カルロ・ロヴェッリ著 すごい物理学講義 河出書房新社 2017
イタリア語の原題は「現実は目に映る姿とは異なる」( 2014)。
これをコンパクトにした「七つの短い物理学講義」があり、その邦訳が
「世の中ががらりと変わって見える物理の本」という題で同じところから出ている。
著者はループ量子重力理論の名づけ親。
一般相対性理論と量子力学の統合を目的にした「量子重力理論」として超ひも理論とループ理論とがある。
超ひも理論は連続的、ループ理論は離散的。
日本では前者の紹介が圧倒的で、後者について解説したものが少ない。
<はじめに>
20世紀の物理学は、物質・エネルギー・空間・時間について学校で教わる内容とひどく異なる考え方へ導いている。
量子の「場」は、事象と事象の間で情報を交換しながら、空間や時間や物質や光を描写する。
現実とは、粒状の事象の網の目に他ならない。
各事象を結び付ける力学は、確率論に支配される。
空間も、時間も、物質も、エネルギーも、確率の雲の中に溶け込んでしまう。
超ひも理論が成立するためには超対称性粒子の発見が期待される。
ループ量子重力理論は超対称性粒子が存在しなくても成立する。
2013年にヒッグス粒子の存在が確認され、CERNがエネルギーレベルを上げ、次には超対称性粒子を発見するだろうと期待されたが、想定されていたエネルギーの範囲内には存在していなかった。
<古典>
ガリレオは歴史上初めて実験を行った人物。アリストテレスが言う「自由落下」を実験。
それまで信じられていたように「一定の速度」で落下しているのではなかった。
一定なのは「速度」でなく、「加速度」だった。
しかも、この加速度はすべての物体にとって等しかった。
ニュートンはガリレオとケプラーの観測結果を仔細に研究。
地表すれすれに回っている「小さい月」が存在すると仮定。
小さい月は円軌道の中心に向かって加速度を持っていて、
軌道半径と速度から計算すると9.8m/s2 。
ガリレオの計測した落下加速度と同じだった。
天空と地上の区別は消え、宇宙とは物体が真直ぐに進む巨大な空間だと考えられる。
物体は互いに重力と呼ぶ普遍的な力によって惹きつけられている、と。
重力を除けば、自然界で観察されるほとんどすべての現象は、電磁気力に支配されている。
その働きを解明するにはニュートンの世界に大掛かりな修正を施さなければならなかった。
この修正は現代物理学が生まれる契機となった。
電磁気力がどのように作用するかを明らかにしたのはファラデーとマクスウエル。
19世紀におけるもっとも非凡な実験者となったファラデーは、数学的知識を持たなかったので、ほとんど方程式を用いることが無かった。
物体の間で直接的に力が働いているのではなく、空間のいたるところに何らかの「実体」が存在しており、電気や磁気を帯びた物体から影響を受け、また同時に電気や磁気を帯びた物体に影響を与えていると考えた。
ファラデー以来、その実体は細い線で表現され「力線」と呼ばれているが、今日の物理学で「場」と呼んでいるものに他ならない。
ファラデーの着想を方程式に書き換えたのがマクスウエル。
この方程式は、ファラデーの力線が海の波のように振動する可能性を示唆していた。
マクスウエルの計算では、力線の波が移動する速度は光の速度と完全に等しかった。
光とは、ファラデー力線の揺らぎに他ならない。
<曲がる時空間>
ニュートン物理学では、速度は相対的であって、物体それ自体の速度は存在しない。
それならマクスウエル方程式が定める光の速度は何と比較した時の速度なのか。
そこから時間と空間の概念を巡っていろいろな疑問が生じる。
アインシュタインは、時間と空間を統合した時空間の概念によって、矛盾を解決した。
アリストテレスにとっても、デカルトにとっても、事物とは拡がりを持つもの。
拡がりとは事物に固有の性質。
事物を取り除いて何もない「空っぽの空間」が存在するだろうか。
アインシュタインはニュートンの空間を重力場と同じものだと考えた。
空間は実体として存在し、震えたり、曲がったり、歪んだり、捻じれたりする。
アインシュタインはたいへん努力してリーマンの数学を習得し、友人たちの助けを得て、時空間のリーマン曲率Rabを記述する方程式を導いた。
