過去の呪いを回避せよ 越生梅林に救われた話
~週5勤務、話が違う件について~
2月前半のシフトができた。
確認して、固まる。
…あれ、週5勤務って、
1月までの話じゃなかったっけ?
話が違うよ。完全に違う。
嫌な予感はしてたんだよ。
うやむやにされる気がしてさ。
やっぱりじゃん!
しかし、リーダークルーのIさんがまだ万全じゃないから、
そのせいか?
いずれは解放されるのか?
そう考えながらも、
心の片隅では 「でも、稼げるよ」と思っている自分がいる。
そう、稼げば遊べるのだ。
遊ぶために働く、それがこの世の理(ことわり)。
~過去の呪い、発動寸前~
先日の埼玉コールで、梅の時期に埼玉へ行くことが決まった。
どうやら、おかーさんが寂しそうなのだ。
名古屋旅行は当面無理そうなので、
ここでワンクッション入れておこう、
という計画である。
撮影もできるし、一石二鳥。
すると、おかーさん、嬉しそうに云い放った。
「梅林を観に行きましょう!」
――いいじゃないか、梅林。風情がある。
そう思ったのも束の間、
彼女の次の一言で思考がフリーズした。
「青梅の梅林がいいわよね!」
吉野梅郷(よしのばいごう)か!?
…あれはダメだ!!
かつて暮らした地。
幸せな思い出と、辛すぎる記憶が
ミルフィーユのように積み重なった、呪われし土地。
あんな場所へ行ったら、
メンタルクラッシュして、たちまち過呼吸を起こすに決まっている。
あの地に残してきた想いが、
尋常じゃない勢いで感情を揺さぶるのだ。
実際、以前にちょっと懐かしくなって、
グーグルであの場所を見たことがあった。
その瞬間は、「あ〜懐かしいな」くらいで済んだのだが…、
夜になって地獄を見た。
情緒と呼吸が乱れ、胃と腸が暴動を起こした。
完全にトリガーだった。
つまり、これは意志の力でどうこうできるものではない。
あの場所へ行けば、間違いなく、爆発四散する。(さよなら)
~過去の呪い vs おかーさんのポジティブ論~
恐怖に駆られ、私は必死で訴えた。
「いや、あそこは無理だよ!」
すると、おかーさんは ド正論 を繰り出してきた。
「そんな後ろ向きな考えじゃダメよ。物事は良い方向に考えるの!」
→いや、それは正しいけどね?
「過去は過去。これからは良いことしか起こらないのよ」
→ いや、あの地では悪いことしか起きなかった歴史があったの。
それが問題なの。
「梅がキレイに咲いていて、気分がいいはず!」
→ その梅の花でメンタルが崩壊の危機なんだよ。
「色んなお店も出ていて、買い物も楽しいわよ」
→ 感情のダークホールに落ちて、買い物どころじゃないと思うよ?
「おいしいものもたくさんあるのよ」
→ いやいや、下手すりゃ吐くレベルですよ!?
…悪い人じゃないんだが、なんか微妙にズレてる。
人の痛みに、若干、鈍いというか。
多分、過呼吸の仕組みを
理解していないからこうなる。
梅を観に行く計画を立てたことを、
激しく後悔した。
~過去は過去。…本当に?~ 「前向きに捉えられるかどうかの境界線」
辛い思い出があった場所に、人は行けるのか。
私はこれを深く考察したい。
少なくとも、何事もなかったかのように平常心で行ける人間は、
鋼のメンタルの持ち主だと思う。
誇っていい。
感情を殺して赴ける人も、
相当強い人間なんだろう。
世の中には、家族の事故現場に献花に行く人の話もあるけれど、
私にはとても真似できない。
そこに渦巻くであろう、あらゆる思念に、
私は完全に呑まれるだろう。
いや、むしろ、
残留思念まで拾って発狂する自信がある。
そんな繊細すぎる私に対し、
おかーさんは決して鈍いわけじゃない。
むしろ、彼女の人生もなかなか
ハードモードであることは知っている。
思わぬ出来事で伴侶を失い、
子供たちの不祥事の後始末に奔走し、
何度も疲れ果てながらも、それでも頑張って生きている。
彼女のポジティブさは、
天性のものというより、
「これを身につけなきゃ乗り切れない」
という境地で習得したものなのだろう。
彼女はきっと、前向きにならざるを得なかったからこうなった。
だからこそ、私は彼女を見捨ててはならないような、
謎の脅迫観念に取り憑かれている。
――いや、もうこれは呪いの領域では?
