日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 左國弘 Kunihiro Katana

2016-04-30 | 
刀 左國弘


刀 左國弘

 左文字の弟子のひとり、國弘と極められた作。元来は大太刀で、扱い易い寸法に仕立て直したもの。即ち弟子の活躍期は南北朝時代中頃。左一門中では、同じ相州伝では本国の廣光や、京に栄えた國重國信に似て強く乱れた出来が特徴的であることから國弘と極められた。地鉄は杢目を交えた板目が揺れるように流れ、焼が強いことから地沸が厚く付いて所々肌立っている。とにかく激しい地相だ。沸出来の互の目乱刃は、焼頭が深く地に入り組み、時に鎬筋を越えて深まり、湯走りが飛焼風に強まって刃文も複雑。帽子も同様に激しく乱れ、火炎風に掃き掛けている。江戸時代には左文字と極められていたもので、茎には「左」と金象嵌が施されている。

短刀 左吉貞 Yoshisada

2016-04-28 | その他
短刀 左吉貞

 
短刀 左吉貞

 左文字の子と伝える吉貞の短刀。刃長一尺五厘、重ね一分六厘。南北朝時代の短刀の典型で、先反りが付いて寸法が伸びた、小脇差とも言い得る姿格好。太刀の添え差しとされたものであろう、刃先鋭く截断に適した造り込み。地鉄は良く詰んだ小板目風に見えるも、良く見ると杢目交じりの板目肌が細かな地景を伴って際立っている。肌目が揺れて流れるようなところはこの派の特徴。微細な地沸が付いて総体が均質。躍動感に満ち満ちて強みが感じられ、しかも綺麗な地鉄である。刃文は均質な沸出来の穏やかな湾れ。刃縁は和紙を引き裂いたようにほつれ掛かり、帽子に至るまで働きは濃密。先端は焼が深く返っている。美しい相州伝の一例である。
 


刀 左安吉 Ysuyoshi Katana

2016-04-27 | 
刀 左安吉


刀 左安吉

 大磨上無銘の左文字一門の安吉と極められた作。左文字は都から遠く離れた筑前の刀工で、実阿の子。鎌倉時代末期に相州の作風を採り入れ、実阿の例で知られるような地方色豊かな作風に新たな趣をもたらした。左文字の作例は、申し訳ないが、デジタルで撮影していないので写真を紹介できないため、その門人の作を通してこの一門の相州振りを紹介する。
 安吉は左文字の子。杢目を交えた板目肌が大きく揺れるように流れ、地景が伴って肌目が鮮明。特に杢目が活きいきとしており、刃中にも肌目が及んでいる。地沸は微細に、しかも全面に付き、質の異なる鉄を交えているためかそれが地景を際立たせる結果となっている。相州伝の典型である。小沸と匂が巧みに調合された刃文は互の目がわずかに逆がかり、明るく冴え冴えとしている。帽子が激しく揺れて返るところがこの派の特徴でもある。



太刀 信國 Nobukuni-Saemonnojo Tachi

2016-04-26 | 太刀
太刀 信國


太刀 信國

 前回に引き続いて応永信國を代表する左衛門尉の太刀を鑑賞している。鎌倉時代の太刀姿が、鎌倉末期から南北朝にかけての騒乱の時代を経て、大きく変化したことは良く知られていること。そもそも太刀は実戦において積極的に用いられた武器と言うより、武士の象徴という意味合いがあり、実用武器は薙刀であった。それが、鎌倉末期から南北朝の実戦の時代経たことにより、太刀も斬るための武器として捉えられ、実用に即した姿格好に変えられた。先反りにその変化が現れているのだ。先反りが付いていることが、截断により効果的であることは明白。さて、信國の刃文は沸出来の互の目乱刃。互の目の頭が横に尖り調子で耳のような形になったり、時にこれが鋭く角のようになったりする。刃境には肌目に沿ってほつれ掛かり、刃中に沸が流れ、沸筋、砂流し、金線を形成している。
 
