甲斐さんから「人生の最期に聴きたい曲」を訊ねられた時に
亀和田さんは「甲斐バンドから1枚なら
これはもう[誘惑]で決まりなんだけど…」とお答えになり
「1曲ですって」と突っ込まれておられましたけど(笑)
機関紙BEATNIKの「甲斐バンドのベスト15」を選ぶ企画では
まず【昨日のように】【ちんぴら】【最後の夜汽車】【シネマクラブ】
【異邦人の夜】【この夜にさよなら】【悪いうわさ〜ダニーボーイに…】
【かりそめのスウィング】と8曲(笑)を挙げられ
「【昨日のように】が1番好きな曲で
2番目が【ちんぴら】という訳ではない
けれども、好きな曲は?と訊かれた時に、多分この順番で答えるはずで
この8曲の並べ方には何らかの意味と必然性が籠められているはずである」
…と、おっしゃってます
「最初に聴いたアルバムは[誘惑]で、入っている曲は全部好きだ
とりわけ好んで聴いたのが[ちんぴら]だった
次に聴いたのが[サーカス&サーカス]
このアルバムも全曲好きなのだが
何度も何度もそこだけ針を下ろしたのが【昨日のように】だった
[…静かにね]という甲斐よしひろの語りが何ともいえず
…男が言うのもヘンだけど…可愛くてね
」と、亀和田さん(笑)
当時の奥さんは「甲斐さんカワイイ♪」とは思ってなかったみたいで(笑)
男性ファンの方からは可愛く見えるんだ⁉と驚いたらしい(笑)
ともあれ、亀和田さんの「【ちんぴら】をテーマにしたエッセイ」では
「[誘惑]の中で1曲を選べと言われれば
ウーン、完成度からいえば【嵐の季節】かなあ
曲のインパクトだったら【翼あるもの】だしなあ…と躊躇ってしまうが
一番好きな曲は?と訊かれれば
何の躊躇もなく【ちんぴら】を選ぶ
」と言い切っておられます
更に「時計会社の[ヒーローになる時、それは今]というCMに代わり
洋酒会社の[僕たちにヒーローはいらない]というキャッチフレーズが
マスコミに宣伝され始めた
明らかに時計会社のフレーズを意識した、いわば一種のアンサーソング
僕に言わせれば、いかにも浅薄である。皮相的である
そして何よりも機会便乗主義的である
このフレーズを作ったコピーライターは
ヒーローと言った時、何を思い浮かべたのだろう
スーパーマンか?ジンギスカンか?それともヒットラーか?
だとしたら、ヒーロー概念の取り違えである
ヒーローとは決して超人的な肉体を指すのでもなければ
マスコミにおける有名性によって成り立つものでもない
[自己の無力と重要でなさ]を知った男が
それでもなお、美しくありたいと願い
そして、そのように生きようとする圧倒的な意志のあり方を言うのだ
顔の美醜、収入の多寡、社会的な地位など
そうしたものに一切関わりなく
男はいつでもヒーローになりたいという意志さえあれば
ヒーローになることが出来るのだ
僕が甲斐バンドを支持する理由もこの一点である
彼らが【HERO】に先駆けて発表したアルバム[誘惑]の中に
【ちんぴら】という曲がある
[お茶を飲むのも 映画観るのも
恋をささやくことさえも 窮屈すぎる街]
このフレーズだけで、どこにでもいるような
それこそ掃いて捨てるほどいるチンピラのイメージが浮かび上がって来る
冴えない街…カビ臭い喫茶店と便所のにおいがする映画館と
騒がしいゲームセンター…そんな街の底で暮らすチンピラ
金もなく、有名でもなく、恋人もいない
何かにすがりついていかねば生きていけないような哀れな存在なのに
彼の周りには彼のすがるワラ1本もありはしない
息の詰まるような街、退屈な毎日
この街にやって来た時には、ハチ切れんばかりにあった[希望]も
今のチンピラには、ひとカケラも残っていなかったはずだ
しかし、すべてを諦め、自堕落な生活を送っていたチンピラの前に
一人の女が突然現れた
チンピラは女に賭けた。文字通り全存在を賭けたのだ
おそらく[賭けた]という意識など浮かび上がる余裕もないくらいに
後先も見ずにその女に賭けたのだ
[傷つけることも 傷つけられるのも 慣れていたから
お前の優しさにも おびえていた]
そんなチンピラが[自己の無力と重要でなさ]を
骨の髄まで知り尽くしたチンピラが、女にすべてを託そうと決意した
決意、などという言葉を使うのが不潔だと思えるくらいに
それほどの思いをこめて女を愛そうとした
この時、チンピラはヒーローになったはずだ」と記されてます
