日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 越中守正俊 Masatoshi Katana

2016-06-30 | 
刀 越中守正俊


刀 越中守正俊

 戦国時代末期から江戸時代初期にかけて、工芸文化の分野では桃山時代に分類される頃、正宗に代表される相州刀が大流行した。南北朝時代の相州伝の磨上刀が求められ、それに応じて似た刀が造られた。その中から江戸時代の相州伝が生み出された。正俊は美濃の出身であり、下地に美濃伝が備わっている。もちろん美濃伝の元をたどれば相州伝に行き着くのだが、美濃で培われた美濃風は、正俊も備えている。正俊のみならず、江戸時代の刀工の多くが美濃伝を下地として作刀しているのだから、江戸時代の刀工は、美濃風をどこかに備えている。それが、地鉄鍛えに他ならない。刃文は焼刃土の置き方で決まるから、刃文による伝法はいかようにも変えられる。ひっそりと伝え遺されたのが美濃の鍛え方であった。
 この刀は、元先の身幅が広く、南北朝時代の大太刀を磨り上げたような姿格好。地鉄は板目が大きく流れて所々柾がかり、地沸が厚く付いて地景がそれを切って流れる。刃文は沸出来の湾れに互の目交じり。刃中に砂流が流れ、金線、沸筋が伴う。見るからに相州刀だ。



短刀 越中守正俊 Masatoshi Tanto

2016-06-29 | 短刀
短刀 越中守正俊


短刀 越中守正俊

 正俊は金道の弟の一人。ともに京に移りすみ、江戸初期を活躍期とし、後の刀剣の世界に影響を与えた一人でもある。刃長九寸半、元幅が九分強、重ねが三分半もある、がっしりとした造り込み。鎧通しといってもいいだろうが、さらに身幅が広い点が異なり、迫力がある。この時代の特徴的な造り込みと言えるだろう。板目の流れた地鉄は、緊密に詰んで地沸が付き、鍛え目に沿って明瞭に地景が現れ、ここも迫力がある。刃文は不定形に乱れた湾刃で、物打から先が沸筋強く働いて、やはりここも力強い。造り込みはこの刀工の創案と思われるが、地刃の出来は相州伝、沸を意識した作である。肌目に伴うほつれ、喰違、金線、砂流、殊に物打から帽子にかけての折り重なるような沸筋は圧巻。焼刃を超えて地中にまで沸筋が流れ込む。彫り物が火炎不動に剣巻龍だから、見事に風合いが合致している。

脇差 丹波守吉道 Yoshimichi Wakizashi

2016-06-28 | 脇差
脇差 丹波守吉道(京初代)


脇差 丹波守吉道

 丹波守吉道は伊賀守金道の弟。同様に父と共に美濃より京に移住した。本作はこの時代の特徴的な脇差。身幅広く重ね厚く、反りが深く先幅も広く張っており、豪快な印象がある。戦国時代を生きた武将が、自らをより大きく見せようとし、また個性を強く示したのが、傾奇者などと呼ばれる、南北朝の婆娑羅に通じる気風だ。この思潮に沿った武器と考えてよいだろう。勢い豪壮になる。桃山文化にも通じ、この造り込みは寛永頃まで続いている。これも相州伝。板目鍛えに小板目肌鍛えが交じりあって良く詰み、地景が交じって肌が綺麗に浮かび上がっている。刃文は湾れに不定形な互の目が交じり、帽子はわずかに湾れ込み、先は掃き掛けを伴った小丸返り、地中にも湯走り掛かり飛焼交じるなど浅い刃幅ながら変化に富んでいる。焼刃は沸に匂が交じり、刃境にほつれ掛かり、ここでも刃中の砂流し金線を形成している。穏やかに見えるが、迫力がある。



刀 伊賀守金道 Kinmichi Katana

2016-06-27 | 
刀 伊賀守金道


刀 伊賀守金道(京初代)

