日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

脇差 長舩盛光 Morimitsu Wakizashi

2010-08-31 | 脇差
脇差 長舩盛光


脇差 銘 備州長舩盛光應永二十三年八月日

 

 長舩盛光(もりみつ)の一尺五寸強の脇差。この頃から後の脇差と呼ばれるような寸法のものが造られるようになった。地鉄は応永杢の現われた板目肌で、密に詰んだ中に肌目が地景によって綺麗に現われている。鎬寄りに乱れた映りが淡く立つ。この柔らか味のある地鉄の質感を、できるものなら現品を直接手にとって鑑賞されたい。刃文は腰開きの互の目乱で、匂明るく焼刃冴え、刃縁から匂のほつれが刃中に広がり、逆足状に働いて刃境は複雑。刃中には繊細な金線が匂を切って流れる。応永備前の標本的な美しい作である。

 

脇差 長舩盛光 Morimitsu Wakizashi

2010-08-30 | 脇差
脇差 長舩盛光

脇差 銘 備州長舩盛光

 

 応永備前と呼ばれ、その地鉄が応永杢と呼ばれ、日本刀の素材の美しさでは第一級に位置づけられる、備前国長舩盛光(もりみつ)の脇差。寸法の長い太刀よりも片手打ちの刀が流行し始める頃のもの。元来は一尺八寸ほどで明らかに片手打ちの刀であったが、江戸時代に一寸半ほど磨り上げられて大小の脇差とされたようだ。
 特に地鉄を鑑賞してほしい。板目肌に杢目が交じり、小板目肌のように緊密に詰んで柔らか味のある肌合いとなっている。肌目に沿って繊細な地景も現われ、地沸も働き、写真には写らない映りと呼ばれる働きが淡く全面に現われており、しっとりと潤い感にみちた地相が特徴。刃文は腰開き互の目乱刃。互の目に小丁子が所々に配されて変化があり、淡い足が長短左右に開いて刃中に射し、これにほつれが働いて刃境も柔らかく出入りする。帽子は浅く乱れ込んで先揺れて尖りごころに返る、これも盛光の特徴。





両刃造短刀 Morohadukuri Tanto

2010-08-28 | 短刀
両刃造短刀 

備前 勝光 明応 

備前 祐定 明応

相模 廣次 永正

備前 祐定 弘治

美濃 兼先 天正

備前國長舩住祐定天正
 室町時代の文明頃から桃山時代までのおよそ百年間にのみ製作された、特殊な造り込みの短刀。近代戦では米軍が創案したダガーナイフに使用方法とその効果をも重ね合わせれば分かり易い。両刃の短刀の遠祖は、太古の時代から剣に求められるも、それらの多くは突くことを目的とし、両刃の切れるという機能性を追究したものではない。即ち両刃造短刀とは、鎬筋を中心として左右非対称であって基本は斬るにあり、鎧の隙間から刺し、刃のあるどちら側へも力を加えることによって内部の截断が容易に行われるもので、必殺の武器であることは言うまでもない。
 実は、この両刃造の短刀は、恐ろしい実用の武器であるにもかかわらず、地鉄が綺麗で焼刃も丁寧に施された極めて質の高い短刀であることは、あまり知られていない。下級武士が雑用を含めて日常的に用いるものではなく、高級武将が敵に攻められ、混戦の中で咄嗟の場合に身を守る目的で用いる武器と認識すれば良い。
 美しい姿形であり、高級武将は好んで備えとした理由も想像できよう。
 備前国に多く、美濃国に稀にあり、他は頗る少ない。相州伝の両刃造という極めて珍しい作があったので、比較鑑賞されたい。

短刀 月山宗近 Munechika-Gasan Tanto

2010-08-24 | 短刀
短刀 月山宗近

短刀 銘 月山宗近作天正十一年八月日

 

