雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

信州紀行~前山寺

2008-12-19 | 旅行
 さて、実は『前山寺』方向へ向かうには、二つのルートがあった。ひとつはオーソドックスに、上がって来た道を下って「松茸屋」の看板があるところまで戻り、そこからわりと広めの道路に出て、来た方向とは逆に進んで行けば、やがて『無言館』を表示する看板があるからそれに従って行けばよいとのこと。これはおじさんが教えてくれたポピュラーなルート。もうひとつは、別れ際小母様がふと思いついて進めてくれた「展望台」ルートだ。
 それは、来た道とは逆に山のほうへ、要するに、このリンゴ園からさらに上へと登っていくのだと。そのまま道なりに進んで行けば途中、古安曽の町並みを一望できる展望台があるとのこと。少し道幅は狭くて舗装も整っていないのだけれど、「この車(なんの変哲もないスズキワゴンR)なら大丈夫よー」是非行ってみるといい、と自信を持って笑顔で薦める小母様を蔑ろにできるであろうか?できまい・・・。
 かくして私たちは、展望台の魅力はあるものの、おそらく険しいルートなのだろうな・・・と胸中募る不安、というか不満を押し隠し、小母様にしっかり見送られながら山道へと車を走らせた。

 実に、一分も走らせないうちに、砂利石まみれの未舗装小路に突入し、私たちは暗鬱な気持ちに支配された。しかし私たちは負けなかった。たとえ険しく、震度五弱くらい(?)の振動に揺さぶられようとも、ガッコンガッコン愛車に悲鳴を上げさせていようとも、先程触れたあの人たちの人柄を讃え合い、気持ちだけでも平穏を保とうとしていた。

 だが、それにもまして、道は険しく、ともすればそんな平穏は揺れる車体とともにどこかへ吹っ飛んでいきそうであった。

 いい加減うんざりしてきたところで、『展望台→』の表示(これがまた手作り感溢れるペンキ文字で、ところどころ赤い汁が垂れ滴っているのがホラーっぽい)が見えて、無理矢理にテンションをあげたりしてみる。

 しかし、その無理なるテンションも鬱蒼と木々が繁る小路から急に視界がひらける場所に至るれば、たちどころにナチュラル・ハイ・テンションに。すぐさま車を止め、車外へ飛び出てその圧巻なる絶景パノラマに目を見張る。いや、マジですごい。確かにそこからは下界が一望でき、まるで模型鉄道を走らせるジオラマの様。

「すげぇな!見てみろよ!」私が感嘆の声を上げ妻のほうへ振り向くと、彼女は何やら神妙な顔つき。

「おしっこしたい・・・」感動が台無しである。

「そこらでしろよ。どうせ誰もこないって」野外プレイを強要する暴夫。が、しかし、ふと視線を先にやると建築現場などでよく見かける簡易トイレがあった。そしてもう少し先には風通しの良い丸太小屋みたいな、おそらく『展望台』と思われる東屋が設置されている。

「あぁ、あれが展望台だな・・・」

 そんなことはどうでもいい!と言わんばかりの勢いで妻は兎にも角にも簡易トイレに突っ走った。

 どうにか平静を取り戻した妻と自称展望台へと向かう。一応、展望台というだけあって使用料100円の双眼鏡などが一基設置されていたりする、が、見下ろせばそこはリンゴ畑と家々が点在する素朴な風景、いったいこの双眼鏡で何を見ろというのだろうか?私たちはそれを無視してしばし長閑な眺めに心奪われた。

「村だな」

「村だね」

 夫婦の感想が一致したところでその場を後にした。果たして、あの険しい砂利道を通ってまで拝むべき風景であったか?あったはずだ、いや、あった。あった、と、思いたい。なにより旅先では、気になる箇所には行くべきなのである。またいつ来れるか分からぬ異郷の地。今見ずして後悔するか?見て後悔するか?なら、見て後悔するほうが絶対いいのだから。それが私の旅の方針なのである。

 で、あるからして、さして寺院仏閣などに興味がないにも関わらず、薦められるがまま行った前山寺や三重塔など、とりあえず拝観したものの印象は薄い。特筆すべき点が見当たらない。得てして、神や仏は苦しい時くらいにお目見えするくらいが丁度いいのであろう・・・。

 それでも、持参した「るるぶ」調べによれば、この前山寺の住職の奥方が作る「くるみおはぎ」なるものが絶品だとのこと。これは是非とも喰らいたいものだ!と意気を揚々とさせたのも束の間、「要予約」の文字で撃沈する。

 そんなこんなで、くだらない旅の方針なんぞに従って馬鹿にならない拝観料を払って後悔の念を抱きつつ、次なる場所『無言館』へと罰当たりな二人は進むのであった。



~まだ、つづく~
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信州紀行~古安曽その三

2008-11-20 | 旅行
 ホクホクとリンゴを詰めた段ボールを抱え、私たちは小母様のサロンへ向かう。いや、サロンというか、なんというか、あのよくあるちょっと小洒落た型抜きの模様が入った、フリフリのブラウスの襟みたいな、そして脚の部分が妙に曲線を描いてる、そんな白いテーブルと白い椅子。それらがお庭に設置されているんだ。四人がけのが二組。
 でも、そんなサロン然とした趣きをたたえているすぐそばには農業用具がひしめきあっている納屋があるんだけども。
 そこでリンゴを入れた段ボール箱の重量を量りに載せて量った。3.5㎏だった。

「調子に乗って採りすぎるとえらいことになるぞ」と吟味しただけあって、ほぼ予定通り。

「じゃあ、1700円ねー」と、量りを確認もしないで小母様は奥のほうでコーヒーの用意をしながら言う。

 たしか六、七個くらいと、割れてるリンゴも遠慮がちに二個、(割れているといっても上のほうだけで、その他は全然問題なく食べられるのだ)これで1700円。普通にスーパーなどで買えば少々高いかも知れないが、リンゴ農園直のもぎたてで、しかもリンゴ狩りをして(一般的なリンゴ狩りの値段は結構するのだ)だから、安いほうだと思った。

「さぁどうぞー」

 見るとテーブルの上に小鉢が二つ置かれていたのでその場所に腰を下ろす。

 すぐに熱いコーヒーを持ってきてくれて「召し上がれ」「いただきます」

 小鉢には自家製の茄子の漬物、野沢菜漬、サツマイモのサラダが盛り付けられていた。これがまた、美味い。美味いが、コーヒーのお茶請けに漬物というのはこれまた初体験であった。

 そんなご相伴にあずかりながら、小母様は色々な話をしてくれた。そう、弾丸トークで。リンゴのことはもちろん、この町のことや、自給自足の生活のことなど、地域の裏話などなど・・・中でも興味深かったのは、この庭が夏にはバラ園と化すということ。なるほど、この鬱蒼と茂っているのはバラなのか、そしてこの小洒落たテーブルセットもガーデニングの一環なのか、と。
 そしてどうやら、このバラ園、実は非常に有名らしく、ガーデニングのコンクールみたいなので金賞を何度ももらっているのだとか。そういって奥に消えていった小母様はそれらが掲載されている雑誌をドカドカと持ってきて、尚且つ、バラで埋めつくされているこの庭の写真を収めたアルバム二冊を目の前に置く。
 少々押しつけがましいな、などと思ったが、悪気はないのだろう、と思いなおし、パラパラとそれらを眺め、お世辞も軽く言い添えておいた。

 そうしていると、リンゴファームのほうからおじさんが割れたリンゴを六、七個抱えて持ってきて「これも持ってきな」と段ボール箱に入れてくれた。うおぅ。

 すると小母様が「柿も入れてあげれば?」とおじさんに言い、言われたおじさんはおもむろに柿の木があるほうへ向かい、「バキボキ!」と音をさせたかと思うと十個くらいの柿を枝付きのまま持ってきて段ボール箱に入れてくれた。うおぅ。

「こんなに貰っていいんですか?」とかなり嬉しいが殊勝なふりをして訊くと「いいの、いいの」と快活に笑う小母様。静かに微笑むおじさん。

 おじさんが「これからの予定は?」と訊ねてきたのだが、いかんせん無計画にただただリンゴを求めて来ただけであったので「いや、とくに・・・」と心許ない返答をするばかり。

 するとおじさんは「それなら『無言館』に行くといいよ」と勢い込んで言い出した。なんだその綾辻行人の『館シリーズ』みたいなところは?中村青司設計か?などとつまらぬことを思いながらも話を聞いていると、そこは太平洋戦争に学徒として出陣し、帰還できなかった画学生達の遺した作品が展示されている美術館だそうだ。
 それを聞いて私は、そういえば前にテレビでそんな美術館の話をしていたのを見聞きしていたのを思い出した。幾枚かの作品が画面に映し出されて、それだけで涙が出そうになったものだ。だもんで、場所など詳しいことはまったく覚えてなかったのだが、まさかそれが今いるところの目と鼻の先だとは・・・。
 これも何かの縁だろう、「是非いってみます」と言うとおじさんは嬉しそうに笑っていた。

 小母様はというと、その勢いに乗って、さらに近場の見所を挙げ連ねていった。『中禅寺』や『前山寺三重の塔』もうちょっと奥へ行くと『別所温泉』があってその近くにある『北向観音』等々。

 正直、リンゴ農園だけの辺鄙な田舎町だと思っていたのだが、実はかなりの観光名所が点在していたのであった。まさにこれが無計画旅行の醍醐味ではなかろうか?