この方程式はリーマン曲率が物質のエネルギーに比例することを示していた。
つまり、ある場所に存在する物質の量が多ければ多いほど、その場所における時空間の歪みは大きくなる。
「宇宙は無限なのか、果ては有るのか。」人類が繰り返し問うてきた疑問。
宇宙が球面だと考えれば、有限だが果てはないという解が得られる。
地球を例にすれば、北極から赤道を目指して歩き始めたとする。
手に矢印を持ち、先端は常に正面に向け、赤道に到着したら矢印はそのままで、身体だけ左を向き、しばらく東に進む。それから矢印は動かさないで、左を向いて進む。
北極に帰り着いたとき、辿ってきた経路は閉じた「ループ」をなし、矢印の向きは出発したときと違う方角を指している。
「ループ」を巡る間に矢印は少しずつ回転し、回転する角度によって空間の曲率を測定できる。
この「ループ」がループ量子重力理論の核心。
<量子>
光にはエネルギーを伝達する機能がある。
そのため、物に光を当てると暖かくなる。
光を照射すると微弱な電流を生じる物質がある。
光のエネルギーが原子から電子を飛び出させている。
この光電効果は光の振動数が高く、個々の光子のエネルギーが十分に大きいときに起きる。
振動数が低ければ、光子の数が多くても、この現象は起きない。
光子は電磁場の量子。
特殊相対性理論と両立する量子理論を「場の量子論」と呼ぶ。
原子の中の電子が持つエネルギーも「量子化された」特定の値だけをとる。
原子核からの距離が「特別な」値の軌道にだけ電子は存在でき、軌道から軌道へ跳躍する。
20世紀を通じて基本的な「場」の整理が進み、ひととおりの「素粒子の標準理論」が70年代に完成。
15種類の素粒子の場:電子、クォーク、ミューオン、中性子、ヒッグス粒子など。
世界は場と量子の2つの実体からなるのではなく、1つの実体から成る。
<時空間の量子>
プランク長さ:世界に存在する最小の長さ。
Lp = √(h G / c3)
空間の分割には限りがある。
ブロンスタイン 1930s「際限なく分割できる連続体として空間を捉える限り、量子力学と一般相対性理論は両立しない。」
重力場の量子的性質を研究。
スターリンの秘密警察が処刑1938。
ホイ―ラー:「ブラックホール」の命名者。
量子的空間のイメージ:相異なる幾何学的図形が重なりあってできた「確率の雲」。
海面のように波が砕け、あちこちが泡立っている。
「空間の波動関数」として一般相対性理論の軌道方程式「ホイ―ラー = ド・ウィット方程式」を立てる。
解の一つに閉じた線を見つける:ループ。
〇 空間の量子
ファラデーの力線こそ「場」という概念の起源。
ホイ―ラーの「ループ」は量子重力場のファラデー力線。
絡まり合うループからできた3次元の網目のようにして、量子重力のファラデー力線が空間を織りなしている。
空間の体積とは、その領域にどれだけ重力場が存在しているかを表す。
隣り合う2つの小領域は、小さな表面によって隔てられている。
この面積Aは
A = 8πL2p√{ j (j+1)} jは整数あるいは半整数。
物理学では、このjをスピンと呼んでいる。
空間の量子的状態は、スピンを割り当てられたリンクからなる網目状の「スピンネットワーク」と呼ぶグラフで表される。
〇 時間は存在しない
物理学がニュートン力学の前提だった不活性な容れ物としての空間概念を捨てたとき、
不活性な流れとしての時間概念も捨てた。
重力場の量子は空間の中にあるのではないのと同様に、時間の中で展開するのでもない。
量子の相互作用の結果として時間が生じてくる。
相対性理論によれば時間の流れる速さは、ある場所では遅くなり、ある場所では速くなる。
重力場の量子論では、この局所的な時間さえも存在しない。
<検証とブラックホール>
量子重力理論が正しいかどうかは、宇宙論への応用が明らかにしてくれる可能性が有る。
CERNによるヒッグス粒子の確認は「一般相対性理論と量子力学は正しく、素粒子の標準模型は正しい」とするものだった。
物理学者がCERNに期待していたのはヒッグス粒子ではなく、超対称性粒子だった。
人工衛星プランクには、観測データと宇宙論的標準模型の間に何らかの不一致が生じるものと期待されていた。
ブラックホールの周りでは、空間の曲率があまりにも大きくなるため、空間そのものが崩壊し、時間が流れなくなる。
