日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

脇差 丹波守吉道

2018-04-28 | 脇差
脇差 丹波守吉道


脇差 丹波守吉道

 京都3代目の吉道の、同家の得意とした刃文構成になる作。このような刃文を「簾刃」と呼び始めたのは誰だろうか。ずっと疑問に感じている。刀剣の鑑定や鑑賞に関わる用語が整理され始めたのは近代に至ってからと聞く。この刃文が創案された当時にすでに簾刃と呼ばれていたとは思えない。高貴な人物を隠す目的で用いる御簾を刃文の構成題材とするだろうか。そもそも簾が美観の一つとして捉えられるだろうか。絵画あるいは様々な器物に施される文様には、自然風景から採られた例が多い。助廣の濤瀾乱もその一つ。吉道の刃文構成も自然の風景、あるいはそれに近い川の流れを思い浮かべるのが普通だろう。とにかく綺麗な構成である。江戸時代前期に吉道一門が隆盛した理由が良く判る。この刃文構成は初代、二代が生み出したのであろうが、後代の吉道も焼いている。







脇差 備中守康廣 Yasuhiro Wakizashi

2018-04-27 | 脇差
脇差 備中守康廣


脇差 備中守康廣

 紀伊から摂津に移住して栄えた紀州石堂派康廣の、備前古作写し。互の目丁子の複雑な刃文構成が魅力。手本としているのは鎌倉時代の一文字。焼深い刃文であるがために地中の働きは見にくいが、地鉄は小板目肌が良く詰んで映りが立ち、江戸期の作ながら古調。刃文が複雑でいい。互の目に小丁子が交じり合って出入りが複雑。匂口が締まって焼刃が冴え冴えとし、長短の足も盛んに入って複雑さを増し、飛足、葉となって刃中を装う。備前伝の特徴が顕著な、奇麗な刃文である。







刀 統景 Munekage Katana

2018-04-26 | 
刀 統景


刀 統景

 これも古刀期から身長初期慶長頃にかけて活躍した豊後鍛冶。鎬が張って肉厚く、手にしてずっしりとした重量が感じられる。戦国期でこのような造り込みは専ら上級武将の持ち物であったと考えてよい。本作は肉の減りがなく健全。地鉄は詰んでいる中に板目が現われている。写真では分かり難いが、斑状に乱れた映りが鮮明に立っており、地相を見る限り古刀。刃文は、刃採りが直刃調で戦国期の備前刀を思わせるが、互の目が小模様にしかも複雑に乱れている。特に刃境の変化に富んだ様子が見どころ。□







刀 統行 Muneyuki Katana

2018-04-25 | 
刀 統行


刀 統行

 江戸時代以降の綺麗な刃文の作品を紹介している。本作の統行は江戸時代最初期、慶長頃の豊後国高田鍛冶。肉が厚くしっかりとした実用刀である。地鉄は板目肌が強く現れ、地沸が付いて躍動的。刃文は直刃で、刃境はほつれ、小足が控えめに入るなど、戦国時代の備前物を見るような出来。帽子は掃き掛けを伴って小丸に返る。総体に武骨な印象が窺えるも、刃境の繊細な働きが魅力の作。直刃として、とても綺麗な出来である。





刀 飛騨守氏房 Ujifusa Katana

2018-04-24 | 
刀 飛騨守氏房


刀 飛騨守氏房

 美濃出身で、尾張で活躍した江戸時代最初期慶長頃の刀工。一寸ほどの区送りで、現状で二尺三寸強。美濃風は強くなく、この時代に隆盛した相州伝を専らとしている。地鉄は板目肌に小板目肌が交じって地景によって肌目が強く現れている。新刀最初期らしい古刀に紛れるような出来。刃文は沸を強く意識した互の目湾れ。刃境には肌目に沿ったほつれが掛かり、淡い金線沸筋、足所に淡い沸の流れがあり、刃中には淡い砂流、互の目に伴って沸凝りからなる島刃も加わる。相州伝の綺麗な刃文の作である。





刀 法城寺正照 Masateru Katana

2018-04-23 | 
刀 法城寺正照


刀 法城寺正照

 斬れ味で名高い法城寺正照の武骨な刀。余分な装飾は不要というのであろう、沸の深く付いた直焼刃の中には肌目に沿ったほつれが細い金線を伴って流れる。樋の中には柾状の肌が顕著に見られ、小板目とされた平地にも柾肌が交じっている。刃長二尺三寸強、樋を掻いて重量を調整しているのであろう、適度に反りが付いて、造り込みも武用に徹しているようだ。大坂の華やかさに対する江戸の武骨さは良く対比されるところだが、それでも綺麗だ。











脇差 治國 Harukuni Wakizashi

2018-04-21 | 脇差
脇差 治國


脇差 治國

 北窓治國は井上真改の門人。殊に真改の地鉄鍛えにおける重要な技術者であったと伝え、本作も緩みなく力強く詰み澄んだ小板目肌で、微細な地沸で覆われた極上の地鉄の様子が良く判る。刃文は、真改にも間々みられる沸筋が長く入った直刃。小沸が均一に、しかも匂が複合されて明るく冴え、沸筋、ほつれ、金線が流れるように刀身を走り、物打からふくらにかけては特に筋状の働きが顕著。帽子も綺麗に掃き掛けて返る。真改の一面を見るような綺麗な出来である。