 ふと時計を見ると、やおらAM:10:00前。気付けば一時間余りお邪魔してしまっている。

 次なる目的地を定めた私たちは「それじゃあ、そろそろ。すいません、長居してしまって・・・」と腰を上げ暇を告げると、「あらぁ、また是非いらしてね。なんだったら連絡してもらえれば蜜の詰まった『ふじ』をお分けしてあげるからー」そう言って『S*** APPLE FARM』の、お二人の名前が記された名刺をいただいた。

 私はリンゴと柿でいっぱいになった段ボール箱を抱え、礼を述べる。妻もこれ以上ないほどに礼を述べまくる。小母様はなんだかんだと喋りつつ、さっき採ってきたばかりだという胡桃を三つほど段ボール箱に放り込む。おじさんは、すでに仕事に戻っていった。

 気付けばなにやら色んなものをいただいて、尚且つコーヒーやお茶請けまでいただいて、本当に嬉しかった。そして結果的に1700円という破格のイベントを楽しめたカタチになった。

 どうだ、これが間違いながらの無計画旅行の醍醐味ではあるまいか?

 車に乗り込み、後ろを見遣ると小母様が微笑みながら手を振っている。妻もウインドゥを開け、子供みたいに手を振り返している。

 そして車を発進させ、満足気な顔の妻に自分の正当性を誇示するが如く「間違えてよかったな」と話しかけると、妻は複雑な表情を見せながらも、それでも笑顔で「そうだね」と珍しく私を認めたのであった。

 かくして夫婦は次なる地、『前山寺』~『無言館』へと向かうのであった。



 ・・・つづく・・・


 
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信州紀行~古安曽その二

2008-11-07 | 旅行
 交番から、来た道を一キロほど戻り、出光のガソリンスタンドを右折し、少し行くと松茸屋の看板があるので、そこを左折。

 地図上ではその辺りにある。そのとおりに進んでゆくと、みるみる民家とリンゴ畑に囲まれた狭い路地に行き着いた。

 地図上では、その辺りにある・・・。まわりは、リンゴ畑がいっぱい・・・どれだ?

 トロトロと車を進め、キョロキョロと辺りを窺う怪しげな夫婦。

 ふと、目先に『リンゴ直売』と、思いっきり手書きっぽい(いや、間違いなく手書)看板を発見するも件の『S*** APPLE FARM』の表示などは見当たらず、尚且つその看板が指し示す所は思いっきり民家っぽい(いや、間違いなく民家)ゆえ、戸惑いを隠せない私たちは、もう一度松茸屋の看板まで戻り、再度、トロトロキョロキョロしなおす。

 すると、先程通り過ぎた一軒の民家の庭先に、どうもここらの雰囲気とはそぐわない、年季の入った銅板のようなものに刻まれたアルファベットを見つけた。

『WELCOM TO S*** APPLE FARM』

 おおっ!ここだよ。

 私はそのリンゴファームの片隅に車を寄せて停める。

「ここっぽいけど・・・どうする?」と、先程交番で見せた勢いは何処へやら?妻に弱気なお伺いをたてる。妻は「どうする?って、ここでしょ?行くよ」となんだか強気になっている。

 車から降りて二人、庭先のアルファベットをしげしげと眺める。

「『ようこそ』って・・・書いてあるけどさぁ」

 私はその先の民家に目を向け、さらに鬱蒼と木々が繁っている庭を眺めながら呟く。

「なんか、入りづらいな・・・」

 しかし妻は違った。彼女は躊躇なく、その鬱蒼と繁る庭へと歩を進めだした。いったい、何が彼女をそうさせるのか!それは間違いなく『無農薬リンゴ』という艶かしい響きであろう!
 今さらながら、自分のことと食い物のことになると度胸が据わる我が女房に呆れつつも頼もしさを感じる。

 などとバカみたいに妻の行動原理を分析していたのも束の間、すぐに人の気配を感じたらしい家人が「どなたー?」と声をかけてきた。

 どぎまぎしている私をよそに妻は「おはようございまーす!あの、リンゴを買いにきたんですけど」と私と話すときとは比べ物にならないハキハキとした声で言う。

「あーら、ハイハイ、ありますよー。でもねー『ふじ』は、まだちょーっと早いかも?あっ『千秋』ならもういいかしらー。どうぞどうぞ。いらっしゃい。とりあえず食べてみて、それでよかったら・・・」

 と、矢継ぎ早に喋りながら姿を現した家人は、一見派手なようだがそこには何かしらの気品を感じさせ、「小母様」という形容がぴったりくる推定六十歳前後と思しきご婦人であった。

 その小母様はなおも喋くりつつ、クルリと踵を反しリンゴ畑のほうへと向かう。
 慌てて私たちもその後を追う。
 
 付き従う最中、小母様の口撃の合間を縫って妻が「ネットで見て伺ったんですよー」と愛想よく言うと、「あらー、それ、ウチじゃないわー。ウチ、ネットで広告とかやってないからー」と軽く言われた。

「えっ!」

 一瞬強張った顔を見合す、バカ夫婦。明らかに妻の表情に「違うじゃねーか!」と間違えた私を非難する色が滲んでいる。とりあえず作り笑いでそれに応える私。えへへ・・・。

 そんな私たちにお構いなく、小母様は「どこから来たの?」とフランクに問いかける。私の推定では齢六十過ぎだと思うのだが、馴れ馴れしさとはまた一味違う、そのフランクな物言いが、見た目よりずいぶんと若々しさを醸しだしている。それがまた、厭味がなくって、会ったばかりなのに非常に好感がもてるのだ。

 なので、人見知りの激しい私でも「石川の金沢からです」とスルリと答えられる。(実際は金沢の隣なのであるが、便宜上、旅行先では有名な『金沢』といつも答えている)

「あらー、わざわざ金沢からー!おとーさーんおとーさーん!」

 小母様は畑脇にある倉庫へ向かって声をかけると作業着姿のおじさんが出てきた。こちらはいかにも「リンゴ農園主」といった感じの『小父様』と言うには多少無理はあるが、見るからに人の良さそうな、おじさんである。
 おじさんがにこやかに挨拶を述べる、も、小母様の口撃にかき消される。

「この人たち、ネットで見たらしいんだけど、あれじゃない?○○さんとこ。最近そんなようなこと行ってわよね?」

 と、二人の会話を聞くとどうやら親戚らしい。そういえば交番で地図を見せてもらったとき、この周辺はやたら『S』姓が多かったよね。

 だからといって「間違えました、すいません。では、そちらのほうに行かせてもらいます」などとは言えるはずもなく、さらには小母様も「とにかく食べてみて」とリンゴ園の中に入ると目星をつけたリンゴの木からリンゴを一房もぎとり、剥いてくれた。
 その動作があまりにも流れるようだったので躊躇しつつも「いただきます」と、モシャリ。

 ぐはぁっ!なんだコレ!ちょ、ちょーうめぇ!

 妻も同じことを思ったのだろう。普段はつぶらな瞳を大きく見開いて私と顔を合わせる。ヘンな顔。

「どう?」小母様がにこやかに訊く。

「美味しいー。すごい、すごいジューシー!こんなの初めてですー」

 と、聞きようによってはエロくも聞こえかねない感想を妻が述べる。

 私も同様にエロい・・・いや、驚愕の感想を述べる。

『初体験!』この言葉がピッタリとくる、こんなに美味しいリンゴ、初めて食べたよー!もぎたてって、こんなにもジューシーなのねー!

