南の海上には台風11号、12号がうろうろしていて、西日本は豪雨、東日本は猛暑の日が続いている。エアコンなしではとても生きていけないだろう。家の外へ出て自転車に乗っても強い日差しと熱風で目が回る。
こんなに暑くては、峠越えは無理だろうか。それとも山へ入れば涼しいだろうか。
暑い時期に自転車旅行をしたときのことを思い出そうと、自分の過去のブログを開いてみたよ。
去年の夏の盆堀林道・入山峠越えはそれほど暑かったという記憶がない。だが、一昨年の夏の鈴懸峠、雛鶴峠越えはとても暑かったと思う。日本中が猛暑の真っ只中で、熱中症で人が死亡するというニュースが毎日のように報じられていた時だ。鈴懸峠を上っていたときは、きつい勾配に加えて猛烈な暑さで、心臓は爆発寸前だったし、ペダルを止めればめまいでふらふらするし、山の中でたった一人本当に熱中症で死んでしまうかと思ったほどだよ。けれど、不思議に大丈夫だった。
だから、まず大丈夫だろう。そう信じて出かけることにしたんだ。
<西八王子→醍醐林道→和田峠→栃谷坂沢林道→明王峠下→美女谷鉱泉→相模湖>
西八王子駅北口のはずれ、駐輪場の向かいの隅っこにちょっと引っ込んだ一角がある。ここなら自転車を組むのに人の邪魔にならないだろうと、輪行袋を開いて作業に取り掛かった。ところが、通勤前の男や女が入れ替わり立ち替わりやってきて、近くで煙草を吸うんだよ。それまで気がつかなかったが、よく見るとそこにはちゃんと端の方に吸い殻入れが設置してあって、喫煙スペースのようになっていたんだ。もっとも、多くの人がそこで煙草を吸うので、あとから吸い殻入れを設置したのかもしれないが。それで、コンクリートの地面に散っている煙草の灰が風で舞うやら、吸い殻入れでくすぶる煙が臭いやら、自転車を組むには最悪の条件だった。次に来るときは別の場所にしよう。
大急ぎで自転車を組み、輪行袋を片付けると逃げるように出発したよ。
陣馬街道へ出て車の多い街道を少し行き、中央道の下をくぐってから裏道に入り、大沢川沿いに進むことにした。日差しはまだそれほど強くはない。ペダルはよく回る。
都道61号に出たところで右へ坂を上って行く。トンネルを抜けて、陣馬街道と交わる川原宿交差点の手前のコンビニで水と食料を仕入れたよ。
そこからは素直に陣馬街道を行くことにした。西八王子駅付近の同じ街道の車の多さとはウソのような違いだ。
前方に山が見えてくると俄然気分がよくなる。空には雲が多く日差しはまだそれほど強くない。白い雲の隙間から覗いている小さな青空がとてもきれいだよ。
北浅川の流れを眺めながらの、とても気持ちのいいサイクリングだ。車はほとんど通らないし、涼しげな水音がいつまでも続く。
時々流れを覗き込むとこんなにきれいだ。いよいよ山に来たという感じがしてくる。
全く足に負担を感じないほどの緩やかな上りが続いているよ。最高に気持ちのいいペダリングで進んでいく。山がどんどん近付いてくるね。今のところ暑さはそれほど感じない。都会では既に30度は越えているだろうな。
見覚えのある“夕やけ小やけふれあいの里”の建物だ。去年、盆堀林道を訪れたときに通ったんだ。平日で人はほとんど見当たらないね。
ここが安下川と、醍醐川の合流点だ。左は和田林道(陣馬街道)、右は醍醐林道へと続くが、ともに和田峠へ向かう。こんな説明はするまでもないね。
醍醐川沿いの道をゆるやかに上って行くとやがて盆堀林道・入山峠への分岐点に着く。懐かしいね。
醍醐林道へはまっすぐ直進する。
はじめて走る道にワクワクするが不安もある。無事に走り抜けることができるだろうかね。
日差しはいくらか熱くなってきたが木陰は気持ちがいい。それに醍醐川の流れの音も涼しげだ。
まだこの辺りの勾配はそれほどでもない。吹いてくる山の風がとても涼しい。扇風機にもエアコンにもない涼しさだ。だから山はいい。
空が高い。真夏なのに秋の空のようだね。
