一月に「未来」の新年会で少しだけ談笑したのを覚えている。昭和十三年生まれだから戦中派だ。そうするともう八十歳だけれども、お会いした印象では、とてもそんな年齢には見えない。集中には、「いつもいつも年齢以下に見られきて今宵はなぜか腹が立つなり」という歌もあって、思わず笑ってしまった。青森県教育委員会を退職したのち、仙台矯正管区の篤志面接委員などをつとめた作者の第三歌集。青森は列島ののど笛、ということでタイトルとしている。
うつうつと書物あさりし十代のいのちの余燼いまもくすぶる
くりかえし記念に写真撮りたしと言いつのりたり、かの日の君は
掲出歌は、老年のさびしさと哀歓をにじませていて好感が持てる。
百歳を三つ越えたる姑は曾孫の声にのみ首をふる
※「姑」に「しゅうとめ」と振り仮名。
コンビニにくつろぐソファー備えられ馴染みの茶房一つ消えたり
ランチとる母と娘の二人連れひとりはスマホ覗きつつ食う
からかわれどやされながら凌ぎたる月日はつくる踊り手ひとり
これらの歌には、そうだろうなあ、と思わせるような説得力がある。日常の些事をしっかりととらえて、平静におだやかに批評を加えている。
一八六四年、ジュネーブ条約批准まで「赤十字」ならぬ「赤一字」
カンボジアに果てし三十四歳も松陰の説く四季を持つべし
姉の手に機銃掃射を遁れつつはまりし夜の畔のぬかるみ
グラマンの轟音せまりうずくまる薄闇のなか閃光はしる
国連は少年の目におおいなる希望の星の輝きありき
やはりこの世代の人ならではの視点というものがある歌だと思う。吉田松陰の言葉は、早世した人にとっては最高の慰めの言葉である。平井さんにしてグラマンの掃射を受けた経験があるのかと、驚いた。いま昨年夏のNHKの空襲についての記録データを分析した番組のことを思い出した。大都市の空襲が一段落して制空権を確保して以降、米軍艦載機の単独飛行による空襲が地方に拡大した時期があるという。『ガラスのうさぎ』に書かれた世界である。考えてみれば私は国連の歴史や仕事というものをタイトルにした本を読んだことがない。戦後の希望に満ちた一時期の思い出は、語り継がれる必要がある。一瞬の青空が見えたと、「未来」の創立メンバーの太宰瑠維さんも語っていた。
東北は深ぶかと瑕負う胸部、癒ゆるに難きさだめを生くる
うつうつと書物あさりし十代のいのちの余燼いまもくすぶる
くりかえし記念に写真撮りたしと言いつのりたり、かの日の君は
掲出歌は、老年のさびしさと哀歓をにじませていて好感が持てる。
百歳を三つ越えたる姑は曾孫の声にのみ首をふる
※「姑」に「しゅうとめ」と振り仮名。
コンビニにくつろぐソファー備えられ馴染みの茶房一つ消えたり
ランチとる母と娘の二人連れひとりはスマホ覗きつつ食う
からかわれどやされながら凌ぎたる月日はつくる踊り手ひとり
これらの歌には、そうだろうなあ、と思わせるような説得力がある。日常の些事をしっかりととらえて、平静におだやかに批評を加えている。
一八六四年、ジュネーブ条約批准まで「赤十字」ならぬ「赤一字」
カンボジアに果てし三十四歳も松陰の説く四季を持つべし
姉の手に機銃掃射を遁れつつはまりし夜の畔のぬかるみ
グラマンの轟音せまりうずくまる薄闇のなか閃光はしる
国連は少年の目におおいなる希望の星の輝きありき
やはりこの世代の人ならではの視点というものがある歌だと思う。吉田松陰の言葉は、早世した人にとっては最高の慰めの言葉である。平井さんにしてグラマンの掃射を受けた経験があるのかと、驚いた。いま昨年夏のNHKの空襲についての記録データを分析した番組のことを思い出した。大都市の空襲が一段落して制空権を確保して以降、米軍艦載機の単独飛行による空襲が地方に拡大した時期があるという。『ガラスのうさぎ』に書かれた世界である。考えてみれば私は国連の歴史や仕事というものをタイトルにした本を読んだことがない。戦後の希望に満ちた一時期の思い出は、語り継がれる必要がある。一瞬の青空が見えたと、「未来」の創立メンバーの太宰瑠維さんも語っていた。
東北は深ぶかと瑕負う胸部、癒ゆるに難きさだめを生くる