 と、果汁を垂らしながら貪り食った。

 ホントに、この美味しさをどうやって伝えればいいのか、わからないほどの美味しさ。

 とにかく、これだけ美味いリンゴを食って、「では、失礼して。むこうの『S』さんのお宅へ」などとは言えるはずもなく、そして言うはずもなく、早速購買のお伺いを。

「一キロ五百円よ。だいたい大きめの三つくらいで一キロくらいだから、今、箱持ってくるわねー。ちょっと待っててー」

 そういって向こうに消えてく小母様。

 その間に相談する夫婦。

「三キロくらいでいいんじゃね?それにしても、美味いなー」

 そういって、剥いてもらったリンゴの残りを貪り食う、私。

 程なくして、小ぶりの段ボール箱を持ってきた小母様が「それじゃあ、好きなの選んで、この中に入れてね」

 それを聞いた私たちは「えっ!自分らで採っていいんですか?」と聞き返す。

「そうそう、こんな風にね」と小母様が手近なリンゴを軽く捻ってもぎとる。「はい貴女、やってみて」そう言われた妻があたふたしながら指示されたリンゴを捻ると、あろうことか枝ごとぶち折りやがる。「あっ!」

「あっ!」じゃねーよ、「あっ!」じゃ・・・。今さらながら妻の不器用さに呆れを通り越して爆笑さえ覚える。

「す、すいません・・・」オロオロと謝る妻。隣で妻の失敗にほくそ笑む私。快活に笑う小母様。

 しかし夫婦とはおもしろいもので、片方が不器用なら片方が器用という、そう、人は自分にないものを相手に求めるものなのだな・・・と、小器用な私が難なくリンゴをもぎとると小母様は安心したかのように「それじゃあ、好きなだけ採って。あっちでお茶の用意してるから。あっ、それと、割れてるのとか傷んでるのは、お金いらないから、好きなだけもっていっていいわよ」と、言い残して軽快に向こうへ消えていった。

 そうして、途中おじさんが持ってきてくれた梯子も使い、妻が熟慮して選んだリンゴを私がもぎとる、という作業となった。

 そんな具合に、期せずして得た『初リンゴ狩り』の機会に、私たち夫婦は嬉々として挑んだのであった。



 ・・・つづく・・・
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信州紀行~古安曽

2008-10-29 | 旅行
 朝、ホテルをチェックアウトする際に、フロントマンに「上高地へ行かれるんですか?」とにこやかに訊ねられ、「いや、上田の方へ」と真逆の地域を言い放ち、フロントマンを戸惑わせた。
 どうやらこんな朝早くから松本を発つ旅行客は「上高地に向かう」のが定石のようだ。

 なので、何故私たちが上田方面の『古安曽』を目指すに至ったのかを、まずはお話しておこう。
 信州といえば「そば」、「そば」といえば・・・の件は今回の紀行文で多用してきたが、もうひとつ信州といえば!いえば?そう、『リンゴ』である。この時期、信州に足を踏み入れると、いたるところで紅々とした実をたずさえたリンゴの木にお目にかかる。そう、この時期、信州はリンゴ狩り真っ最中なのである。

 妻と今回の旅の計画を練っていて、私はとにかく「新そばだ。戸隠行って、新そばを喰う」を第一目的に挙げ、その次に「以前ゆっくり見られなかった松本城を見たい」を提案し、一日目の予定は概ねそんなところだろう、とした。
 それじゃあ二日目はどうする?妻に「どこか行きたいところはないか?」と訊ねると「リンゴ。無農薬のリンゴをその場で買って、食べたい」と言う。
 プチロハスな妻は『無農薬』だとか『有機栽培』『無添加』などの言語にことのほかハマっていて、添加物まみれのジャンクな食い物を嫌悪しているとてもめんどくさいヤツなのである。なので、「でも、ジャンクフードは美味いぜ」と言い切る私とは言い争いが絶えない・・・。いや、まぁ、それはとりあえず置いといて、せっかくの旅行計画、ここでまた仲違いしてもどうしようもないので、オトナな私は気前良く「ラジャー」と応対し、無農薬がウリの信州リンゴ農園を調べた。
 
 その結果、松本からわりと近いと思われる上田市古安曽にある『Sリンゴ農園』というところを見つけた。しかしそこはどうもリンゴ狩りとかはやっていない様子で、さらには直売もしていない様子。どうもネット販売だけのように見受けられるのだが、そこはそれ、大らかで臨機応変な性格『O型』の私である、「行けばなんとかなるだろ」ということで、その古安曽『Sリンゴ農園』に白羽の矢を立てたのであった。

 そんなワケで戸惑うフロントマンに「上田にはどうやって行けばいいんですかね」と訊ね、「ここからだと有料道路の三才山トンネルから行くのが一番近いですよ。一時間半か二時間くらいで着きますよ」と教えてもらった。
 
 そして朝の松本城、旧開智学校とハンパない冷え込みの中を見て歩きまわり、八時頃に松本を後にし、ご教授通り三才山トンネルへと向かった。

 朝の道路はとても空いていてスイスイと流れるように車を走らせられる。その有料道路は山々に囲まれた緩やかな峠道。周りには緑から黄色、黄色からうっすらと紅に変わる多様な葉を繁らせた木々が朝日を浴びて山々を彩っている。紅葉に染めつくされる前のその景観に、むしろ今のほうがカオスな自然の姿を感じられて良いようにも思えた。

 程なくしてトンネルに入り、そして抜け、地図と時折あらわれる道路標示に従っていくと、気付けば『古安曽』に入っていた。

 おおっ!ここだ、ここ。と、着いたのはいいのだが実はここからが問題で、目的の『Sリンゴ農園』がいったいどの辺りなのか、旅行者の私たちには見当もつかない。
 一応、その農園の住所は書き写してきたが、はてさてふふーん?

 などとバカみたいに探し回ってもしょうがないので、ちょうど見つけた交番で尋ねることにした。ちなみにここ、古安曽に入ってから、まだ住人はひとりも目にしていない。まわりにはとにかく、リンゴの木が乱立している。そんな、町(村?)だ。

 交番に入ると若い巡査が愛想よく対応してくれた。

「すいません、この『Sリンゴ農園』に行きたいんですけど・・・」
 おずおずと住所を書き写した紙を渡す私。

「えぇーっと・・・ちょっと待ってくださいねー」
 近隣地図とその住所を見比べる巡査。

「・・・・・・・・」
 どこがどこやら解からないくせに地図を眺めるバカ夫婦。

「あぁ、この住所だとこの辺なんですが・・・この『Sリンゴ農園』ってところは、出てないですねー。普通のお宅の畑なのかなぁ?」
 クルクルとその辺りを指でなぞる巡査。

 見るとその一帯、『S』姓の家がやたらはびこっている。どうも、その中のどれからしいのだが・・・・と、目を凝らしていた私はおもむろに、「あっ!これじゃないっすかね?」と指差した。そこには『S*** APPLE FARM』と銘うってある。

「ここですここ。きっとここでしょう」
 と、巡査も妻もたじろぐ勢いで独断的に確信の言を発した私は意気込んでそこまでの道すじを教えてもらい、巡査に礼を述べ交番を後にした。

 よし!目的地はもうすぐ、そこだ。いざ行かん!『S*** APPLE FARM』へ!

 それにしても、ネットだと『Sりんご農園』だったのに、地図では英語かよ!わかりづらいぢゃねーかよ、なぁ!

 などと、なんだかんだで笑顔のツッコミを入れつつ、私たちは美味しいリンゴを求めに向かったのであった。


 ・・・つづく・・・

 

  
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信州紀行~松本、その三

2008-10-23 | 旅行
 普段、休日の朝といえば、前夜に痛飲した酒が残っていたり、夜更かしで寝不足もいいところな愚体を、ダウン寸前のボクサーさながらの状態でかろうじて起き上がる、というのがもっぱらスタンダードな休日の朝のスタートなのだが、この日(12日)の朝は、久方ぶりの熟睡によって実に健全な寝起きをむかえられた。

 前日はといえばAM5:00出発だったのでAM4:30起き。そこから長時間の運転。そして四六時中、妻と一緒。そんな過酷な一日であり疲れも溜まりまくっているにもかかわらず、これほど快適な朝を迎えられるとは、やはり旅先ゆえの昂揚感からか?はたまた四六時中妻の監視下に置かれているためにあまりやんちゃなことをしていないからであろうか?いずれにせよ、AM6:00にセットした目覚ましが鳴るまで爆睡していた。起きる少し前に妻の無遠慮なドライヤーの音を聞いた覚えもあるが、まだ目覚ましは鳴っていない、と、かまわず眠りにおち入れた。ようするに、それほどまでに疲れていたということだろう。

 さて、そうして爽やかに起きだして、そそくさとお湯を沸かしたりして、ジャスコで買ってきたインスタント味噌汁やパン、果物などで軽い朝食を済ませ、七時にはホテルをチェックアウトした。

