日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 粟田口忠綱 Tadatsuna Katana

2017-01-31 | 
刀 粟田口忠綱


刀 粟田口忠綱

 初代忠綱は備前伝を得意とした江戸初期の大坂の刀工。互の目の焼きの高さと、互の目の焼頭の丸みが揃って足が長く入る刃文構成の作品を遺している。匂主調の互の目丁子であればすぐさま備前伝とみるのだが、備前伝を基調としながらも、沸を強く意識し、刃中に沸筋を配している。長い足の先端が切れて飛足状になり、これが沸で連続している。もちろん刃中には淡く匂が満ち、これに沸が絡んで覇気に富んでいる。江戸時代初期には、総体的に相州伝の流行期と言える。即ち、備前伝であっても、このように強く沸を伴う作が生み出されているのである。

脇差 次郎左衛門尉勝光 Katsumitsu Wakizashi

2017-01-30 | 脇差
脇差 次郎左衛門尉勝光


脇差 次郎左衛門尉勝光

 このほうが刃中の働きや焼刃構成が分かりやすい。複雑に出入りする互の目丁子の物打辺りから飛焼が交じり、帽子が掃き掛けて返りが深く棟焼となる。即ち、物打辺りは皆焼刃だ。皆焼刃は相州刀の特質の一つ。これを採り入れいているのだが、物打より先のみの処理だ。なぜこのような処理をしたのだろうか。実は戦国時代の備前刀では、祐定も清光も、帽子は焼が深く一枚状になり、時には物打辺りの焼きが深まり、あるいは湯走りが加わた作が間々ある。皆焼と似ている、と言うより、考え方が同じなのだろう。下半は確かに刃中に沸筋が強くあらわれているものの、焼刃構成は備前物の小丁子風だ。皆焼刃は、この時代には相州刀だけのものでなくなっているということであろう。実用面では、戦場で先端が折損した場合、すぐさま研いで鋒を造ることを考慮したのではないだろうか、と想像している。

刀 次郎左衛門尉勝光 Katsumitsu Katana

2017-01-28 | 
刀 次郎左衛門尉勝光


刀 次郎左衛門尉勝光

 先に紹介した五郎左衛門清光が天文(1540年頃)、この勝光は永正 (1510年頃)の次郎左衛門尉。年代は多少異なるがいずれも戦国時代で、勝光も激しい皆焼刃を焼いた作を遺している。これが良い例で、刀身下半は比較的穏やかな刃文構成だが、上にゆくに従って飛焼が交じるようになり、物打から上はほぼ全面が焼かれた異風な仕立て。地鉄は板目に杢目が交じって良く詰み、それが故に小板目状に感じられるほどの肌合いとなり、これに地沸が叢付いて一部は飛焼と湯走りが複合し、粒立った小板目肌が流れるような美しい景色を生み出している。皆焼刃は相州伝の極致。備前刀工も相伝備前とは異なる時代に、かなり強く相州刀の影響を受けている。

短刀 長舩経家 Tsuneie Tanto

2017-01-27 | 短刀
短刀 長舩経家


短刀 長舩経家大永二年

 天正より四十年ほど古い大永頃の備前長舩鍛冶経家の短刀。刃長五寸ほどで少し小振りに造り込んでいるが、刃長の割りに茎が長いのは手持ちを考慮したものか、同じ戦国時代の備前物でも、少し時代が上がるとこのような造り込みが多く、天正頃まで時代が降るとがっしりとした短刀姿になる。刃長は三寸ほどあれば充分に刃物、武器としての役目を果たす。小振りに仕立てて具足の腰に帯びたものであろう。地鉄は備前肌。刃文が湾れ、互の目、飛焼、湯走り、帽子も乱れ込んで先は掃き掛けて返る。沸が強く砂流し金線も強く入り、相州振りが窺える備前の短刀である。


短刀 長舩清光天正五年 Kiyomitsu Tanto

2017-01-26 | 短刀
短刀 長舩清光天正五年


短刀 長舩清光天正五年

 細身の鎧通し。茎が長めで手持ちも良さそうであり、総体に引き締まった感がある。地鉄は小板目交じりの板目肌。所々に小杢が交じり、地沸が付いて地景も顕著。刃文が湾れに互の目、区上に小互の目があり、所々小足が入る。戦国時代の備前清光に間々みられる刃文構成。見るからに備前物の短刀だが、刃文構成に相州伝の影響が窺えよう。純然たる相州伝と言うわけではないが、相州風が見えるのだ。匂主調ながら沸が強く意識され、帽子は焼深く沸筋金線が刃境を流れる。戦国時代に備前刀工も普通に相州の作風を採り入れているのであろうと感じる。

