痴漢対策でJR御茶ノ水駅の構内を巡回する警察官(1月15日、東京都千代田区)
大学入試が本格的に始まり、受験生を狙った痴漢に警察が警戒を強めている。
試験の遅刻を避けるため泣き寝入りする被害者が多いとされ、SNSでは犯行をあおる投稿も確認された。1月の大学入学共通テストで警察は過去最大規模となる約3300人を動員し電車や駅を巡回した。大学側も追試の対象になるとして被害申告を促す。
「共通テストの日は痴漢する日」「今日は痴漢チャンスデー」――。共通テスト1日目の1月18日、X(旧ツイッター)上ではこうした投稿が相次いだ。
警視庁幹部によると数年前から、「受験生は痴漢されても試験会場に向かうため被害を申し出ない、やりたい放題」といった趣旨の悪質な書き込みが確認されているという。「痴漢は重大で卑劣な犯罪。決して許されない」と強調する。
警視庁によると、痴漢被害を駅員や警察官に申告した場合、状況の説明などに一定の時間がかかる。受験生には「試験開始時刻に遅れれば受験できないのではないか」と申告をためらう傾向があるという。警察庁によると受験生に対する痴漢被害の統計はないが、水面下で広がっている恐れがある。
被害防止のため、共通テストが実施された18・19日の2日間、各地の警察はこれまでにない規模の動員で警戒に当たった。2月に入り多くの私立大が入試を実施し、25日からは約38万人の受験が見込まれる国公立大の試験が始まる。3月末まで警戒を強める。
政府は2023年3月に取りまとめた痴漢対策で、受験生への対応も盛り込んだ。文部科学省は被害に遭った受験生が受験機会を失わないように、試験時間の繰り下げや別日程への振り替えなど柔軟な対応に努めるよう大学側に周知した。
東京都内のある私立大は入試要項に「不可抗力による事故などが発生した場合、試験時間の繰り下げ、試験の延期などの対応措置をとることがある」と明記した。担当者は「痴漢被害のケースも該当すると考えている」としている。
痴漢被害は全体でも増加の兆しがある。迷惑防止条例違反容疑での摘発は23年に2254件で、新型コロナウイルス下だった20〜21年の1900件台から増えた。内閣府調査によると被害者のうち警察へ知らせたのは14.1%で、摘発は氷山の一角とみられている。
警視庁や都は電車に乗る場合の自衛策として、逃げ道のないドア付近や改札口に近く混雑した車両を避ける▽女性専用車両を活用する▽防犯ブザーを周囲から見える位置に付ける▽時々視線を上げて周囲を見回す――といった対策を挙げる。
それでも被害に遭った場合はアプリの活用が有効だ。警視庁の防犯アプリ「デジポリス」では「痴漢です助けてください」と画面を表示したり、「やめてください」という音声を流したりできる。他の道府県警も同様のアプリを提供している。
乗り合った周囲のサポートも重要になる。内閣府は自分で助けを求めたか周囲が気付いたという被害者447人を調査。
周囲の人が加害者か被害者に働きかけた場合は44.5%のケースで痴漢行為が止まった一方、何もしなかった場合は22.5%にとどまった。
警視庁などは「決して傍観者になることなく、被害者を助ける行動をとってほしい」と呼びかけている。
(木村梨香)
日経記事2025.2.9より引用