 外に出ると、信州の朝は冷え込んでいた。「気温、一ケタだろ?」と長袖シャツに秋物ジャケットを羽織っただけの私はぶるりと身震いしながら車のエンジンをかけ、すぐさま暖房をつける。しかし、暖房が効く間もなく、ほんの二、三分で松本城に到着、すぐそばの100円パーキングに駐車させ、我々はクソ寒い中、松本城を目指す。

 さすがにこんな朝早くなので観光客の姿は見受けられないが、お堀の周りを散歩する人やジョギングする人など地元の方と思われる姿がチラホラある。

 松本城へは以前(五、六年前だったかな?)上高地に行ったとき、ついでとばかりに市内に寄り、その前を通り過ぎたことがあって、今度来るときはちゃんと見てみたいなぁ、中に入らなくてもいいから、と考えていたので散歩がてら、ゆっくりと外から眺めていればいいかな、と、お堀の周りを歩いていたら昨日に引き続き、というか連休いっぱいやっているらしい『そば祭り』の準備やなんやらで正門が開放されている。それとは関係なく、普段でもこんな朝早くから入れるのだろうか?まぁ、いいや。とにかく中に入れるようなので、入っていった。
「中」といってももちろんお城の中ではなくて、その外周広場。そしてその広場ではフェスティバルのテナントがひしめき合って立ち並んでいた。各テナント内では早くも準備に勤しむ人たちがあれやこれやと動き回っていた。
 
 そんな人たちを尻目に、とにかく松本城をカメラに収めていたら、あるテナントからそば職人風の人たちがぞろぞろと(総勢二十人くらい)がお城をバックに並びだした。その光景を「ポカーン」と見ていた私に、その軍団のおっさんが、「おおー、すいませーん。そこの人、カメラお願いできますかー!」と叫んできた。えっ、オレ?
 ふと、隣にはにこやかにデジカメを差し出すオネェサン。あ、あぁ、いいですよー。てへ。と、はにかみながらデジカメを受け取ると、「あっ、じゃあ、これも」「あー、これもお願いしまーす」「それじゃあ、これも」そんな調子で、あれよあれよという間に六機のデジカメを手渡される・・・。あ、あぁ、ハイ。突然のことにアタフタとしている私を見て、屈託の無い笑い声をあげる軍団。
 とにかく六機のうち五機を妻に手渡し、一つずつ片付けてゆく。

「ハーイ、撮りまーす!」を六回繰り返す。

 ちなみに私は観光地へ行くと必ずと言っていいほどカメラを頼まれる。妻が言うには、私はどうやら頼みやすい雰囲気を持っているらしい・・・。なんだ、それ?

 ともかく、全てを撮り終わり、軍団の人たち数人にやたらテンション高めなお礼を述べられ、終いには「おにぃさん、ここの蕎麦食べにきてよ。ご馳走するから」「おおい、みんな、顔覚えとけ、顔」とか言っておっさんたちに見つめられる始末。いやはや・・・なんとも・・・。

 なんといっていいのか、まぁ、よくわからないままその場を後にしようとすると、中でもひときわイカツイ顔をしたおっさんが「これ持ってきな、これ」と言ってなにやらパンフレットのようなものにスタンプを三つ押したものをくれた。

 そんな手厚いムードに見送られながら私たちは歩き出し、しばらく行ったところで「ふぃーっ」と一息ついた。 

 何気に貰ったパンフレットに目を通す。てっきり、このフェスティバルのパンフだと思っていたのだが、よく見ると「茨城県」の県民便りであった。どうやらあの軍団は茨城蕎麦軍団であるようだ。

 無料で食える蕎麦は魅力的だが、如何せん私たちはもうすぐ松本を発ち、次の目的地、『上田市古安曽』に向かうので、残念ながら茨城蕎麦軍団とは二度と会うことはないのであった。

 そういったわけで、私たち夫婦はせっかくの茨城蕎麦を食い損ない、身体は冷え込んでいたが、気持ちはなんだかあったかく、次の目的地へと車を走らせたのであった。


 ・・・つづく・・・
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信州紀行~松本、その二

2008-10-17 | 旅行
 荷物をホテルに置いて、私たちは早々に晩飯を食べにいくことにした。ホテル近辺はわりと飲食店が多いらしく、観光がてら辺りをウロウロしつつ何を食うか決めようぜ!
 そんな勢いでホテルを後にするも、とっぷり日の暮れた蔵の並ぶレトロ中町は思いのほか冷え込んでいて、自然と足早になる。腹も減ってくる。観光どころでは、ない。

 まず通り沿いにあったのが小料理屋。なんだか高そうだ。やめ。
 お次は小粋なイタリアン。いや、ここでイタリアンって・・・昼間のうるさい小娘を思い出してしまう。やめ。
 オムライスの店。美味そうだが、ここまできてオムライスは・・・やめ。
 ぐるりと路地をまわるとカレー屋が。店の前はとてもいい匂いが漂うも、やはりここまできてカレーは・・・やめ。
 そのまま裏手通りを歩くと、でた、そば屋。うむ、やはり信州といえばそば、そばといえば・・・昼間食べました。やめ。
 その後も、焼き鳥屋、割烹、韓国料理(焼肉だ)など色々発見するのだが、どれも、あれだ、なんだか、なぁ、とスルーしまくり、結果、もうなんでもいい!とにかく寒いし、なんかあったかいもの、を望む。

 鍋焼きうどんでも食いたいなぁ・・・ふと、そんな提案が飛び出るが、さすが信州とでもいうべきか?そもそも、ここ信州には「うどん」という概念が無いのか?(いえ、ちゃんとあります。少ないけれど)圧倒的にそば一筋です。

 で、ホテル近辺を「ああでもない」「こうでもない」とぐるり一周した結果、始めに見つけたそば屋で温かいそばを食おう、ということに。やはり、信州旅行はそば三昧だろ!と無茶な理屈をつけつつ暖簾をくぐる。

 細長い店内には、やはり観光客と思しき家族連れ一組と中年夫婦が一組。ふつうに入りやすい趣きで、ちらほらと有名人のサインなども飾られている。
 
 いつもなら私は、温かいそばなら決まって鴨南そばを頼むのだが、壁に貼られた毛筆メニューに『当店のお薦め 桜そば 桜うどん』とあるのが気にかかった。
 そこで注文を受けにきたおばさんに「桜そばって、なんですか?」と訊ねると「温かいおそばに馬の肉を煮込んだものが入ってるんです」ということ。ふーむ、馬肉かぁ・・・。
 自分は未だ、馬刺しだとかなんだとか、馬肉は未経験であったので(でもたぶん、コンビーフとかで喰ってるだろう)せっかくの旅行だ、いっちょう食ってみるか、「じゃあ、桜そばひとつ」と、先程の「うどん云々」など意に介さず、注文。
 妻は温かいそばといえば決まって「きのこそば」とか「山菜そば」など、とかくヘルシー嗜好である。今回も結局「山菜そば」である。だって、昼間「きのこそば」を食べたから。うん、そうだね。

 私たちのそばが出てくる間にひとつ席の離れた家族連れの元に注文の品が運ばれてくる。チラリとそれに目を遣ると、なんだかハンパねぇ大きさのかき揚げが見えた。

「ハーイ、かき揚げそば、お待ちどうさまー」おばさんの軽快な声を聞くや、ぼそりと妻に「くそぅ、オレもかき揚げにすればよかった」と愚痴る。妻もそのかき揚げの大きさに面食らうも、あくまでヘルシー嗜好、「自分は山菜で充分」といったすまし顔をしてやがる。

 そんなこんなだが、程なくして「桜そば」と「山菜そば」が運ばれてきた。いただきまーす。

「どう?馬肉?」妻が訊ねる。

「ん?まぁ、馬肉?」要領を得ない私。

「美味しいの?」再度訊ねる妻。

「うむ。可もなく不可もなく・・・しいて言わせてもらえば、鴨南そばにしとけばよかった・・・いや、かき揚げそばも捨てがたい」ちょっぴり不満をもたげる私。

 結局、これといって特に斬新な味でもなく、かといって不味いわけでもなく、なんだかおざなりな感じの晩飯であった。妻の山菜そばも、そんな感じであった。

 物足りなさを感じて店を後にした私たちは、先程ぐるりと探索した先で見つけたコンビニに寄り、ビールと軽いつまみを買ってホテルに戻った。
 
 ホテルには時間で男女入れ替え制の『ラドン温泉』があり、ちょうど『男時間』だったのでいってみる。ちなみに普段はビジネス客が多く利用するホテル。『ラドン温泉』などと謳っていても高が知れているだろう、といってみるとまさに期待を裏切らない浴場であった。もちろん、誰もいやしない。私ひとり、ポツネンとぬるい湯に浸かる。とっととあがって酒呑んで寝よ。
 いそいそと身体を洗って、部屋へ戻る。

