4周年SPということで、蔵出しSPです。
何となく着地点が見えなくて、完成されなかった妄想のお話。
お話は、すべて妄想なので、お好きな方だけどうぞ!
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『I WISH』
~SHINGO ~
洗面所の床の冷たさに思わず、ぶるっと身を震わせる。さっぶいなあ。目の前の鏡に映る自分の姿。何やゆうても、イケメンやろ、俺。しゃこしゃこと、歯を磨く。おえ…。ついつい奥歯までぐううってやってまうねんな。おえ……。まあ、でも今日は、いや今日も、そんなん気にならん。
無事に歯も磨けたところやし、シャワー浴びるか。鏡に背を向け、風呂場に足を踏み入れ、シャワーの蛇口をひねる。冬場はちょっと水を出しとかんと、めちゃめちゃ冷たいからな。
少しして、湯気が風呂場を包み始めた。急いで着ていたガウンをせんたっきに入れる。シャワーに体を突っ込むと、
寒さで強張っていた体が温水によって、ふわんとなる。
『あ゛ー!天国や!』
楽しい今日がはじまった。今日は休みをとった。銀行員の仕事は今は時代の風向きもあって大変やけど、安定した職やし、俺は満足してる。真面目に働いてれば、こうやって休みを取ることも出来るわけやし。
お気に入りの赤いジャケットをきて、急ぎ足で待ち合わせ場所に向かう。街中のショーウィンドウに『SALE』の文字がひしめく。なんか買うてったろうかな。ずらり並ぶ店の中、何の気なしに一件の店に入った。落ち着いた雰囲気の服から、目がちかちかするような服まで、その店にはいっぱいあった。色々混ざって混沌としてるけど、それはそれとしてきちんと成り立ってて不思議な空間…。
どこから手をつけようかと、目を右往左往させてる俺の元に派手で奇抜な服を着た女店員が、寄ってきた。
『プレゼントか、何かお探しですか?』
『あ、いや、はい。そうなんすよ。』
『彼女さん?』
『えー、何かーありますかね?』
『そおですねえ…。予算とか決まってますか?』
『いや、特に。あ、でも、そんなに高額なのは、ちょっと。』
『あはは、そうですよねえ。ほんだらこれとか、どうですか?』
そういって店員は、まっピンクなラメ?いや、ビーズで全面を覆われた長財布を手にとり、俺に笑いかける。そんなん買うか!アホ!
『いや…財布は、趣味とかあるかもしれんし。』
『あ、そうですよね、あー、ほなあれとかどうですかね。結構珍しいですし、喜ばれると思いますけどね。』
『なんすか、あれ。』
店員が指差す先には、店内のガラスケースに入れられた謎の物体。
『キャンドルなんです。おもろい形でしょ?しかも、水の中でも使えるんですよ!!やから~、お風呂とかでも使えちゃいます。』
『ええ、今そんなんあるんすね。』
『はい。まあキャンドルにしては、若干お値段はっちゃうんすけどね。』
『あ、でも、おもろいし、あれにします。』
『有り難う御座います。ほなソウホウする間、店内ご覧になっててくださいね。』
『はーい。』
ソウホウ?包装ちゃうんかい。アホやな、コイツ。店内を見るいうても…プレゼント買うたし、特にもうここで見るもんないしな。そう思いながら、包装する店員の手を何となくぼんやりと眺める。
『このキャンドルね~、僕も持ってて、使ってるんですけど、匂いも良いし、リフレッシュできてすごいいいんですよ。きっと喜びますよ~。』
『はは、そうっすかね。』
ボク…?こいつ男かいな。マニキュアもぬっとるし、小指に指輪しとるし、アクセサリーも女子っぽいし、てっきり女かと…。
『ほな、いってらしゃ~い。』
