たまには私も1人で下宿にいる事はあった。何度も書いてるが、Y田下宿は予備校生が多かったので、夜はとにかく静かなのである。なぜか、、?→みな一生懸命勉強しているからだ。ラジオ聴いたり音楽かけたり体操したり本読んだりしてるのは、間違いなく私1人だけだ。そうそう、隣りのエレガントシロキさんも、とても優秀な方だったらしく(クラブの先輩にたまたまシロキ先輩の友達がいて、そのひとが教えてくれた。)、どうやら夜は真面目に部屋で勉強をしていたようだ。、、何だなんだ、勉強もせずダラダラしてたのは私だけかい
。
☆その日は珍しくウキヨちゃんとこへは行かず1人で部屋にいた。久々にY田バンバの食堂で夕飯をきちんと食べ、予備校生たちから「偉いわね、〇原女史、今日はちゃんと下宿で夕食食べてる」なんてからかわれながら、結構楽しい時を過ごした。その後、部屋に戻り、ラジオのスイッチを入れ、友達に手紙を書いたり、本を読んだりと気ままに過ごしていた。テレビはY田食堂に小さなのが1台あるだけ。部屋にはなかった。部屋にはなかったので。さて、、聞くともなく聴いていた(オールナイトニッポンだったと思う)ラジオ番組から、いつものオープニングとは明らかに違う始まり方をした。重く暗い雰囲気で、BGMもなかったのではないか。いつもなら、チャラッチャチャチャラチャチャッチャチャ、、という軽快な音楽で始まるのが常なのに、なんだこの暗さは?違和感アリアリで、思わず真剣に耳を傾けた。静かに話し続けるパーソナリティ。吉田拓郎さんの軌跡、のような事をひたすら話している。結構長い時間だったと思う。そして、なんと、その吉田拓郎さんが、お亡くなりになった、みたいな事を言ったのだ。直接言ったか、間接的な表現だったか、そこは動転してしまいよく覚えていない。とにかく、そうリスナーに静かに伝えたのだ。(当時私は吉田拓郎さんの曲もよく聴いていた。特に、流星と外は白い雪の夜、がたまらなく好きで、今でも名曲だと思っている。)驚いて、イスから転げ落ちそうになった。声も上げたかも知れない。「拓郎が?!拓郎がー?」と。衝撃が大きくて、涙は出てこなかったと思う。呆然としていたのだ。と、これはいかん!ウキヨちゃんにも教えなくては!と思った。ウキヨちゃんは特に拓郎さんのファンではなかったが、何故かウキヨちゃんには話さなければならない!と思ったのだ。もう、11時か、それより遅い時間だったと思うが、私はほぼ着の身着のままで、フライパンを持ち外に飛び出した。当時はスマホはおろか、ケータイすら夢のまた夢、という時代だったので、固定電話がないと、連絡を取るすべがない。ウキヨちゃんの部屋にはあったが、夜中の外出は、原則禁止だったが、掟破りを犯してしまった。まあ、しょっちゅう破っていたが。ウキヨちゃんとこは小走りで5分くらいの極近いところにあるのだが、途中、薄暗くて気味の悪い公園を通らなければならず、女ひとりではちと怖い。それで、夜行き来する際はフライパンを持って移動する事と互いに決めていた。しかし、改めて考えると、なぜフライパンだったのか。そんなもので、暴漢に立ち向かえるのか。パーンと1発お見舞いできるのか。、、ウーン( ˙꒳˙ )???今となっては甚だ疑問である。高台の上にあるウキヨちゃんの住むアパートまでたどり着き、息も切れ切れになりながら、ピンポンを押す。初め警戒してなかなか出てこなかったウキヨちゃんだが「私だ私だよー!」と叫ぶと覗き穴から確認したのか、直ぐにドアが開いた。「どしたい?こんな時間に。まあ入って入って」といつものように穏やかで落ち着いた口調。私は今ラジオで聞いた話をダダダダーっと一気に話した。そして最後に「吉田拓郎が死んでしまったんだよー!」と叫んだ。ウキヨちゃんは、それまで聴いていたゴダイゴを止め、例のラジオ番組をかけてくれた。すると、なんと、先程とは全く違う雰囲気。更には笑い声が、、。吉田拓郎さんが亡くなったと言うのに笑っていいのか?!2人して黙って更にラジオに集中した。「美代子さん、拓郎さんはいらっしゃいますか」とさっきのラジオのパーソナリティが何故か笑いながら尋ねているではないか。美代子さん?えー!浅田美代子さんか?!何とDJが、美代子さんに電話をかけてたのだ。ご存知の通り、当時美代子さんは吉田拓郎さんの奥様でいらした。その美代子さんが、あの優しげな暖かな口調で「(拓郎さんは)おりますよー。」と答えているではないですか。何だ?一体何が起きたのか。その後、2人してラジオを聞き、悪ふざけの過ぎた、全くの嘘話だった事が判明したのだ。しかし、ただの悪ふざけでは済むわけがないぞ。美代子さんが言うには、その嘘話がラジオから流れてから、ご自宅の電話がなりっぱなしだと言う。そりゃそうでしょう、あの、偉大なるミュージシャン、吉田拓郎さんが亡くなったと言う情報が公共の電波に乗って日本中を駆け巡ったのだ。驚いた拓郎さんの知人友人身内、みな電話をかけるでしょう。パーソナリティのかたは、平謝りしていた。「本当に本当に申し訳ありませんでした。」優しい美代子さんは「本当に驚きましたよー」と言ってましたが、心の広い方なのか、聞いてて、それほど怒った口調ではなかった気がしました。さすがだ。
「いやあ、よかったねえ、、それにしても、しょーもない嘘つくもんだねえ」ウキヨちゃんが、のんびりした口調で言う。続けて「何か飲むかい?それとも寝るかい?」、、飲むー❤と、いつものようにわがまま言って、2人して夜中に紅茶を飲んだ。
翌朝、2人して下宿に寄り、着替えをして大学へ向かったのだが、案の定、下宿入口の前にある庭でバンバに見つかってしまった。「あら〇原さん、おはようございます!今朝はご飯はいらないのですか?おや、お友達も一緒ですね、もしかして昨日はお泊まりだったのですか。ともかく、何かある時は事前に連絡下さいね」はあ、まあ、、と曖昧な返事をして、2人して部屋に逃げ込む。再度下から声がする。「〇原さんさん、今日は帰り早いのですかー」「わかりませーん」
バンバは何かブツブツ言いながらY田バンバがY田1の建物の中に消えた。
さて、例の吉田拓郎さん事件なのだが、大学そばにあったいつもランチしに行く店で新聞読んだら、昨日の吉田拓郎さん事件のことが載っていた。 ラジオ局への問い合わせや批判の電話が相次いだとの事です。 そりゃそうでしょうよ。私みたいに、驚き悲しんだ人が、全国に沢山いたという事だ。、、それにしても、DJの目的はなんだったのか。今考えてもさっぱし分からない、謎多き吉田拓郎さん事件でした。