尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

トカゲ

2009年03月12日 23時40分27秒 | 詩の習作
日光に暖められた石の上に
トカゲがはいあがり
動いてはとまり
とまっては動き出す

トカゲが思い出で
私の額は石であろうか
それとも
トカゲが私で
思い出を
はいずり回っているのだろうか

切り落とした
しっぽの黒い数が
白昼
私の歩みを
止める

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空の空を抱えて、詩を書くな詩を生きろ

2009年03月12日 00時43分01秒 | 詩の習作
空を抱えて、詩を書くな詩を生きろ

 口語の時代は冷えるのだ。饒舌から失語へ
落ちるこの切実さはなんだろう。人よりも早
く詩はたちまち殺されている。言っておくが
君、これは詩ではないぞ。優しい実験である。
 信じるに足りない太陽と資本の代わりに僕
らのけな気な空の空をつくろう。二本の腕を
前にさしだし輪をつくる。ほら、見えないも
のがこぼれるだろう。よって、輪の平面は水
平でなければならない、指先と指先の間に隙
間があってはならない。その奇妙な君の円の
姿勢を維持して欲しい。奇妙な姿勢こそ、君
の現在の位置だ。
 一分、一時間、一年、あるいは一生、風が
来るまで待て。運がよけりゃ、風は腕の内輪
を循環しはじめる。冷却の結果、幾分青みが
かった気体の円筒が現象するだろう。頭を差
し入れごくりと飲みたまえ。このうまさが君
の空だ。
 君が抱える空、すなわち垂直のチューブは、
無限の果てと地球を突き抜けている。断言し
よう、これが君の空ではないとしたら、そも
そもこの世には空がない。それでも虚無と交
接するような、君の奇妙な姿勢に『影』が近
寄る。君が何度も夢で聞いたとおりの事を、
影は囁くだろう。「君の空はどこにもない」
、と。ゆっくり振り返れば、鏡のように奴も
振り向くだろう。
 実験は終わった。詩は君の変わりに黙って
殺されてやる。こうして再び夢のようにある
いはラザロのように僕らは生き返る。
 詩が死んで僕らが生き延びること。すなわ
ち非詩を生きることだ。携帯電話を位牌のよ
うに抱え、僕らの顔も生活も、まるで人ごと
のように縮こまっている。ガラスの動物園。
 僕だって空の代わりに、軽トラックのハン
ドルを抱える。500円の青い汁を売るため
に走らねばならない。こんな夜、こんな雨だ。
ワイパーが窓をキュッキュッ、キュッキュッ
と掻き鳴らす。言葉でも音楽でもない。石英
とゴムの摩擦音に失語の悲哀を発見する。
 この時代、人が詩を厭うのではない。実は
詩が言葉を憎悪していると、詩人ならばわか
るだろう。僕はますます饒舌で、君はますま
す黙り込む。なるほど口語の時代はかように
寒い。君、詩を書こうとするな。あのひとの
ように、詩を生きてみろ。




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