日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

脇差 正幸 Masayoshi Wakizashi

2010-12-22 | 脇差
脇差 正幸


脇差 銘 伯耆守平朝臣正幸 寛政二年



 身幅広く先幅も落とさず大鋒に仕立てられた、薩摩刀工の中でも正幸の個性がよく示された作。地鉄は板目肌に小板目肌が良く詰むも、地景によって大肌が現われ、地沸が付いて肌目がくっきりと見える力強い出来。焼刃は相州伝に美濃伝の加わった沸の深く厚く付いた互の目乱刃。互の目が所々尖りごころになり、刃縁の沸が刃中に太い足状に広がり、これを切るように沸筋が走る。沸筋の現われ方は比較的おとなしいが、帽子は沸で乱れ、沸筋も段状に入る。


刀 正幸 Masayoshi Katana

2010-12-20 | 
刀 正幸


刀 銘 伯耆守平朝臣正幸 文化十年

 

 身幅しっかりと、重ね厚く、寸法は尋常ながら覇気に満ちた作。造り込みも姿からも正幸の技量の高さが窺いとれる。地鉄は板目肌が良く詰んで大きく現われた中に小板目肌が詰んで交じり合い、地沸が厚く叢付いて地景が大肌に沿っているなど、強みの感じられる肌。湯走りが肌目と感応し合ってくっきりと浮かび上がる様子は、江戸時代の薩摩相州伝の完成度の高さを示している。刃文は互の目で、所々尖りごころの刃を交えており、美濃伝の影響をうかがわせる。刃縁小沸付いて沸深く強く、刃先近くまで沸が広がり、これを沸筋が切って流れる。帽子はわずかに乱れて先小丸に返る。


刀 正良 Masayoshi Katana

2010-12-18 | 
刀 正良


刀 銘 薩摩官工平正良 寛政元年



 この年に伯耆守を受領して正幸と改銘する直前の作。地鉄はすでに完成されており、板目に小板目肌が交じり地沸が厚く付いて地景の入るという特質を鮮明に示している。肌が綺麗に起って清清しささえ感じる。刃中に現われる沸筋が、地中にも顕著に現われ、その迫力ある地相こそ薩摩相州伝の極致と言えよう。刃文は湾れに互の目交じりで、沸深く冴え、金線と沸筋が刃中を長く走る。帽子にも沸が付き、叢沸がくっきりと現われる。迫力ある地刃が魅力である。

 

刀 正良 Masayoshi Katana

2010-12-16 | 
刀 正良


刀 銘 薩州住正良 安永九年



 薩州正良(まさよし)は寛政元年に伯耆守正幸(まさよし)と改銘している、この刀は、その若かりし頃の作。尋常な姿格好に身幅広く、重ねは薄めに扱い易い造り込み。地鉄は良く詰んだ小板目肌に大肌が交じる出来。地沸が厚く付いて所々湯走りが現われる。小沸出来の互の目に湾れを交えた焼刃は、焼幅に大きな出入り変化があり、殊に物打辺りの焼が深く、鎌倉時代の正宗や郷などを手本とした作であることが想像される。刃中は沸深く、幾筋もの沸筋が段状に入り、肌目に感応しながら抑揚して流れ、そのまま帽子に流れ込んで返る。


脇差 一平安代 Yasuyo Wakizashi

2010-12-14 | 脇差
脇差 一平安代


脇差 銘 一平安代

 

八代将軍吉宗の命により江戸の浜御殿で作刀し、その優秀性が認められて同国の正清と共に茎に一葉葵の紋を刻すことを許された一平安代(いちのひらやすよ)。この刀工の作風も薩摩相州伝の極致。身幅広く重ね厚くがっしりとし、小板目肌鍛えの地鉄に板目の地景によって大肌が現れ、荒々しい中にもしっとりとした潤い感がある。沸出来の湾れ刃は、相州古作を手本としたもので、刃縁沸でほつれ、沸筋金線長く走り、これが帽子にも至って先火炎状に乱れて返る。


刀 大和守波平安行 Yasuyuki katana

2010-12-12 | 
刀 大和守波平安行


刀 銘 大和守波平安行



 この安行(やすゆき)は江戸時代前期寛文頃の波平派。相州伝の特徴が良く現われている江戸時代の薩摩刀らしい出来。板目肌が良く詰んで小板目状になるも地景によって大肌が窺え、地沸厚く付く様子も鮮明。焼刃は沸出来の湾れ互の目。刃縁に沸が付き、湯走り状に地に流れ込み、鎬地にも沸が帯状に厚く付いて連なる様子が分かる。刃中には太い沸筋が金線を伴って流れ、帽子にも沸筋が走る。この荒い沸の様子を魚の卵に擬えてカズノコ沸とも表現する。この激しい出来は江戸時代の薩摩刀の大きな見どころでもある。