また、別の記事では「飢えたチンピラが夢見た[愛という名のベッド]
僕は、この一語に託したチンピラの、そして甲斐よしひろの心情が
手に取るように判るつもりだ
ある時には妙によそよそしく希薄なものとしてしか感覚できず
またある時には自分に向かって囲い込み追い立てて来るような
敵対的なものとしか思えない、自分を取り巻く世界
チンピラは自分自身とそれを取り巻く世界との間に
確固とした関係を結びたかったのだ
それが出来さえすれば、日夜、身体と精神を蝕む漠とした飢餓感に
形を与え得るのではないかと夢想したのだ
[愛という名のベッド]という一語には
自らの不満と不安のすべてを解消させたいという
ギリギリの欲求が籠められている、と僕は了解している
【ちんぴら】を収録したアルバム[誘惑]の後に発表された【HERO】は
目の前に突然現れた女にぬくもりを求めて
後先見ずに溺れて行ったチンピラの心情を余すところなく伝えている
ヒーローという概念、決して筋骨隆々のヘラクレスや
スーパーマンを指してはいない
己れの卑小感、無力感を知っているチンピラが
その卑小感、無力感ゆえに闇雲に疾走していく
その行為を指してヒーローと言うのだ」と書かれてますが
確かに甲斐さんご自身も、世界に一人しかいない「チャンピオン」ではなく
どの街角にもいるのが「ヒーロー」なんだとおっしゃってるし
熱狂的なファンがライブに詰めかけていたとはいえ
広く世間一般には、まだその存在感を示せてはいなかった頃の甲斐さんは
「自分には才能がないんじゃないか?」という不安を
メンバーの皆さんにも隠し、一人で抱え込んでおられたそうだし
亀和田さんのおっしゃる「チンピラ」のような心境でいらしたのかも知れません
巨額を投じたCMプロジェクトで
文字通り「ヒーロー」になられたけど
その初放送の瞬間まで「落ち着かなくて
チャンネルをNHKに合わせていて
あやうく見逃しそうになった(笑)」という言葉に
漠とした飢餓感を持ち、だからこそ自身の全存在を賭けた
「チンピラ」の面影が覗いているような気がします
亀和田さんは「甲斐バンドから1枚なら
これはもう[誘惑]で決まりなんだけど…」とお答えになり
「1曲ですって」と突っ込まれておられましたけど(笑)
機関紙BEATNIKの「甲斐バンドのベスト15」を選ぶ企画では
まず【昨日のように】【ちんぴら】【最後の夜汽車】【シネマクラブ】
【異邦人の夜】【この夜にさよなら】【悪いうわさ〜ダニーボーイに…】
【かりそめのスウィング】と8曲(笑)を挙げられ
「【昨日のように】が1番好きな曲で
2番目が【ちんぴら】という訳ではない
けれども、好きな曲は?と訊かれた時に、多分この順番で答えるはずで
この8曲の並べ方には何らかの意味と必然性が籠められているはずである」
…と、おっしゃってます
「最初に聴いたアルバムは[誘惑]で、入っている曲は全部好きだ
とりわけ好んで聴いたのが[ちんぴら]だった
次に聴いたのが[サーカス&サーカス]
このアルバムも全曲好きなのだが
何度も何度もそこだけ針を下ろしたのが【昨日のように】だった
[…静かにね]という甲斐よしひろの語りが何ともいえず
…男が言うのもヘンだけど…可愛くてね
」と、亀和田さん(笑)
当時の奥さんは「甲斐さんカワイイ♪」とは思ってなかったみたいで(笑)
男性ファンの方からは可愛く見えるんだ⁉と驚いたらしい(笑)
ともあれ、亀和田さんの「【ちんぴら】をテーマにしたエッセイ」では
「[誘惑]の中で1曲を選べと言われれば
ウーン、完成度からいえば【嵐の季節】かなあ
曲のインパクトだったら【翼あるもの】だしなあ…と躊躇ってしまうが
一番好きな曲は?と訊かれれば
何の躊躇もなく【ちんぴら】を選ぶ
」と言い切っておられます
更に「時計会社の[ヒーローになる時、それは今]というCMに代わり
洋酒会社の[僕たちにヒーローはいらない]というキャッチフレーズが
マスコミに宣伝され始めた
明らかに時計会社のフレーズを意識した、いわば一種のアンサーソング
僕に言わせれば、いかにも浅薄である。皮相的である
そして何よりも機会便乗主義的である
このフレーズを作ったコピーライターは
ヒーローと言った時、何を思い浮かべたのだろう
スーパーマンか?ジンギスカンか?それともヒットラーか?