 天正‐文禄‐慶長。天正中ごろから十数年で慶長、歴史的には江戸時代に入る。刀剣の歴史でも慶長初年を境に古刀と新刀に分けている。この時代に活躍した刀工を特に新古境いの刀工とも呼んでいる。古い時代の地域的特徴を明瞭にしていた刀工が、技術交流することによって新たな作風を生み出すに至る時期である。地鉄は小板目肌。鎬地は柾目主調。刃文は…刀工の特徴が最も現れる部分となる。さてこの刀は、慶長頃の特徴でもあるがっしりとした造り込み。戦国時代末期からこの形は登場しているが、地鉄が頗る綺麗になっている。小板目肌鍛えが良く詰んでいる中に板目肌が肌立たずに綺麗に表れている。金道は父と共に美濃から京に移住した刀工集団の一員である。この綺麗な地鉄の背景には美濃の技術がある。間違いなく美濃の優れた技術だ。同様に美濃から各地に移住した刀工も多く、いずれも美濃の技術を展開した。刃文はこの時代に流行していた相州伝。かつて、大和から移住した兼氏が、大和伝に相州伝を加味した作風を展開したが、ここにきて相州伝が再び強く意識されるようになる。刃文が揃った互の目にならず、湾れと高低抑揚のある互の目が交じりあい、帽子は綺麗な小丸返り。焼刃は粒の揃った沸を主体に匂が加わり、大変に明るい。刃縁が肌目によってほつれ掛かり、これが刃中においては金線を伴う砂流しとなる。どこに美濃伝の要素があるの?といった風情だ。



短刀 金高 Kanetaka Tanto

2016-06-25 | 短刀
短刀 金高


短刀 金高

 刃長九寸強だから短刀としたが、先反りが付いた平造の小脇差といった姿格好。重ねを控えて刃先を鋭く仕立て、ふくら辺りの身幅も広く張りのある造り込み。地鉄は板目に小板目肌交じり、良く詰んで映りが立つ。刃文は、研磨によって互の目に縁取りされているから分かりやすいだろうと思う。くっきりと鮮やかに見える。ふっくらとした互の目に尖り調子の互の目、それが地に深く突き入るような部分があるなど、構成は比較的創意が感じられる。刃中には繊細なほつれが掛かり、匂の満ちた中に足が柔らかく広がり、濃淡変化に富んでいる。飛焼も淡く施されている。このような構成美が背景にあり、江戸時代の刀工によって刃文の美として完成を見るのであろう。




短刀 兼貞 Kanesada Tanto

2016-06-24 | 短刀
短刀 兼貞


短刀 兼貞

 室町時代の美濃物を、時代を追って紹介してきたが、ここのところ戦国時代、天正頃の美濃物が続いている。戦乱の激しい時代だ。この短刀は一尺弱の寸法で比較的肉厚。革具足をすっぱりと切るための薄手の刃物と、堅物を相手とする場合の頑丈な刃物が混在した時代だ。戦国時代後期の天文年間には鉄砲が伝来し、それに応じて胴を鉄板で強固とした具足が製作されており、さらにそれに対応するための刀もがっしりとしたものに変わってきている。戦国時代でも、刀の造り込みを見れば時代背景が分かるのだ。さてこの短刀は、緻密に詰んだ小板目肌鍛えに地景で板目流れ肌が浮かび上がった、頗る躍動感に満ちた作。板目肌が強く出ているのは微妙に質の違う鉄を混ぜ込んだ結果であり、強靭な身体にするための工夫だ。質が異なれば鍛着は難しい。それを巧みに行っており疵気なく、地沸がこれにからみ美しい。刃文はやや沈んだ湾れ刃。ここにも打ち合いを想定した焼き入れの考え方が窺える。刃中にはほつれ、砂流し、金線が、これも綺麗に流れ掛かっている。



短刀 兼國 Kanekuni Tanto

2016-06-23 | 短刀
短刀 兼國


短刀 兼國

 両刃状に両側に焼刃が施された短刀だが、鋭く仕立ててあるのは片側のみ。菖蒲造だ。兼國は美濃から播磨国に移住した刀工。播磨に移住した後に備前の両刃造に接し、その恐ろしいまでの構造を再現したものであろう。寸法は七寸強、無反り。断面が菱型。鎧の隙間から突き刺し、どちらに力を入れても内部をえぐるように斬るのが両刃造であり、考えただけでもぞっとする武器だ。その片側に刃を付けていないのは、いずれ研磨して刃を付けるつもりであったのか。現状では、片側から押さえつけるような使い方が可能だ。充分に鎧通しの効果がある。板目流れの地鉄が詰み、刃文は肌目に調子を合わせたような浅い湾れ調子。小沸出に匂が交じり、ほつれ、喰い違い、金線などが刷毛で掃いたように流れ掛かっている。