刀 波平貞安

2010-12-10 | 
刀 波平貞安 享禄二年


刀 銘 波平貞安 享禄二年



元来が寸法を抑えた片手打ちのスタイルで、抜刀截断に適した扱いやすい姿格好。綾杉肌を交えた板目鍛えの地鉄は所々に柾目状に流れた肌を交えて古作に通じ、総体に肌強く立ち、わずかに映りが現われて室町時代の波平派の優秀性が良く分かる。小沸匂出来小互の目乱の焼刃は足が盛んに入り、これを切るように沸筋金線が盛んに流れる。帽子は強く掃き掛けて返る。


刀 波平貞安 Naminohira-Yasusada

2010-12-08 | 
刀 波平貞安

 
刀 銘 波平貞安 享禄五年

  

 室町時代の薩摩刀工は、相州や備前の作刀法を採り入れ、大和伝とは随分と作風が変化している。この刀は、備前の互の目丁子出来で、わずかに逆がかった足が盛んに入る小沸出来の焼刃に特徴がある。小板目鍛えの地鉄は良く詰んで板目流れの肌が浮かび、総体に地沸で覆われ地景が入る。地鉄は綺麗になっているも、薩摩の鉄を用いている故か、古作のような独特の質感がある。出入りの激しい互の目丁子は、ゆったりとした湾れの中で抑揚変化し、刃縁小沸でほつれ、飛足と葉が舞い、帽子は激しく乱れこんで火炎状に揺れて返る。

太刀 波平安久 Naminohira-Yasuhisa Tachi

2010-12-06 | 太刀
太刀 波平安久


太刀 銘 波平安久



 南北朝時代の安久在銘の太刀。鎌倉時代の無銘太刀と比較しても、作風に大きな違いが見られない。造り込みこそがっしりとして、時代観があるも、鍛えは綾杉交じりの板目肌で、所々流れて柾がかり、地沸で覆われ綺麗に詰んだ中にも地景が顕著に現れて鍛え肌が強く起つ。総体にねっとりとした質感がある。焼刃も細直刃で、匂口沈みごころの刃縁には細いほつれが掛かる。帽子は焼き詰めごころにごくわずかに返る。大和伝とは言え、作風と地鉄の素質そのものも異なる故か、風合いが大和古作とは随分と異なる。


太刀 古波平 Konaminohira Tachi

2010-12-04 | 太刀
太刀 古波平


太刀 無銘古波平

 

 鎌倉時代初期の薩摩国波平鍛冶の太刀。まずは鋒から茎尻まで生ぶの姿形を鑑賞されたい。茎城の尖った様子、区上に焼き落としがあって時代の特徴も顕著。地鉄はねっとりとした古波平に特徴的な質感で、綾杉状にゆったりと流れた板目に柾目肌が絡んで肌立ち、区上辺りには疵気がある。匂口の沈んだ細直刃もこの派の特徴。細かなほつれが絡んだ焼刃は、区上から鋒まで一様に施されている。
薩摩国の波平派は平安時代に始まり、『平家物語』などにも登場するほどに知名度が高かったようである。この作風は大和鍛冶の伝法を受け継いだもので、以降、この作風は室町時代まで続いている。


脇差 兼宗 Kanemune Wakizashi

2010-12-02 | 脇差
脇差 兼宗


脇差 銘 兼宗

 

 天正頃の美濃国兼宗(かねむね)のがっしりとした脇差。堅い鎧に対応する目的で製作されたものであろう、時代背景が浮かび上がる造り込み。柾目強く現れた板目鍛えの地鉄は肌立って疵気があるも、総体によく詰んで地沸付き、大肌が浮かび上がって迫力がある。小沸出来の直刃湾れの焼刃は、刃中が小模様に乱れ、柾がかった肌目と働き合ってほつれ、喰い違いとなり、刃中には沸筋、金線、砂流しが刃先近傍にまで流れる。帽子もそのまま流れ込み、先は沸付いて掃き掛けとなる。

短刀 兼貞 Kanesada Tanto

2010-12-02 | 短刀
短刀 兼貞


短刀 銘 兼貞



 美濃国蜂屋郷に居住したことから蜂屋関(はちやせき)と呼ばれる兼貞(かねさだ)は、山城国達磨派の流れを汲む工。この時代の短刀らしい寸延びて覇気ある姿格好。地鉄は板目が詰んで小板目肌状に緻密な肌合いとなるも、細かな地景によって杢目肌が細かな地沸で覆われた前面に綺麗に浮かび上がる。直刃に浅く湾れた焼刃は、刃縁に小沸が付いて締まり、明るく冴え、繊細な働きを伴って帽子は浅く乱れこんで先に沸が付いて乱れ返る。このような作があることから、後の江戸時代の刀工は美濃鍛冶の技術を手本としたのであろう。一般に美濃刀は戦国時代の実用刀を製作していたとして低く評価されがちだが、実は多くの名品を遺している。