ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

日時計の影

2009-01-15 22:00:10 | Weblog
中井久夫著、みすず書房刊。

中井さんは長く神戸に住み、神戸をとても愛していらっしゃる。
東京生まれ、東京育ちの私にとって、神戸はとても通い土地だったが、
北京留学中に出会い、その後、ずっと親しくしている日本人の友人が、
当時神戸の大学に通っていたことから、私にとっていつの間にかとても近い土地になった。

いや、私たちが北京の留学から帰国した直後に起きた神戸の震災。
朝、テレビをつけて、神戸の映像に愕然とし、友人の身の安全を祈ったあの瞬間、
私にとって神戸という町は、とても近いところになったのかもしれない。

震災の直後、粉骨砕身、人のために尽くされた医療界の方が、
まるですべてを燃やし尽くしてしまったかのように、
平均寿命よりもかなり若く亡くなっていることを初めて知った。

そういえば、もうすぐ震災のあった日が訪れる。
慰霊の報道を毎年目にするたびに、大切な友人が無事でいてくれたことに感謝する。

そんな神戸の戦後、震災、そして今を、
ゆったりと独自の視点で描いている中井さんの文章は、
本当にタイトルのとおり、「日時計の影」のような印象がある。
じりじりと照らす真夏の太陽、やわらかい春の日差し、
ただ淡々と、ひっそり時を刻む日時計。
ゆったりとした、文化のある時間。
人生とは、そんな歩みなのかもしれない。

文章を読んで、上品な生き方を分けていただいたような気がする。

なぜか読みながら、白洲次郎の伝記を思い出した。