「どうだった?」部屋の浴室でシャワーを浴びた妻が訊ねる。

「うん、『ラドン温泉』?なめんな、こら、ってカンジ」

 そんな愚痴を交えつつも、ビールを呑み、つまみを喰い、信濃で買ったワンカップを呑みつつ、今日の旅のおさらいと、明日の予定などをたてていると、次第に眠気が襲ってきた。

 明日も早いし、さて、寝るか。そう言って疲れをまとった夫婦二人はPM10:00には就寝の体におちいっていたのであった。


 ・・・つづく・・・
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信州紀行~松本

2008-10-15 | 旅行
 松本に着いたのはPM3:00頃。とりあえず松本城近くの駐車場に車を止め、松本城を目指しつつ午後のティータイムでもしようと喫茶店を探す。

「んー、ここはイマイチ」「ここは、ちょっと高そう」「おっ!ここなんか良さそうぢゃん!・・・あっ、閉まってる」

 などと選り好みしているうちに、すぐ目の前に松本城。それにしても、やはり一級観光地で尚且つ三連休初日。とにかく人、人、人でごった返している。

 とにかくコーヒーを飲むぞ!と、すでに選り好みしている余裕もなく、松本城手前の喫茶店に入った。

 店内はいたってフツウの、ごくありふれた喫茶店。そして、当たり前の如く、観光客でいっぱい。それでも二、三席の空席もあり、すんなり座り、すんなりコーヒー二つ注文。
「ふいーーー」としばしの落ち着きを取り戻そうとするも、隣に座っていた親子(二十代前半とおぼしき娘とその両親)の娘のほうが怒濤の如く喋くりまくっている。両親たちは少々お疲れ気味の体でニコニコと娘の弾丸トークに耳を貸し、相槌を打っているだけなのだが、娘、マジうるさい。氷だけになったコップのストローを吸い込み「ジュコジュコ」音をたてたり、「やっぱ旅行は国内のほうがいいよー。あっ、でも、イタリアとかはやっぱ行ってみたーい」などと大声でほざいてやがる。

 あぁ、もの凄くツッコミたい。

 その想いが顔に出ているのであろう、妻は私の瞳を見てニッコリ微笑む。私も妻の瞳を見て、嘲笑う。お互い、心の中で隣の娘に罵詈雑言を浴びせているのが伺い知れる。以心伝心とでも言おうか、夫婦とは、かくあるべきである。

 コーヒーは美味かったが雰囲気ぶち壊しのティータイムを終え、それじゃあ松本城へ、行く?という段になったのだが、とにかく三連休、尚且つ、なにやら場内庭園では『そば祭り』だとかなんとかのイベントが催されている様子で、城下町はハンパない人、人、人。そう、私たち夫婦は人混みが苦手です。

「お城は、明日の朝早くに見たほうがいいだろ」

「うん」

 私たちはクルリと踵を反し、ここ松本でのもう一つの目的地に向かうことにした。
 そのもう一つの目的地というのは、松本城から少し南下したところに流れる「女鳥羽川」沿いにある「縄手通り」というレトロタウン。そこにある『三○屋』というお店なのだが、そこには昔ながらの大きなかまどで焼き上げているという名物の焼き芋あるという。(るるぶ調べ)
 その名物焼き芋を頬張りながら、レトロ丸出しの城下町をそぞろ歩こうではないか!というのが夫婦の目論見であった。

 が、しかし・・・

「ここ、だよな・・・」

「うん、『○松屋』って書いてある・・・」建物上看板を見上げる妻。

「閉まってるな・・・ってか、つぶれてるよな・・・」

「・・・・・・マジで」

 店の前には、ここ、縄手通りの歴史を紹介するべく、白黒の古い写真が何枚か飾られていて、その後ろには錆付いたシャッターが物悲しく店舗の現状を表していた。

「その『るるぶ』いつの?」

「えぇ~っと・・・三年前・・・」

 かなりの打撃を受けた私たちは、とりあえずそのショックから立ち直るべく、斜向かいにある、これまた昔ながらのスタイルを守り続けているたい焼き屋さんで、たい焼きを一枚買った。店の前のベンチに腰かけ、二人で一枚のたい焼きを分け合う。なんとも仲睦まじい光景ではないか。そしてこのたい焼きも、流石『るるぶ』に載っているだけあってめちゃめちゃ美味い。(そば屋を探しているときと言っていることが違うね、とかはどうでもいい)
 とにかく皮がパリパリで、しかも頭から尻尾まで餡がギッシリ。その餡も程よい甘さで、普段甘いものを食べない私でも「もしゃもしゃ」喰らいついた。だが焼きたてなのでめちゃめちゃ熱い。

「美味しいねー」

「美味しいねー」

「焼き芋、残念・・・」

「でも、たい焼き美味しいー」

 結果オーライだ。

 そんな『縄手通り』そぞろ歩きをしていたら、ふと川向いに今夜泊まるホテルが見えた。おお、こんな近くにあったのか。
 それじゃあぼちぼち車をとってきてチェックインしようか、まだまだ止まぬ人混みかき分け駐車場までいく二人。そして車を出したはいいが、ここが城下町の恐ろしさとでも言おうか、一方通行がやたら多くて、それに加え、明日の朝食を買うためジャスコなどにも寄り道したため、すぐそこにホテルが見えるのに、なかなか辿り着けないという状況に陥ってしまう。

 そんなこんなで日も暮れかかるころ、なんとか私たちは無事、ホテルに到着したのであった。


 ・・・・つづく・・・・
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信州紀行~戸隠、信濃

2008-10-13 | 旅行
 11日土曜日。早朝(AM5:00)から妻と二人、車で信州へ向かった。

 新しく開通した東海北陸自動車道、は、通らずに、昔ながらの北陸自動車道から上信越自動車道ルート。

 まずは腹ごしらえ、ということでAM6:30ころ富山のとあるPAでうどんとかやく飯をかっ喰らい、いざ最初の目的地『戸隠村』へレッツラゴー!
 
 なぜ戸隠へ?それはこの時期、紅葉はもちろん、そう、新そばの時期でもあるから。信州といえば「そば」。そばといえば「戸隠」。そういうことだ。

 事前に下調べした結果、須坂長野東ICでおりて『戸隠バードライン』を通っていけば鮮やかな紅葉も拝めてベストらしいので、そのルートを。

 で、着実にそのルートを通ったのだが、どうも紅葉満喫にはまだ早かったようで、ようやくちらほらと彩づき始めた模様の木々を横目にひた走る。
 しかし途中、ある一部の場所だけは紅々と彩りを見せた絶景ポイントとなっていて、車を止めて写真を撮る人や優雅に眺め入る人たちでごった返していた。私たちも車を止めてみようか、とも思ったのだが、如何せん私たち夫婦は人だかりというものに辟易としてしまう性質(たち)なので、「うわー、ここはすげぇなー」「ホントだー」とカルく流して走り抜けた。実にもったいない性質である。

 まぁ、紅葉はさて置き(一応、目的のひとつなのに)そばだよ、そば。新そば。そんなわけで戸隠に入ったのだが、昼飯にはまだ少し早いのでどこかでティータイムと洒落込もう、とペンション等が並ぶ辺りをウロウロと。
 しばらく走っていると路傍にポツン立つ『カフェ↑』の看板を発見。ここにするかとその看板の矢印に従って進んでいくが、なかなか見当たらず・・・四苦八苦しながらも、かなり奥まったところにポツンとある小洒落たカンジのその店をようやく見つけ店内へ・・・入ろうとすると玄関口でたむろしていた四匹の猫たちが興味津々でこちらを見つめてくる。

「おー、チッチッチッ」と歪んだ笑顔をたたえながら屈み込んで手を伸ばすと、一定の距離を保ちつつ逃げ惑う四匹ども。人に慣れてるんだか慣れてないんだかよくわからない反応を示す四匹ども。「撫でたかったなー」と思いながらも、その感情を猫どもに悟られるのはなんとも悔しいので「ふん、どうでもいいやー」という体(てい)を取り繕う私。

 中に入ると小さなコンポからウィリー・ネルソンが心地良く鳴り響いている。その「いかにも」なBGMに少々苦笑いしながら、客は私たちだけという閑散さに少々たじろぎつつも、窓際の席に腰をおろし、私はコーヒー、妻は何を粋がっていやがるんだか自家製ハーブティーなどを注文する。

