「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー シブヤ)」で楽しむZ世代の若者たち(東京都渋谷区)
Z世代のナイトタイムエコノミー(夜間経済)が独自の進化を遂げている。今年は暑さもあり、夜に外出する若者も増えたようだ。
だがコミュニケーションの〝潤滑油〟だったお酒が必須ではなくなっている様子。ノンアルコールや低アルコール飲料を主に提供するバーや、夜パフェ専門店が活況という。ビールで乾杯する若者は姿を消しつつあるのか。
ノンアルコールバーに集う若い女性
金曜日、午後7時の東京・渋谷の繁華街。若者や外国人であふれかえる街の一角で、ポップな看板が目を引く。ノンアルコールや低アルコール飲料のバー、「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー シブヤ)」だ。
「お酒を飲めない友達がインスタグラムでこの店を見つけて一緒に来た。飲めない人と来られるインクルーシブ(包摂的)な店で楽しい」。
大学の同級生2人と来店した22歳女性はおしゃれなカクテルを手にほほ笑む。
紫芋などのムースを使った「さつまいもシェイク(800円)」やキンモクセイの香りがする「オータムブルーム(900円)」といったオリジナルカクテルを友人と堪能した。
5階の「THE 5th by SUMADORI-BAR」では、本格的なバーのような内装でノンアルコールや低アルコール
ドリンクが楽しめる
スマドリバーではドリンクのアルコール度数を0.0%、0.5%、3.0%の3種類から選択でき、注文は対話アプリLINEを通じてできる。
そのため誰がノンアルコールのドリンクを頼んでいるのかは周囲にはわかりづらい。「お酒が飲めない」という引け目を感じずに会話や食事を楽しめる仕掛けだ。
同店はアサヒビールと電通デジタル(東京・港)が共同で設立した「スマドリ」(東京・墨田)が22年に開き、「20〜30代が客層の9割を占める」(スマドリの荒木真衣ブランドマネジャー)。
まさに1990年代半ば以降に生まれたZ世代がターゲットだ。
一般的に日没から日の出までの夜間の経済活動を指すナイトタイムエコノミー。飲食から宿泊、交通、観劇や音楽鑑賞といった「コト消費」まで幅広い。
近年は訪日外国人(インバウンド)誘致の一環として取り組みが進むが、若者の行動変化も見落とせない。
夜はお酒よりパフェ、ピクニックやプールも
若者の行動を研究するSHIBUYA109 lab.が8月に発表した20〜24歳の男女を対象とした調査によると、Z世代が夜間に外出する理由は「日中は暑いから」が1位だった。
長引く猛暑で日中の外出を避けるようになったようだ。しかし、夜に「居酒屋でビールで乾杯」ということでもなさそうだ。
同調査では、夜の時間帯の外出時に「お酒を飲まないことがある」に当てはまると6割以上が回答した。
「まずはビール」という上の世代と異なり、Z世代にとって夜の外出は必ずしもアルコール消費を伴わない。
SHIBUYA109 lab.によると、SNSなどの投稿では「夜パフェ」や「夜ピクニック」「ナイトプール」といった、日中に楽しめる消費をあえて夜に楽しむZ世代が多いという。
SHIBUYA109 lab.所長の長田麻衣氏は、Z世代の夜のお出かけに「お酒は必須ではない。
『飲みに行こう』よりも『ご飯行こう』が心地よく、相手がどのくらいお酒を飲むのかを直接確認するよりも、探り合い、察し合いをしている実態が見られた」と分析する。
調査では夜に出かける動機も「出会いがあるから」と回答した割合は最も少なく、知人や友人と過ごす傾向がわかった。
知らない人より知人と食事、合コンは死語か
