貫井徳郎の
『乱反射』という小説が、このほど第63回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞した。
この小説を読んだときの衝撃は未だに忘れられない、なんとも心根を抉る問題作であった。にもかかわらず、世間の評価は芳しくなかった。「こんなのはミステリじゃない」とまで言われたりした。(作者本人もミステリではない、と言っていたが)
しかしその度肝を抜かれるプロットとスリルに満ちたストーリー展開、これがミステリではなくてなんだと言う! 私からすれば貫井作品ベスト3には入る傑作である。
この貫井徳郎という作家。一般世間ではあまり正当な評価を受けられていないように見受けられる。マニアの間では絶賛されているのだが……。
しかしようやく、正当な見識を持たれたかのように
『後悔と真実の色』で直木賞は逃したものの第23回山本周五郎賞を受賞した。が、それは私としてはいまいち喜べない。それは「乱反射」のほうが作品としては確実に上質なのに、という想いがあるからだ。できれば「乱反射」にこそ正当な評価が与えられるべきだ、そんなことをぐじぐじ思っていたら、このたびの受賞だ。やっぱり、プロの目から見れば「乱反射」は格別なのだよ。早速私は今回の日本推理作家協会賞の選評が載せられているオール讀物7月号を読んだ。選者は日本を代表する推理作家たちそうそうたる顔ぶれであった。そのいちいちは記さないが、やはり同業者というか、同じ方向を志す者であるからだろう、その評価はどれも厳しい。特に貫井徳郎の「乱反射」だけが絶賛されているということではない。むしろ批判も目立つ。が、それでも五つの候補作(自分が読んでいたのは「乱反射」と湊かなえの「贖罪」であった)の中から見事受賞と相成ったことは、まことに嬉しいかぎりである。
とかく推理小説というジャンルは険しく厳しいものである。にもかかわらず、頑なに驚愕のミステリーに挑み続けている貫井徳郎の姿勢に対しての今回の受賞は、たいへん意義のあるもののように思えた。