一本目 十一時四十五分 エントリー
水温はニ十七度。やはりダイビングは寒さを耐えてするものでは無い。
透明度は三十メートルを越えている。
海底も溢れる光に白く耀いている。守谷鳥居下とは雲泥の差がある。
水中移動。二列縦隊で沖に向かった。
私はいつも通り最後尾に着いた。
隣はスタッフのK田だ。人数が多いのでスタッフ総出動だ。
水深は徐々に増して行った。
シマが海底に伏せた。皆それに合わせた。ガーデンイールと御対面である。
ズームリングを廻して最長焦点にした。と言っても50mmである。にじり寄っても紐の切れ端程度にしか写らない。
それに加えて浮遊物が多すぎる。ピントリングが前後する。
※ 本来、ボツですが・・・。 別の年に沖縄の別の場所で撮影 ↓
そうそうに諦めて次の被写体を捜した。
直径五メートルほどの根。デバスズメが群れている。クマノミ・ユカタハタ・チョウチョウウオが数種類。被写体には困らない。
フラッシュの角度を調整。ネクサスを構えた。ファインダーはマスク越しでもよく視える。大枚を叩いた甲斐があった。
オートフォーカスは水中に於いても稼働している。水中に浮遊物などが沢山なければ大丈夫そうだ。
カメラ任せでほぼ問題は無い。あるとすれば撮影距離に応じてスピードフラッシュの角度調整を怠ったときだろう。
いずれは照射角度をより広く光量の大きい物に変えることが必要であろう。
シャッター間隔がNIKONOS-Vの時の半分ほどになった。被写体に恵まれれば「あっ」と言う間に撮り尽くしてしまうだろう。
齣数を意識して撮影する必要がある。
カメラを架純に向けた。架純はレギュレターを口から離した。
レギを咥えた口元は漫画の蛸のように突き出している。あまり見栄えの良いものでは無い。まして女性ならばなおさらだ。
丸ポチャを捜した。珊瑚にへばりついて隙間を覗き込んでいる。マクロの眼になっていれば周囲に気を配る余裕は無い。
残圧チェック。やはり久々に深く潜るとエアの消費量が激しい。呼吸を意識してゆっくりと務めることにした。
点在するいくつかの根を廻りながらエントリー地点に向かった。
ボートの真下。残圧が心持たない。エアを節約するために深度を浅く保った。
根の上でクマノミの撮影。フィルムはまだ残っている。数カットを撮影。
モンガラカワハギが現れた。この魚はなかなか私を近づけさせない。
いままで数カット撮影しているがまだ満足の行く画は撮れていない。
レンズは50mm。距離2m。あと1m距離を詰められれば鮮やかな斑紋がフィルムに定着できるのだが。
K田が手招きをしている。『なんだ?』近寄って行った。
膨れ上がったヒトヅラハリセンボンがダイバーの玩具になっていた。撮影。
暫くするとまたK田がやってきた。私の残圧をチェックし深部に誘う。
根の底の方でシマが水中ライトで億を照らしている。『センセイ』には光る貝と記されている。
先日のTV特番『慶良間より生中継・幻の光る貝』例のやつだ。
穴の奥を覗き込んだ。撮影するにはレンズが短い。それにさほど興味を惹かれる生物では無かった。
一瞥して再び根の上に。残圧チェック。三十。潜水時間は四十分。水面まで三メートル。
減圧停止はすでに不要。まだ十分ほどは水中に居られる。フィルムもまだ数枚残っている。
だが、体力を次に為に温存する方が利口な選択だろう。・・・・・・浮上。
※『光る貝』ミノガイ科のウコンハネガイであるらしい。
発見個体数が僅かでまだ詳しいことは不明。
発光のメカニズムの解明もこれからの課題である。
スターンデッキが空いている間に素早く機材を片付ける。
ウェットスーツを脱ぎ捨てて裸になった。冷たい麦茶で喉を潤す。。生き返った気がした。
ハウジングを清水で簡単に洗い煙草を咥えた。
次々にエキジットしてきた。神主は他よりもタンクが少々大きい。
「十二リットルですか?」
「ええ、エアの消費量が激しいので特別に頼んだんですよ」
「タンクが大きい場合は割増し料金ですか?」
「それはキツイ・・・」
興奮の冷めやらぬT村を誘いバウデッキへ。
昼食はいつものホカ弁。メニューは天麩羅。
船上の食事はもう少しあっさりした物の方がありがたいのだが。
ハウジングの水滴が切れたことを確認してリアを外した。
内部を点検。浸水は何処にも無い。耐圧性能に問題は無い。
※ 余談ではあるがダイバーの使用する用語には誤用と思われるものがいくつかある。
その一つが『すいぼつ』である。
例えばOリングの不備でカメラの内部に水が入り込んだとき「このカメラ『すいぼつ』している」と言う。例え船上にあってもだ。
『すいぼつ』は漢字で書けば間違いなく『水没』であろう。
すると意味が異なりはしないか。
最初のころは戸惑ったことがあった。正しく浸水とか漏水とかと言うべきではないだろうか。
流石になれたが違和感は拭いきれない。
レンズポートも外した。ハウジングのフロント部とスピードフラッシュが付いているが一般の撮影には何ら支障がない。
残りのフィルムを船上で消化。
「あそこが去年お前たちが三人で泳いで行った海岸だ」座間味島の唐馬浜を指さした。
「今年も泳ぐつもりです」
「よし、俺も泳ごう。但し島までは行かないがな」
「ゴーグルを持って来たんですよ」
支度の長いT村に先んじてブルワークから飛び込んだ。
水音。飛沫。慶良間の海を肌で直に感じて浮上。
「オイ、若いなー」とS氏の揶揄。
T村は島まで往復。
「フィンを履いて行けば良かったです」珊瑚で足を切ったようだ。
つ づ く
※掲載順位がランダムなのでダイビング記事の目次を作りました。
年代順となってます。
ダイビング編目次