そして、かつて救えなかった自分の母の姿を、
彼女に投影しているのだろう。
で、そんな葛藤を抱えていたところに、吉野梅郷の話である。
が、話は突然変わった。
~助かった…!! ありがとう、越生梅林~
会話の途中で、おかーさんの口から、
突如として、別の梅林の名が飛び出した。
「越生梅林(おごせばいりん)はおもしろいわよ」
…はい?
「え? 越生梅林? 青梅じゃなくて?」
「越生よ。毎年行くの」
まったく悪気のない声。
え?
さっきまで青梅の話してたよね?
吉野梅郷って云ってたよね?
どうやら、おかーさんの中では、
青梅、越生、吉野梅郷、越生梅林が、
見事にごっちゃごちゃになっていたらしい。
つまり…、
行くのは「越生梅林」だった。
助かった。
心底ホッとした。
助かった…!!(二度目)
「そこの梅なら、きっときれいでしょうね」
と思わず口にする私。
――いや、同じ梅の花だろ?
と思う人もいるかもしれない。
でも、私にとっては天と地ほどの差がある。
~場所は違えど、春は来る~
結局、どの梅林も
春になれば花を咲かせる。
でも、どこでその春を迎えるかで、
気持ちは大きく変わる。
しかしながら、
あの梅の香りを吸いこめば、
私の中で、何も起きないとは、
断言はできない。
実際、視覚を通して入る情報に
情緒が乱れるのは事実だが、
嗅覚だって、
立派なトリガーになり得る。
あの地で、春を迎えるたび吸いこんだ
花の香りは、
幸福の象徴だった。
けれど、それはあまりにもあっけなく
崩れてしまった。
そして、今でも、
その残響が胸の奥でくすぶっている。
こんな穏やかな田舎道でさえ、
ふいに記憶を拾いあげてしまえば、
生理的反応は、不可避。
身体は勝手に反応する。
だから、梅に囲まれる自分が、
少し怖い。
毎年の春に、訪れる、
小さな脅威。
桜だったら、こんな気持ちにはならない。
でも、梅の花は…、
静かに見送るのが、ちょうどいい。
そっと、花の下を歩くくらいがちょうどいい。
それが、本音かも知れない。
かつて、桃源郷と呼ばれた地で暮らした、
名残であるから、仕方がないこと。
でも、今年の春は、
越生からはじまるようだ。
愛しい人と、腕を組んで歩きたいと思うよ。
~週5勤務、話が違う件について~
2月前半のシフトができた。
確認して、固まる。
…あれ、週5勤務って、
1月までの話じゃなかったっけ?
話が違うよ。完全に違う。
嫌な予感はしてたんだよ。
うやむやにされる気がしてさ。
やっぱりじゃん!
しかし、リーダークルーのIさんがまだ万全じゃないから、
そのせいか?
いずれは解放されるのか?
そう考えながらも、
心の片隅では 「でも、稼げるよ」と思っている自分がいる。
そう、稼げば遊べるのだ。
遊ぶために働く、それがこの世の理(ことわり)。
~過去の呪い、発動寸前~
先日の埼玉コールで、梅の時期に埼玉へ行くことが決まった。
どうやら、おかーさんが寂しそうなのだ。
名古屋旅行は当面無理そうなので、
ここでワンクッション入れておこう、
という計画である。
撮影もできるし、一石二鳥。
すると、おかーさん、嬉しそうに云い放った。
「梅林を観に行きましょう!」
――いいじゃないか、梅林。風情がある。
そう思ったのも束の間、
彼女の次の一言で思考がフリーズした。
「青梅の梅林がいいわよね!」
吉野梅郷(よしのばいごう)か!?
…あれはダメだ!!
かつて暮らした地。
幸せな思い出と、辛すぎる記憶が
ミルフィーユのように積み重なった、呪われし土地。
あんな場所へ行ったら、
メンタルクラッシュして、たちまち過呼吸を起こすに決まっている。
あの地に残してきた想いが、
尋常じゃない勢いで感情を揺さぶるのだ。
実際、以前にちょっと懐かしくなって、
グーグルであの場所を見たことがあった。
その瞬間は、「あ〜懐かしいな」くらいで済んだのだが…、
夜になって地獄を見た。
情緒と呼吸が乱れ、胃と腸が暴動を起こした。
完全にトリガーだった。
つまり、これは意志の力でどうこうできるものではない。
あの場所へ行けば、間違いなく、爆発四散する。(さよなら)
~過去の呪い vs おかーさんのポジティブ論~
恐怖に駆られ、私は必死で訴えた。
「いや、あそこは無理だよ!」
すると、おかーさんは ド正論 を繰り出してきた。
「そんな後ろ向きな考えじゃダメよ。物事は良い方向に考えるの!」
→いや、それは正しいけどね?
