5月中旬、滋賀県東近江市は政所(まんどころ)の里にて、新茶を摘む機会に恵まれた。
奥永源寺の渓谷、ひっそりとたたずむ里山で、600年を過ぎ脈々と受け継がれてきた「政所茶」。
奥永源寺の渓谷、ひっそりとたたずむ里山で、600年を過ぎ脈々と受け継がれてきた「政所茶」。
こんこんと湧く清水が山間を潤し、清流沿いを山藤の淡い薄紫が彩っていた。山の斜面に青々とした茶畑が広がっている。すでに早朝に来た人々で茶畑は賑わっていた。
政所茶
↑写真:読売新聞より
政所の魅力に惹かれて、近年都会から足繁く通う人も多いという。
縁あって訪ねた滋(しげる)茶園の園主、佐藤滋高さんも、政所茶に魅せられたひとり。実は医師でありながら、茶農家を運営されている。新茶の収穫時期には、週末ごとに茶園を訪ねる人たちで賑わうそうだ。
ちょうど茶園の隣に、滋賀県指定自然記念物の樹齢300年といわれる茶樹の古木が、地を這うように枝葉を広げていた。
政所茶は、化学肥料や農薬を使わず、挿木ではない種から芽吹いた在来種であるという。茶樹は点々と株ごとに植わっている。よく見るような、列が連なった茶畑ではない。株ごとに植わった茶樹は、機械で刈り取りにくいため、手作業を要するという。
さっそく茶畑に向かい、摘み方を習う。新茶の摘み方で「一芯二葉」と言う、新芽と若い2枚の葉のみを摘み取る方法があるが、ここでは「しごき摘み」と言って、出たばかりの若い葉は全て摘んで収穫する。
さっそく茶畑に向かい、摘み方を習う。新茶の摘み方で「一芯二葉」と言う、新芽と若い2枚の葉のみを摘み取る方法があるが、ここでは「しごき摘み」と言って、出たばかりの若い葉は全て摘んで収穫する。
枝の下の方から、濃い緑の硬い葉を残し、つやつやとした柔らかい葉だけを、眼で、手で確かめるように摘み取っていく。次第に若芽だけがまぶしく光って見えるような感覚になり、無心になって摘んでいた。
摘んだ茶葉は近くの製茶工場へ運ぶ前に、一旦、大きな籠の中へと入れていく。籠には、日除けのために筵で蓋がしてあり、籠の中でわずかに蒸された茶葉が、甘く花のような香りを放っていた。
休憩の合間、お茶を飲ませていただいた。普段慣れ親しんでいる、甘さや旨味が濃いものとは違う。この土地に育まれたミネラル感、心地良い渋味、さっぱりと飲み飽きない。ふいに爽やかな風が木々を吹きぬけた。眼下に、いつまでも見惚れていたい、美しい里山の情景が広がっていた。
<まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター記。読売新聞より>
摘んだ茶葉は近くの製茶工場へ運ぶ前に、一旦、大きな籠の中へと入れていく。籠には、日除けのために筵で蓋がしてあり、籠の中でわずかに蒸された茶葉が、甘く花のような香りを放っていた。
休憩の合間、お茶を飲ませていただいた。普段慣れ親しんでいる、甘さや旨味が濃いものとは違う。この土地に育まれたミネラル感、心地良い渋味、さっぱりと飲み飽きない。ふいに爽やかな風が木々を吹きぬけた。眼下に、いつまでも見惚れていたい、美しい里山の情景が広がっていた。
<まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター記。読売新聞より>