ブラックホールは高温の物体と同じように熱を発している。
少しずつエネルギーを、つまりは質量を失い、小さくなっていく。
ホーキングは、これを「蒸発」と呼んでいる。
ブラックホールを熱くしているのは、ループ理論によれば、ブラックホールの表面にある空間の量子である。
ブラックホールに入っていく情報は、つねにエネルギーを帯びている。
エネルギーを吸収するとブラックホールは大きくなり、その表面積は大きくなる。
外から見れば、ブラックホールに吸い込まれた情報はブラックホールの面積に関係づけられるエントロピーと変わりない。
来年はCERNでどんな粒子が観測されるのか、
次世代の望遠鏡はわたしたちにどんな景色を見せてくれるか、
世界をより適切に記述うるのはどんな方程式か、
わたしたちにはまだ答えられない。
それどころか、事実を正しく記述している筈の方程式がまだ解けていないこともあるし、
その方程式が何を意味しているのかさえ分からないこともある。
どこまでも小さなものは、この世界に存在しない。
無限はこの世界に存在しない。
空間の量子は時空間の泡に紛れる。
相互にやり取りされる情報から、事物の構造が生まれる。
領域と領域をつなぐ相関性が、情報を織りなしている。
こうした世界の総体を、わたしたちは方程式で記述できる。
《コメント》
「そこに何も無い空間」が有るという認識は、それ自体で矛盾を含んでいます。
認知発達の過程を観れば、空間・時間の概念は、カントのいうような意味で先験的でなく、個人ごとに多少の曲折を経て獲得し、その人毎に何らかの相異を含んでいるように推察されます。
学校で学んだ物理学で云う時間・空間の概念は、そうした主観的な概念と違って普遍性を持っていると信じてきたが、光速を超える速度は存在しえないという制約を巡って混乱が生じ、時間・空間の物理学的概念が仮想ではないかと疑うようになっていました。
時間・空間は虚像のようなものであって、実在しないと考えるのは、何やら仏教の神秘な世界に迷い込んだかのようにも思えました。
ロヴェッリの物理学は、そんな混乱を解決する可能性を示唆するものでした。
イタリア語の原題は「現実は目に映る姿とは異なる」( 2014)。
これをコンパクトにした「七つの短い物理学講義」があり、その邦訳が
「世の中ががらりと変わって見える物理の本」という題で同じところから出ている。
著者はループ量子重力理論の名づけ親。
一般相対性理論と量子力学の統合を目的にした「量子重力理論」として超ひも理論とループ理論とがある。
超ひも理論は連続的、ループ理論は離散的。
日本では前者の紹介が圧倒的で、後者について解説したものが少ない。
<はじめに>
20世紀の物理学は、物質・エネルギー・空間・時間について学校で教わる内容とひどく異なる考え方へ導いている。
量子の「場」は、事象と事象の間で情報を交換しながら、空間や時間や物質や光を描写する。
現実とは、粒状の事象の網の目に他ならない。
各事象を結び付ける力学は、確率論に支配される。
空間も、時間も、物質も、エネルギーも、確率の雲の中に溶け込んでしまう。
超ひも理論が成立するためには超対称性粒子の発見が期待される。
ループ量子重力理論は超対称性粒子が存在しなくても成立する。
2013年にヒッグス粒子の存在が確認され、CERNがエネルギーレベルを上げ、次には超対称性粒子を発見するだろうと期待されたが、想定されていたエネルギーの範囲内には存在していなかった。
<古典>
ガリレオは歴史上初めて実験を行った人物。アリストテレスが言う「自由落下」を実験。
それまで信じられていたように「一定の速度」で落下しているのではなかった。
一定なのは「速度」でなく、「加速度」だった。
しかも、この加速度はすべての物体にとって等しかった。
ニュートンはガリレオとケプラーの観測結果を仔細に研究。
地表すれすれに回っている「小さい月」が存在すると仮定。
小さい月は円軌道の中心に向かって加速度を持っていて、
軌道半径と速度から計算すると9.8m/s2 。
ガリレオの計測した落下加速度と同じだった。
天空と地上の区別は消え、宇宙とは物体が真直ぐに進む巨大な空間だと考えられる。
物体は互いに重力と呼ぶ普遍的な力によって惹きつけられている、と。
