日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 虎徹興里 Kotetsu Katana

2010-06-29 | 
刀 虎徹興里

刀 銘 長曽祢虎徹入道興里



 江戸の横綱、江戸正宗などと賞賛された、虎徹興里(こてつおきさと)の刀。小板目鍛えの地鉄は、地中に地景を伴う杢目や板目が現われて少々肌立ってざらついた感がある。直刃調子の焼刃は、刃縁に小沸が帯状について二重刃のように見える部分もある。この沸は匂いを伴う沸で、刃中には匂が充満して冴え、これを切るように沸が流れている。写真ではわかり難いが、虎徹の魅力はここにある。冴えた匂の、刃中での働き加減である。刃文構成は直刃であっても乱刃であっても、刃文は焼刃土の調整でいかようにも変化がつけられるのだが、匂の調子を刀身全体に一様に施すのは至難の技。刃文の鑑賞とは、焼刃の形を鑑賞するものではなく、刃中に立ちこめる匂と、これに複合する小沸の様子である殊を改めて認識させられる作である。



脇差 真改 Shinkai Wakizashi

2010-06-27 | 脇差
脇差 真改

脇差 銘 井上真改



 新刀期の大坂の横綱のひとりに挙げられる井上真改(しんかい)。地鉄の美しさはこの時代の大坂の特徴でもある小板目鍛えが均一に詰んで地沸が付き潤い感に満ち溢れている。この作例も真改の地鉄の美しさが際立っている。刃文は、この工のなかでは刃中の沸筋が強めに表わされた出来。沸の深さは言うことなく真改のそれで美しくもあるが、その上に太い沸の帯が、複式に焼かれているのである。砂流しではない、沸のベールが淡い帯となって二重三重に掛かっているようにも見える。帽子は小丸返りながら、ここにも帯が連なり、掃き掛け状に棟へと抜ける。何て美しいのであろうか。大坂という商人の町で、良い材料を用い、鋭く磨かれた技術のなせるものとは言うも、この感性は誰も真似をできまい。



脇差 助直 Sukenao Wakizashi

2010-06-26 | 脇差
脇差 助直

脇差 銘 津田近江守助直 元禄三年八月日



 助直(すけなお)は二代助廣の弟子。完成された濤瀾乱をも踏襲した刃文を得意としたが、時にこのような相州伝の大互の目刃をも焼く。地鉄はよく詰んだ小板目肌で、地沸厚く付いて潤い感の満ちている。大坂新刀の美しさが最高潮に達した頃の地鉄である。
 焼深く鎬地にまで達する大互の目の刃文は小沸主調で沸深く、刃先近辺まで沸が広がり、殊に物打から上の沸の深さは絶品。沸深いが故に判然としない刃縁には沸のほつれが掛かり、この深い沸の抑揚からなる太い足を淡い金線が切って走る。刃中の焼き頭近くには淡い玉刃が焼かれて変化がつけられている。光りを反射させた鑑賞では、明るい沸の広がりに、自らの意識が溶け込んでしまいそうに感じる。名品である。□

刀・脇差 二代助廣 Sukehiro Katana

2010-06-25 | 
刀 二代助廣


刀 銘 越前守助廣   脇差 銘 越前守助廣





 濤瀾乱乱刃の完成に至る以前の、越前守助廣(すけひろ)二代の特徴的な作。小板目鍛えの地鉄は良く詰むも、柾目状にゆったりと肌が流れているのがよく分かる。全面に地沸が付いて、さらに肌目に沿って沸が叢付いて太い地景状に肌を強く見せる。刃文は沸出来の互の目乱で、互の目が連れる部分と単独の部分があり、頭は丸く穏やかで、互の目の中に小さな互の目が複式に焼かれて互の目の形が変化している部分もあり、これが丸みを帯びて玉状になる。沸は深く、刃中の匂と混ざり合って明るく冴え、沸の凝りは刃中に島刃を構成、これに流れ掛かるように沸筋砂流しが働く。
 脇差も似た出来。流れ肌はあまり顕著でなく、総体に良く詰んでいる。互の目から離れた玉刃が顕著になっている。刃中の沸筋が一段と強く現われている。沸の深さ匂との複合、その冴え明るさは、後の濤瀾乱刃に劣ることはない。
 後の完成された濤瀾乱刃も美しいが、この時代の強みのある地鉄に美を感じとってほしい。刀らしい美しさが備わっているのである。