 注文の品を待つ間、窓外を眺めると、そこは時期を過ぎてうすら寒さ漂うハーブ園、らしき一帯。時折、うろちょろとする作業服姿のジィサン。窓枠には寒さで動きが鈍った蝿が二匹、うろちょろ。無駄にだだっ広い店内は、とにかくうすら寒いのであった。
 外観は「大草原の小さな家」をイメージさせるも、細かいところに天然の『和』の風情が漂っていて、これまた苦笑い。

 そうこうするうちに上沼恵美子似のおばさんがコーヒーとハーブティーを持ってきてくれた。コーヒーはかなり酸味が強かった。ハーブティーは、美味かったらしい。それは、よかったね。

 ようやくそこで一息つくと、なんだか腹が異常に減ってきた。

「よし。いざ、新そば」

 意気込んで店内からでると四匹の猫がまたもや玄関口に集まって日向ぼっこ。可愛い・・・しかし、私たちの姿を認めるとまたもや一目散に飛び散る。なんとも、可愛げのない・・・。


 そこから少し車を走らせると、すぐに戸隠村中心部に入った。時間は十一時半くらいだったが、腹も減ったし、早めに入ったほうが空いていていいだろう。
 かくして私たちはそば屋選びを行うのだが、なんにせ、そば処「戸隠」だ。村には三十軒あまりのそば屋が軒を連ねている。こんな中からどれを選べば?

 とりあえず持参した「るるぶ」を見るも、「こんな雑誌に載っているような店はダメだ(偏見です)」と私は言い募り、村入り口にあった観光案内所へ戻り、簡素な什器に差し込んであるパンフレットを何枚か取り出す。その中から、ひねくれた私が選んだのは、他店の金をかけたパンフレットとは違い、慣れないパソコンで「自作しました」「コピー、ちょっとズレてますけど」感あふれているお店『し○の屋』というお店を選びました。
 そして、いざ、そのお店を目指すも、ちょっと奥まったところにあるらしく、わかりずらい地図を見ながら、またもや四苦八苦の体でなんとか辿り着きました。

 店構えはいかにも「手打ちでっせー」という風情をたたえていて、中に入ると、「眺めのいい二階席へどうぞー」と快く案内された。お客は中年の夫婦が一組。実に、落ち着く。
 メニューを見ると、どうやら昨日から『新そば』を出しているということ。なんとも絶妙のタイミング。
 やはり新そばは「ざる」で味わなきゃな、と私は天然の山菜とおろしきのこの付いた「おろしきのこそば(冷)」を頼む。妻は「寒いから」と言って「山きのこそば(温)」を頼む。まったく、『粋』というものをナメてやがる。
 それは、まぁ、しょうがないとして、そばを待つ間、なんとサービスとして『野沢菜漬け』と『そば団子』が運ばれてきた。うひょー。

 これがまた、なんとも美味い。野沢菜はもちろん、そば団子がまさに絶品!どうやらそば粉を丸めて軽く揚げ、そのまわりに甘辛いタレをつけてあるのだが、とにかく美味い。二人してホクホク顔で喰らいついてた。

 やがて注文のそばがきて、とにかく、すする。噛む。呑み込む。美味い。新そばだとかなんとかはよくわからんが、とにかくヅルヅルと美味くてしょうがない。こうなると温かいのも食べてみたくなるので妻に「ちょっとそっちもくれ」と言って、こっちのざるとトレードしながら食を進める。
 これがまた、「妻よ、温かいのを頼んでくれてありがとう」という気持ちにさせてくれる美味さ。『粋』も時には邪魔になる、ということを学習する。

 腹も心も満たされた私たちはしばし放心しながら、「美味かったなー」「美味しかったねー」を繰り返す。

 さて、この後は宿をとっている松本に向かわなければいけない。私たちは幸せ感を引き摺りながらお勘定をしにいった。
 そこで姿を現した気の良さそうなジィサンに「いやー美味しかったです」というと「えぇ、うちはちょうど昨日から新そばを出してましてね。いつもよりちょっと美味しいです」と謙虚なのかなんなのかよくわからないコメントを笑顔で言い放ち、私たちも笑顔でそれに応えた。ごちそうさまー。


 さて、では行こうか、次なる目的地『松本』へ。と、その前に名所『鏡池』へ行ってみないか?と提案し、妻も承諾したのでそちらに向かって車を走らせた、つもりだったのだが、どこで道を間違えたやら?気付けば「信濃」についていた。あらま。
 また戻るのも面倒なので、ここから高速にのって松本へ行こう。まぁ、せっかくだからここ信濃の地酒『松尾』(ワンカップ)でも買っていくよ、と、道の駅でそいつを購入。しかしこれだけだとなんだかアル中のオヤジみたいだよなぁ・・・と妻に言うと、「たいして変わんないし」とあしらわれた。

 そうして、何も反論できない私を尻目に、仲睦まじい夫婦は松本に向かうのであった。


 ・・・つづく・・・
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tokyo blues 完結編

2007-07-31 | 旅行
 さりとて、浜松町に着いたところで何処へ行くあてもなく、駅北口から出て辺りを見上げれば、ビル、ビル、ビル。しかし、その切れ間から霧雨で上部が霞んだ東京タワーが見えました。
 おおっ、昨今の東京タワーブームが鼻につき、やや意固地になって「東京タワー?見んでもいいさー」とぬかしていたが、遠くからでも、多少霞んでいても、やはり田舎モンにとっては東京のシンボルと感じてしまうんでしょうか?なんだか感慨深げに眺めていました。

 しかし、それも束の間のこと、すでに歩き疲れて、そこら辺をウロウロする元気も余裕もないので、六時過ぎくらいに空港へ行こうと考えていましたが、もう行っちゃうか、と一時間ばかり予定を繰り上げることにして、モノレールへ乗り込みました。

 モノレールでグングン空港へ向かってゆくと、なんだか、あぁ・・・もうすぐ帰るんだよなぁ・・・と安堵と寂しさが入り混じった複雑な感情がジワジワと込み上げてきました。

 去年もそうだったけど、今回も電車に乗っているときは「この車窓から流れる景色を目に焼き付けておこう!」という勢いでずーっと外を見つめているんですが(流石に地下鉄では外は見ません。女子高生とかオネェチャンをチラ見しています)最後のモノレールから流れる景色はぼんやりと眺めているにもかかわらず、思いのほか胸に焼きついているようで、今でも鮮明に思い出せます。
 たぶん、「フッ・・・」と気負いの抜けた気持ちの穴に「スルリ」と入ってきたんでしょうね。

 さて、空港に着いてからも、なんやかんやとウロウロしていたんですが、どうやら予定通り飛行機も飛ぶということなので、とりあえず腹ごしらえでもしておこうと、お食事フロアへ。
 そういえば今回の旅行記、やたら食いモンの話ばかりしたなぁ、と、まぁでも、旅行といえば、やはり普段とは違う食事になるもので、それは書いておきたくなるものであって・・・。
 で、私はオムライスを、妻はベーグルなどを食べて、疲れもかなり出てきたんでしょう、帰りまでの時間をなんだかボーッとしつつも、妙に落ち着かなかったり、とても曖昧模糊な時を過ごしていました。

 ほどなく飛行機に乗り込み、離陸。来たときとは逆に地上に瞬く無数の光が遠ざかってゆく様を見ていると、家に帰る安堵感よりも、やはり日常に戻ってしまうなぁ、という切なさというかやるせなさみたいな、そんな感情のほうが強く胸に溢れていました。

 そして無事、小松空港へ降り立ち、車で帰る道々、お互いにしんみりとこの二泊三日で巡った場所での情景や出来事などをポツポツと喋りあいながら、「あぁ、あそこへ行けばよかったねー」「あぁ、あの場所へも行きたかったなー」などと、今更ながらなことを口にして、最後には「また、行こうよ」と、頷き合い、またその日がくるまでの、二人の日常と生活が在るべき場所へと帰っていったのでした。

 
 旅行というのは、ちょっとしたものでも結構疲れたり嫌な事などもあったりするけれど、その分、色々な体験ができ、色々なものを見て、聞いて、肌で感じて、普段の生活の中では味わえない様々な想いや考えに出くわし、めぐり合えるので、半月経った今だからこそ言えるのかもしれないが、やっぱり、いいなー、って、心から、そう思える。

 でも次は、もうちょっとのんびりとした旅をしたいなー、とも、思っているのであった・・・。


 -了-

 
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tokyo blues ⑨

2007-07-30 | 旅行
 このシリーズ、いったいいつになったら終わるのでしょう・・・。

 そんな悩みを抱きつつ、気を取り直してイッてみよー!!!

