〔約束〕
埼玉のおかあさんとの約束があった。
今度K君が来たら、聞いて確かめること。
健康保険はどうするのか。
仕事はどうするのか。
長野で暮らすつもりなのか。
つまり、私たちはやり直すのか。
で、K君は「自殺する」といいつつも生きて現れた。
で、買い替えた自動車の小細工に夢中になっていて、
とても「生きる死ぬ」と真剣に考えている人にはみえない。
‥人生を楽しんでいるよう。
話す気も失せて、
とりあえず、今日は一日空いているから、
ミオが喜びそうな施設を探したけどなくて、
いきなり「新潟に釣りしにいこう」ってなった。
その道中で、色々話さなくてはと、
頭の中整理していたら、
離婚して、8年目?
鬱と診断されて、もう9年。
アルコール地獄は8年続き、
信州に越してきて‥何年?
育児で一番大変な時期は、とうに過ぎていた。
私の病気も酷かった時期は、とうに過ぎていた。
大変なことは、きっとまだまだ続くと思うけど、
もう今さら、ひとりでも頑張れると、想えてしまって‥。
整理してゆくうちに、
人生で一番怖かった体験を、うっかり思い出してしまったのだ。
暗闇のなかで、私は変死体となって、
もうミオには会えないっていう。
あの小さなアパートの中で、ミオは私を探して泣き続ける。
私は帰れない。
とりかえしのつかないミスをした。
明日のパンも買えないという状況で、
お金をどうにかしなくてはならなかった。
あの闇が頭を割って這い出して、
あたり一面黒い闇。
大きな耳鳴りと、頭痛。絶望と緊張で発狂しそうになった。
恐ろしいフラッシュバック。
呼吸がコントロールできなくなる。
息を、苦しくなるまで吐き続け、
苦しさで激しく息を継ぐ。
過呼吸で、苦しくて涙が出て、
薬を飲んだ。
K君は車を非常灯をつけて止めてから、
私に薬を飲ませた。
眠っていたミオも目を覚ましてしまい、
この子の前では泣くまいと誓ったのに、
ミオを抱きしめて大泣きした。
真夜中の関越道。
新潟には行くべきではなかったかも‥。
薬は即効で効いて、
呼吸も落ち着いてから、ミオを抱きしめたまま眠った。
ミオの息が私の手にかかって、生きているんだと強く想った。
私は涙を流したままで、それでも生きていると想った。
ここはもう、あの場所じゃない。
もう、危険なものはない。
何度も、何度も言い聞かせた。
〔本当のこと〕
昼すぎに、ようやく正気になって、
帰り道は、頭もしっかりしてきた。
土産を買おうってことになったとき、
K君が少し寝るから、二人でゆっくり買い物してきてというんで、
ミオと買い物し、ふたりでアイスを食べた。
ミオは私たちにどうなって欲しいのか、
本当は聞くべきなんだろう。
今が、そのチャンスだなと思いつつ、
「‥ナルトは、もうすぐ終わりそうな気がする」
と、いきなり漫画の話になった。
「やっぱり、最後はサスケ君も救われて、
ナルトが火影になっておしまいかな。そうなるといいな。
ママは、ナルト君ははじめずっと独りだったけど、
今は沢山の仲間ができて、本当によかったって思ってるよ」
なんの話だよ。そうじゃないだろ。
結局、ナルトの最終回予想大会になって、終わった。
何も話せなかった。
K君にもあれこれ聞けなくて、
正月は、ミオは埼玉に行かせる。
多分私は、介護で動けないだろうし、
動けるなら、仕事しようかと思う‥、などと。
つまり、
私たち三人で長野で過ごすってことにはならないと、
遠まわしに言った。
‥けど、通じているかどうかは知れない。
確かめるのも億劫だ。
ひとつ言えるのは、
こんな私をK君が養えるわけがないという事実。
一緒にいれるはずもない。
私を一番知っている私が、
どうにか薬でコントロールできるだけ。
独りの方が、きっといいのよ。
その方がきっと、みんな生きやすい。
そういう生き方も、仕方ないんだってこと。
埼玉のおかあさんとの約束があった。
今度K君が来たら、聞いて確かめること。
健康保険はどうするのか。
仕事はどうするのか。
長野で暮らすつもりなのか。
つまり、私たちはやり直すのか。
で、K君は「自殺する」といいつつも生きて現れた。
で、買い替えた自動車の小細工に夢中になっていて、
とても「生きる死ぬ」と真剣に考えている人にはみえない。
‥人生を楽しんでいるよう。
話す気も失せて、
とりあえず、今日は一日空いているから、
ミオが喜びそうな施設を探したけどなくて、
いきなり「新潟に釣りしにいこう」ってなった。
その道中で、色々話さなくてはと、
頭の中整理していたら、
離婚して、8年目?