「過去は過去。これからは良いことしか起こらないのよ」
→ いや、あの地では悪いことしか起きなかった歴史があったの。
それが問題なの。
「梅がキレイに咲いていて、気分がいいはず!」
→ その梅の花でメンタルが崩壊の危機なんだよ。
「色んなお店も出ていて、買い物も楽しいわよ」
→ 感情のダークホールに落ちて、買い物どころじゃないと思うよ?
「おいしいものもたくさんあるのよ」
→ いやいや、下手すりゃ吐くレベルですよ!?
…悪い人じゃないんだが、なんか微妙にズレてる。
人の痛みに、若干、鈍いというか。
多分、過呼吸の仕組みを
理解していないからこうなる。
梅を観に行く計画を立てたことを、
激しく後悔した。
~過去は過去。…本当に?~ 「前向きに捉えられるかどうかの境界線」
辛い思い出があった場所に、人は行けるのか。
私はこれを深く考察したい。
少なくとも、何事もなかったかのように平常心で行ける人間は、
鋼のメンタルの持ち主だと思う。
誇っていい。
感情を殺して赴ける人も、
相当強い人間なんだろう。
世の中には、家族の事故現場に献花に行く人の話もあるけれど、
私にはとても真似できない。
そこに渦巻くであろう、あらゆる思念に、
私は完全に呑まれるだろう。
いや、むしろ、
残留思念まで拾って発狂する自信がある。
そんな繊細すぎる私に対し、
おかーさんは決して鈍いわけじゃない。
むしろ、彼女の人生もなかなか
ハードモードであることは知っている。
思わぬ出来事で伴侶を失い、
子供たちの不祥事の後始末に奔走し、
何度も疲れ果てながらも、それでも頑張って生きている。
彼女のポジティブさは、
天性のものというより、
「これを身につけなきゃ乗り切れない」
という境地で習得したものなのだろう。
彼女はきっと、前向きにならざるを得なかったからこうなった。
だからこそ、私は彼女を見捨ててはならないような、
謎の脅迫観念に取り憑かれている。
――いや、もうこれは呪いの領域では?
そして、かつて救えなかった自分の母の姿を、
彼女に投影しているのだろう。
で、そんな葛藤を抱えていたところに、吉野梅郷の話である。
が、話は突然変わった。
~助かった…!! ありがとう、越生梅林~
会話の途中で、おかーさんの口から、
突如として、別の梅林の名が飛び出した。
「越生梅林(おごせばいりん)はおもしろいわよ」
…はい?
「え? 越生梅林? 青梅じゃなくて?」
「越生よ。毎年行くの」
まったく悪気のない声。
え?
さっきまで青梅の話してたよね?
吉野梅郷って云ってたよね?
どうやら、おかーさんの中では、
青梅、越生、吉野梅郷、越生梅林が、
見事にごっちゃごちゃになっていたらしい。
つまり…、
行くのは「越生梅林」だった。
助かった。
心底ホッとした。
助かった…!!(二度目)
「そこの梅なら、きっときれいでしょうね」
と思わず口にする私。
――いや、同じ梅の花だろ?
と思う人もいるかもしれない。
でも、私にとっては天と地ほどの差がある。
~場所は違えど、春は来る~
結局、どの梅林も
春になれば花を咲かせる。
でも、どこでその春を迎えるかで、
気持ちは大きく変わる。
しかしながら、
あの梅の香りを吸いこめば、
私の中で、何も起きないとは、
断言はできない。
実際、視覚を通して入る情報に
情緒が乱れるのは事実だが、
嗅覚だって、
立派なトリガーになり得る。
あの地で、春を迎えるたび吸いこんだ
花の香りは、
幸福の象徴だった。
けれど、それはあまりにもあっけなく
崩れてしまった。
そして、今でも、
その残響が胸の奥でくすぶっている。
こんな穏やかな田舎道でさえ、
ふいに記憶を拾いあげてしまえば、
生理的反応は、不可避。
身体は勝手に反応する。
だから、梅に囲まれる自分が、
少し怖い。
毎年の春に、訪れる、
小さな脅威。
桜だったら、こんな気持ちにはならない。
でも、梅の花は…、
静かに見送るのが、ちょうどいい。
そっと、花の下を歩くくらいがちょうどいい。
それが、本音かも知れない。
かつて、桃源郷と呼ばれた地で暮らした、
名残であるから、仕方がないこと。
でも、今年の春は、
越生からはじまるようだ。
愛しい人と、腕を組んで歩きたいと思うよ。