 。。。☆彡


 上野へ向かうべく溝の口駅へ戻った際、飛行機の運行状況などを確かめておこうと、駅構内の公衆電話で羽田空港に問い合わせの電話を入れてみる。
 電話は妻に任せ、私はというとコインロッカー前でずぶ濡れになった靴下を履き替えている今にもパンツが見えそうな女子高生をガン見する。
 ふと、向こうから歩いてくる若い駅員のオニィチャンの視線の先もその女子高生であることに気づいて、私たちはひと時、アムロとシャア、そしてララァのような気分でニュータイプな想いに耽る(いや、たぶん、オレだけか・・・

 それにしても、かなりきわどいのだが、なかなかパンツは見えない。そんな宇宙を漂っていた私の精神を妻がきつく呼び戻す。オマエはアルテイシアか。。。

 妻が言うには、夕方のフライト予定などはまだ解からないらしい(夕方のブライトの予定・・・しつこいですか?ガンダムネタ)
 しかし、午前中の便はなんの支障もなく予定通り飛んだので、たぶん大丈夫だろう、と結論して上野へ向かうことにしました。けっこう、遠かったです。

 上野駅から出ると小雨と霧雨の間のような様子。わざわざ傘をさすまでもないくらいの天候でした。
 ですからそのまま、雨は気にせずアメ横へ(←オヤジギャグです♪)向かいました。

 とりあえず、通りに並ぶ店々をチラチラと値踏みするかの如く見送り、ざぁーっと一通り回って、また引き返してみたり、あっちへ行ってみたりこっちへ行ってみたりしながら、洋服や乾物などをチョコチョコ買いました。

 買い物を終え、ホクホクしながらそぞろ歩き、そこで目についたカフェ(サンマルクカフェ)へ入り、ひと休み。
 私はブラックコーヒーを、妻はゆず茶を頼みました。
 それにしても、前日は不味いコーヒーばかりにアタリましたが、この日は美味しいコーヒーばかりにアタリました。前日が不味かったから、よけい美味しく感じられるのでしょうか?

 一服し終えた私たちは少し小雨がちらつく中、上野公園へと足を運びました。
 
 不忍池は蓮の葉と花でいっぱいでした。

 さて、これからどうしましょう?まだ空港へ行くには早いし、かと言って、やたらと何処かへ行けるような時間でもないし・・・そんな思案に暮れながら上野の街を行くともなく歩いていました。
 しかしここをフラフラと歩いていても埒があかないので、それじゃあ浜松町に行ってしまおうか、と時間を持て余してしまっている二人は、とりあえずモノレール乗り場のある浜松町へと移動するのであった。


 まだ、

 ~続く~

 のね・・・。
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tokyo blues ⑧

2007-07-26 | 旅行
 はてさて、ちょいと変わったところといっても、メイドさんがご奉仕してくれるところだとか、女王様にご奉仕するところだとか、昼下がりに暇を持て余しているミセスと電話でお話して合う約束を交わしたりだとか、まして、女子高生の脱ぎたてパンツが店内に所狭しと販売されている、とか、そういった類いでは、もちろんありません。

 前フリはこのくらいにして・・・『溝の口』へ向かいました。

 何故、溝の口?かと言いますと、話せば長くなりますが、昔カミさんが川崎の方に住んでいたことがありまして、それで。(頑張って端折りました☆

 そんなワケで、溝の口駅を出る頃には雨も小雨になっていて、フラフラとその辺を歩いているうちに傘をさす必要もないくらいになりました。

 どこか粋な定食屋にでも入ろうか、と、しばし探し歩いてみましたがなかなか思うようなところは見つからず、かなり腹も減ってきたので「ここでいいじゃん」と、ふと目の前にあった小汚い・・・否、情緒漂う(築地編でも似たようなこと書いてたな)立ち食いそば屋を指差しました。

 そこは店舗が二つくっ付いていて、一つは「十字屋」という立ち食いそば屋、もう一つは「しんちゃん」(確かそんな名前だったと・・・)という夜間営業の居酒屋でして、入り口が三つも四つもあって何処から入ればいいのやら?と戸惑いながら、一つ選んで入ると、そこは長テーブルにお弁当や惣菜が並べられており、ふと、入り口に顔を戻してみると「惣菜 十字屋」と、なるほど、三つ目の店舗ですね・・・って、ラビリンスかい!などと小声でツッコミを入れていると、その先から「いらっしゃぁ~い」と気の抜けたオバサンの声が。
 声のした方を見ると、白い頭巾をかぶったオバチャンが三人ほど、そばやうどんを作っていたので、あぁ、奥がそば屋なのね、でも、この惣菜も美味しそうだから、これも、とパックに入った昆布と野菜の煮浸しみたいな惣菜を手に、カウンターへ向かいました。

 少々思案した末、私は山かけそばを、妻は山菜そばを注文しました。立ち食いそば屋なので、もちろんカウンターの所で立って待っていたら、居酒屋店舗のほうから丼物を食ってたオッサンが「こっちこっち」と私たちに手招きをします。

 私たちは導かれるまま居酒屋店舗へ。

「そこ、座って食いな」とオッサンがテーブル席を指差し、にこやかに言ってくれました。

「いいんですか?」明らかに常連風のオッサンに問いかけると、店のオバチャンも笑顔で「うんうん」と頷いてます。
 では、お言葉に甘えて座らせていただきます。立ち食い店舗を眺めると、労働者風の人や若い人たちが立ったまま一心不乱にそばを啜ったり、丼物を喰らい込んだりしております。

 これは、私たちが明らかに旅行者だということでの心配りなのでしょうか?それとも、余所者はソコでチンとして食いやがれぃ!というカンジで、のけ者にされたのでしょうか?まぁ、ここは前者ということにしておきましょう。

 そばを待ちながら居酒屋のメニューをザッと眺め回していたんですが、かなり庶民的なお値段で、色々変わった品などもあり「ここ、夜に来たら楽しそーだなぁ」などと二人で微笑みあったりしました。
 小さなブラウン管テレビからは現在の横浜の状況が。どうやら横浜は午後からはすっかり雨が止んだみたいです。って、おいっ!オレらがいたときのあの横浜の雨はいったい・・・・などと二人で引き攣り微笑みあったりもしました。

 ほどなく、山かけそばと山菜そばが運ばれてきて、「いただきまーす!」

 熱々のそばに舌鼓を打ちつつ、惣菜を「美味い美味い」とみるみる平らげていきました。山かけは出汁にとろろが混ざってそんなに分からなかったんですが、妻が「やっぱり関西と関東じゃ出汁が違うね」と言うので山菜そばのほうのお汁を少し吸ってみると、うん、確かに、でも、美味しいぞ。でも、うどんだったらちょっとキツイかも・・・などと、たわいない会話もしながら、かなり満足のいく昼食を終えました。
 食い終わって一息つきつつ、何気にカウンターを見ると店のオバチャンも昼食を食っていて、なにか丼物を食い終わって外へ出てったと思うとすぐに桃ゼリーを片手に戻ってきたので、あぁこのオバチャン、絶対に箸でゼリー食うだろうなぁ・・・と思って見てたら、予想通り、箸で桃ゼリーをかきこんでくれました。
 それが、なんともいえず、微笑ましく思えて、さらに満足した面持ちでお勘定を払い、そば屋の出口の方からその店を後にしました。

 満足した腹を抱え、さて、お次は?

 上野のアメ横通りへ行くのでありました・・・。


 ~続く~
 
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tokyo blues ⑦

2007-07-25 | 旅行
 横浜駅へ向かう電車の車窓から、眺める景色は雨、雨、雨・・・。しかも、横殴りだったりする・・・。

 そんな過酷な状況ながらも、横浜駅へ無事到着!さて、どこいく?どこいく?
『港の見える丘公園』?『八景島』?『赤レンガ倉庫』?『中華街』?・・・・しかし、駅から一歩踏み出すと、やはりそこには、激しい雨が待ち受けていたのであった!

