日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

短刀 菅原包則 Kanenori Tanto

2016-09-30 | 短刀
短刀 菅原包則


短刀 菅原包則

 茎を見なければ鎌倉時代の則重と見間違えてしまうかもしれない。帝室技芸員包則の、古作を手本として製作した明治三十六年の短刀。姿格好はもちろん鎌倉時代。地景が顕著に表れて板目肌が明瞭になり、さらに地沸が肌目に沿って流れるように現れて鍛え肌を強調している。刃文は浅い互の目乱で、互の目は不定形に湾れを交え、帽子は掃き掛けを伴う小丸返り。小沸に匂が加わって冴え、刃縁ほつれ、沸筋が刃境をきりっと引き締め、刃中には淡い砂流が掛かり、沸が広がり匂もこれに伴って刃先に迫る。相州伝の短刀である。

刀 宇多平國 Hirakuni Katana

2016-09-29 | 
刀 宇多平國


刀 宇多平國

 これも室町前期から中期頃の宇多派の作。先に紹介した國宗や國次よりちょっと時代が下っている。それにより刃文の互の目が顕著になっている。地鉄は板目が地景で強く肌立ち、地沸が付いているところまでは宇多派の風合いだが、湯走りがおとなしくなっている。刃文は互の目を基調として、互の目に尖り刃が交じって角状、矢筈状となり、物打辺りには飛焼や地中の沸凝りが交じり、この辺りに相州伝の特徴が窺える。帽子は浅く乱れ込んで先尖り調子に浅く返る。焼刃は匂に小沸が交じり、刃境がわずかにほつれ、短めの足が盛んに入る。

刀 宇多國次

2016-09-28 | その他
刀 宇多國次


刀 宇多國次

刀 宇多國次

 室町初期の宇多國次の作。二尺一寸強だから片手での操作性を高めた造り込み。室町時代初期には、備前だけでなく越中宇多派でも片手打ち刀が造られていたように、全国的に流行していた。地鉄は、板目肌が流れて柾がかり、地沸が付いて鍛え目に沿って沸が流れる景色も窺える。刃文は不定形に乱れた互の目に湾れが交じり、帽子はわずかに乱れて返り、長く焼き下がる。刃縁はほつれ掛かり、多くはないが刃中に沸が流れ込んで砂流し、沸筋となる。美濃物のところで述べたが、美濃刀と同様に「なんだ宇多物か」という人がいる。そのように評価する方の認識を疑う。江戸時代に、武家制度として優劣を定め、位付けをする時代があったが、その悪弊だと思う。現在、刀工の流派や活躍の地域で優劣を決するのではなく、作風の違いを理解し、好み最優先で刀を鑑賞する方向へと動き始めている。ところが、先生と呼ばれる方々が、その流れを、旧弊に戻すように教育してしまうところがある。皆さんは、そのような古い体質の先生方のいうことなど聞き流し、「なんだ宇多物か」と言わず、各刀工の違いを理解し、この面白さを鑑賞してほしい。宇多にはすごい作品がある。




短刀 宇多國宗 Kunimune Tanto

2016-09-27 | 短刀
短刀 宇多國宗


短刀 宇多國宗

 宇多派は大和宇陀郡から越中国に移住した刀工群。大和伝の作風かというとそうでもなく、相州伝の技法を取り入れたものであろう、柾調に流れる地鉄に沸による働き、特に地中に湯走りの広がる作風に特徴を示した。この短刀も地鉄は揺れて流れるような柾目で、地沸が付いて地景が顕著に肌が鮮明。刃文は湾れ乱れで、沸深く、刃縁は肌目に伴って和紙を裂いたようにほつれ掛かり、刃中も同様に肌目に沿って沸筋、砂流し、金線が走り、帽子も同様に掃き掛けて返りが長く、棟焼となる。同国の則重からの影響も考察されているが、國宗には國宗の個性がある。



刀 國清 Kunikiyo Katana

2016-09-26 | 
刀 山城守藤原國清


刀 山城守藤原國清

 國清は堀川國廣の門人。密に詰んだ綺麗な小板目鍛えに直刃を得意としたが、この刀のように國廣の流れを明確にする相州振りを示した作も遺している。江戸時代初期寛永頃に多く見られる伸びやかな造り込みで、身幅も広くがっしりとしている。地鉄は板目肌がざんぐりと肌立ち、細かな地景が潜んで地沸が付いて・・・縮緬風に細かに揺れて肌立つ堀川肌とは趣を異にするが、明らかに戦国時代の気風を遺して斬れ味を高める工夫が感じられるところは師と同様。刃中に流れる砂流しや沸筋により、刃寄りは正に流れていることも分かる。刃文は沸主体の不定形に乱れる互の目湾れ。この刃沸が刃先近くまで広がり、刃縁辺りはほつれかかり、刃中には金線、砂流し、沸筋が層をなして走る。