鬱と診断されて、もう9年。
アルコール地獄は8年続き、
信州に越してきて‥何年?
育児で一番大変な時期は、とうに過ぎていた。
私の病気も酷かった時期は、とうに過ぎていた。
大変なことは、きっとまだまだ続くと思うけど、
もう今さら、ひとりでも頑張れると、想えてしまって‥。
整理してゆくうちに、
人生で一番怖かった体験を、うっかり思い出してしまったのだ。
暗闇のなかで、私は変死体となって、
もうミオには会えないっていう。
あの小さなアパートの中で、ミオは私を探して泣き続ける。
私は帰れない。
とりかえしのつかないミスをした。
明日のパンも買えないという状況で、
お金をどうにかしなくてはならなかった。
あの闇が頭を割って這い出して、
あたり一面黒い闇。
大きな耳鳴りと、頭痛。絶望と緊張で発狂しそうになった。
恐ろしいフラッシュバック。
呼吸がコントロールできなくなる。
息を、苦しくなるまで吐き続け、
苦しさで激しく息を継ぐ。
過呼吸で、苦しくて涙が出て、
薬を飲んだ。
K君は車を非常灯をつけて止めてから、
私に薬を飲ませた。
眠っていたミオも目を覚ましてしまい、
この子の前では泣くまいと誓ったのに、
ミオを抱きしめて大泣きした。
真夜中の関越道。
新潟には行くべきではなかったかも‥。
薬は即効で効いて、
呼吸も落ち着いてから、ミオを抱きしめたまま眠った。
ミオの息が私の手にかかって、生きているんだと強く想った。
私は涙を流したままで、それでも生きていると想った。
ここはもう、あの場所じゃない。
もう、危険なものはない。
何度も、何度も言い聞かせた。
〔本当のこと〕
昼すぎに、ようやく正気になって、
帰り道は、頭もしっかりしてきた。
土産を買おうってことになったとき、
K君が少し寝るから、二人でゆっくり買い物してきてというんで、
ミオと買い物し、ふたりでアイスを食べた。
ミオは私たちにどうなって欲しいのか、
本当は聞くべきなんだろう。
今が、そのチャンスだなと思いつつ、
「‥ナルトは、もうすぐ終わりそうな気がする」
と、いきなり漫画の話になった。
「やっぱり、最後はサスケ君も救われて、
ナルトが火影になっておしまいかな。そうなるといいな。
ママは、ナルト君ははじめずっと独りだったけど、
今は沢山の仲間ができて、本当によかったって思ってるよ」
なんの話だよ。そうじゃないだろ。
結局、ナルトの最終回予想大会になって、終わった。
何も話せなかった。
K君にもあれこれ聞けなくて、
正月は、ミオは埼玉に行かせる。
多分私は、介護で動けないだろうし、
動けるなら、仕事しようかと思う‥、などと。
つまり、
私たち三人で長野で過ごすってことにはならないと、
遠まわしに言った。
‥けど、通じているかどうかは知れない。
確かめるのも億劫だ。
ひとつ言えるのは、
こんな私をK君が養えるわけがないという事実。
一緒にいれるはずもない。
私を一番知っている私が、
どうにか薬でコントロールできるだけ。
独りの方が、きっといいのよ。
その方がきっと、みんな生きやすい。
そういう生き方も、仕方ないんだってこと。