日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

小太刀 助包 Sukekane Tachi

2017-03-31 | 太刀
小太刀 助包

 
小太刀 助包

 備前物というと、先に紹介した吉包のように互の目や丁子の組み合わせからなる刃文をまず思い浮かべるが、互の目丁子だけではない。助包は古備前鍛冶。平安時代まで遡る刀の地鉄は、本作のように密に詰み、全面に映りが立ち地斑が交じり、その中に板目が肌立つように現れるなど、鉄が一段と古風である。刃文も、互の目や丁子といった形状がなく、刃中が単に乱れているだけといった風情で、その乱れた刃沸の中に金線や砂流しが含んでいる。このような焼刃の乱れた様子を小乱刃と呼んでいる。このような小乱から始まっているのは、他国の刀工と同じだ。よく観察してほしい。刃先まで沸で乱れた中に稲妻状の金線が複雑に、いくつも光っている。
     

刀 古備前吉包 Yoshikane Katana

2017-03-30 | 
刀 古備前吉包

 
刀 古備前吉包

 平安時代から鎌倉前期までの、備前国の時代の上がる刀工群を、その後の一文字派や長舩派などと分けて古備前と呼んでいる。特に古備前派という流派があったわけではない。地鉄が一段と古調で、刃文は、初期には小乱と呼ばれる刃型が不明瞭な作風から、次第に互の目や丁子が生み出されてくるという、刃文の初期段階の時代の流れが見えてくるのが初期の特色である。中でも吉包は、互の目丁子が明瞭で華やかなところに特徴がある。この磨り上げ無銘の太刀でも、地鉄が古調な板目で、ねっとりとした風情があり、映りが鎬寄りに現れるという古い作にみられる特徴もある。華やかな互の目丁子の刃文と言うと一文字派がまず浮かぶのだが、吉包も古備前では華やかな作風を得意とした初期の刀工として忘れることができない。
      

刀 五郎左衛門尉清光 Kiyomitsu Katana

2017-03-29 | その他
刀 五郎左衛門尉清光


刀 五郎左衛門尉清光天文二十三年

 この頃から比較的がっちりとした刀が多く造られるようになる。地鉄は板目鍛えに地沸が付いて肌立ち、焼幅が広いために地鉄の景色は分かり難いが、良く詰んで疵気もない。刃文は、互の目が丸みを帯びて地に深く付き入り、沸が強く深く付き、その中に互の目や丁子が交じっているため、写真では働きが良く判らない。沸が広がり小足が入り乱れ、これに沸が流れて重なるなど、沸が強く意識されている。重量感の確認と共に、手にとって鑑賞したい作である。

刀 金房政次 Masatsugu Katana

2017-03-28 | 
刀 金房政次天正九年


刀 金房政次天正九年

 戦国時代後期の、大和の刀工。槍などの製作においても良く知られており、刀は頑強な造り込みが特徴となっている。この刀は二尺七寸強、1キロを超える重量がある。鉄の具足などには効果があろうと思うが、現代に生きる軟弱な私では、抜き難く振り回しにくいだろうなと、感じてしまう。かなり筋力を増強させた、屈強の武士が備えとしたのであろう。地鉄は肌立つ板目肌。刃文は、備前の影響を受けたのであろう、匂口の締まった互の目丁子。やや逆がかっており、足が入り、帽子は火炎風に乱れて返る。

短刀 細川正守 Masamori Tanto

2017-03-27 | 短刀
短刀 細川正守


短刀 細川正守

 細川正守は水心子正秀門人正義の子。師流の備前伝を得意とした。江戸時代に入ると短刀は製作されなくなったが、江戸時代後期、復古思想によって再び短刀が造られている。中でも、このような冠落造や、鵜首造が多くみられる。刺突の効用が求められたのであろうか。もちろん斬れ味も鋭い。地鉄は小板目肌。棟側が柾目となっているのが良く判る。刃文は匂主調の互の目乱刃。小足が左右に開き調子で盛んに入る。

刀 水心子正秀 masahide Katana

2017-03-25 | 
刀 水心子天秀

 
刀 水心子天秀(正秀)