 

太刀 信國 Nobukuni Tachi

2016-04-25 | 太刀
太刀 信國


太刀 信國

 山城の刀工と言うと、来や粟田口のように緻密に詰んだ地鉄を思い浮かべるが、相州伝の影響を受けて以降は、来派も一時的ながら激しい地相の作を製作している。この信國の太刀が良い例であり、地景を交えて一層際立つ板目鍛えに沸を強く意識した焼刃を施している。地中のみならず、刃中にも鎬地にも激しく渦巻くような杢を伴う板目肌が現れ、地沸が強く、肌目を強調し、黒く澄んだ地景が強弱変化しつつ沸の焼刃を横断し、刃中でも金線として働く。刃境には肌目に沿ってほつれが和紙を引き裂いたように広がり、鍛え目はこのほつれを渦巻に変え、時に流れるように、時に波打つ磯のように景色を成している。鍛え目は物打辺りでさらに強まり、激しく乱れ込んだ帽子も渦巻き、玉状に沸が凝って先は火炎風に掃き掛ける。あまり出会うことのない左衛門尉信國の在銘の太刀である。□





平造脇差 信國 Wakizashi Nobukuni=Saemonnojo

2016-04-23 | 脇差
平造脇差 信國


平造脇差 信國

 左衛門尉信國の在銘。これも太刀の添え差しとされたもので、南北朝スタイルを踏襲している。わずかに先反りがついて操作性に富んでいる。この頃の信國も彫物を得意としていたことから、彫り物は信國一門の御家芸とされていたのであろう。ここでは樋に梵字を組み合わせただけだが、引き締まって格好がいい。地鉄は地沸が良く付いた板目肌で、やはり地景が顕著。刃文は互の目が二つ連なって耳形になり、その頭がやや尖っているところに特徴がある。掃き掛けた帽子は火炎風の乱れ返り。小沸の焼刃は出霧が複雑で激しく、皆焼調ではないものの南北朝時代の相州伝御作風が思い浮かぶ。鍛え目は刃中にも現れ、殊に刃縁の沸ほつれが強く、こうしたところも相州伝の見どころ。



脇差 信國 Nobukuni Wakizashi

2016-04-22 | 脇差
脇差 信國


脇差 信國

応永頃まで降っているとみられる信國の、沸が強く意識された作。磨り上げ無銘で元来は長い太刀であったもの。現在は一尺八寸弱の片手打ち刀。板目肌に地沸が付いて地景も顕著。躍動的な地相は相州伝そのもの。山城刀工の信國には、比較的穏やかな直刃と、このような激しい出来とがある。刃中の沸の広がりと濃度は鍛え肌に同調したもので、和紙を引き裂いたようにほつれ掛かり、刃先にまで沸が漂っている。刃文は互の目が強くなり、所々に尖刃が角状に交じっているのが確認できる。こうしたところからも、美濃伝の特徴とされる尖刃は相州伝にはじまるものと考えられるところである。帽子も乱れ込んで掃き掛けて返る。



平造脇差 信國 Nobukuni Wakizashi

2016-04-21 | 脇差
平造脇差 信國


平造脇差 信國

 南北朝時代の信國。信國は山城刀工で、来派の流れを汲み、山城風の小板目鍛えに直刃の作風もあるが、やはり他国同様に相州の影響を強く受けている。造り込みが相州。一尺二分、反りは六厘ほど。身幅広く重ね薄手に、本来の茎は短めだが、後に仕立て直したのであろう、現状は一寸ほどの区送りで扱い易い寸法とされている。元来は一尺一寸強の刃長。太刀の添え差しとされた、操作性に富んだ造り込み。地鉄鍛えは板目が詰んでいるも仔細に観察すると流れ肌が窺える。地沸で覆われ、地景は繊細。刃文が湾れ調で、互の目が形を成さずに沸で乱れたような構成。沸の焼刃に相州伝の影響が強く現れており、肌目に沿った沸の広がり、沸筋、金線、刃縁のほつれなどが流れるような景色を成している。信國はまた彫物も上手であった。必ずと言って良いほど彫刻を施している。この作では狭い樋中に剣巻龍と素剣を肉彫している。