 戦国時代の月山鍛冶で、宗近の個銘と、天正十一年の年紀が入れられた、資料的な価値の高い短刀。綾杉鍛えは揺れて流れて変化し、一際古風に感じられる。鍛え目に沿って細い地景が入り肌が強く立って見える。肌目の抑揚に同調するように直刃が浅く乱れ、刃縁ほつれ、喰い違い、二重刃となり、刃中のほつれは金線を伴って繊細に流れる。名品である。□

刀 月山 Gasan Katana

2010-08-23 | 
刀 月山

刀 銘 月山



 室町時代前期の月山(がっさん)鍛冶の刀。月山と銘する鍛冶は、広くは舞草(もうぐさ)派の流れで奥州に栄え、独特の綾杉(あやすぎ)鍛えで知られている。大模様の揺れるような板目肌が波打つように連続したものを綾杉肌と呼び慣わしている。この大模様の板目肌が、刀の鍛え肌の初期のものであることは、古墳時代の直刀などの地鉄の観察で知られているところ。截断能力を高める目的で綾杉肌が生み出されてものであろうが、これが実に味わい深いのである。江戸時代の刀工もごくわずかに綾杉鍛えを遺しているが、これを再興したのが幕末の月山貞一で、この技術は現代にまで受け継がれている。
 この刀の地鉄は洗練味のある近世の綾杉肌とは異なって古風に揺れ、特徴的な細直刃が焼かれている。鍛え肌に伴って刃縁はほつれ、喰い違いが生じており、細やかな景色が鑑賞できる。



刀 宇多 Uda Katana

2010-08-21 | 
刀 宇多

刀 磨上無銘宇多



 室町時代初期の越中宇多(うだ)派の、直刃の魅力横溢の刀で、元来は南北朝時代のような大振りの太刀であったものを、扱い易い寸法に仕立て直した作。地鉄は板目が流れて柾目調になり、地沸が付いて湯走りかかり、映りが鮮明に現われて出来の良い宇多の作域を示している。わずかに湾れる直刃は、刃縁にほつれ、くい違い、うちのけなど、大和古作を思わせる繊細な働きが現われ、ここにも上作の景観が窺える。刀身の下方には二重刃状に刃文が複雑になっている部分もあり、総体に鑑賞の要素が多い出来である。
 宇多派は室町時代に専ら実用刀を製作していたため、一格低く捉えられるが、上作は殊に優れ、来派に紛れる作も残している。この点、これまでに広められた、物知り顔の研究家や愛好家などの偏向した評価は見直すべきであろう。刀には地域の特性や、その地域の作のみが示す魅力がある。□




太刀 粟田口國定 Kunisada-Awataguchi Tachi

2010-08-20 | 太刀
太刀 粟田口國定

太刀 銘 國定

 

 鎌倉時代中期の山城国には、粟田口(あわたぐち)、綾小路、来などの名流があり、いずれも精緻な小板目鍛えの地鉄に、各派特色のある焼刃を施している。本作はその粟田口派の國定(くにさだ)と推測される優雅な太刀。わずかに磨り上げられてはいるが茎の下端部に銘が残されており、姿格好も山城ものの特徴的な輪反り。
 絹目のように微塵に詰んだ小板目肌に微細な地沸が付いており、この瑞々しさは江戸時代の多くの刀工が再現を試みた刀剣類の言わば境地の一つ。多少の研ぎ減りも加わっているが、焼刃が洗練味のある美しい細直刃。派境に小沸が付いてほつれ掛かり、刃中には金線が清らかに流れる。
 刃文は決して華やかにあるいは派手に乱れているわけではない。光を反射させての観察では、古風な小乱れが刃境を彩り、これを分けるように細い金線が入っているのである。大きな見どころといえば、粟田口派にまま現われる二重刃風の焼刃が、この太刀でも所々に観察されるところ。



太刀 豊後國行平 Yukihira(Bungo) Tachi

2010-08-19 | 太刀
太刀 豊後國行平


  太刀 銘 豊後國行平

 

