なく、それが故に人気を押し上げている。
 もちろん技術も高く、この薙刀をみるにも、刃境の働き活発で、肥前刀の互の目出来の特質も良く備えている。殊に明るい沸の刃中に広がる様子は圧巻。刃縁は小沸でほつれて小足となり、互の目の内側に葉が浮かび、刃境の形状複雑に乱れ、細かな砂流しが刃中を流れる。□