 新々刀期の祖と崇められているのが正秀。最初は相州伝を極め、肌目の際立つ大互の目や、大坂新刀の中でも助廣の濤瀾乱を手本とした出来を得意としたが、次第に刀は鎌倉時代に還るべきとの意識を強めていった。晩年は本作のような互の目丁子を多く見る。綺麗に詰んだ小板目鍛えの地鉄に、逆がかった小互の目丁子。焼頭は一定にならず高低抑揚があり、一部は地に尖って入るところがある。刃中に匂が満ちて足が盛んに入る。高い斬れ味を想像させる出来である。
    

脇差 上野大掾祐定 Sukesada Wakizashi

2017-03-24 | 脇差
脇差 上野大掾祐定


脇差 上野大掾祐定

 江戸時代前~中期の祐定。戦国時代後期に栄えた祐定や清光一門は、天正年間の水害によってほぼ全滅したとも伝えられている。即ち備前長舩鍛冶の技術が途切れてしまったことを意味している。わずかに残った祐定がその技術を守り、ようやく江戸時代も半ばに至って再び活躍へと進んだ。江戸時代の祐定一門でも良く知られているのがこの上野大掾。戦国期の祐定のような、腰開き互の目に小丁子が複合されて蟹の爪状に焼頭が尖って見える刃文構成が特徴。地鉄は江戸時代のもので、小板目鍛えが綺麗に詰んだ様子が判る。帽子は小丸に返るのが江戸期の掟。

脇差 政光 Masamitsu Wakizashi

2017-03-23 | 脇差
脇差 政光


脇差 政光

 逆がかる互の目に小丁子交じりの出来。政光は兼光の門人の一人で、南北朝中期から後期、応永頃まで活躍している。寸の長い南北朝体配より、その後に訪れる鎌倉時代への回帰が窺える姿格好が多い。本作は、元来は長い太刀であったものを磨り上げて一尺六寸強の脇差、あるいは小太刀として用いた。地鉄は板目肌が良く詰んでいる中に杢肌が交じり、映りが鮮明に立つ。刃文が大小の丁子で抑揚があり、出入複雑に変化に富んでいる。匂主調の焼刃は刃境が繊細にほつれ、小足に絡み、匂が濃密な刃中は澄んで明るい。物打の鎬筋辺りに受け疵が残っている。凄い。

太刀 大慶直胤 Naotane Tachi

2017-03-22 | 太刀
太刀 大慶直胤


太刀 大慶直胤文化十一年

 二尺一分強。比較的寸法の長い作の多いこの時代の直胤に、この寸法の太刀を造らせている。備前古作の小太刀を手本としたもので、手ごろな寸法でしかも覇気に富んでいる。地鉄は小板目肌が良く詰んでいるが無地とはならず粒立って梨子地状となり、逆がかる刃文に応じた横目映りが現れている。刃文は尖り調子の互の目丁子。足が盛んに入り、出入複雑で抑揚があり、燃え盛る炎を想わせる。焼刃は匂が主調で、小沸が付くも叢になることはなく、均質。帽子は浅く乱れ込んで返る。地鉄の精緻さと明るい焼刃が魅力の出来となっている。

脇差 長舩家助 Iesuke Wakizashi

2017-03-21 | 脇差
脇差 長舩家助

 
脇差 長舩家助應永二十六年

 応永備前の一。特に地鉄が詰んで綺麗だが、単に綺麗と言うのではなく、映りが霞のように立ち込めるその中に杢肌がうっすらと浮かび上がり、流れるような景色を生み出している。これが鉄を鍛えた結果なのか、単純な作業の結果なのかと疑いたくなる、何か、生き物のような、生命の存在をも疑いたくなる出来である。備前物の中でも最も美しい地鉄の時代が応永頃と良く言われる所以である。刃文は腰開き互の目に小丁子交じり。匂主調の柔らか味のある焼刃は足が柔らかく射し、これにほつれかかり、淡い砂流しがかかる。帽子は乱れ込んで先小丸に返る。
    