だとしたら、ヒーロー概念の取り違えである
ヒーローとは決して超人的な肉体を指すのでもなければ
マスコミにおける有名性によって成り立つものでもない
[自己の無力と重要でなさ]を知った男が
それでもなお、美しくありたいと願い
そして、そのように生きようとする圧倒的な意志のあり方を言うのだ
顔の美醜、収入の多寡、社会的な地位など
そうしたものに一切関わりなく
男はいつでもヒーローになりたいという意志さえあれば
ヒーローになることが出来るのだ
僕が甲斐バンドを支持する理由もこの一点である
彼らが【HERO】に先駆けて発表したアルバム[誘惑]の中に
【ちんぴら】という曲がある
[お茶を飲むのも 映画観るのも
恋をささやくことさえも 窮屈すぎる街]
このフレーズだけで、どこにでもいるような
それこそ掃いて捨てるほどいるチンピラのイメージが浮かび上がって来る
冴えない街…カビ臭い喫茶店と便所のにおいがする映画館と
騒がしいゲームセンター…そんな街の底で暮らすチンピラ
金もなく、有名でもなく、恋人もいない
何かにすがりついていかねば生きていけないような哀れな存在なのに
彼の周りには彼のすがるワラ1本もありはしない
息の詰まるような街、退屈な毎日
この街にやって来た時には、ハチ切れんばかりにあった[希望]も
今のチンピラには、ひとカケラも残っていなかったはずだ
しかし、すべてを諦め、自堕落な生活を送っていたチンピラの前に
一人の女が突然現れた
チンピラは女に賭けた。文字通り全存在を賭けたのだ
おそらく[賭けた]という意識など浮かび上がる余裕もないくらいに
後先も見ずにその女に賭けたのだ
[傷つけることも 傷つけられるのも 慣れていたから
お前の優しさにも おびえていた]
そんなチンピラが[自己の無力と重要でなさ]を
骨の髄まで知り尽くしたチンピラが、女にすべてを託そうと決意した
決意、などという言葉を使うのが不潔だと思えるくらいに
それほどの思いをこめて女を愛そうとした
この時、チンピラはヒーローになったはずだ」と記されてます
また、別の記事では「飢えたチンピラが夢見た[愛という名のベッド]
僕は、この一語に託したチンピラの、そして甲斐よしひろの心情が
手に取るように判るつもりだ
ある時には妙によそよそしく希薄なものとしてしか感覚できず
またある時には自分に向かって囲い込み追い立てて来るような
敵対的なものとしか思えない、自分を取り巻く世界
チンピラは自分自身とそれを取り巻く世界との間に
確固とした関係を結びたかったのだ
それが出来さえすれば、日夜、身体と精神を蝕む漠とした飢餓感に
形を与え得るのではないかと夢想したのだ
[愛という名のベッド]という一語には
自らの不満と不安のすべてを解消させたいという
ギリギリの欲求が籠められている、と僕は了解している
【ちんぴら】を収録したアルバム[誘惑]の後に発表された【HERO】は
目の前に突然現れた女にぬくもりを求めて
後先見ずに溺れて行ったチンピラの心情を余すところなく伝えている
ヒーローという概念、決して筋骨隆々のヘラクレスや
スーパーマンを指してはいない
己れの卑小感、無力感を知っているチンピラが
その卑小感、無力感ゆえに闇雲に疾走していく
その行為を指してヒーローと言うのだ」と書かれてますが
確かに甲斐さんご自身も、世界に一人しかいない「チャンピオン」ではなく
どの街角にもいるのが「ヒーロー」なんだとおっしゃってるし
熱狂的なファンがライブに詰めかけていたとはいえ
広く世間一般には、まだその存在感を示せてはいなかった頃の甲斐さんは
「自分には才能がないんじゃないか?」という不安を
メンバーの皆さんにも隠し、一人で抱え込んでおられたそうだし
亀和田さんのおっしゃる「チンピラ」のような心境でいらしたのかも知れません
巨額を投じたCMプロジェクトで
文字通り「ヒーロー」になられたけど
その初放送の瞬間まで「落ち着かなくて
チャンネルをNHKに合わせていて
あやうく見逃しそうになった(笑)」という言葉に
漠とした飢餓感を持ち、だからこそ自身の全存在を賭けた
「チンピラ」の面影が覗いているような気がします