記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

講習予備検査と認知症検査

2010年10月25日 07時56分57秒 | Weblog
昔、運転免許の更新を忘れ、必要を感じないまま免許を持っていませんが、認知症検査には多少関心があります。
警察庁が講習予備検査(認知機能検査)の詳細を紹介しているサイト
 http://www.npa.go.jp/annai/license_renewal/ninti/index.html
は、そんな人にも大変有益です。
ネットで検索すれば医師たちが開発した認知症検査を紹介した定番のサイトがヒットしますが、講習予備検査はそれに劣るものでありません。
既に膨大な受験者数のデータが蓄積しているでしょうから、統計処理をして分析した結果が公開されたら認知症の理解にも大変貢献するでしょう。

検査と名が付けば、それだけで恐れるのは一般的人情ですが、賢い人は「この検査は出鱈目に答えても落ちることはないらしい」と仲間たちにアドバイスしているようです。
苦労して運転免許を獲得し長年の経験で運転技能も向上したのに、一片の検査結果で既得権を剥奪するというのは法律的にも難しい問題があるのでしょう。
事故を起こしたりしてから医師が認知症の診断を下すまでは、警察は認知症について介入しないということのようです。

検査法を開発し標準化しようする人にとっては、検査の信頼性と妥当性ということが最も大切です。
専門的には、そのチェックは統計学的視点から行うものだと考えられているのではないかと思いますが、実際には受験者がどのような気持ちで受けたか、検査についてどのような印象を持ったか、ということの方が重要です。
ちなみに、沢山の絵を憶えて、手掛かりの言葉に対して想起するという検査項目の中に、おそらく多くの受験者が違和感を持っただろうと推測されるものがあります。
「昆虫」という手掛かりで「カタツムリ」を想起したら正答とする項目です。
「昆虫」と言えば節足動物門の六脚類だけで、「カタツムリ」は軟体動物門の陸貝だということは、大概の人が義務教育の段階で教わっているのではないかと思います。
残念ながらこういうことで検査の妥当性と信頼性は著しく損なわれているでしょう。
単に「虫」をヒントにしたなら、また違ったかも知れません。
「カタツムリ」は「デンデン虫」とも言うし、「蝸牛」と虫の部首の字を使い、今の日本でも「虫」と看做す人がいないでもないでしょう。
しかし「マムシ」から象形文字の「虫」を作り、架空の生き物を含め、全ての生物を「虫」と言った時代もあったそうですが、今の日本語で貝類に「虫」を含める人はあまりないのではないでしょうか。
「昆虫」がヒントになる絵を作りたければ、「チョウ」「カブトムシ」「セミ」など、身近で適当な昆虫がいくらでもいるのに、何故訂正しないのか疑問です。

講習予備検査の見当識、記憶再生、時計描画という3つの下位検査は、認知症検査として最も基本的で主要な下位検査です。
既存のどんな認知症検査法もおそらく講習予備検査ほどに多くのデータで標準化してはいないだろうと邪推しています。その意味では、これから認知症検査を刊行しようとする人たちにとってこの検査が宝の山であることは否定できません。

広報は、この検査を受けるにあたって特別な準備は要らないとしていますが、手順を詳しく公開してあり、むしろ受験者は十分に下調べをし、模擬検査を受けるなどすることを奨励していると理解した方が良いようです。
A、B、C,Dの4つの検査バージョン全部に目を通し、憶えてから受験した人の中には、それを後ろめたいと思う人も有るようですが、むしろ皆がそのようにして、なおかつ本番で成績が悪かったら要注意だ、としたいのだと思われます。

記憶は想起する度に記銘を更新し、質も量も変容します。記憶の過程を検査すれば、それだけで記憶は少し違ったものになります。
記憶の心理学的研究の最初の方法が再学習法というものだったのはそのためですが、多種多様な記憶研究法の原型ですし、再学習法こそあらゆる検査法の模範だと思います。

知能検査や実力テストを受験する前に模擬試験や練習をするのは邪道だと考える向きは今でもあるかも知れません。
いわゆる暗記学習(機械的記憶)の検査をしようとした心理学者は、被験者が「意味づけ」「こじつけ」の方法をしないようにと、かつて「無意味綴り(ナンセンス・シラブル)」を作ったりしました。しかし、どんな単語でも何らかの連想の鍵になり、「こじつけ」が行われます。そこで連想の容易さを測って『連想価』と呼び、連想価を揃えてテストをしようとしたり、あるいは被験者の恣意的な「意味づけ」を妨害する作業を挿入したりもしているようです。
「講習予備検査」で絵を見た後、想起する前に五十音の仮名を書く作業が入っているようですが、そのような妨害作業の類かも知れません。
しかし、どんな記憶検査であれ、人はいつも自発的に連想し易いもの、覚え易いものを探し、それを覚えようとします。それが知的活動の本性ですから、今では連想の過程そのものをどこまで測定できるかが問われるようになってきた、と思います。

「時計の描画」は面白い検査です。ややっこしい採点をやっているのを読むと何のための検査か疑いたくもなりますが、検査としては時間認知ではなく、空間認知の検査と考えた方が良いでしょう。
路線バスの運転手が運転中に脳卒中になり、「半側無視」と言って視野の左あるいは右半分が消え、しかも本人は消えたことに気付かないでバスを突然Uターンさせ逆方向に走らせたという話を聞いたことがあります。
「半側無視」などの認知障害を調べるために時計の絵を描かせた研究が多いようです。
時計を半分だけ描いたりするようです。
認知症の検査では「時間の見当識」だけでなく、「空間の見当識」も欠かせない下位検査だと思いますが、運転免許に関係して、もっといろいろ工夫があっても良さそうです。
文字と図形ばかりの検査でなく、映像を使って変化する風景のフロー速度などについて面白い認知機能検査を作るのは難しいことでないでしょう。

高齢者の運転としては「時間の見当識」より「反応時間」が大きな問題だが、それはどうなっているのでしょう。
これは自分のこととしてですが講習予備検査の沢山の絵を見ていたら、それが何であるかは直ぐ分かるのに、名前が浮かぶまでにワンクッション時間が掛かる場合があり気になりました。
実際の「検査」には制限時間があるようですが、その制限にひっかからない範囲で認知の老化現象が生じており、そういうことの方が問題でないかと思います。

警察庁には、もっと頑張って良い認知機能検査を作ってもらいたいものです。


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