短刀 長谷部國信 Kuninobu-Hasebe Tanto

2016-04-20 | 短刀
短刀 長谷部國信


短刀 長谷部國信

 皆焼出来の國信。研磨で刃採りをしているので皆焼には見えないが、焼刃強く棟焼が加わり、双方から沸が流れ込んで編み目のような焼刃となっている。この短刀も地鉄鍛えは板目が強く、地景が肌目をより強く見せている。拡大写真で沸が強く地中に流れているのが判るだろう。棟焼も強いことから、湯走りと言うより明らかに焼きである。その刃寄りの一部が丁子状に構成されているのも判る。この時代の刀は、専ら重ねが薄手で刃の抜けが速やかに行われるような構造とされている。元来は元軍の侵攻を防ぐ目的で製作された大太刀の仕立てが基礎にあったようだが、実際に使用して、斬れ味の優れた構造であることが理解されたのであろう。戦国時代末期まで、太刀や刀の添え差しとして、一尺二寸ほどの薄手の獲物が盛んに用いられたことは先に述べた。この点は短刀でも同様である。



短刀 長谷部國信 Kuninobu Tanto

2016-04-19 | 短刀
短刀 長谷部國信


短刀 長谷部國信

 南北朝時代の京都において活躍した刀工で、相州に学んだのがこの國信と兄の國重。國重は「へしきり長谷部」で良く知られているが、長いものは少なく、専ら、主に今で言う脇差ほどの得物を製作していた。國信の方が長い太刀を多く遺しており、兄弟間の技術力に差はなかったようだ。とにかく沸を強めた作風に特徴があり、凄い。皆焼出来には網目のような焼刃構成もある。この短刀は比較的穏やかな刃文構成であり、湾れを主調とした中に沸が強く配合されたもので、品位が高い。おとなしくて面白味がないのでは?と感じるかもしれないが、仔細に観察すると、刃中には沸筋が幾重にも流れ掛かり、これが刃先に至るまで濃淡変化しつつ連続しているもので、皆焼出来が良いとは言えないことが判る。凄みのある地鉄も見どころ。板目が強く、地景が蠢くように入り組み、地沸はもちろんだが、淡い飛焼、湯走りも淡く入るなど、ここに凄みの根源が読み取れる。とにかく貴重な在銘作であり、沸を強調しながらも品位を落とさない工夫を凝らした相州物の際立った美観が楽しめる作である。□



刀 行光 Yukimitsu Katana

2016-04-18 | その他
刀 行光


刀 行光

 正宗や則重に先行する相州鍛冶で、これらと同様に新藤五國光の門人とされているのが相州行光である。この大磨上無銘行光の作例を見ても、綺麗に詰んだ地鉄から次第に金線や沸筋が意識された作風へ移り変わっているのが理解できよう。地鉄鍛えは小板目状に良く詰みながらも、板目肌と流れ肌が加わって地沸が付き、肌目が地景で際立っている。刃文は直調から湾れ調に至り、所々に互の目が交じっている。総体の刃文構成は、後の相州伝のような湾れの所々に互の目が深く入るというようなものではなく、比較的穏やか。焼刃の主体は沸で、荒ぶるところがなく、ここにも穏やかさが窺いとれる。刃中には匂が充満して明るく、匂と沸との調和も美しい。刃中に広がる沸の乱れは、いまだ確たる互の目とはならず、なんとなくほつれを伴って乱れているような、初期相州伝、相州伝の始まりと言って良いだろうか。刃縁の様子をご覧いただきたい。和紙を引き裂いたようなほつれと表現される沸による景色が濃密である。