 そんなもんなんで、しばらく様子でも見るかーと、駅構内のスターバックスにて、アンニュイな面持ちで雨を眺めながらのコーヒータイム。

 AM10:00少し前、なんだか益々雨脚が強くなっている模様・・・・。

 こんなときにわざわざ外出するのはイヤです。と、いうことで、そろそろ十時でお店もチラホラと開店の兆しを見せ始めてきたので、横浜駅の地下街、SOGO、ルミネ横浜などをそぞろ歩きしていました。

 そんなカンジの横浜です。特に「コレはっ!」ということもなかったんですが、なんかヒジョーにオサレな街空間だなー、、、と田舎モン丸出しの感想しか出てきませんね♪

 そして、お次。昼飯はやっぱ横浜といえば『中華街』かやー!と思いきや、いえいえ、ちょいと変わったところへ、足を伸ばしてみたのです・・・。


 ~続く~
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tokyo blues ⑥

2007-07-24 | 旅行
 七月十五日(日)朝から大雨・・・前日と同じくAM6:00に起床。しかし前日よりは寝覚めが良かったのは、やはり飲酒して寝たおかげであろうか?
 妻も前日と同じく私より一時間ほど早く起き、シャワーを浴び、化粧を施したり髪を乾かしながら身支度をしていた。

 私もすぐに熱いシャワーを浴び、身支度を整える。今日も朝食はホテルで用意されているらしいので、一階のブランチルームへと向かう。
 
 昨日のホテルでは外国人たちでごった返していたので恐る恐る近付いていったのだが、中を覗いて一安心。昨日のホテルよりも広くて小ざっぱりした空間に、日本人が五、六人、壁に設置されている大型の液晶テレビから流れるニュースを観ながらゆったりと食事をとっている。

 思わず私たちは顔を見合わせ、笑顔。

 用意されているものはというと、昨日のホテルでは和食と洋食を渾然一体にしたようなメニューがひしめき合って放置された状態のバイキングで「質より量」を重視した趣きであったが、今朝は握りこぶしより少し小さめのパンが五種類ほどとポテトサラダ、あとはイチゴジャムやブルーベリージャム、マーガリンなど、飲み物はオレンジジュース、ホットコーヒー、とシンプルであるが、パンは焼きたて、コーヒーも挽きたてが飲める機械で、実に美味しかった。まさに「量より質」である。もちろん、パンもポテトサラダもジャムもジュースもコーヒーも食べ放題、飲み放題であるが、私たちは適度に程よくお行儀良く、頂いた。

 食べている最中、ニュースはしきりに台風情報を流し、警戒を呼びかけている。飛行機もかなり欠航になっている様子。でも、帰るのは最終便だから、なんとかなるだろう・・・と気休め的な楽観姿勢をとりながらも、内心ちょっぴりドキドキ。

 それよりも、今日は何処へ行こうか?などと満たされた腹を抱えながら部屋で思案する。そう、私たちのこの旅行。実は葛飾柴又と秋葉原以外にとりたてて行き先を決めずに挑んだのであった・・・。

 部屋で地下鉄路線図などを眺めながら、「どこいく?」「どこいきたい?」「どうしよう?」などと繰り返し発しながら、テレビからはしきりに大雨警報や台風接近などをあおっている。

 妻がふと、「鎌倉へでも、行ってみる?」と提案。

「でも、すごい雨だしなぁ・・・」と、鎌倉へ行くならもうちょっと天候の良いときに行って写真を撮りたいなぁ、と思っていた私は煮え切らないことをぬかす。

 また思案の沈黙・・・そこで私は、「横浜へ行こう」と一言。しかし、テレビのニュースでは午前中、横浜はかなりの大雨だ、と。

「うん、横浜へ行こう!さぁ、行こう!」と、私はテレビを「プツンッ!」と消し、せっせと出発の準備にとりかかる。妻もあえて反論は無いようだ。よしっ!横浜目指して、レッツゴーーー!

 そんなワケで、AM:8:30~ホテルをチェックアウトし、外に出ていきなりの雨にも負けず、風にも負けず、私たちは暴風域と仲良く横浜へと向かったのであった・・・。


 ~続く~
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tokyo blues ⑤

2007-07-23 | 旅行
 さて、ショージキ、続き書くのが面倒臭くなってきてるんだろーなーコイツ、、、と思われてるであろう『tokyo blues』です。

 えぇ、まぁ・・・実際、そうなんですけど、昨日Tくんに「続きを書け」と言われたので、頑張ってみますね。。。

 えーっと・・・日本橋ですね。日本橋の高島屋です。もうすでに夕方六時近くになってたかなぁ?
 
 ふっ、お前らみたいな貧相なヤツラが天下の高島屋さんに何の用だYO-!

 チェケラっ!地下のYO-、食品売り場にYOー、晩飯を求めにいったんだYOーー!!!

 ぁあ、うぜぇな、ヤル気ナッシィング丸出しだな。真面目に書こう。

 ・・・・・・☆彡

 どこか、美味い店にでも食いに行こうか、という案もあったんだけど、そんな店、知らないし・・・んで、そんな店行っても二人だとあんまり色んな種類頼めないからなー、と、それじゃあデパ地下とか行って量り売りの惣菜とか買ってさ、ホテルで食べようよ。
 ってね、そんで中華惣菜やら和食惣菜やらサラダやらをチマチマと買って、ホテル近くのコンビニでビール買って、なんだか豪勢なのかショボイのかよくワカラナイけれども、とっても美味しくて楽しい晩飯をいただきました。

 食い終わるとなんだか一日の疲れが「ドッ」と出てきたみたいで、シャワーとか入ろうと思ってたけど、明日の朝でいいやー、みたいな、まぁとにかく、今夜も明日の朝に備えて早く寝ようか・・・で、まだ十時くらいだったけどベッドに入り・・・・あっ、そうそう、実はツインの部屋が空いてなくてダブルだったんですよ。久しぶりにカミさんと同じベッドで寝ました。イヤラシイことをしたかどうかは、みなさんのご想像におまかせしますがね、まぁ、早々とベッドに入って「ぐはーっ、疲れたなぁ」とか思いながら目を閉じるんですけど、やっぱり寝つきの悪い子でして、たぶん一時間くらいウダウダとしてたような(いや、この一時間くらいのウダウダって、カミさんとチチクリ合ってたワケではなくて、カミさんは秒速で寝ちゃう人だから・・・)で、まぁ、いつの間にかオイラも眠ってるんですけど・・・。

 さて、お次は最終日。七月十五日編です。乞うご期待!・・・しないでくれ・・・いや、次はちゃんと書こうと、思う、ので、乞うご期待!


 ~続く~

 のか?

 ・・・・・続きます。
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tokyo blues ④

2007-07-19 | 旅行
 PM3:00、人形町のホテルにチェックイン。前日の格安旅行パックで泊まった安ホテルとは違い、自分たちで探して予約しただけあって、予想以上にキレイなホテルに思わず顔がほころぶ。何より、ホテル内をすれちがう人たちがみんな日本人というのが、いい。

 とりあえず部屋に荷物を置いて、ホテル近くにあった、この時間帯にしてはあまりにも客の少ない(私たちの他、一名)ドトールコーヒーで完璧に煮詰まってしまっている苦味を通り越してもはや嫌味になってしまっているクソ不味いコーヒーを眉間に皺を寄せながら飲む。妻はカプチーノを美味そうに飲んでやがる・・・。

 胃に重たいものを抱えながら、次なる行く先は秋葉原。そう、オタクの聖地、秋葉原。メイドを見たいぞ、秋葉原。そんなカンジで、向かいました。
 いや、特に何か目当てのモノがあって、とか、そんなのはなかったんです、ただ、オタクの聖地ってヤツを肌で感じてみたくってさ・・・・で、だんだん秋葉原に近付くにつれ、心なしか電車内のメガネ率が多くなっているような・・・・あぁ、そして駅を降りて一歩街に踏み出すと『左門豊作』似がチラホラと・・・あぁ、ここは、聖地なんだなぁ、と思いました。

 それにしても、天気が悪い。ひっきりなしに、雨です。雨だからみんな傘をさす。雨なのにものすごい、人、人、左門。そんなワケだから、もうー傘を上げたり下げたり振ったり叩いたり突いたり(嘘です、そこまではしてません)とにかく街中をあてもなくウロウロするのも疲れたので、途中でメイドさんも見れたので、とりあえずヨドバシカメラ内に避難。しかし、ここも多くの人、人、豊作。

 まぁ、ここで電化製品を見たところでどうしようもないので、七階にタワーレコードがあるからソコ行こう!と提案、で見るだけのつもりが・・・思わず『早川義夫』のライブ盤と『ウェス・モンゴメリー』の、これもライブ盤CDを買っちゃいました。わざわざここで買うこともなかろうと思いつつも「記念に」という言い訳を付けて買ってもらいました。えぇ、買ってもらいました。妻に。えへへ・・・。

 さて、それじゃあ、CDも買ったことだし、行くか~!と結局それが目的だったみたいなカンジで、お次は日本橋の高島屋へ向かいました。


 ~続く~
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