くら寿司、USA市場握る　エンタメ武器に新店行列8時間

2024-10-06 07:40:49 | 観光・旅行・外食・ショッピング

ニューヨーク近郊のフォートリー店は9割が家族客

米国の外食業界で注目のチェーンがある。新店は最大8時間待ちになり、周辺に人があふれかえる。そんな人気店の名はなんと、くら寿司だ。

現地法人は日本の外食勢で初めて米国市場に上場。多くの有力チェーンが20店舗の壁に突き当たるなか、直近3年で倍増の66店舗に達した。日本でおなじみの回転ずしは、何を武器に米国の消費者のハートを握ったのか。

9月上旬にオレゴン州にオープンした「クラ・リボルビング・スシ・バー」は、今も週末は2〜4時間待ち。

テキサス州では開業初日にまさかの8時間待ちもあった。米国人をそこまで並ばせる理由は何なのか。

くら寿司USAは2008年設立。翌年、回転寿司業態の1号店をオープンし、15年間で66店舗に広がった。半世紀前に米国に進出し日本勢最多の100店舗を構える吉野家を猛追する。

「いらっしゃいませ」。記者が店に入ると威勢のいい日本語が聞こえてきた。ここがニューヨーク近郊であることを忘れそうになる。

フォートリー店はマンハッタン島から橋を渡ってすぐ、スターバックスなども並ぶ好立地にある。土曜の夜、8時ごろには1時間待ちの列ができていた。

レーンに流れる寿司は1皿3.8ドル（約550円）。日本で見慣れない品が目立つ。

カップルで訪れていたジャッキーさんが手に取ったのは、エビマヨがメインの「ゴールデンクランチロール」だ。ふたりは純米酒を片手に、10分後には15皿を平らげた。

ジャッキーさんには寿司以外にもお目当てがあった。日本でもおなじみ、食べた皿をスロットに投入するとカプセルトイがもらえる「ビッくらポン!」だ。

「（人気アニメの）『ワンピース』とコラボしてたから来たの」と声を弾ませる。80ドルごとに1枚受け取れるTシャツも2枚受け取って帰って行った。

フォートリー店は土曜の夜に1時間待ちだった

車で15分の所に住んでいて、ほぼ毎週訪れるというスティーブ君（7）は、慣れた手つきで寿司をほお張る。

店長のアイカさんは「9割以上が家族連れ。子供たちが気に入ってくれるから常連客も多いんです」と話す。

「17歳おめでとう」。クリスさん一家は娘の誕生日を祝っていた。日本のくら寿司では見かけない配膳ロボットがバースデーソングを奏でながらアイスを運ぶ姿に、満面の笑みを浮かべる。