無事に会計を済ませ、女子系男子に見送られながら、また俺は足をはやめて歩き出した。クリスマスはとっくに終わったけど、まだ街は寒い季節を乗り切ろうと色づいてる。待ち合わせ場所に着くと、黒いPコートを着て、待っていた。でっかいビルの外壁に凭れ掛かり、時折真っ白な息を吐く。直ぐに息は消えて無くなる。
『ごめんなー。』
『あ、来た!大丈夫。』
『ほな、行こか。』
『うん。』
お互いマフラーに顔を埋めて、歩き出す。自然と二つの手は繋がれた。
『今日は?何食べる?』
『んー、イタリアン。』
『またかい。』
『だって、信ちゃんも好きでしょ?』
『おん。ほな、あっこ行こか、あの~、前行った事ある、この辺のさ。』
『あー!ペスカトーレがおいしかったお店?』
『そうそう、』
照れくささから、少し急ぎ足になる。あっという間に、店についた。
『ふう~。』
『何する?とりあえずペスカトーレーは頼むやろ。それから?』
『アマトリチャーナも食べたいし、今日はお酒も飲む!』
『ほな、これとこれにしよか、すんまへーん!』
『ちょ、すんまへーんって…!』
『えっと、これと、これ…と、あとこれ。あ、それから、これって今日あります?』
『はい、御座います。』
『ほな、これも!以上で。』
少しはにかみながら、俺の方を見つめてる。
『失礼致します。』
そういって、長身のイケメン店員が、テーブルに来た。
『こちら、ご注文のワインになります。』
『わあー、すごい、ここからでも香るね。』
『ええやつやからな。』
『ちょっと、信ちゃん、ええやつって…もう。』
『いや、ええやつやろ!なあ、兄ちゃん!』
『そうですね、”ええやつ”です!』
『ほらあ!言うやんけ。』
『話あわせてくれたんでしょ!すみません、もう。』
イケメン店員は、笑顔で、グラスにワインを注ぎ、厨房のほうに消えていった。
『もう、テンションあがりすぎでしょ。』
『だって、楽しいやん!しゃあないやろ。』
『わたしも、楽しいよ。』
かわいいやっちゃ。さっきから、きょろきょろと店内を見渡したり、きらきらした目でこっち見たり。
『お前、なんか今日ええな。』
『え?』
『そういうの、』
首をかしげて不思議そうに、こっちを見てる。そーいうのが、アカンって言うてんねん。俺は心の中で突っ込みを入れながら料理をまった。
それから、美味しくイタ飯を食べた。
さすが評判の店やし、接客も丁寧やったし、満足や。
店を出ると、さすがに師走の夜風は、痛烈なものだった。頬をしぱしぱと、寒さが走る。
『さっぶ!』
『さむいね。』
『あ!せや!』
『どうしたの?』
『これ!プレゼント。』
『嬉しい!信ちゃんが選んでくれたの?』
『せやで。』
『ほんとに!?』
『何でウソつかな、あかんねん。』
『ありがと!!』
そういって、プレゼントを抱きしめて、少し涙ぐみながら目をキラキラさせてるこいつに、やっぱりオレは、惚れてもうてるんやな、と実感する。
感覚よりも先に、体動いて、強引に、抱きしめてしまう。
『っ…!』
『好きやで。』
『…知ってる。』
『なんやねん。』
愛を込めて、軽く小突く。
キレイに、ウェーブを描いた髪の毛を、さらさらと揺らして、最高のスマイルを、僕に、くれた。
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あとがきってやつです、はい。
本当は、これをオムニバス作品にしたかったのです。
プレゼントを買ったお店のショウタが主人公で、マイナス100度の恋。
ご飯を食べたレストランの店員タダヨシが主人公で、冬恋。
で、その中にまた、皆を登場させて、どんどんオムニバスにしたかったのです。
まあ、そんなことを考えていた2年前の冬…。実現ならず、完成は一作品のみとなりました。
せっかく書いたので、4周年蔵出しSPで大公開です!