plainriver music: yuichi hirakawa, drummer in new york city

ニューヨークで暮らすドラマー、Yuichi Hirakawaのブログ

plastic or glass?/music to go or to sit down

2005年01月26日 | 音楽
アナログ音源であるカセットテープの音をマックに取り込む作業をしています。音質的に手持ちで一番優れているオーディオファイル(AIFF)で保存していくうちに、手持ちのカセットテープの音源全てをこれで保存していたらCDの数が結構なものになりそうになってきた。どちらかというとどーでも良い音源は圧縮されたMP3で取り込み始めた。何せ一枚のCDに収まる曲数が桁違い。音質はしかし、あまり魅力的ではない。何か音がザラついているように思えてしょうがない。情報量が桁違いに少ないのだからそれもそうなんですが。

昨今地下鉄に乗ったら一日に一人は必ずiPodで音楽を聴いている人を見る。みんなお気に入りの数百或いは数千曲をあの小さな箱にぶち込んで持ち歩き、クリック一つ(最近はホイールも追加)一発選曲、なんである。それらは当然圧縮されたMP3ファイル、デジタル音源のクリアな音を手軽に千曲から2千曲もの中から選べるのだからみんな使うわけだ。

そんな今日この頃、ふとこのオーディオファイルAIFFとMP3の関係が、食べ物を入れる容器の中でプラスティック製とそれ以外のもの、例えばガラスなり瀬戸物なりとの関係に似ているような気がしている。

アメリカで外食した後に残った料理を持ち帰ることは、別に恥ずかしくない。店側も当然のように持ち帰る容器を用意してくれる。そういう時の容器、数年前まではラミネートされた厚紙の蓋付きの厚めのアルミホイル製の器や、中華料理でお馴染み、ラミネート紙の箱が主流だったが、最近は本体も蓋もかなりしっかりしたプラスティック製のものが多くなった。画像左側、本体は黒で(白もある)蓋は半透明の丸いやつです。

繰り返し使うためのタッパーウェアはアメリカ人が発明した。先進国ではずっと前から普及していたがどちらかというと「買う品物」であり、外食時にタダでもらう器はペラペラのものが多くはなかったか?たとえ厚めにできていても、電子レンジに数回かければ、もーヘロヘロになってしまうものばかり。

ここ数年大分普及している前出タイプは蓋の閉まりもしっかりして、電子レンジにも30回くらいはかけても使えそうなシロモノである。なにせ、同じ容器が99セントショップで「売っている」のだから世の中豊かになったもんである(?)

でも、その黒い容器から直にスプーンなり箸なりを突っ込んで食べるのはさすがに味気ない。ちゃんとテーブルに座って食事するなら、やはり陶器の器でないと・・。

つまり、MP3の音源はテイクアウトなのだ。音楽のテイクアウトは、80年代に生まれたウォークマン以来、みんなにお馴染み。でも長い間、腰を据えて聴くならレコードなのっという意見はしばらく通っていたと思うんですが。レコードがCDにその座を明け渡すとほぼ同時にCDウォークマンが出たから、CDはかつて無い勢いで室内・室外両方で聴かれてきた。同時に、CDの高音質をフルに楽しむにはそれなりにアンプとスピーカーがないとダメ、というのも常識だった。

で、ここに来てMP3登場。音質はCDより悪い。今まで音質向上一直線だったこの市場で初めての後退だ。でもそんなものどうでもいいやいって言わせるほど小さい(CDウォークマンのシャトル並み)
MP3プレーヤーが登場、気が付いたら周りはお揃いのたばこの箱に、これまたお揃いの白いヘッドホンを突っ込んで自分の音楽世界に浸っている。

ミニディスクは結局アメリカでは全然流行らなかった。CD以外の録音をする人だったら結構持っていたかもしれない。少なくとも僕の周りのミュージシャンには、自分の演奏を録るために持ってくる人多数、でした。音質はDAT並み、でもディスクだから巻き戻し、早送り、そして恐怖の「デッキがテープ喰っちゃったよぉぉぉ!」現象も皆無ときたからみんな飛びついたのなんのって。かくいう僕もその一人。何度MDプレーヤーとステレオコンデンサマイク入りの巾着袋をドラムバッグに入れて仕事に向かったことか。

ただ残念なことにMDで録音されるのは確かにデジタル高音質だけど、MDプレイヤーから出た音源は全てアナログになってしまうのだ。つまり、デジタルファイルとして輸出できないのだ。これはMD発売直後俊足で法律で禁止された。なんぢゃそれ、て言いました、それが分かった時は。いや、その、ステレオ2チャンネルで録ったMD音源で、32とか64チャンネルでミックスダウン されたスタジオ盤に対抗しようなんて端から思ってません。ただ自分の演奏のプレゼンに使うためにCDを焼こうとしたのだ。今でもそういうライブ演奏をMDに録ってアナログ音源としてマックに取り込み、CDを焼いてます。それしか方法ないし。と思ったら、去年の終わりに、ついにDATを越えるデジタル音楽録音ができるハードディスクレコーダーが出ました。これについては実体験後ということで。

食事にせよ音楽鑑賞にせよ、生活のある部分が以前よりは豊かになってきている。でも、食事にせよ音楽にせよ、まだまだ最高でしかも正しい姿というのは変わっていない。それは「生」である。食事は、料理されたその場で食べる、音楽は演奏されているその場で聴く。これですって。これを越える体験を持つのはおかしい。だって無いのだから。あ、でも究極のアンプとかスピーカー、はたまた究極の部屋なんて風にオーディオを極めちゃった人には、つたない音響装置でのライブなんて不満足になるかも。・・気をつけよう。特にドラマーは。ただでさえドラムマシンやシークエンサー、ループにサンプルなんてシロモノに職を奪われてるのだから。これ以上失業したら、プチどころぢぁない、ポチになるかも。ああ、でも明日また雪がニューヨークを襲うぅ。

*ミックスダウン・・同時進行や多重録音で録音された各楽器の音量や音質、音位置などをまとめる作業。これがマズいと折角多額の予算と大量の時間を費やして録音した曲がまるでかっちょワルくなるからあなどれない。ミックスダウンも立派な芸術です。

*DAT・・Digital Audio Tape カセットテープのような磁気テープにデジタル情報としての音源を記録するもの。テープのサイズはDVTが少し薄くなった程。

*ループ・・数秒から数分に渡って録音したものをコピペして複製した音。大概のドラムパターンならだれか上手い人が4-5発叩けば一曲分が瞬時に完成されるという、恐ろしいもの。前出のシークエンサーがもっと高等になったものという見方もある。規則正しいビートを叩けばおいらはドラマー、という時代は、すばる星団の彼方に吹っ飛んでいきました。