脇差

脇差

刀 初代助廣 Sukehiro Katana

2010-06-24 | 
刀 初代助廣

刀 銘 摂州住藤原助廣



初期の大坂新刀を代表する一人、初代助廣(すけひろ)の刀。二代助廣は濤瀾乱刃で名を成して有名であるが、この初代は時代が上がる分だけ骨太な感のある刀を残している。地鉄は小板目鍛えが次第に詰んで綺麗になる過程にあり、この刀でも総体は均一に詰むも、所々に杢目や板目が地景によって強く現われている。ここに力があって、総体に綺麗さに突き進んだ二代と異なる点があり、大きな魅力となっている。
 刃文も足が長く入る匂口の締まった互の目丁子乱刃。互の目の頭に小丁子が複式に配されて刃縁変化し、ここに小沸が付いて沸でほつれる。焼は総体に深く鎬地にまで至る部分もあり、湯走り状に焼が深く施されて、激しさが感じられる。刃中には盛んに乱れた足が射し、ここから離れて飛足になる部分もあり、物打辺りは殊に複雑に乱れて島刃状に沸が凝り、さらに砂流しも掛かって帽子へとなだれ込む。焼の深い帽子は掃き掛けて返る。

 

刀 國助 Kunisuke Katana

2010-06-23 | 
刀 國助


刀 河内守國助

 

 堀川國廣の門流で大坂に栄えた刀工河内守國助(くにすけ)の刀。國廣の門流ではあるも大坂新刀の地鉄の美しさが次第に高まって行く過程にある作である。小板目鍛えの地鉄に細かな地景で浮かび上がるような杢目が交じり、地沸が付き、それが湯走りや沸凝りとなって所々に叢付いているのが鑑賞される。大坂新刀の地鉄の美しさはこの國助などの弟子以降の時代に高まる。それ故、この刀には、小板目肌に浮かび上がる杢目や板目によって時代の上がる観があり、これが大きな魅力となっている。刃文は互の目湾れ。刃縁に小沸が付いて刃中に砂流し沸筋が流れる。物打辺りの沸が強くなるのは、物打が最も使用頻度が高いためであり、実用を考慮しての焼入れによるもの。帽子は沸付いて先ほつれたように沸の広がる態があり、丸く返る。

 



脇差 堀川國廣 Kunihiro Wakizashi

2010-06-22 | 脇差
脇差 堀川國廣

脇差 銘 國廣



 戦国時代末期から江戸時代初期に間々みられる、南北朝時代など古作を手本としたような、寸法を控えた割りに幅の広い、しかもがっちりとした造り込みの脇差。江戸中期の大小拵の脇差というより、時代の上がる腰刀のような使われ方をされたものであろう。
 鎬地に細かな擦り疵があるも、総体にザングリとした独特の肌合いが分かるであろう。綺麗な地鉄をしている。刃文は広直刃で、刃縁に小沸が付いてわずかにほつれ、焼刃は冴えている。刃中に激しい働きはみられないが、これこそ國廣が求めた実用の焼刃であり、優れた地刃であった。



刀 堀川國廣 Kunihiro Katana

2010-06-21 | 
刀 堀川國廣

刀 銘 國廣

 

 江戸時代初期の刀の、直刃調の作例を紹介する。後の刀工に大きな影響を与えた、江戸時代の刀工の祖の一人でもある京の堀川國廣(ほりかわくにひろ)である。國廣は日向の出身で、各地を巡って作刀技術を会得し、独特の風合いを持つ、美しくしかも切れ味の優れた刀を製作し、多くの門人を育てている。
 國廣は戦国時代を生きたが故に作風は変化している。刃文が沈んではっきりしないような凄みのあるものから、強く冴えた光を反射するものまで。地鉄も、板目肌が強く立って疵気の多いものから、ここに紹介するような小板目肌に躍動変化する杢目を交えた、綺麗に詰みながらも細かく肌起つようなものなど。そして、この写真のような肌が國廣の完成された肌で、國廣の特質とも言ってよいであろう、ザングリとした肌と表現されることがある。
 この刃文は、直刃に湾れを交え、刃縁に沸が付いて冴えた出来。

