リンムーの眼 rinmu's eye

リンムーの眼、私の視点。

犬視点の小篇

2008-02-01 | book
大竹伸朗著『権三郎月夜』(月曜社)読む。
“ゴンザブロー”という名の犬の視点で語られる小篇。
絵本『ジャリおじさん』の作者でもあり、犬視点・ですます体で語られる物語は、ビターな大人の童話を思わせる。
だが、そうこうするうちに、うらぶれた港町の光景にバリバリと裂け目が走り、サイケデリックな幻想世界がまき散らされる。
それでも、犬目線だとどこかとぼけたユーモアが感じられるから不思議だ。

 「その時権三郎の腹のあたりに蚤がザッと走るのを感じ、音を立てないようガッガッガッガッと素早く前歯でその蚤を追いました。するとその蚤が四、五匹権三郎の腹を離れピュンピュン床を跳ねてオバちゃんの足元まで行きシュミーズに下から次々と飛び込んでしまったのです。
 オバちゃんは顔を真っ赤にしてシュミーズの腹のあたりをボリボリ激しく掻き出しましたが何が起きたのかは分かりません。ソファの下、権三郎の中で悲しさと可笑しさと恐怖がゴチャマゼになりました。」(「権三郎月夜」)

なんとも不思議な読後感だ。

併録された「覗き岩テクノ」は、サイケデリックな幻想を断片的にコラージュしたような掌編だ。
どこか町田康の詩を思わせる。

 「しょうこりもなく逆光の、覗岩の波に洗われた凹凸の、空を見上げりゃ一筋の飛行機雲がやけに青い夕空であることよ。
 まだ生きてやがるぜ、ったくよ、なんだかわけわかんねえ。
 まったくもって救いよーのねえ日常は、オレの今生だと思いつつ眺める沖の白波よ。」(「覗岩テクノ」)

凝縮度の高いコトバに刺激を受けた。