平造脇差 兼春 Kaneharu Wakizashi

2016-06-22 | 脇差
平造脇差 兼春


平造脇差 兼春

 研磨による刃採りをしていない例。戦国時代の美濃鍛冶兼春の、先反りがついた頗る扱いやすい一尺一寸ほどの武器。具足の腰に備えられていたものであろう。地鉄は板目肌が良く詰んで地景が入り、肌立つといった風情ではないが、小板目肌の所々に板目が揺れるように現れている。それが刃境を越えて刃中に及んでいる。刃文は互の目の頭が複式に焼かれたり、尖った互の目が二つずつ連なっていたりと、変化に富んでいる。刃採りをしていない研磨のため刃文がくっきりとは見えない。なんとなくぼおっとしていて、刃文がないのでは?と思う方もいるだろうが、しっかりとして冴えた焼刃が施されているし、光を反射させて鑑賞すると、刃境に砂流が掛かりほつれが掛かっている複雑な様子が良く分かる。このような研磨も写真映りが悪い。現代のWebやパンフレットで紹介するには向かない写真にしかならない。内容が濃いのに分かり難いのは残念である。




刀 兼長 Kanenaga Katana

2016-06-21 | 
刀 兼長

 
刀 兼長

 毛利家に仕えていた桂家に伝来した刀。茎にその注文銘が遺されている。時代を知る貴重な作例だ。同じ銘文の生ぶのままの刀が、桂太郎家に近代まで遺されていた。その事実も併せて考えると、大変面白い。戦場で活躍したものであろう、研磨が施されて肌立つ部分もあるが、総体に板目がゆったりと流れて詰み、肌間を小板目肌が埋め、冴え冴えとし、地景が加わって生き生きとした地相を呈している。銘が遺されているように、特注の刀であったと思われる。刃文は匂口の閉まった互の目で、尖刃を交え、湾れが加わり変化に富んだ構成。匂に小沸が加わった焼刃は、刃中に匂の雲を漂わせ、これにほつれが加わるなど、複雑で激しい動きはないものの、頗る澄んだ地刃となっている。



薙刀 兼辰 Kanetoki Naginata

2016-06-20 | その他
薙刀 兼辰

 
薙刀 兼辰

 美濃から越後に移住した兼辰の、刃長二尺二寸を超える大薙刀。美濃の刀工は戦国時代から江戸時代にかけて各地に移住した。もちろん優れた技術を備えていたからだ。戦国時代以前の薙刀はあまり遺されていない。そう、実戦武器だから戦場で盛んに使われ、遺らなかったのだ。この薙刀は、健全な状態で遺されており、戦国時代を知る良き資料となっている。研磨の状態が写真用でないため、刃中の様子が良く分からないのが残念。地鉄鍛えは板目が流れて、その肌間を小板目肌が埋めており、総体に綺麗に詰んでしかも強い動きが感じられる、覇気に富んだ出来。刃文は湾れに刃形の揃わない互の目が尖り調子となる。刃境にほつれが掛かり、砂流し金線がそれに伴う。帽子はゆったりとした地蔵風。

 


短刀 兼先 Kanesaki Tanto

2016-06-18 | 短刀
短刀 兼先


短刀 兼先

 両刃造の短刀。両刃造というと備前刀工の作を思い浮かべるが、美濃にも多くはないがあり、相州鍛冶にもわずかにみられる。両刃造短刀は相対的に出来の良いものが多い。頗る実用的な武器であるにもかかわらずだ。この造形が製作上頗る難しいと考えられる。鎬を立てて身幅を狭め、双方に焼刃を施す。鎬の厚さ、鋒の薄さ、それぞれが焼き入れ時にどのように影響を及ぼしてくるのだろうか。茎の形状から、備前國与三左衛門尉祐定辺りの両刃を手本としたものであろう、研究の成果は表れていると思う。頗る良くできているのだ。元先のバランス。鎬筋と鋒までの構成線。均質な小板目肌鍛え。匂口明るく互の目の出入りに抑揚のある刃文構成。刃中に広がる小沸と匂の冴え。ちょっと見には備前物と間違えそうだが、地鉄も刃文も美濃物だ。