 

刀 忠廣 Tadahiro Katana

2010-06-19 | 
刀 忠廣

 刀 肥前國住藤原忠廣寛永十五年二月吉日



 忠吉の子で二代目を襲った忠廣の、近江大掾受領前の瑞々しい作。肥前肌の完成の魅力がこの刀に溢れている。小板目鍛えの地鉄は微塵に、しかも綺麗に揃って詰み、微細な地沸が全面に叢なく付いて冴えわたる。初代の少々古風な肌合いとは趣を違え、新鮮な味わいがあろう。父初代忠吉が没したのは六年前で十九歳のとき。寛永十五年は忠廣二十五歳であり、若くして肥前鍋島家の産業でもあった刀造りの中心となるべく努力と研鑽を極めた結果であろうが、このような美しい地鉄を生み出す感性は、まさに天性のもの。
 刃文は、わずかに逆ごころのある足を伴う直刃。沸深く明るく、刃中には二重刃のように淡い沸の帯が流れ、これに足と葉が絡んで美しい景観を造り出している。帽子は掃き掛けを伴う端正な小丸返り。鎌倉時代山城物を手本としてその再現に突き進んだ結果、このような独特の世界に至ったというべきであろう。



刀 忠吉 Tadayoshi Katana

2010-06-18 | 
刀 忠吉

①刀 銘 肥前國忠吉  

②刀 銘 肥前國忠吉  

 江戸時代初期の肥前国忠吉(ただよし)、及びその子の忠廣(ただひろ)が、鎌倉時代の山城物、殊に来派の直刃の再現を試みていたことは既に述べた。小板目鍛えが綺麗に詰み、その中に杢目や板目が地景によって立ち現われ、微細な地沸が付くという地鉄に、刃文は、小沸の粒子が綺麗に揃った直刃、あるいはわずかに湾れを交える直刃を焼き施して山城物に迫った。もちろん刀造りの考え方や材料の吟味選択は、鎌倉時代の刀そのものの再現ではなく、江戸時代初期という時代背景を通しての美しい刀の製作、即ちそれが肥前肌の創造を促すのであるが、正確に言えば、山城来の再現ではなく、肥前伝の完成ということになる。
 この刀の肌目が肥前肌、小糠肌と呼ばれる鍛えである。小糠肌の完成は二代忠廣の力によるところが大きいが、忠吉においても小糠肌はこの作のようにあり、以降、肥前正系の大きな特徴となる。
 地景によって杢目や板目が現われた地の素質は、小板目肌。均一に詰んでおり、時に網目状に地景が現われることもあるが、ほとんど地景が見られず、均一な小板目肌となる例もある。この二点の刀の場合、表面に微細な磨り疵があるために分かり難いが、肌目が詰んだ上に地沸が付いて、喩えられるような、まさに小糠を散らしたような肌合いである。
 刃文はわずかに互の目を交える直刃。帽子は掃き掛けを伴う小丸返り。

太刀 了久信 Hisanobu Tachi

2010-06-17 | 太刀
太刀 了久信

 太刀 無銘了久信



 生ぶ無銘で、山城国来派の流れを汲む鎌倉時代末期の了戒派の久信(ひさのぶ)と極められている太刀。鳥居反り深く、身幅広く重ね厚く、がっしりとした造り込み。山城物に特有な小板目肌に鍛えられた地鉄は、微細な地沸が付いて潤い感があり、区上から始まる沸映りで明るく白っぽく感じられる。細直刃基調の焼刃は、わずかに湾れ、刃縁盛んにほつれて淡い金線となり、小互の目を交えて小乱調となる。父である了戒とは作風を異にして、引き締まった感がある。殊に刃中の働きが活発で、一時代上がる風がある。物打辺りから上は刃文が抑揚変化し、乱れ込んで先は丸く返るところなど、山城古伝とは風合いを異にして新趣が求められているようだ。



刀 國光 Kunimitsu Katana

2010-06-15 | 
刀 國光


 刀 磨上無銘来國光  

  