日向の上りはちょっとつらいよ。夏だからね。日差しが強くなってきた。首の後ろがじりじり焦げていく。
さあ、いよいよ醍醐林道だ。ドキドキするよ。
少し行くと道が分かれている。ここにも鎖のゲートがある。右はににく沢線という林道だ。
左の方へ鎖のゲートを越えて進む。
ゲートのすぐ先にきれいな流れがあった。
この辺りから勾配がきつくなり始めたよ。まあ、そこそこ日陰があるので助かる。
きついきつい。12~13%くらいはありそうだよ。醍醐林道の上りがこんなにきついとはね。
水場だ。飲みはしなかったがやはり山の水だ、冷たくてとても気持ちがいい。
きつい勾配がどこまでも続くよ。
汗が体中から噴き出し、心臓も壊れる寸前だ。たまりかねて木陰で休む。日陰と風がなんと涼しいことだろう。
何度もペダルを止めて、暴れる心臓を鎮め、くらくらする目まいの治まるのを待つ。急勾配の坂と暑さのせいだろう。一昨年の鈴懸峠越えのときとまったく同じだ。無理をせずに休み休み上ろうかね。
ようやく勾配がいくらか落ち着いてきたようだよ。それでもきついことはきついが、どうにかペダルを回し続けることはできる。
だいぶ上まで来たね。いくらか景色が開けてきたよ。
どうやらここが醍醐林道のピークかね。その先は下りになっている。ここが醍醐峠なのだろう。標高はおよそ745mだ。
景色は木々に遮られていて思うように見られない。
500mほど下ると道はいきなりダートに変わった。
ダート区間はわずかで、ひょっこり和田峠に出たよ。お疲れさん。
峠の茶屋は閉まっていた。平日だからかね。その茶屋のベンチで休んでいると、陣馬街道を八王子側からロードの青年が一人元気よく上ってきたよ。大汗をかいて、それが大量に顔からこぼれおちている。だが、疲れた様子も見せずに、息をはずませて明るく笑っている。なんでも、大学のサイクリング部10人ほどで来ているそうだ。
青年のあとだいぶ時間が経ってからようやくまた一人上ってきた。
「あれが2番手です」
と仲間であることを教えてくれた。まだ、あとからあとから上ってくるのだろう。
「大勢で走るのは楽しいだろうね」
「はい」
珍しそうにこちらの自転車を眺めて、
「ランドナーですね」
「そう」
「ランドナーていうと、ユーラシアとかありますよね」
「でもこれは丸石だよ。15,6年前に買ったものだ」
「錆びもなく、塗装もきれいですね」
「家の中に置いて、磨いているからね」
「やっぱりそれですよね」
と親指を立てていう。自転車はだいじにしなくちゃねという意味だろうか。嬉しいね。
さわやかな青年だったよ。若いというのはいいなあ。元気だし明るいし。その青年がシャッターを切ってくれた。
お昼を食べ、コーヒーを飲んで、和田峠を出発することにした。
陣馬街道は、山梨県道、神奈川県道、東京都道の521号線だ。なのにこんなゲートがあったんだ。そもそもここは和田林道ということだから納得がいくがね。それにしてもまさかここにゲートがあるとは意外だったよ。
ゲートの右手から入って先に姿を消したロードに倣うことにした。危険は承知の上の自己責任でね。
すぐに崩落現場にさしかかった。なるほどこれでは通行止めになっても仕方がないね。崩落個所はしかしここだけだったよ。
峠から500mほど下ったところに絶景ポイントがあった。よく晴れていれば左手の方に富士山が見られるらしいが、あいにくの雲に隠れていたんだ。ちょっと残念だけれどいい景色に出会えてよかったよ。
一気に下って行く。風が気持ちいいね。汗をかいて上った後の下りは最高にいい。
写真には撮れなかったが、道に出ていた野生のサルたちがあわてて山へ逃げ込むのを見たよ。
景色がどんどん変わる。楽しいという他に言葉があるかね。
沢の水音が心地いい。
和田林道終点のゲートだ。ミニバイクのお兄さんが閉まっているゲートの外で途方に暮れていたよ。
陣馬街道を相模湖方面に下って行く。上りは時間がかかるが、下りはあっという間だね。もったいない気もするが下り坂最高だ。けれど、下ってくるにつれて気温の上がってくるのがわかるよ。薄日だが停まると日差しは熱い。
