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昼 食
日本から持ちこんだ食料がまだかなり残っていた。
パンの類は殆どが魚の餌となったがキャンディとレトルト赤飯は手つかずのままだった。
テーブルに着くとすぐにラシードがやってきた。
「ゲンキ?」
「今日は俺がマジックを見せてやる。・・・・ペーパーはあるか?」
ラシードが胸のポケットからレシートを出した。
「もう少し大きいのは?」
「チョット待ッテ」
B5の紙をどこからか持ってきた。
受けっとってテーブルの上で折り紙。
「オー! エアプレン」
「シザース プリーズ」
「ナッシング」
『・・・・・・さてどうするか?』
ラシードがテーブルの上のナイフを取り上げた。
鋏ほどの切れ味は望めないがまあいいだろう。
紙飛行機をふたつに切り裂いた。
八片の切れ端がテーブルの上に散らばった。
一番大きい切れ端※をラシードに持たせた。
細片を広げテーブルの上に並べた。H・E・L・Lの四文字。それを指さしながら
「ヘル!。・・・・・・アンダースタンド?」
「イエース」ラシードがうなづいた。
「ヘルってなーに?」とM美。そこそこの?英会話はこなすが日常会話に出そうもない単語はやはり分からないと思える。
「地獄」と短く答えラシードの方を向いた。
「オープン」ラシードの手の中に残った最後の一片を開かせた。
十字架が出来ていた。
「ゴッド ・・・ これを持ってドーニーに乗れ。お前には神がついている。セーフティだ」テーブルの上の四文字を丸めてポケットに仕舞った。
いつもならこれで拍手喝采となるのだが・・・・・・ラシードが変な顔をしている。
「どうした?」
「ジス イズ クルス ゴッド ノー」
「クルス イズ ゴッド」
「コレ ジーザス クリスト・・・・・・ワタシノ カミサマ チガウ」
「ここはキリスト教じゃ無いのよ。イスラムかヒンズーじゃないの?」
「はぁっ!そうか!・・・・・じゃあしょうがないな」
「ノー プロブレム シンパイナイ シンパイナイ」
別に心配は全くしていないが。ちょっと失敗。
日本は八百万の神々がいて、その他に仏さまがいて、クリスマスがあって・・・それから・・・なんでもありの国だからネー。
「飯にするか?」三人を促して席を立った。
いつものように適当に料理を盛り合わせてテーブルに戻って来た。
マジシャンが待っていた。紙を一枚広げている。
・・・・・・
今頃は「ワタシ マジシャン モルディブ デ イチバン ジーザス クリスト」と大騒ぎしているだろう。
・・・・・・
ガイドの田中が入って来た。
「来たぞ」スタッフの席はレストランの奥にある。定席に座った。
M & Y がレトルト赤飯(私の所持品です)を持って立ち上がった。
・・・・・
「どうだった?」
「驚いていた。顔には出さなかったけれど喜んでいたみたいだったよ」
「夕方ダイビングサービスに来ればログブックにサインをしてくれるって」
「欲しいサインでもないけれどな」
「珈琲が飲みたくないですか?」とE君。ラシードを呼んだ。
「コーヒープリーズ・・・ツー」
「ハーイ チョット 待ッテ」
E君のカップに珈琲がなみなみと注がれた。私のカップには少量である。
「オー モウ 飲ンデシマッタ」
お茶目な奴だ。だが毎度こう懐かれるといささか疲れる。
食事を終えるとキャンディを取り出した。
ラシードに渡す。あてが外れたような、当惑したような顔をしている。
「お前にではないぞ。 お前の娘にだ」
M美とY子が一生懸命通訳している。
チップを手渡し立ち上がった。
「一緒に記念写真を撮ろうよ」
「分かった。並べ」ラシードと三人を一緒に撮影。
「ぽーさんも」とE君。
「俺はいい。アルバムに貼ることはたぶん無いと思うので」
「写真 オクッテ クダサイ」とラシード。
女達が住所をメモさせている。
つ づ く