ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

孤独の発明

2009-01-09 23:41:06 | Weblog
ポール・オースター著、柴田元幸訳、新潮文庫。

父親の死から始まる「見えない人間の肖像」と、底なしの孤独感を表現した「記憶の書」。
ここに登場する人物は、オースターであり、私であり、そして誰でもある。
ぽっかりと広がった「虚無」を描いた作品。
私の心にも、この断片は浮かんでは消えるけど、でも文章にまとめることができなかった断章。
それを表現するからこそ、オースターは作家であり、私は読者であるわけだけど。

私も両親の死をつうじて、何か書いてみたいと思った。
でも、書くことができない。
それは、あまりにも「大いなる物語」。おいそれと書くことはできない気がした。
いつも、ノートと鉛筆を用意し、ハタと止まってしまう。
だから、あえて、いまは思い出したつど、その断片をつれづれに書き記している。
やはり、オースターのようには書けないけど。

「記憶の書」では、随所に「ピノキオ物語」が引用されている。
2001年にスピルバーグ監督の作品として上映された「A.I.」。
アメリカの未来版ピノキオ物語のSF映画で、原案はキューブリックということだ。

この映画を一人で映画館に観に行ったとき、見終わった後、無性に両親と話がしたくなった。
今回、この本を読んで、ふとその時の気持ちを思い出した。

私は両親が亡くなったあと、世界がとても美しく見えた。
悲嘆して、涙にくれて、この世の終わりのような気がするかと思っていたのに、
私が生きている世界は、光に満ちたこの上もなく美しい世界に見えた。
そして、それまでにないほど、両親を愛しく思った。

愛おしく思うのに、本当に愛しているのに、「死」じたいを悲しめない自分。
それがとても冒涜のような気がした。

でも、これはきっと「命」の本質に触れたゆえの気持ちだったのだと、いまは思う。