陣馬の湯入口だ。
陣馬街道と別れ、ここからはこの栃谷川に沿って再び上って行くんだ。頑張れるかなあ。薄い曇り空だがとても暑い。
また、初めて走る道だよ。嬉しいね。不安だね。
いきなり10%くらいの勾配が始まったよ。
苔むした古い堰堤を落ちる水音が涼しげでいい。
木陰は多いがたちまち汗が噴き出てくる。この勾配はいつまで続くんだろ。
陣馬の湯まで上ってくると勾配は少し落ち着いたが…
陣馬の湯最後の旅館姫谷を過ぎてから伝通集落までの勾配が実はただものではなかったんだ。距離にしたら500mか600mくらいだが、20%近くはあった感じだよ。醍醐林道の上りは、休み休みだったけれどとにかくペダルを回し続けることができた。でもこちらの坂は数回ペダルを回しただけで、すぐに諦めて押すことにしたよ。景色を楽しみながらね。
ああ、きつい坂だ。これは押し歩きに限る。
景色が開けた。勾配も落ち着いてほっと一息。山は夏の姿だ。緑一色だよ。
小さな伝通集落を過ぎると、ゲートが現れたよ。栃谷坂沢林道のゲートだ。ヘビ、ハチ注意とある。いやだね。
毎度のことだが、一般車両通行止めだ。まあ、危険だからということもあるのだろうが、自転車が車やバイクと同じ一般車両というのはどうしても納得がいかないね。基本的には歩くのと一緒で、足の力だけで進むんだからね。
ゲートを入るとすぐに林道っぽくなってきたね。
展望が開けると嬉しいね。つい一息入れたくなる。林道はいいなあ。
走りやすい道だよ。勾配は緩やかだが、ずっと上り坂だ。
おや、こんな木製の堰堤があった。強度は大丈夫なのかね。
それにしても道はちょっと荒れた感じがするよ。
ところどころに動物の大きめな糞が落ちている。念のために熊よけ鈴を付けておこう。
山はいいなあ。静かだなあ。
おやおや草が伸び放題だ。岩も転がっている。あまり人の手が入っていないようだね。
ここが栃谷坂沢林道のピークだよ。明王峠下というんだね。汗がひくのを待って休んでいると、登山道を二人の女性登山者が下りてきた。
「あら、道に出たわよ」
「何かしらこの道」
などと会話している。
「これは林道ですよ。どちらへ行かれるんですか」
「相模湖駅です」
「それではこっちですね」
道標の示す山道を指さしただけなのに、いたく感謝されて申し訳ない。
二人の姿がおしゃべりの声と共に山道に消えると、あたりにはまた急に静けさが戻り、風の音だけが聞こえた。
あとは下りだけだ。嬉しいね。
すぐに展望が開けたよ。遠く相模原方面の市街地がかすんでいる。左のアンテナののっかった山は奥高尾連峰の小仏城山だね。空がきれいだよ。
どんどん下って行くよ。美女谷鉱泉へ向かっている。
道は広がっているところもあり、とても走りやすい。
おおっ、すてきなカーブだ。下り坂は涼しいなあ。
だいぶ下りてきた。枯れ落ち葉がやけに多くなってきたね。
きれいな水だ。
出口のゲートだ。栃谷坂沢林道はここまでだね。特に危険なところもなかった。
ゲートを出てまもなく見つけた。
自転車を止めて、行ってみることにしたよ。距離は短いが薄暗くて心細いね。
ここだな。写真ではよくわからないが、小さな淵が段々になって縦に連なり、きれいな水を湛えていたよ。ちょろちょろと微かな水音も聞こえる。
なるほどね。
この辺りが美女谷というのかね。流れがきれいだね。
中央道が見えてきたよ。
空がきれいだねえ。
相模湖駅へ向かう国道20号線から見た相模湖ダムだ。
無事で何より、お疲れさん。あとは電車に乗るばかり。
醍醐林道は勾配のきつい坂がけっこう長く続くが、適度に木陰があり日差しを遮ってくれた。木製のガードレールがあったり、水場があったり、それなりに変化を楽しむことができたよ。
一方、栃谷坂沢林道の方は人の手があまり入っていないようで、部分的にどこか廃道の雰囲気さえ漂う淋しい道という印象を受けたね。しかしそれゆえの静かさはあり、林道走行の楽しさは十分味わえたと思う。
