尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

童話(メルヘン)

2009年03月18日 21時05分18秒 | 詩の習作

美しい影
醜いものの美しい影 *

と、黒田さんは書き残したが
今日の窓辺は黄昏れて
影と影でないものの境さえ
分からなくなってしまった

吊革にぶらさがっている僕は
ゆっくりと目をつぶり
瞼の裏庭にしまってある童話に
ぴしりムチを入れる

生涯怒ったことのない
悲しいロバが
小さな悲鳴をあげ
ふたたび
美しい歯をむき
僕の少年を歩きだす

ひとの
背負いきれなかったものを
背負い
星の印のある額を
左右に振って

方形のなかで
女たちも
男たちも
僕も揺れている


  *黒田三郎詩集『小さなユリと』「夕焼け」より

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