メニュー5年の苦闘

くら寿司USAの姥（うば）一社長は「米国の人たちが大切にする食事の時間に、多くのWow（ワオ）という驚きと楽しみを提供するのがくら寿司のテーマ。

まさにエンターテインメントだ」と戦略を説明する。

まずメニュー。姥社長は「店の生命線。最初の5年間はトライアンドエラーを繰り返し、いまのメニューにたどり着いた」と振り返る。

日本で人気のネタは失敗の連続。例えば生だこはグニャグニャした食感が嫌われ、口に入れたものを出されるありさまだった。

「自分たちの目線でおいしい寿司を目指すとチェーン化から遠のく」。姥社長は米国人が楽しいと感じる寿司へかじを切った。

「興味をそそるネーミングは大事」と「クリスピー」や「クランチ」といった言葉で食感を打ち出したり、「ウマミオイル」と銘打ったり。

人気のゴールデンクランチロールはアボカドとエビマヨを包み、ピリ辛マヨと甘口しょうゆをかけ、パン粉とゴマをトッピング。

サクサクパリパリしたエビフライのような食感がうけている。

エンタメ性の要、ビッくらポン!は日本では皿5枚ごとに抽選で「あたり」が出るが、米国ではギャンブルとみなされかねないため、15皿で必ず景品を提供する方式に。

フィギュアや缶バッジなどは、日本よりも少し豪華に仕上げている。

米国では平均客単価は27〜28ドル（4000円前後）と日本の3倍以上。さらにビッくらポン!で人気コンテンツと組むと客単価は4%ほど上昇する。

「コンテンツはうまくいくと思いきや、当たらなかったものも。サンプルを増やしながら模索していく」（姥社長）

米国進出した日本勢の現状を見ると、吉野家が100店、牛角が63店に達しているものの、多くの著名チェーンが「20店舗の壁」にぶつかっている。

カレーハウスCoCo壱番屋や一風堂は11店どまり。いきなり!ステーキやスシローの別業態は撤退している。

外食企業の海外進出に詳しい、関西学院大学の川端基夫教授は「州を超えると別の国と言っていいほど、法律や消費者の嗜好も異なる。

柔軟に攻略するのは難しく、数年で行き詰まる店が多いのも事実」と指摘する。

くら寿司USAも早々に壁にぶつかった。最初に開いた日本食店が、約1年で閉店に追い込まれた。

立地はロサンゼルスのビバリーヒルズ近く。高級住宅街であり有数の観光地だが、客が集まらない。

店内で生演奏や婚活イベントを実施するなど迷走が続いた。「現地の寿司屋より自分たちの方がおいしい。

しかもすごく安い価格で出しているのになぜ？　という思いだった」（姥社長）

「広大な田舎」狙う

普通の人が毎日寿司を楽しめる、というコンセプトからそもそも外れた立地だった。

「自分たちが想像するアメリカに出せば成功するものではない。

広大な土地の多くは田舎で娯楽は少ない。

そんな人たちにとってのエンタメがくら寿司になる」（くら寿司の岡本浩之取締役）と軸を定め、郊外やショッピングモール中心にかじを切った。

姥社長によると日本企業が物件を探すうえでまず頼りにするのが、現地在住の日本人ブローカー。

しかし「他の国の優秀なブローカーと比べると情報量がすごく少なく、ハズレ物件しか回ってこなかったりする。うのみにして有名な場所に1号店を出して失敗する」。

自力で物件を開拓するには知名度と信用が必要。まず現在の標準店の半分、約60席に絞り込んだ店で行列を生んだ。

次の出店候補地の大家に繁盛ぶりを見せて、契約につなげる策で少しずつ良い物件を制していった。

物流も壁の一つ。関西学院大の川端教授は「日本では1日1回配送可能なものが、広大な米国では週1回というケースも。予定通りに届かないこともあり、新鮮な食材を確実に入手するハードルがある」と話す。くら寿司は米国に広く拠点を持つ日本の卸業者と連携することでカバー。ただ、日本のようなセントラルキッチンは困難で各店舗で魚を加工している。

新型コロナウイルス禍もチャンスに変えた。外食の著名企業から人材が流出するなか、シェイクシャックの元最高財務責任者、パンダレストラングループの元不動産担当副社長の獲得に成功した。市場での知名度も上がり、足元の株価は公開価格の約6倍で推移。時価総額は約9億ドルで、日本のコメダホールディングスに匹敵する。

他社が二の足を踏むなかで出店も加速し、年7〜10店舗増やした。ただ、姥社長は「破竹の勢いで出せばうまくいく、という無敵の状態はもう終わっている」と話す。

23年9月〜24年5月期の営業損益は570万ドルの赤字。姥社長は本部経費削減やキッチンのシステム化を課題に掲げる。米運用会社、ウィリアム・ブレアのシャロン・ザックフィア氏は「売上高一般管理費比率は今の14%台から長期的には1桁台に減少する」とみる。

目標とする米国300店舗展開へ、歩みを止めずにいられるのか。日本の外食のモデルケースとして注目が集まる。

（鍜治美佑、ニューヨーク=藤生貴子）

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日経記事2024.10.06より引用

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