 鎌倉時代初期の太刀。豊後國行平(ゆきひら)には間々在銘作が遺されている。腰反り深く、先に行くにしたがって反りが少なくなり小鋒に結ぶ、この時代の特徴的な姿。地鉄は板目鍛えの地底が小板目肌のように詰み、ねっとりとした古風な肌合いとなる。もちろん研ぎ減りがあり、物打辺りに鍛え肌が強く現われている。地景はさほど強くは感じられないが、所々に淡く観察される。所々に映りが斑に現われており、鉄色は殊に古く白っぽく感じられる。
 鎌倉時代初期以前にまで時代の上がる太刀の刃文は小乱となり、互の目や丁子がはっきりとしないという特徴があり、それはそのまま他の国の工にもあてはまるため、刃文のみによる鑑定は難しい。この太刀の刃文も、匂口が潤み、刃境がはっきりしない小互の目で、匂に小沸が交じって細かな砂流し状に焼刃が構成されている。構成されているとは言うものの、時代の下がる焼き入れとは異なり、極めて自然な刃入れ作業の結果のものである。
 区上に焼刃が施されていない状態を焼き落しという。時代の上がる作に間々みられるもので、本作も生ぶのままのその様子が観察される。区上の彫刻も行平に特徴的なもの。研ぎ減りがあるも、その古風に収まる様子は控えめで美しい。

 

太刀 一文字真利  Sanetoshi-Ichimonzi Tachi

2010-08-18 | 太刀
太刀 一文字真利

太刀 銘 真利



 古一文字と称される鎌倉時代中期の福岡一文字派。一文字派の中でも時代が上がり、広く知られている華やかな互の目丁子出来とは趣を異にして古作の風合いが顕著。地鉄は板目肌が刃中から鎬地にまで縦横に現われて地景が肌を強く立たせ、乱れ映りが鮮明に現われた中に地景がくっきりと浮かび上がる。地鉄は総体に地沸と映りとで明るく冴えており、ここに備前他派とは異なる一文字派の特質が現われている。匂に小沸の複合した焼刃は出入りの少ない湾れか直刃調に感じられるが、刃中は小乱の様相を呈して複雑に乱れ、小互の目、小丁子、小足、ほつれ入り、これに鍛え肌から生じた稲妻金線小模様の沸筋砂流しが働き合って刃先に迫る。
 この太刀は、磨り上げながら茎下端部に真利(さねとし)の銘が残されている元来の小太刀。腰で深く反って品の良い姿格好を良く留めている。切先も研ぎ減り少なく、大切に伝えられてきたものと思われる。

  

短刀 兼貞 Kanesada Tanto

2010-08-16 | 短刀
短刀 兼貞

短刀 銘 兼貞

 

 これも美濃物の直刃。作者は巧者として知られる兼貞(かねさだ)である。匂口の締まった直刃出来であるが、刃縁に小沸が付きほつれが明瞭に入っている。淡く匂の広がる刃中は透明感があり、匂と微妙に働き合いながら沸の砂流しが刃中に流れる。美濃物に特徴的な乱れ込んで先丸く返るいわゆる地蔵帽子も小沸が掃き掛けて返る。総体に綺麗な作である。
 一般に美濃刀工は下手と考えられているが、戦国の時代が量産をさせた結果、良いものから下手なものまで幅広くみられるのである。この傾向は備前物でも同様で、清光や祐定にも数打ち物と呼ばれる駄作がある。美濃の技術はその後認められ、戦国時代から江戸時代初期に掛けて美濃刀工が各地に招かれている。また、美濃伝は江戸時代の作刀の基礎となっていることも忘れることができない。

短刀 兼常 Kanetsune Tanto

2010-08-15 | 短刀
短刀 兼常


短刀 銘 兼常



 戦国時代の美濃国を代表する一人でもある兼常物の直刃。細直刃で、匂口が締まって冴え、一筋の線を定規で引いたように刃中に多くの働きを施さないのが美濃物の特徴。鑑賞の要点は地鉄にあり、板目鍛えの地鉄は小板目状に詰み澄み、映りが鮮明に現われている。この中に、映りを分けるように地景が現われているが、備前景光の映りや地景とは明らかに風合いが異なる。美しい流れ肌が最大の魅力である。