重力を除けば、自然界で観察されるほとんどすべての現象は、電磁気力に支配されている。
その働きを解明するにはニュートンの世界に大掛かりな修正を施さなければならなかった。
この修正は現代物理学が生まれる契機となった。
電磁気力がどのように作用するかを明らかにしたのはファラデーとマクスウエル。
19世紀におけるもっとも非凡な実験者となったファラデーは、数学的知識を持たなかったので、ほとんど方程式を用いることが無かった。
物体の間で直接的に力が働いているのではなく、空間のいたるところに何らかの「実体」が存在しており、電気や磁気を帯びた物体から影響を受け、また同時に電気や磁気を帯びた物体に影響を与えていると考えた。
ファラデー以来、その実体は細い線で表現され「力線」と呼ばれているが、今日の物理学で「場」と呼んでいるものに他ならない。
ファラデーの着想を方程式に書き換えたのがマクスウエル。
この方程式は、ファラデーの力線が海の波のように振動する可能性を示唆していた。
マクスウエルの計算では、力線の波が移動する速度は光の速度と完全に等しかった。
光とは、ファラデー力線の揺らぎに他ならない。
<曲がる時空間>
ニュートン物理学では、速度は相対的であって、物体それ自体の速度は存在しない。
それならマクスウエル方程式が定める光の速度は何と比較した時の速度なのか。
そこから時間と空間の概念を巡っていろいろな疑問が生じる。
アインシュタインは、時間と空間を統合した時空間の概念によって、矛盾を解決した。
アリストテレスにとっても、デカルトにとっても、事物とは拡がりを持つもの。
拡がりとは事物に固有の性質。
事物を取り除いて何もない「空っぽの空間」が存在するだろうか。
アインシュタインはニュートンの空間を重力場と同じものだと考えた。
空間は実体として存在し、震えたり、曲がったり、歪んだり、捻じれたりする。
アインシュタインはたいへん努力してリーマンの数学を習得し、友人たちの助けを得て、時空間のリーマン曲率Rabを記述する方程式を導いた。
この方程式はリーマン曲率が物質のエネルギーに比例することを示していた。
つまり、ある場所に存在する物質の量が多ければ多いほど、その場所における時空間の歪みは大きくなる。
「宇宙は無限なのか、果ては有るのか。」人類が繰り返し問うてきた疑問。
宇宙が球面だと考えれば、有限だが果てはないという解が得られる。
地球を例にすれば、北極から赤道を目指して歩き始めたとする。
手に矢印を持ち、先端は常に正面に向け、赤道に到着したら矢印はそのままで、身体だけ左を向き、しばらく東に進む。それから矢印は動かさないで、左を向いて進む。
北極に帰り着いたとき、辿ってきた経路は閉じた「ループ」をなし、矢印の向きは出発したときと違う方角を指している。
「ループ」を巡る間に矢印は少しずつ回転し、回転する角度によって空間の曲率を測定できる。
この「ループ」がループ量子重力理論の核心。
<量子>
光にはエネルギーを伝達する機能がある。
そのため、物に光を当てると暖かくなる。
光を照射すると微弱な電流を生じる物質がある。
光のエネルギーが原子から電子を飛び出させている。
この光電効果は光の振動数が高く、個々の光子のエネルギーが十分に大きいときに起きる。
振動数が低ければ、光子の数が多くても、この現象は起きない。
光子は電磁場の量子。
特殊相対性理論と両立する量子理論を「場の量子論」と呼ぶ。
原子の中の電子が持つエネルギーも「量子化された」特定の値だけをとる。
原子核からの距離が「特別な」値の軌道にだけ電子は存在でき、軌道から軌道へ跳躍する。
20世紀を通じて基本的な「場」の整理が進み、ひととおりの「素粒子の標準理論」が70年代に完成。
15種類の素粒子の場:電子、クォーク、ミューオン、中性子、ヒッグス粒子など。
世界は場と量子の2つの実体からなるのではなく、1つの実体から成る。
<時空間の量子>
プランク長さ:世界に存在する最小の長さ。
Lp = √(h G / c3)
空間の分割には限りがある。
ブロンスタイン 1930s「際限なく分割できる連続体として空間を捉える限り、量子力学と一般相対性理論は両立しない。」
重力場の量子的性質を研究。
スターリンの秘密警察が処刑1938。
