今はもう名前すら忘れてしまったが、Y田下宿2の一階一番奥の部屋にいた予備校生さんとは同郷と言う事もあり、結構仲良くしていた。仮の名前をミヤさんとしよう。(宮崎美子さんに目のあたりが似ていたので)。しかし彼女とはなかなか会えなかった。帰宅時間が違うし、朝食の時間も微妙にずれていて会えないのだ。たまに大学の実習が早く終わり、真っ昼間に下宿に帰り洗濯などをする事があって、そのような時にちょうどミヤさんが予備校での授業を終えて帰って来て「マスコさん、こんにちは(^_^)今日は早いんですね。私も今日は早かったです。ちょっとお部屋に来ませんか。お茶でも飲みましょう♥」と誘ってくれるのだ。下宿の共同のミニキッチンでお湯を沸かし、ミヤさんは、日本茶を淹れせんべいを出してくれた。
「マスコさんは、ロックが好きなんですねえ。」ニコニコしながらミヤさんが言う。「え、はあ、まあ。好きですよ」答えながら私はハッ( ゚д゚)とした。斜め下のミヤさんの部屋に、私が朝な夕なに、やや高めのにかけているレコードやカセットテープの音がだだ漏れしている事に気づいたからだ。、、深く反省(_ _;)。一生懸命勉強しているミヤさんの邪魔をしてしまってたのか、、。すまない。「ところで、ミヤさんはどんな音楽を?」と聞くと、即答→さだまさしさん。キッパリ。「へえ、そうですかあ、さだまさしさんですか。」さだまさしさんと言えば、何をおいてもまず、精霊流し。確かににいい曲だな。しかし、他に知らない。あ、無縁坂もあるぞ。しかし、他はわからない。などと考えているとミヤさんが 、さだまさしさんの良さを穏やかな口調で語り始めた。内容は、これまた遥か昔のことであまり覚えていないが、歌詞をよく読んでほしい、と言われたのは覚えている。「マスコさん、聴いてみる?」と言ってカセットテープを引き出しから取りだした。ああ、では、、と受け取る。タイトルはすっかり忘れていたが、スマホで調べすぐに思い出した「夢供養」である。その後しばらくミヤさんと他愛のない話をして「そいじゃそろそろ、、。お邪魔しました。カセットテープありがとう、聴いてみるね。勉強頑張ってください。」と告げ部屋に戻り、電気ポットでお湯を沸かしコーヒーを淹れた☕、、。さて、、聴いてみるか、さだまさしさんを。でも、、最後まで聴けるだろうか。あまり聴いたことないし、、。一体どんな感じなんだ、さだまさしさんの曲というのは、、。しばらく躊躇ったのち、入っていた浜田省吾さんのカセットを取り出し、さだまさしさんのそれを入れる。一曲めで心が悲鳴を上げる、、「ウオーっ、、何だこれは!」歌というより、なんだ、詩吟?のような、わらべ唄のような、いやいやわからん、何か兎に角、歌じゃないような曲なのだ。ヤバい、、これは、聴き続けられないかも。でも、せっかくミヤさんが貸してくれたやつだから、聴かないと。カセットテープは、曲をポンポン飛ばしてかけるのが難しい。なので、とりあえずそのまま流していた。正直、初めは「一回聴いたらあといいかな」と思ったのだ。しかし、、ある曲が流れてきた時に、オッ😯となった。病室を、、から始まる、そう「療養所 サナトリウム」である。始まりの静かーなピアノの音色がスーッと耳に入り込んでくる。これは、いい。好みだ。巻き戻してもう一度、更にもう一回、、。しばらくサナトリウムだけを繰り返し聴いた。ミヤさんが言ったように、歌詞を読みながら聴いてみた。うわ、泣ける、この歌詞。多分実際泣いたと思う。まさか、雑居病棟にいるおばあさんのことを歌にするなんて。さだまさしさん、恐るべし。普通、療養所に入っている身寄りのない老人のことを歌った歌、を聞いたら、悲しくて切ない気持ちになるだろう。しかし、たしかに切なく悲しくもなるが、歌詞をよく読むとそれだけじゃない、何か、うーん文才なくてうまく言えないが、とにかく、ジワっと沁み込んでくる何かがあるのだ、この曲には。ミヤさんが、歌詞を読んで、といったのは、こういうことか。
紛れもなく人生そのものが病室で、、という言葉は、当時まだ十代だった自分には全くピンと来なかったが、歳を重ねた今ならわかる。わかる気がする。
というわけで、サナトリウムで惹きつけられてしまった、夢供養鑑賞だったが、結局1週間後に返すまで、他の曲も歌詞を読みながらじっくり聴くことにした。中には、どうしてくれるのよ、この重さ、、(T_T)というくらい暗くなってしまった曲(空蝉と、まほろば、春告鳥、、)もあって、ホント苦しかったが、一つわかったのは、さだまさしさんというかたは、絶対にただ者ではない。だから今でも素晴らしい曲を変わらず作り続けていられるのだなと思った。今だってさだまさしさんは、好きだ。でも、じっくり聴いたのは、夢供養だけ。その一枚だけだ。最近は家族に乾杯の時にテレビから流れてくるテーマソングしか聴いてない。
でも、並外れた才能の持ち主であることは間違いない。