刀 備中國為家 Tameie Katana

2016-09-24 | 
刀 備中國為家


刀 備中國為家

 寛永頃の備中呰部の為家の刀。同派の水田國重の名称はその後に江戸に移住していることなどからも良く知られているが、為家については、優れた作を残しているにもかかわらず、作例が少ないことから良く知られていないようだ。水田鍛冶の大月三郎兵衛國重の弟と言ったら関係が明確になろう。作風は水田國重そのもので、この刀も良く詰んだ小板目鍛えの地鉄に沸の強い湾れ刃に互の目交じり。刃中は太く細くと変化のある沸筋が流れ、刃先寄りには匂と淡い砂流しが流れ掛かる。




短刀 弘幸 Hiroyuki Tanto

2016-09-21 | 短刀
短刀 弘幸


短刀 弘幸

 前回紹介した廣幸の前銘と言われている弘幸の、一尺強、ごく浅い反りが付いた寸伸び短刀。前作と比較して鑑賞されたい。研究に従えば、本作の方が時代が上がるということになる。年代が明確なのは慶長十三年紀作であり、本作も慶長頃と考えられる。小板目鍛えの地鉄は良く詰んでいるも、堀川肌と呼ばれるようなザングリとした風も顕著で、縮緬状に細かに揺れる肌が地景によって観察される。地中には湯走りのような強い地沸は見られないが、肌目に沿って細やかに沸の流れが窺える。刃文は穏やかな湾れに互の目交じり。帽子は、物打辺りから現れている逆足状の沸の流れに応じてわずかに掃き掛けを伴って先小丸に返る。刃中は激しい沸ではないが、志津風の浅い湾れ互の目に伴って沸筋や砂流しが流れる。



脇差 丹後守藤原廣幸 Hiroyuki Wakizashi

2016-09-20 | 脇差
脇差 丹後守藤原廣幸


脇差 丹後守藤原廣幸

 この刀工は、初期には弘幸と銘を切り、國廣に学んで廣の字を用いるようになったものであろうか、後に廣幸と銘している。良く詰んだ小板目鍛えに直刃を特徴とし、年紀作は慶長十三年のみで、活躍期は寛永頃にまで及んでいるようだ。初期の直刃出来は山城伝や大和伝であろう。この脇差は相州伝。地景を交えて肌目が強く現れた板目鍛えの地鉄に地沸が付き、ほぼ全面に湯走り状に叢沸が現れて激しい景観を呈している。もちろん棟寄りには棟焼に連続する地沸があり、これらは飛焼かというとそうでもなさそうで、とにかく変化に富んだ激しい地相だ。刃文は不定形な互の目湾れ。焼刃は沸が強く刃中も濃淡があり、刃先に向かって沸が太く射し、あるいは肌目に沿って沸が流れる。






刀 波平安行 Yasuyuki Katana

2016-09-17 | 
刀 波平安行


刀 波平安行

 薩摩刀工も相州伝を下地としている。古くは大和鍛冶の流れを受け継いだものであろう独特の地鉄に細直刃出来の作風を専らとしていたが、室町時代以降に備前伝や相州伝を受け継いだ美濃伝を採り入れており、江戸時代にこの流れになる相州気質が明確になった。正幸や元平でも紹介した通りその特質は明瞭であったが、古くから薩摩刀工の主流であったこの波平派においても同様。密に詰んだ小板目鍛えの地鉄は、所々に大きく板目が現れて地沸が叢付き地景が現れ、所々湯走り状に沸が流れ、刃文はもちろん沸の強い湾れに互の目が交じり、刃中も沸が強く沸筋砂流しが顕著。





脇差 肥前國正廣 Masahiro Wakizashi

2016-09-16 | 脇差
脇差 肥前國正廣


脇差 肥前國河内大掾藤原正廣

 初代正廣の変わり出来の脇差。正廣は相州伝の再現に長けていたことから、藩主より「正廣」の工銘を賜り、以降はこの銘を代々が伝えている。「正廣」は言うまでもなく相州の名工。さてこの脇差は、表は直刃に浅い湾れで、裏は大互の目。小板目鍛えに地沸が付いた肥前肌に、刃文は小沸出来。刃中は澄んで透明感があり、刃縁の繊細なほつれが刃中に広がり、匂を伴って淡い砂流しを形成、霧の流れるような景色を生み出している。直刃側においても同様、刃中に淡い砂流しと沸筋が流れており、帽子は掃き掛けを伴う小丸返り。





脇差 信國 Nobukuni Wakizashi

2016-09-15 | 脇差
脇差 信國


脇差 信國

 無銘ながら、信國の特徴が顕著な作。室町時代初期、相州伝を活かして作刀していたのが信國一門である。地景を交えて肌立つ風のある板目鍛えは、所々に杢目を交え、地沸が厚く付いており、地景はまさに地沸を切り裂く稲妻。刃文は、不定形に乱れる互の目の所々に尖刃、雁股刃、耳形乱刃、矢筈刃などを交え、湯走りと飛焼も交じって出入複雑。焼刃は沸が強く、激しいほつれ、沸筋、砂流しなどが金筋を伴って流れ、刃先までこれらが働いている。所々の杢目に感応して渦巻き状の働きも交じり、総体が激しく動いている感じだ。