ホイ―ラー:「ブラックホール」の命名者。
量子的空間のイメージ:相異なる幾何学的図形が重なりあってできた「確率の雲」。
海面のように波が砕け、あちこちが泡立っている。
「空間の波動関数」として一般相対性理論の軌道方程式「ホイ―ラー = ド・ウィット方程式」を立てる。
解の一つに閉じた線を見つける:ループ。
〇 空間の量子
ファラデーの力線こそ「場」という概念の起源。
ホイ―ラーの「ループ」は量子重力場のファラデー力線。
絡まり合うループからできた3次元の網目のようにして、量子重力のファラデー力線が空間を織りなしている。
空間の体積とは、その領域にどれだけ重力場が存在しているかを表す。
隣り合う2つの小領域は、小さな表面によって隔てられている。
この面積Aは
A = 8πL2p√{ j (j+1)} jは整数あるいは半整数。
物理学では、このjをスピンと呼んでいる。
空間の量子的状態は、スピンを割り当てられたリンクからなる網目状の「スピンネットワーク」と呼ぶグラフで表される。
〇 時間は存在しない
物理学がニュートン力学の前提だった不活性な容れ物としての空間概念を捨てたとき、
不活性な流れとしての時間概念も捨てた。
重力場の量子は空間の中にあるのではないのと同様に、時間の中で展開するのでもない。
量子の相互作用の結果として時間が生じてくる。
相対性理論によれば時間の流れる速さは、ある場所では遅くなり、ある場所では速くなる。
重力場の量子論では、この局所的な時間さえも存在しない。
<検証とブラックホール>
量子重力理論が正しいかどうかは、宇宙論への応用が明らかにしてくれる可能性が有る。
CERNによるヒッグス粒子の確認は「一般相対性理論と量子力学は正しく、素粒子の標準模型は正しい」とするものだった。
物理学者がCERNに期待していたのはヒッグス粒子ではなく、超対称性粒子だった。
人工衛星プランクには、観測データと宇宙論的標準模型の間に何らかの不一致が生じるものと期待されていた。
ブラックホールの周りでは、空間の曲率があまりにも大きくなるため、空間そのものが崩壊し、時間が流れなくなる。
ブラックホールは高温の物体と同じように熱を発している。
少しずつエネルギーを、つまりは質量を失い、小さくなっていく。
ホーキングは、これを「蒸発」と呼んでいる。
ブラックホールを熱くしているのは、ループ理論によれば、ブラックホールの表面にある空間の量子である。
ブラックホールに入っていく情報は、つねにエネルギーを帯びている。
エネルギーを吸収するとブラックホールは大きくなり、その表面積は大きくなる。
外から見れば、ブラックホールに吸い込まれた情報はブラックホールの面積に関係づけられるエントロピーと変わりない。
来年はCERNでどんな粒子が観測されるのか、
次世代の望遠鏡はわたしたちにどんな景色を見せてくれるか、
世界をより適切に記述うるのはどんな方程式か、
わたしたちにはまだ答えられない。
それどころか、事実を正しく記述している筈の方程式がまだ解けていないこともあるし、
その方程式が何を意味しているのかさえ分からないこともある。
どこまでも小さなものは、この世界に存在しない。
無限はこの世界に存在しない。
空間の量子は時空間の泡に紛れる。
相互にやり取りされる情報から、事物の構造が生まれる。
領域と領域をつなぐ相関性が、情報を織りなしている。
こうした世界の総体を、わたしたちは方程式で記述できる。
《コメント》
「そこに何も無い空間」が有るという認識は、それ自体で矛盾を含んでいます。
認知発達の過程を観れば、空間・時間の概念は、カントのいうような意味で先験的でなく、個人ごとに多少の曲折を経て獲得し、その人毎に何らかの相異を含んでいるように推察されます。
学校で学んだ物理学で云う時間・空間の概念は、そうした主観的な概念と違って普遍性を持っていると信じてきたが、光速を超える速度は存在しえないという制約を巡って混乱が生じ、時間・空間の物理学的概念が仮想ではないかと疑うようになっていました。
時間・空間は虚像のようなものであって、実在しないと考えるのは、何やら仏教の神秘な世界に迷い込んだかのようにも思えました。
ロヴェッリの物理学は、そんな混乱を解決する可能性を示唆するものでした。