刀 長舩五郎左衛門尉清光 Kiyomitsu Katana

2017-01-25 | 
刀 長舩清光


刀 長舩五郎左衛門尉清光

 戦国時代の備前長舩にあって、直刃を焼くを得意とした清光一門も、このような相州伝の影響を強く受けた刀を製作している。この刀は備前刀の特徴的な杢目交じりの板目鍛えで、良く詰み、地沸が付いて強みの感じられる精良な出来。刃文は、清光らしからぬ鎬筋に至るほどに焼の深い乱刃で、刃形が判らないほどに沸が深く強く、この中に互の目や丁子が交じっており、所々に写真でも腰開き互の目の様子が分かるかと思う。実際に光を反射させて鑑賞すると、沸の深い中に互の目丁子が足を伴って重花丁子のように激しく乱れているのが判る。さて、本来の匂主調でなく、沸が強いところが特殊だ。刃中には砂流しが強く流れ、金線がこれに伴って走り、殊に物打から帽子にかけては圧巻。焼は刃中から地中にまで淡く広がり、所々皆焼を想わせる展開となっている。

刀 長舩祐定 Sukesada Katana

2017-01-24 | 
刀 長舩祐定


刀 長舩祐定

 祐定は戦国時代に隆盛した備前長舩鍛冶の最大の名流。備前鍛冶の本流だが、この時代の備前長舩においても、相州伝の影響はかなり受けているようだ。とはいえ、この作風を見てもわかるように南北朝期のような相伝備前ではない。伝統的な備前伝に相州風の刃採りや沸を強調した焼刃が施されているという作だ。刃文は直刃調に湾れ互の目丁子を交えている。匂を主調とした焼刃の刃境に沸が付き、乱が一様ではない。丁子があれば島刃があり、沸筋があり、砂流しがあり、帽子は火炎風に乱れて返る。これが備前伝かと思われる様相。実はこれが戦国期の備前伝の一つなのだ。この時代の祐定や清光の帽子は、一枚風に焼が深く、かなり乱れている。鋭く尖った切先は折れるもの、ならば研ぎなおしてあらたな切先を速やかに作ることができる状態にしておこう、という考えであろうか。戦国期の動乱の時代の特徴でもある。

刀 鬼晋麿正俊 Masatoshi Katana

2017-01-23 | 
刀 鬼晋麿正俊


刀 鬼晋麿正俊

 この正俊は備前伝の巧者細川正義に作刀を学んでいる。後に清麿の影響を受けているのであろうか、沸を強く意識した相州伝と、自らが学んだ備前伝を複合した激しい出来の刀を製作している。この刀も、南北朝時代の大太刀を磨り上げたような、元先の身幅が広く鋒が延びた豪快な造り込み。地鉄は小板目肌が良く詰んで地沸が叢付き、湯走りや飛焼調となる。刃文は刃形が不明なほどに乱れた互の目に小互の目が交じり帽子も調子を同じくして乱れて返る。焼刃は沸が強く深く激しく、沸筋砂流し、刃中の匂と同調した、形状の不明瞭な乱れが展開している。

刀 遊雲斎真雄 Masao Katana

2017-01-21 | 
刀 遊雲斎真雄


刀 遊雲斎真雄

 源清麿の兄として知られる刀工。元来は備前伝を学んだが、自ら研究の末に相州伝を加味した作風に到達した。南北朝古作のような相伝備前とは言わないが、明らかに備前伝と相州伝の融合である。地鉄は良く詰んだ小板目鍛え。刃文は穏やかに高低出入りのある互の目に小互の目と小丁子が交じり足が入る。一方焼刃は、写真では分かり難いが沸が強く刃縁に沸が凝って流れ、刃中には匂が充満して明るく冴える。写真で見る以上に働きの活発な出来である。このような作は、手にとって鑑賞すべきもの。帽子の沸も強く掃き掛けを伴っている。


刀 大慶直胤 Naotane Katana

2017-01-20 | 
刀 大慶直胤


刀 大慶直胤

 直胤は備前伝に加えて相州伝、大和伝など各伝に通じた名人。この刀は、備前伝互の目丁子を基本としながら、刃中には強く沸を意識して濃密な刃沸を生み出し、沸筋金線砂流しを配した、相州伝との組み合わせになる出来。物打辺りは互の目が良く判るのだが、刀身下半は湾れ調子となり、刃中は沸と匂が深く激しく、刃文が判らないほど。刃中に長く流れる沸筋の妙はもちろんだが、これらを切り裂くような稲妻、相州伝の景色の一つでもある島刃も窺える。地中の沸もすごい。湯走り状に濃淡変化を持たせ、この中を帯状の鍛え肌が走り、地鉄においても激しい景色を成している。今でも清麿と直胤を比較して論じている方がおられるようだが、どちらが優れているとか劣っているとかの無意味な比較論はやめよう。それぞれに魅力ある一面を持っているのだから。