脇差 三善長道 Nagamichi Wakizashi

2016-09-14 | 脇差
脇差 三善長道


脇差 三善長道

 長道は会津虎徹と呼ばれた斬れ味鋭い刀工。安定した姿格好から時代背景が分かる。小板目肌が詰んでいる中に板目が現れて、それが煩わしくない程度に肌立ち美しく、しかも凄みがある。刃文は沸を主調に匂が組み合わされて明るい湾れ調の構成。これに互の目が交じって不定形に乱れる。刃中は沸と匂が深く、沸が肌目に沿って流れ、幅の広い沸筋から細かな沸筋まで幾重にも走り、砂流しがこれに混じり、一部は沸凝って島刃の様相を呈すなど相州伝が明瞭。これが刃先近くまで濃密に現れている。帽子は小丸に返る。



脇差 銘 伯耆守信高 Nobutaka Wakizashi

2016-09-13 | 脇差
脇差 銘 伯耆守藤原信高


脇差 銘 伯耆守藤原信高

 美濃国関三阿弥派の兼國の末と伝える信高は江戸時代前期の尾張を代表する刀工。初代が美濃から清洲をへて名古屋に移住、江戸時代後期まで匠銘と技術が受け継がれている。身幅広く重ね厚く頑丈な造り込みの多いこの三代信高には柳生 連也斎厳包が頼りとした刀が遺されているように、高まる知名度と需要を背景に、寛文から延宝にかけて多くの作品を製作している。この脇差は一尺六寸と尋常な寸法から大小一腰の脇差とされたものであろう、信高の特徴的な強みの感じられる造り込み。反り深く、鋒伸び調子にふくら張って緊張感に満ち、掻かれた棒樋がさらに姿を引き締めている。繊細な地景によって綺麗に杢目の現われた小板目鍛えの地鉄は躍動感に溢れ、元先一点の弛みもなく冴える。小沸深い互の目乱の焼刃は、直焼出しに始まって次第に焼幅が広く大模様になり、互の目が二つずつ並んでいる様子は耳形乱を思わせるが、二代にも間々みられる信高の特徴的刃文構成。刃中は沸足を切って砂流し入り沸でほつれ、物打辺りで再び小互の目となり、帽子は端正な小丸に返る。地に突き入る小互の目に沸が叢付いて刃縁は明るく輝く。刃中は砂流し沸筋が流れ、所々、肌目に沿って砂流しの渦巻きが観察される。□





刀 元喜 Motoyoshi Katana

2016-09-12 | 
刀 佐渡守國富元喜


刀 佐渡守國富元喜

 江戸前期明暦頃の長門国の刀工。あまり聞いたことがない刀工だが、このような激しい相州伝の作品を遺している。身幅たっぷりとし、重ねは尋常、反りを控えている。板目の流れた地鉄に地沸が付いてざんぐりと肌立ち、地景が目立つ。小沸主調の互の目に湾れを複合した刃文は、刃境が和紙を引き裂いたように沸ほつれが掛かり、淡い匂を伴って刃中に広がり、砂流し、沸筋、金線、小足の他、島刃状に沸の凝る風を見せている。帽子は表が小丸返り、裏は沸筋を伴って掃き掛けて返る。刃文構成から相州古作を狙ったことが分かる。沸粒が揃っており、叢なく綺麗で、その流れるような景色がいい。





脇差 同田貫國勝 Kunikatsu‐doudanuki Wakizashi

2016-09-10 | 脇差
脇差 同田貫國勝

 
脇差 藤原國勝

 戦国時代末期文禄頃の同田貫派の刀工國勝。加藤清正から清の文字を賜った同田貫清國同人。後に、がっしりとした刀を磨り上げて一尺七寸強の脇差としたもの。磨り上げてもなお迫力がある。同田貫派は、専ら戦場での激しい打ち合いに耐えられるよう、堅物斬りを主眼として鍛えられたようだ。鉄鎧や鐵の兜を想定した武器だ。それでいて斬れ味が良い。斬れ味とは人体を想定した言葉だ。さて、この刀は、地刃をみると相州伝を取り入れていることが分かる。造り込みは、重ねが厚く平肉が付いており、身幅が広く重ねの薄い本来の相州物とは異なる。板目に杢目を交えて地沸が付き、地景を伴って激しく肌立つ、骨太い感のある出来。刃文は沸に匂が複合したもので、形状の定まらない互の目湾れ。刃境に沸が付いて肌目に沿ってほつれかかり、所々渦巻き状に肌立ち、帽子は沸が流れて先は火炎状に変える。同田貫派には、匂主調の潤んだ焼刃もある。備前伝の刃文もある。