短刀 兼義 Kaneyoshi Tanto

2016-06-17 | その他
短刀 兼義


短刀 兼義

 刃長一尺三分だから、短刀とも小脇差とも言い得る作。寸法や呼称にかかわらず、腰に帯びて扱いやすい実戦武具だ。特に先反りが付いた姿格好に凄みが感じられる。兼義は特に有名な刀工ではない。だが内容は濃い。小板目肌鍛えの地鉄は良く詰んでおり、所々に流れ肌が交じって地相に動きが感じられる。細かな地景も交じって肌が縮緬状に立ち、いかにも切れそうだ。しかも刃文が綺麗だ。相州の作風を伝えており、互の目の頭がわずかに尖り調子で、互の目は大小高低抑揚がある。匂口閉まって明るく冴え、所々に沸が付いて匂と一体化し、刃中を流れ、砂流しや沸筋、島刃などを構成している。帽子も乱れ込んで火炎状に掃き掛けを伴い長く焼き下がっている。綺麗な状態で遺されているのだから、戦国の世の当時の人々も江戸時代の人も大切に扱っていたに違いない。

短刀 兼友 Kanetomo Tanto

2016-06-16 | 短刀
短刀 兼友


短刀 兼友

 八寸半ほどの短刀。小板目肌の刃寄り板目流れとなった地鉄が特に綺麗な作。わずかに反りを付けた姿は、南北朝期の一尺三寸ほどの小脇差にもあるような、刺突と截断の両方に使えるようにしたもので、実用の武器という印象が強いのだが、頗る綺麗だ。このような小板目鍛えが、後の江戸時代の作刀に変化してゆくのである。刃文も綺麗な直刃。所々に小足が入り、刃境は盛んにほつれかかり、これが刃中に及んで淡い砂流しとなる。このようなところに美濃鍛冶の出が大和である名残が窺えよう。物打から先も健全であり、焼幅たっぷりと残されている。美濃鍛冶というと、実用一点張りの印象が強いことから一段低く見られがちだが、出来の良い作が意外にも多いのである。生半可の知識で、他人から聞いたことを鵜のみにして美濃刀を軽んじる人が多いのだが、よく鑑賞してみるといい。凄い作が残されている。

短刀 兼門 Kanekado Tanto

2016-06-15 | 短刀
短刀 兼門


短刀 兼門 永禄五年八月日

 九寸強の寸伸び短刀。身幅は相応にバランスよく、重ねも比較的しっかりとしている。地鉄は頗る綺麗だ。杢を交えた板目肌は緊密に詰んでいるが、地景によって肌が鮮明に立ち、躍動感に満ちている。これに地沸がついて映りが重なり、地中は意図せぬ景色が展開している。もちろん映りの様子は備前物のそれとは異なり、凄みがあると評したい。刃文は直刃に湾れ小互の目の組み合わせで、帽子が地蔵風に乱れている。匂口の閉まった焼刃は明るく冴え冴えとし、匂いの所々に沸が付き、刃境はほつれかかり、これが刃中に流れ込み、繊細な一面を見せる。比較的年紀作の少ない美濃物の中でのこの短刀は、いずれかの武士の注文による、特に上手の出来。

平造脇差 正利 Masatoshi Wakizashi

2016-06-13 | 脇差
平造脇差 正利


平造脇差 正利 

 一尺強の先反りが付いたバランスの良い作。利器の極みだが、美しい。正利は「坂倉関」の呼称が残されている優れた鍛冶集団の一人。村正との技術交流が考えられており、この作にもその片鱗が窺える。地鉄が特に綺麗だ。板目鍛えの地鉄が均質に詰んで柾状に揺れながら流れ、これに細かな地沸が付いて潤い感が尋常ではない。肌目に沿って地景が流れ掛かり、映りも健在、強みと緊張感に満ち満ち、しかも美しい。刃文は、互の目が穏やかに連続し、互の目の谷が刃先に寄り、焼き頭はわずかに尖り調子。帽子は地蔵となり先が掃き掛けて返る。焼刃は小沸主調に匂を伴って明るく冴え冴えとし、これが鍛え肌に沿って流れ、地中には湯走りが、淡い匂が立ち込めた刃中には無数の金線と砂流が刷毛目のように掛かって水辺の砂地模様を思わせる。斬れ味良業物だが、何度も言う、頗る美しい。□