魔力の薄れゆく部屋で、わたしはまだ消えていませんでした。
ナオ――本名はライアンでも、わたしにはナオです――の体が
冷えていくのを、見過ごす事など出来ませんでした。
彼の心を探り、最初に思い当たった方法は、
彼と唇を触れ合わせ、わたしの力を注ぎ込むという物でした。
さっそく試して、けれど、この方法では意味がないと分かりました。
彼の絶望は、わたしとは関わりのない所から始まっていました。
獣に貶められた彼が、ザラダンから与えられた最初の食餌から、既に。
同族を食らい続けていたと知って正気でいるなど、
知性ある者には不可能でしょう。
足元の床が揺らぎ、おぼろげになってきました。
神々の力で編まれた方舟は、役目を終えて消えようとしていました。
もう全部用済みだと言われたような気がしました。方舟も、ナオも。
それで理解しました。私を駆り立てているこの感情は、怒りだと。
これが、彼に与えられた運命だというのでしょうか。
これでは、彼は使命を成すだけの人形ではありませんか。
このような、魂を抉られるような仕打ちをせずとも良いではありませんか。
私は願います。彼に今一度、唯の人としての生を。
もしも、彼のそそぐべき罪が、一人では足らないというならば、
わたしも罰を受けます。あらゆる対価を支払います。
彼と共に、永劫の時を添い遂げましょう。
もしここに、天よりの御使いがいるならば答えなさい。
冒険者たちを守るとされる、女神リーブラよ!
いよいよ消えていく景色に、わたしが最後に見たのは。
咲き誇る花一輪を背に、金色の天秤を持つ、確かにその御姿でした。
ナオ――本名はライアンでも、わたしにはナオです――の体が
冷えていくのを、見過ごす事など出来ませんでした。
彼の心を探り、最初に思い当たった方法は、
彼と唇を触れ合わせ、わたしの力を注ぎ込むという物でした。
さっそく試して、けれど、この方法では意味がないと分かりました。
彼の絶望は、わたしとは関わりのない所から始まっていました。
獣に貶められた彼が、ザラダンから与えられた最初の食餌から、既に。
同族を食らい続けていたと知って正気でいるなど、
知性ある者には不可能でしょう。
足元の床が揺らぎ、おぼろげになってきました。
神々の力で編まれた方舟は、役目を終えて消えようとしていました。
もう全部用済みだと言われたような気がしました。方舟も、ナオも。
それで理解しました。私を駆り立てているこの感情は、怒りだと。
これが、彼に与えられた運命だというのでしょうか。
これでは、彼は使命を成すだけの人形ではありませんか。
このような、魂を抉られるような仕打ちをせずとも良いではありませんか。
私は願います。彼に今一度、唯の人としての生を。
もしも、彼のそそぐべき罪が、一人では足らないというならば、
わたしも罰を受けます。あらゆる対価を支払います。
彼と共に、永劫の時を添い遂げましょう。
もしここに、天よりの御使いがいるならば答えなさい。
冒険者たちを守るとされる、女神リーブラよ!
いよいよ消えていく景色に、わたしが最後に見たのは。
咲き誇る花一輪を背に、金色の天秤を持つ、確かにその御姿でした。