 鎌倉時代後期の来國光(くにみつ)と極められた磨上無銘の刀。國光は来國行‐國俊‐國光と続く来派の正系。山城国京都を代表する名工であり、この技術は後の刀工に強く影響を及ぼしている。
 地鉄は小板目肌に小杢が交じって縮緬状に良く詰み、微細な地景がこれに伴って緻密ながら躍動感に満ち、所々に杢目が交じって来の特徴を示している。微細な地沸によって淡く沸映りが起ち、来派各代の中でも地鉄に洗練味が漂うも、古風な味わいがある。このような良く詰んだ小板目肌が江戸時代初期の肥前刀工や大坂新刀の刀工の手本とされたのである。
 小沸に匂が複合した焼刃は、直調子に浅く湾れた構成。刃中は時代の上がる小乱刃のように小模様に乱れているが、小さな互の目丁子が複合して左右に開くような足が盛んに入り、國俊の大きめな互の目とは風合いを異にしている。刃縁に付いた小沸は丁子の頭と働き合って刃境複雑微妙に変化している。この刃境の微妙で活発な働きを堪能してほしい。

 

刀 國俊 Kunitoshi Katana

2010-06-14 | 
刀 國俊

 刀 磨上無銘國俊

 

 

 来派の中では最も華麗な地刃を生み出した國俊の、殊に地鉄に変化のある作。國俊は、初代國行‐國俊‐國光と続く来派正系の名工。
 この刀は磨り上げながら腰反りが付き、切先は研ぎ減りがあるものの小鋒に品良くまとまっており、姿に緊張感と優雅さが感じられる。小板目鍛えの地鉄は微塵に詰んで微細な地沸が付き、沸映りが顕著に現われてしっとりとした潤い感があり、加えて地景も顕著に現われ、それらの複合になる地斑とも呼ぶべきか、濃密で動きのある働きとなっており、不思議でしかも奥深い味わいがある。
 互の目が多彩に変化するのが國俊の特徴の一つ。時に鎬地にまで達するかのような互の目は、備前一文字のように大きく膨らんで袋状になり、小互の目、丁子、小足が入り、刃縁のほつれ、地側に働く湯走りなどとも多彩な働きとなって視覚に迫る。

刀 國行 Kuniyuki

2010-06-13 | 
刀 國行


 刀 銘 國行(来)





 山城国を代表する刀工の流れで来派の初祖、國行(くにゆき)の磨上ながら茎の最下端部に銘の残された、貴重な在銘作。典雅な京反り(輪反り)の姿が良くわかる健全体を保っている。
 小板目鍛えの地鉄は絹目のように微塵に詰んで微細な地沸が付き、しっとりとした潤い感に満ち、古風な大板目の肌が地景を伴って現われる。鎬寄りに沸映りが起ち、ここにも山城地鉄の特徴が現われている。刃文構成は直刃に浅く湾れが交じり、刃中は互の目が顕著とならない一際古風な小乱刃に所々互の目が交じる。刃先に迫るように沸が広がり、ここに逆足入り、ほつれかかり、砂流し金線が自然に現われる。刃中には、鍛え肌と働き合う沸匂が繊細な糸のほつれのような筋を無数に生み出し、これが刃境を下から上まで綺麗に流れ、帽子は掃き掛けを伴う端正な小丸となる。



刀 兼長 Kanenaga

2010-06-12 | 
刀 兼長

 刀 銘 濃州関住兼長作



 美濃刀の刃文は様々であるが、互の目に尖りごころがある点が一つの見どころ。ただし、兼房乱(かねふさみだれ)と呼ばれるように、互の目が大きく膨らんで房状になる例もある。この兼長(かねなが)の刃文には、互の目に尖りごころと房状の刃文とが同居するようなところがある。全体では刃文の形は一定せずに、湾れに互の目交じりで、匂主調ながら刃縁に小沸が付いて冴え、刃中には砂流しが入る。この匂と沸が絶妙に交じり合った焼刃こそ切れ味の根源。互の目はなだらかな山状、頭が丸みを帯びて地に深く入り込むところ、それが左右に尖りごころに角張っているところもある。
 地鉄は板目が強く柾がかり、地景も強く現われ、肌が起っている。地沸が付いて肌目と働き合い、流れるような地相を呈する部分も観察される。冴えた焼刃と強みのある地鉄が魅力である。