上の世代の交際のきっかけとなりやすかった「合コン」も死語に近くなりつつある。マッチングアプリなどを手掛けるMrk&Co(東京・渋谷)によると、「合コンに行ったことはありますか?」という問いに対し、30代以上は男女ともに80%が「行ったことがある」と答えたのに対し、20代前半の合コン経験者は男性38%、女性も約50%にとどまった。
合コンの経験がない20代女性は「知らない人と夜に食事をするのは気が引ける」という。交際相手を求めて居酒屋やレストランで若者のグループが会食するシーンを目にすることは少なくなった。
SNSでは「夜パフェ」や「夜カフェ」を紹介するインフルエンサーが目立つ。友人や恋人と、「インスタ映え」するスポットに繰り出す若者が増えている。
「赤しそや炭などおやつに食べるパフェには使われないような材料が入っていて、甘すぎないのがいい」。
8月下旬に東京都豊島区にある夜パフェ専門店に行った20代女性は、恋人と一緒に季節のフルーツを使ったパフェの写真を撮って楽しんだ。
ヒルトン東京は9月6日から夜パフェをバーで提供している
宿泊施設のヒルトン東京(東京・新宿)でも、9月上旬から秋の果物を使った夜パフェの提供をバーで始めた。
「5月に初めて夜パフェを開始したところ女性の1人での利用が多く、普段バーに来ない人も楽しめる商品として反響があった」(広報担当者)。お酒が飲めなくても夜間に楽しめる選択肢は増えつつある。
夜間消費のキーワードは「排他性からの解放」
若者文化や消費に詳しいニッセイ基礎研究所の広瀬涼研究員は、こうした若者の動向について「Z世代の夜間消費のキーワードは『排他性からの解放』だ」と解説する。
「これまで夜の消費は居酒屋やバーなどで、お酒を飲めない人は楽しめず排他的だった。アルコール離れもあり、飲めない友人などとも楽しめる店やアクティビティーが人気なのではないか」とみる。
飲めるのにお酒をあえて飲まないライフスタイルは「ソバーキュリアス」と呼ばれ、2019年ごろに英国で提唱され始めた。
英調査会社のミンテルによると、英国の20〜24歳の消費者が家庭用アルコール飲料への支出を優先する可能性は、75歳以上の消費者のほぼ半分だという。
Z世代のアルコール離れは日本でも進む。ビッグローブが23年に実施した調査では、「日常的にお酒をのみたくない」と答えたZ世代(20〜24歳)は8割強にのぼった。
一方で、30〜60代では「日常的にお酒を飲みたい」が4割弱と、世代間でアルコールとの付き合い方に差がある。
日本フードサービス協会(東京・港)が24年1月に発表した23年の「外食産業市場動向調査」によると、居酒屋業態は新型コロナウイルス禍前の19年と比べ、売上高は約4割減と激減した。
既存の居酒屋から若者の足が遠のくなか、新たな需要は喚起できるのか。夜間のコンサートなど、文化的な活動を支援するナイトタイムエコノミー推進協議会(東京・渋谷)の梅澤高明理事は「海外では美術館や公園を、昼間とは別の用途で夜間のイベントなどに使うケースもある。
若者が魅力と感じるような『都市の余白』を意識した開発が重要だ」と訴える。飲まなくても楽しい空間作りがカギを握るのだろうか。
(友部温、大沢友菜)
別の視点
政府統計の総合窓口に2019年「国民健康・栄養調査」の、飲酒の頻度を年齢階級別に調べたデータがある。
「ほとんど飲まない」の割合は、20-29歳が26.5%、30-39歳が20.3%、40-49歳が17.2%、50-59歳が17.4%、60-69歳が13.9%、70歳以上が11.8%。年齢が高いほどお酒を飲む人が多い傾向が確認できる。
若者の「アルコール離れ」はある意味、合理的なライフスタイルの変化。
「アフター5」の楽しみ方は、人それぞれ。
お酒を「美味しい」と感じる人と、感じない人がいる。
昭和の世代は社会に出ると「お酒を飲むのが当たり前」的なカルチャーに浸かった人が多いと思うが、時代は変わる。
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日経記事2024.09.20より引用