こんなに暑くては、峠越えは無理だろうか。それとも山へ入れば涼しいだろうか。
暑い時期に自転車旅行をしたときのことを思い出そうと、自分の過去のブログを開いてみたよ。
去年の夏の盆堀林道・入山峠越えはそれほど暑かったという記憶がない。だが、一昨年の夏の鈴懸峠、雛鶴峠越えはとても暑かったと思う。日本中が猛暑の真っ只中で、熱中症で人が死亡するというニュースが毎日のように報じられていた時だ。鈴懸峠を上っていたときは、きつい勾配に加えて猛烈な暑さで、心臓は爆発寸前だったし、ペダルを止めればめまいでふらふらするし、山の中でたった一人本当に熱中症で死んでしまうかと思ったほどだよ。けれど、不思議に大丈夫だった。
だから、まず大丈夫だろう。そう信じて出かけることにしたんだ。
<西八王子→醍醐林道→和田峠→栃谷坂沢林道→明王峠下→美女谷鉱泉→相模湖>
西八王子駅北口のはずれ、駐輪場の向かいの隅っこにちょっと引っ込んだ一角がある。ここなら自転車を組むのに人の邪魔にならないだろうと、輪行袋を開いて作業に取り掛かった。ところが、通勤前の男や女が入れ替わり立ち替わりやってきて、近くで煙草を吸うんだよ。それまで気がつかなかったが、よく見るとそこにはちゃんと端の方に吸い殻入れが設置してあって、喫煙スペースのようになっていたんだ。もっとも、多くの人がそこで煙草を吸うので、あとから吸い殻入れを設置したのかもしれないが。それで、コンクリートの地面に散っている煙草の灰が風で舞うやら、吸い殻入れでくすぶる煙が臭いやら、自転車を組むには最悪の条件だった。次に来るときは別の場所にしよう。
大急ぎで自転車を組み、輪行袋を片付けると逃げるように出発したよ。
陣馬街道へ出て車の多い街道を少し行き、中央道の下をくぐってから裏道に入り、大沢川沿いに進むことにした。日差しはまだそれほど強くはない。ペダルはよく回る。
都道61号に出たところで右へ坂を上って行く。トンネルを抜けて、陣馬街道と交わる川原宿交差点の手前のコンビニで水と食料を仕入れたよ。
そこからは素直に陣馬街道を行くことにした。西八王子駅付近の同じ街道の車の多さとはウソのような違いだ。
前方に山が見えてくると俄然気分がよくなる。空には雲が多く日差しはまだそれほど強くない。白い雲の隙間から覗いている小さな青空がとてもきれいだよ。
北浅川の流れを眺めながらの、とても気持ちのいいサイクリングだ。車はほとんど通らないし、涼しげな水音がいつまでも続く。
時々流れを覗き込むとこんなにきれいだ。いよいよ山に来たという感じがしてくる。
全く足に負担を感じないほどの緩やかな上りが続いているよ。最高に気持ちのいいペダリングで進んでいく。山がどんどん近付いてくるね。今のところ暑さはそれほど感じない。都会では既に30度は越えているだろうな。
見覚えのある“夕やけ小やけふれあいの里”の建物だ。去年、盆堀林道を訪れたときに通ったんだ。平日で人はほとんど見当たらないね。
ここが安下川と、醍醐川の合流点だ。左は和田林道(陣馬街道)、右は醍醐林道へと続くが、ともに和田峠へ向かう。こんな説明はするまでもないね。
醍醐川沿いの道をゆるやかに上って行くとやがて盆堀林道・入山峠への分岐点に着く。懐かしいね。
醍醐林道へはまっすぐ直進する。
はじめて走る道にワクワクするが不安もある。無事に走り抜けることができるだろうかね。
日差しはいくらか熱くなってきたが木陰は気持ちがいい。それに醍醐川の流れの音も涼しげだ。
まだこの辺りの勾配はそれほどでもない。吹いてくる山の風がとても涼しい。扇風機にもエアコンにもない涼しさだ。だから山はいい。
空が高い。真夏なのに秋の空のようだね。
日向の上りはちょっとつらいよ。夏だからね。日差しが強くなってきた。首の後ろがじりじり焦げていく。
さあ、いよいよ醍醐林道だ。ドキドキするよ。
少し行くと道が分かれている。ここにも鎖のゲートがある。右はににく沢線という林道だ。