刀 古宇多 Kouda Katana

2016-04-16 | 
刀 古宇多


刀 古宇多

 これも古宇多と極められた作。平地の柾目鍛えが少なめに板目肌が強く起ち(棟寄りに柾気が目立つ)、肌目が鮮明に観察されるが、鍛着部は密であり、疵気がない。古宇多極めの中でも特に優れた出来となっている。躍動的で激しい鍛え目が魅力である。焼刃も比較的穏やかで、沸が強いものの湯走りも控えめ。ゆったりとした湾れ調子の綺麗な仕上がり。それでも刃中には沸筋や砂流しが流れかかり、帽子は掃き掛けて焼詰めとなっている。地中の沸、地沸の働きが凄い。決して叢沸や湯走りが強いわけではないのだが、地沸が厚く付いて濃淡変化に富んでいるのだ。こうしてみると、宇多派の作って凄みがある。



刀 古宇多 Kouda Katana

2016-04-15 | 
刀 古宇多


刀 古宇多

 時代の上がる宇多の特徴がみられる作。宇多派は大和国より移住した國光に始まる。高い技術を保持した刀工で、大和物より山城物に見える作品も遺している。だが、無銘物の鑑定は大和風を強く示したところを見極めるようだ。初代が鎌倉後期の文保頃と言われているが、この頃の作品はみられないようだ。二代と言われているのが南北朝初期の工で、これが鎌倉末期から南北朝前期にかけて活躍したと考えていいだろう。大磨上無銘のこの刀が良い例で、造り込みがこれに相応している。地鉄は板目に柾目が強く交じって肌起ち、地沸が付き地景が顕著。則重を見るようである。時代的に越中の先達則重の影響を受けていると考えられている。だから則重風の作をこれに極めることがある。とにかく凄みがある。刃中は沸が強く激しく乱れ、金筋を伴う沸筋が層を成し、地刃を横断して働く。一般的に宇多派は、室町時代に量産したことから実用鍛冶とみられ、一段低く考えられがちである。決して技量が劣るわけでもないのにかわいそうな存在である。それが故に、この地刃の面白さを知る者は、比較的安価である点にも魅力を感じ、値の上がらないことを願っているそうだ。



薙刀直し刀 則重 Norishige Katana

2016-04-14 | 
薙刀直し刀 則重


薙刀直し刀 則重

 則重は新藤五國光に相州伝を学んだと伝えるも、この強い地鉄鍛えは独創であろう。正宗と極められた作にもあるが、松皮肌とも表現される異鉄を意図的に交えて強調した素地は、明らかに激しい打ち合いを想定したもので、則重の代名詞でもある。寸法が勢い長くなったこの時代、強靭さを高める目的があったのであろう、鍛え疵など眼中にない実用を追求した鉄。貴族的な美しい地鉄とは異なる。この作風は、先に紹介した真景や宇多派も採り入れているのだ。



刀 古宇多

2016-04-13 | 
刀 古宇多


刀 古宇多

 大和国から別の地域に移住した刀工はかなりの数になる。その中でも鎌倉時代末期に大和国宇陀郡から越中国に移住したのが宇多國光で、同派は戦国時代まで隆盛した。大和風の地鉄に相州伝の沸を意識した作風に特徴がある。というと、志津とどう違うのと言われるだろう。この刀は元来が長い太刀で、磨り上げて無銘とされたもの。と言う点は他の同時代の工と同様。宇多國光とは極められないが、時代の上がる宇多派の特質は理解できよう。確かに志津などに似たところがある。板目が強く地沸が付き、刃中には沸筋が流れて層を成している。この写真では分り難いが、さらに地にも沸がこぼれるように働いている。写真処理によっても違って見えるのだが、鉄が少し黒っぽく見えるところも宇多派の特質。ここにも凄みが感じられる。室町時代の宇多派の刀工群とは、地鉄鍛えに強みが感じられるところ、刃中の沸筋の強さなどが明らかに異なっている。