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横浜美術館『ドガ展』
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本展覧会のために特別に作られたドレス
大学を卒業してまもなくのころ、たしか『世界素描体系』という本 のページをめくっていたら、躍動感溢れる綺麗なドガのデッサンに思わず 目が止まりました。あまりに繊細で美しい線に魅了された記憶があ ります。今年の春に横浜美術館でドガ展が開催されることを 知ったときはとても嬉しくて、半年間展覧会の開催をずっと楽しみにして いました。自分にとってドガは最も重要な画家のひとりです。今回、まとまってドガの作品が見られるなんてとても至福の喜びに値します。一瞬の動きのなかに永遠の美を捉えたドガのデッサン力は、ずば抜けて秀逸かつテクニックもほぼ完 璧な領域に達しているような気がするのですが。
「デッサン は物の形ではない。物の形を見る見方である」(ドガ)
21歳 の時に75歳のアングルと出会い、「線を引きなさい。記憶に 頼るもよし、実物を見るもよし、できるだけたくさんの線を引きなさい」というアドバイ スを受けたそうです。
フランス語で星とか花形スターを意味する『エトワール』という作品はまるで妖精のような姿を表現しているかのようです。本展覧会の目玉の一つだと思います。
「人は見たいようにしか見ない。その意味では偽りだがその偽りこそが芸術を生み出す」(ドガ)
従軍し右目の視力が減退し、油彩からパステルという画材で紙の上に 指でダイレクトに描く手法(?)をとりながら傑作を次から次に生み出していく歴史的経緯と画業はとても興味深いですね。500種類のパステルを駆使して色彩の画域と領域を広げつつ、パステルの魔力に魅了されるドガは、月並みな言い方ですが、真の天才と呼んでもいいような気がします。ルノアールは「最大の彫刻家はロダンよりもむしろドガである」と述べているそうです。ドガは、空間の掴み方が卓越していて非凡な才能の持ち主であり、まるでフォーカスレンズで捉えたかのような観察力を駆使して素晴らしい作品を練り上げています。想像力と記憶をもとにして芸術の本質を生涯にわたって追求していく誠実な姿に学ぶべきことが沢山ありますね。ドガの作品をまとまって観ることができる絶好のチャンスだと思います。☆☆☆☆
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踊り子
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