左の方へ鎖のゲートを越えて進む。
ゲートのすぐ先にきれいな流れがあった。
この辺りから勾配がきつくなり始めたよ。まあ、そこそこ日陰があるので助かる。
きついきつい。12~13%くらいはありそうだよ。醍醐林道の上りがこんなにきついとはね。
水場だ。飲みはしなかったがやはり山の水だ、冷たくてとても気持ちがいい。
きつい勾配がどこまでも続くよ。
汗が体中から噴き出し、心臓も壊れる寸前だ。たまりかねて木陰で休む。日陰と風がなんと涼しいことだろう。
何度もペダルを止めて、暴れる心臓を鎮め、くらくらする目まいの治まるのを待つ。急勾配の坂と暑さのせいだろう。一昨年の鈴懸峠越えのときとまったく同じだ。無理をせずに休み休み上ろうかね。
ようやく勾配がいくらか落ち着いてきたようだよ。それでもきついことはきついが、どうにかペダルを回し続けることはできる。
だいぶ上まで来たね。いくらか景色が開けてきたよ。
どうやらここが醍醐林道のピークかね。その先は下りになっている。ここが醍醐峠なのだろう。標高はおよそ745mだ。
景色は木々に遮られていて思うように見られない。
500mほど下ると道はいきなりダートに変わった。
ダート区間はわずかで、ひょっこり和田峠に出たよ。お疲れさん。
峠の茶屋は閉まっていた。平日だからかね。その茶屋のベンチで休んでいると、陣馬街道を八王子側からロードの青年が一人元気よく上ってきたよ。大汗をかいて、それが大量に顔からこぼれおちている。だが、疲れた様子も見せずに、息をはずませて明るく笑っている。なんでも、大学のサイクリング部10人ほどで来ているそうだ。
青年のあとだいぶ時間が経ってからようやくまた一人上ってきた。
「あれが2番手です」
と仲間であることを教えてくれた。まだ、あとからあとから上ってくるのだろう。
「大勢で走るのは楽しいだろうね」
「はい」
珍しそうにこちらの自転車を眺めて、
「ランドナーですね」
「そう」
「ランドナーていうと、ユーラシアとかありますよね」
「でもこれは丸石だよ。15,6年前に買ったものだ」
「錆びもなく、塗装もきれいですね」
「家の中に置いて、磨いているからね」
「やっぱりそれですよね」
と親指を立てていう。自転車はだいじにしなくちゃねという意味だろうか。嬉しいね。
さわやかな青年だったよ。若いというのはいいなあ。元気だし明るいし。その青年がシャッターを切ってくれた。
お昼を食べ、コーヒーを飲んで、和田峠を出発することにした。
陣馬街道は、山梨県道、神奈川県道、東京都道の521号線だ。なのにこんなゲートがあったんだ。そもそもここは和田林道ということだから納得がいくがね。それにしてもまさかここにゲートがあるとは意外だったよ。
ゲートの右手から入って先に姿を消したロードに倣うことにした。危険は承知の上の自己責任でね。
すぐに崩落現場にさしかかった。なるほどこれでは通行止めになっても仕方がないね。崩落個所はしかしここだけだったよ。
峠から500mほど下ったところに絶景ポイントがあった。よく晴れていれば左手の方に富士山が見られるらしいが、あいにくの雲に隠れていたんだ。ちょっと残念だけれどいい景色に出会えてよかったよ。
一気に下って行く。風が気持ちいいね。汗をかいて上った後の下りは最高にいい。
写真には撮れなかったが、道に出ていた野生のサルたちがあわてて山へ逃げ込むのを見たよ。
景色がどんどん変わる。楽しいという他に言葉があるかね。
沢の水音が心地いい。
和田林道終点のゲートだ。ミニバイクのお兄さんが閉まっているゲートの外で途方に暮れていたよ。
陣馬街道を相模湖方面に下って行く。上りは時間がかかるが、下りはあっという間だね。もったいない気もするが下り坂最高だ。けれど、下ってくるにつれて気温の上がってくるのがわかるよ。薄日だが停まると日差しは熱い。
陣馬の湯入口だ。
陣馬街道と別れ、ここからはこの栃谷川に沿って再び上って行くんだ。頑張れるかなあ。薄い曇り空だがとても暑い。