刀 三原 Mihara Katana

2010-08-14 | 
刀 三原

刀 金象嵌銘 正家

 

 備後国三原正家(みはらまさいえ)と極められて金象嵌銘が施されている磨り上げ無銘の三原刀。小板目肌の詰んだ部分と杢目交じりの板目肌が微妙に調和して、躍動感のある肌合いとなっている。
 三原物の刃文は、大和鍛冶の影響を受けているため細直刃を基調としており、地鉄が詰んでいるが故に刃中が乱れる態がなく、刃縁がほつれて小足が入る程度で、比較的端正な焼刃構成となる。本作がその典型。

 

短刀 清光 Kiyomitsu Tanto

2010-08-13 | 短刀
短刀 清光

短刀 銘 備前國住長舩清光作天文十九年十二月日

 

 戦国時代を活躍期とするおさふね清光(きよみつ)には、多数の同銘工がいる。清光はいずれも焼幅の広い直刃を得意とし、本作のように刃中に小足入り葉などが入り、砂流し入り、匂い主調ながら刃縁に小沸が付いた出来となる。
 直刃も刃文は、刃境に沸筋状に焼が入って二重刃風に見える部分があり、これに匂が絡んで明るく冴える。刃縁には沸のほつれが入り、匂の帯が流れ、乱れ込んだ清光の特徴的な帽子にも沸が付いて返りが乱れ、金線入るなど複雑。単調な直刃もあるが、このような作があるから、数多い中に光る出来が見出せ、楽しめるのである。

 

脇差 忠光 Tadamitsu Wakizashi

2010-08-11 | 脇差
脇差 忠光

脇差 銘 備州長舩忠光延徳二年二月日



 直刃出来の長舩忠光(ただみつ)。忠光は直刃を得意とした刀工で、杢目交じりの板目鍛えに匂出来直刃を焼く。刃文の形状のみを眺めるのであれば、淡い匂の帯が元から先まで連続しているだけなのだが、仔細に観察すると、匂の幅に微妙な抑揚があって小互の目状に浅く乱れ、刃中には肌目に沿った匂のほつれがあり、匂の砂流しとも肌目とも言いうる繊細な働きが流れる。帽子はこれが明瞭である。



太刀 景光 Kagemitsu Tachi

2010-08-09 | 太刀
太刀 景光

太刀 銘 備州長舩住景光

 

 鎌倉時代後期の備前長舩の正系、景光(かげみつ)の小太刀である。
 直刃調の刃採りだが、焼頭が平坦な小互の目乱刃で、足が鋒側に流れる逆足であるため、刃形がノコギリのように見える。この景光に特徴的な刃文をノコギリ刃、あるいは方落互の目(かたおちぐのめ)などと呼んでいる。
 まず地鉄を鑑賞されたい。板目鍛えに地鉄は所々肌起つ風があるも、映りが鮮明に現われており、この中にくっきりと黒く沈んだ色合いの地景が現われているのがわかる。景光の父である長光の刃文とも地鉄とも異なる、景光独創の凄みのある風合いである。
 刃文は匂出来で、刃中に淡く沸匂が広がる。これを切って金線が稲妻の如く走っている様子も凄まじい。
 直刃の魅力は、何と言ってもその刃縁に現われる繊細な働きであろう。何度も申し上げているが、再度言わせていただく。刃文とは乱刃や丁子刃、直刃など焼き入れによって施される刃文の形状のことであり、鑑賞の要点とは、この刃文の形よりもむしろその中に現われる微妙で繊細な働きである。これについては、刀をある程度勉強した方でも気付かない場合がある。直刃を見て刃文がないとおっしゃる方は、もちろんそれ以前の問題外で、刃文の意味をも知らないのでしょうが、刃文の形を見るだけであれば博物館でガラス越しに眺めるので充分である。手にとって刀を鑑賞するということは、それだけ多くの鑑賞の要点に接することである。手にとって観察することが出来る状況を活かしてほしい。