短刀 豊前守清人 Kiyondo Tanto

2017-01-19 | 短刀
短刀 豊前守清人


短刀 豊前守清人

 清人は、後に柾目鍛えに直刃を焼くを得意としたが、初期は師風の備前伝互の目乱に沸を強く効かせた砂流し金線を配する焼刃を特徴としていた。本作は、良く詰んだ柾目調に流れる板目鍛えの地鉄と、出入りに抑揚のある互の目に足の長く入る出来の刃文で、まさに師風。造り込みは懐に隠し持つに適した小振り。地沸が付いて地景が明瞭に入る極上の出来。沸主調の焼刃は、刃縁に沸が強く明るく付き、匂いに満ちた刃中には沸のほつれや足が射し込み、刃境を金線と沸筋が流れて帽子にまで至る。

脇差 藤原正行

2017-01-18 | その他
脇差 藤原正行

 
脇差 藤原正行

清麿の最後の弟子清人の作。清人は、師が残した負債を自らが代わって作刀して納めた。この話は良く聞くが、実際にその作品を見る機会はない。この小脇差がその数少ない遺例である。作風は南北朝時代の平造小脇差。師を見るような互の目に足が入り、その刃中を沸が流れ、金線を伴う沸筋が足を切って流れる。地鉄は小板目肌が良く鍛えられて詰み、地沸が付いて明るく冴え冴えとしている。とにかく刃中の沸による景色が変化に富んでいる。長短の足に絡む沸、沸の流れ、過ぎることのない穏やかな金線が美しい。因みに師は源清麿、あるいは源正行と銘した。これを考慮し、清人はこの作では藤原正行と銘を切っている。師の偽作ではないことを明らかにしているのだ。師の最期を確認した後も自らの立場を守っる興味深い切り銘である。360□
  た清人の、人間性が垣間見え

刀 平信秀 Nobuhide Katana

2017-01-17 | 
刀 平信秀


刀 平信秀元治元年

 信秀は清麿門人中では正雄と共に最高の技術を誇った刀工。この互の目に沸筋の長く入った作風を、正雄と比較されたい。小板目鍛えの地鉄が良く詰んでおり、比較的大肌にならない。江戸時代の大坂刀工の特質が良く現れている。刃中の働きがポイント。焼刃は匂と小沸の複合で明るく冴え、刃中に広がる匂も濃密。これを分けるような金線交じりの沸筋が刃区から帽子まで連続し、帽子は火炎状に乱れて返っている。互の目は小丁子が交じって出入り複雑。江戸時代後期の、備前伝と相州伝の融合からなる出来の一例である。

脇差 源正雄 Masao Wakizashi

2017-01-16 | 脇差
脇差 源正雄


脇差 源正雄

 南北朝時代の写しながら、肉を厚く造り込んだ覇気横溢の作。刃境に流れるような板目と杢目を強く表し、沸を強調してその肌目をより強く見せた、創造的意欲の溢れた出来。師清麿が長く連なる金線や地景を意図して表したことから、弟子の正雄は杢目を刃境に表わすことを意図した。直胤の渦巻き肌とも異なり、荒磯に打ち付ける大海の波のような激しさが窺いとれる。刃文は小の肌目によって霞んでしまったようだが、互の目丁子で、総体が小板目状に良く詰んだ中に匂の焼刃が綺麗に施されている。備前伝の下地に相州風の激しさを加えた作である。260□

刀 源正雄 Masao Katana

2017-01-14 | 
刀 源正雄


刀 源正雄

 清麿の高弟源正雄の、沸が強く意識された、師に紛れるほどに金線地景の激しく現れた互の目丁子の刃文の最高と言い得る傑作。時代は相伝備前の隆盛した南北朝時代から遠く離れているが、備前伝と相州伝を組み合わせた作風を突き詰めていることは明瞭である。これを相伝備前と呼んで良いものか、この点は否としておこう。南北朝時代の本歌とはもちろん異なる。地鉄だけを観察すれば板目が流れて柾目がかる鍛えで、地沸が厚く付き肌目に沿って沸の流れる様子も窺える。刃文は師の清麿のような馬の歯が並んだような互の目ではなく小互の目丁子。焼刃は強く明るい匂に粒立った沸の複合からなり、匂足が盛んに射し、これを沸主体の金線沸筋が切り裂くように流れる。