刀 一貫斎繁政 Shigemasa Katana

2017-03-21 | 
刀 一貫斎繁政


刀 一貫斎繁政

 彫物上手でも知られる近代の名工一貫斎繁政。また備前伝を得意としたことでも有名。この刀も、バランスの良い打刀に小互の目丁子を焼き、覇気横溢の這龍を肉彫した作。地鉄は良く詰んだ小板目鍛えで、流れ肌が窺え、細かな地景がこれに絡んで力が感じられる。刃文は小沸匂が複合した小互の目丁子だが、足が盛んに入るといった風ではなく、刃境が小互の目に砂流やほつれなどで変化があり、ここに小丁子が交じるといったところ。帽子は浅く乱れ込んで先掃き掛けて返る。面白い、楽しめる作である。

刀 長運斎綱俊 Tsunatoshi Katana

2017-03-18 | 
刀 長運斎綱俊


刀 長運斎綱俊

 綱俊、國秀、宗次、宗寛、宗明などこの周辺の刀工は、いずれも斬れ味が良いことで知られている。この刀の銘をみると、二人による截断が行われている。いずれも両車、即ち腰骨の辺りを斬ったことが判る。凄い斬れ味だ。造り込みも、この肉厚で斬れるのかと感じられるほどの二分九厘もある厚さ。もちろん刃先寄りの肉は削いであるから刃が通るのであろう。それでも身幅が広く、すごい。地鉄は良く詰んだ小板目鍛えで、細かな地景を伴う板目が交じる。刃文は匂を主調とする小丁子乱。焼頭がやや尖り調子に地に突き入る部分、小さく丸みを帯びた部分などがあり、焼の高さも高低抑揚があり、その中を鋭い金線が走る。特に物打辺りの地刃を走る稲妻が鋭い。ずいぶん前だが、このような金線や地景を疵だと言い張っていた方がおられたが、どこでそのような教育を受けたのだろう、単純なことながら、実際に刀を手に取って観察することをおすすめする。

脇差 長舩盛重 Morishige Wakizashi

2017-03-17 | 脇差
脇差 長舩盛重


脇差 長舩盛重應永二十九年

 盛重もまた応永備前を代表する一人。一尺五寸強の手頃な脇差。茎が短く、手首を使って打ち振るに適した造り込み。地鉄は詰んだ板目に杢目が交じって地沸が付き、地景がうねるように入って映りも顕著。刃文は腰開きの互の目に小丁子、小互の目交じり。帽子も調子を同じくした乱れ込み。匂いに小沸が付き、明るく焼頭は定形化せずに変化がある。刃境は臭いでほつれ、小足が盛んに入り明るい。

刀 藤原守行 Moriyuki Katana

2017-03-16 | 
刀 藤原守行

 
刀 豊後國藤原守行

 本作は江戸時代寛文頃の豊後刀。小杢目鍛えの地鉄に小丁子の刃文。刃文が殊に細やかで複雑。特に地に突き入るような小丁子の頭は歪んでいたり尖っていたり、単に丸みを帯びて足が長く伴っているだけでなく、時に渦巻くような焼刃があったり、とにかく面白い。匂口明るく締まり、刃中には匂が満ちて刃文が鮮やかに起つ。備前伝の一つに進化形と考えてよいだろう。
    

刀 藤原正行 Masayuki Katana

2017-03-16 | 
刀 藤原正行


刀 藤原正行

 豊後刀には、古刀期から備前物に紛れる作があることは良く知られている。特に古刀期で、備前刀で違っていたら豊後刀と考えるというような見方がある。本作は慶長頃。この刀も、小板目鍛えの地鉄に板目が交じって新刀期のそれだが古風なところも窺え、刃文が腰の開いた互の目に尖刃交じりの変化に富んだ構成。匂が主で、小沸が付き、刃中は匂が島刃状に連続している。この様子が蟹の爪のように見えるところがある。物打辺りは小丁子が交じって一際備前風。帽子は乱れ込んで返りが長い。ちょっと分かり難いかもしれないが、風合いは備前物。