刀 長運斎綱俊 Tsunatoshi Katana

2018-04-20 | 
刀 長運斎綱俊


刀 長運斎綱俊

 刃採りがされていない研磨であるため、刃文がぼうっとして冴えないように見えるが、単に写真映りが悪いというだけ。本質は頗る明るく刃縁の輝きは冴え冴えとしている。古い研磨にはこのような見え方があるため、現代の研磨は、多くが刃採りをはっきりとさせてしまう傾向にある。写真はどこまでも参考程度。本質は手に取ってみないと分からない。良く詰んだ鍛え目に刃文構成が単調にならない変化に富んだ互の目丁子。足が長く入る。師筋の水心子から伝わる備前古作の再現に他ならない。綱俊には濤瀾乱刃があり、また互の目丁子がある。どちらも上手で綺麗な出来が多い。





脇差 綱俊 Tsunatoshi Wakizashi

2018-04-19 | 脇差
脇差 綱俊


脇差 綱俊

 一尺二寸強の鎬造脇差。常にみられる脇差に比較して寸法が短く、しかも身幅広く重ねを厚く頑丈に仕立てている。江戸時代最初期に好まれた造り込みである。製作の時代は江戸後期。幕末には稀にみられるので古き時代を偲んだものか、特殊な剣術の武士の注文であろうか、武骨であるが地鉄は密に詰み、刃文はとても綺麗に仕上がっている。小板目肌に匂主調の互の目乱。師筋である水心子正秀に倣ったものであろう、互の目の配列が濤瀾乱風とされている。刃中には細かなほつれが掛かり、玉状の刃に小沸匂が掛かって爽やか。



刀 近江大掾忠廣 Tadahiro Katana

2018-04-18 | 
刀 近江大掾忠廣

 
刀 近江大掾忠廣

 綺麗な肥前肌に肥前刀らしい小沸が刃縁について帯状の刃文構成とされた、綺麗な直刃仕立ての作。品よく整って綺麗な姿格好と共に、肥前刀の上作であることが一目でわかる出来。刃文は、常にみられるような帯状の構成に、さらにほつれ、喰い違い、金線、二重刃などを加えて変化に富んだ直刃に仕上げている。





刀 伊賀守金道 Kinmichi Katana

2018-04-17 | 
刀 伊賀守金道


刀 伊賀守金道

 江戸初期の京都において活躍した三品派の金道の作。出は美濃だが、江戸初期という時代背景から相州伝を焼くを得意とした。本作が良い例で、刃中に砂流、沸筋、金線が流れるように働く出来。同派の吉道の川の流れを想わせる刃文とは異なるが、本作においても清らかな水辺を想い浮かべるであろう。奇麗な刃文である。奇麗だけではないのが、この時代の刀。良く斬れるのだ。





脇差 同田貫宗廣 Munehiro Wakizashi

2018-04-16 | 脇差
脇差 同田貫宗廣


脇差 同田貫宗廣

 江戸後期の同田貫鍛冶。戦国時代末期から江戸初期にかけて活躍した同田貫派は、頑強な造り込みで、しかも斬れ味に優れた刀を製作して有名だが、江戸時代前期から中期にかけての作品を見ない。江戸後期に至って宗廣が再び同田貫の工銘を用いている。ただし、戦国末期のような作ではない。奇麗な備前伝を良く見かける。この脇差は備前伝を交えた相州風の刃文構成になる作で、密に詰んだ小板目肌に尖り刃の交じる小互の目を焼いている。





脇差 長舩祐春 Sukeharu Wakizashi

2018-04-14 | 脇差
脇差 長舩祐春


脇差 長舩祐春

 刀身下半が乱刃で、上が直刃という構成は美濃伝や戦国期の相州伝の鍛冶に間々みられる。祐春は天保頃の備前長舩鍛冶。元幅に比較して先がやや細くなっており、戦場で重宝されたことが想像される。使用によってバランスはくずれているものの、凄みのある姿格好だ。地鉄は良く詰んだ小板目肌。刃文は、直焼き出しに始まり、中ほどは稲妻を交えた互の目丁子で乱れが強まり、物打は再び直刃調子となり、先は小丸に返る。刃文構成の美しさはもちろんだが、物打から先に現れている淡い掃き掛け、帽子が丸く長く返るといった静かなところがいい。



刀 備前祐義 Sukeyoshi Katana

2018-04-12 | 
刀 備前祐義


刀 備前祐義

 祐義は江戸時代末期から明治にかけての備前の刀工。本作は、その、二尺五寸強の、鎌倉時代の太刀を手本とした作。だが、反りは控えめに施されており、実際に使うことを想定した姿格好。とはいえ、製作年は明治も後期、いずれ古き時代を偲んでの、しかもいざという時にはこれで先陣に起つことを想った、武人の注文作であろう。地鉄は小板目肌に細かな地景が入って躍動感がある。波の寄せるように互の目が大小連続し、抑揚変化に富んでいる。奇麗な出来である。





脇差 河内大掾正廣 Masahiro Wakizashi

2018-04-11 | 脇差
脇差 河内大掾正廣


脇差 河内大掾正廣

 一尺一寸強の平造の脇差。身幅広く反りが深く、先反りも加わって姿に迫力がある。大ぶりの彫り物があり、古作相州刀の再現。良く詰んだ小板目肌に地景が交じって躍動感がある、極上の肥前肌。刃文は相州古作に倣った湾れに互の目交じり。刃中には砂流し、沸筋、金線が組み合わさって流れる。正廣は江戸初期の肥前を代表する一人。すでに世は安定期に向かってはいたであろうが、戦国期を生き抜いた武士の脳裏には、戦のその時がよみがえるのであろう、室内での闘争をも考慮するなど、備えは常に戦いを想定していた。このような平造の小脇差こそ抜刀に適して重宝された武器である。この手の武器を「首切り刀」だと説明している方もおられるようだが、首切りのために腰に、さらにもう一振りの武器を備えるわけがない。