また、初めて走る道だよ。嬉しいね。不安だね。
いきなり10%くらいの勾配が始まったよ。
苔むした古い堰堤を落ちる水音が涼しげでいい。
木陰は多いがたちまち汗が噴き出てくる。この勾配はいつまで続くんだろ。
陣馬の湯まで上ってくると勾配は少し落ち着いたが…
陣馬の湯最後の旅館姫谷を過ぎてから伝通集落までの勾配が実はただものではなかったんだ。距離にしたら500mか600mくらいだが、20%近くはあった感じだよ。醍醐林道の上りは、休み休みだったけれどとにかくペダルを回し続けることができた。でもこちらの坂は数回ペダルを回しただけで、すぐに諦めて押すことにしたよ。景色を楽しみながらね。
ああ、きつい坂だ。これは押し歩きに限る。
景色が開けた。勾配も落ち着いてほっと一息。山は夏の姿だ。緑一色だよ。
小さな伝通集落を過ぎると、ゲートが現れたよ。栃谷坂沢林道のゲートだ。ヘビ、ハチ注意とある。いやだね。
毎度のことだが、一般車両通行止めだ。まあ、危険だからということもあるのだろうが、自転車が車やバイクと同じ一般車両というのはどうしても納得がいかないね。基本的には歩くのと一緒で、足の力だけで進むんだからね。
ゲートを入るとすぐに林道っぽくなってきたね。
展望が開けると嬉しいね。つい一息入れたくなる。林道はいいなあ。
走りやすい道だよ。勾配は緩やかだが、ずっと上り坂だ。
おや、こんな木製の堰堤があった。強度は大丈夫なのかね。
それにしても道はちょっと荒れた感じがするよ。
ところどころに動物の大きめな糞が落ちている。念のために熊よけ鈴を付けておこう。
山はいいなあ。静かだなあ。
おやおや草が伸び放題だ。岩も転がっている。あまり人の手が入っていないようだね。
ここが栃谷坂沢林道のピークだよ。明王峠下というんだね。汗がひくのを待って休んでいると、登山道を二人の女性登山者が下りてきた。
「あら、道に出たわよ」
「何かしらこの道」
などと会話している。
「これは林道ですよ。どちらへ行かれるんですか」
「相模湖駅です」
「それではこっちですね」
道標の示す山道を指さしただけなのに、いたく感謝されて申し訳ない。
二人の姿がおしゃべりの声と共に山道に消えると、あたりにはまた急に静けさが戻り、風の音だけが聞こえた。
あとは下りだけだ。嬉しいね。
すぐに展望が開けたよ。遠く相模原方面の市街地がかすんでいる。左のアンテナののっかった山は奥高尾連峰の小仏城山だね。空がきれいだよ。
どんどん下って行くよ。美女谷鉱泉へ向かっている。
道は広がっているところもあり、とても走りやすい。
おおっ、すてきなカーブだ。下り坂は涼しいなあ。
だいぶ下りてきた。枯れ落ち葉がやけに多くなってきたね。
きれいな水だ。
出口のゲートだ。栃谷坂沢林道はここまでだね。特に危険なところもなかった。
ゲートを出てまもなく見つけた。
自転車を止めて、行ってみることにしたよ。距離は短いが薄暗くて心細いね。
ここだな。写真ではよくわからないが、小さな淵が段々になって縦に連なり、きれいな水を湛えていたよ。ちょろちょろと微かな水音も聞こえる。
なるほどね。
この辺りが美女谷というのかね。流れがきれいだね。
中央道が見えてきたよ。
空がきれいだねえ。
相模湖駅へ向かう国道20号線から見た相模湖ダムだ。
無事で何より、お疲れさん。あとは電車に乗るばかり。
醍醐林道は勾配のきつい坂がけっこう長く続くが、適度に木陰があり日差しを遮ってくれた。木製のガードレールがあったり、水場があったり、それなりに変化を楽しむことができたよ。
一方、栃谷坂沢林道の方は人の手があまり入っていないようで、部分的にどこか廃道の雰囲気さえ漂う淋しい道という印象を受けたね。しかしそれゆえの静かさはあり、林道走行の楽しさは十分味わえたと思う。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます